マイノリティのまま大衆性を掴むyardlands
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第8回目はyardlandsが登場。
透明な声、澄んだ音、構築美を感じさせるアンサンブル、そのどれもが綺麗だ。結成からまだ1年強のバンドだが、確かなセンスを持った5人組である。ドリームポップやポストロック、インディR&Bやエレクトロニカを掛け合わせるように、幻想的な曲を作り上げているバンドで、躍動感を伴った楽曲からはビート・ミュージックへの目配せも感じられる。メランコリックなメロディが心地よく、エモ/ポストロックファンにもポップスファンにも届くだろう。是非多くの人に聴いてもらいたい。
始まりは「Codeine Meets Spangle call Lilli line」
- 5人はどのような経緯で集まって、このような音楽をやろうと思ったのでしょう
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菅谷:
僕と高橋、郷田の3人は元々別のバンドを組んでいたんですけど、それが終わった時にまだ続けたい気持ちがあって。そこでこのふたり(このはと佐々木)を召喚した感じです。
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高橋:
召喚(笑)。
- 佐々木さんとこのはさんはどういう理由で入ったですか?
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佐々木:
別のバンドをやっていたんですけど、ちょうどもうひとつくらいバンドをやりたいなと思っていて。それで入りました。
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このは:
私はずっとバンドをやりたかったんですけど、このバンドに入るまではやったことがなくて。機会を探していたんですよね。それでネットのメンバー募集を見つけて。そういうものって得体の知れない怪しい人が多いかなとも思ったんですけど、このバンドはライヴの動画を乗っけていて。それを見て。
- ここは大丈夫そうだと。
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菅谷:
安全そうだったから連絡してくれました(笑)。
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一同:
(笑)。
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このは:
ELLEGARDENとかJanne Da Arcが好きだったので始めて触れる音楽だったんですけど。自分の声質と合わさったら面白いかなと思って連絡してみました。
- 最初に歌いたいと思ったのはいつですか?
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このは:
小さい頃から歌うことは好きでしたけど、私は人前に立つのが苦手で。始めは裏方をやりたいと思ってバンドのスタッフを5年くらいやっていたんです。だけど、結局自分も演者をやりたくなってしまって、周りの人にぽろっと相談してみたらボイトレの先生を紹介してくれて。それから歌うようになったので、実際にやり始められたのは2年前からですかね。
- 高橋さんと郷田さんは、元のバンドが1回止まってしまった中、なんでまた菅谷さんと一緒に続けようと思ったんですか。
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高橋:
わたし自身もまだベース弾きたいと思っていたから、やるっていうなら私もやりますという感じでした。
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郷田:
僕も彼には才能があると思っているのと、あとはスネアのローンが残ってたからかな。
- 貰うべきものを貰っていなかったと(笑)。yardlandsの前のバンドではどういう音楽をやっていたんですか。
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菅谷:
僕はthe cabsがめちゃめちゃ好きで、〈Lovitt Records〉とかも好きだったから。前のバンドでも女性ボーカルを立てていたんですけど、その隣でギャーギャー叫んでいたりして。変拍子があったりアルペジオがあったり、激情っぽいものをやっていました。
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郷田:
でも、前のバンドは歌をないがしろにしがちなバンドで。やりたいことだけをやっていたバンドでした。
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高橋:
手数が多ければ多いほどいいみたいな感じだったよね(笑)。
- そこから新しいバンドではどういうことがやりたいと思って、このバンドを組みましたか。
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菅谷:
よりビート感があるものというか。クラブ・ミュージックとかヒップホップとかを聴くようになっていったので、自分達がやってきたポストロックとかエレクトロニカの系譜に混ぜ合わせたら面白いのではないかなと思っていました。で、Spangle call Lilli lineがめちゃめちゃ好きだったのと、当時はまだエモ系の系譜も自分達に残っていたので、「CodeineがSpangle call Lilli lineをやったら…」みたいなコンセプトで始めました。
- へぇ。面白いですね。
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郷田:
よまあでも、すぐにCodeine要素消えたな(笑)。
- 確かに、今はそれほど強くないですよね。
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菅谷:
本当はもっと骨だけの音楽をやろうと思ってたんです。
- それはミニマムでストイックなものっていう意味で?
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菅谷:
そうですね。でも、作り手の熱量を入れていったり、音数多いほうが楽しいなってなっちゃって。それで今の形になっていきました。あと、バンドを始めた頃にD.A.N.とかyahyelとか世界的な目線を持ったバンドが出てきて凄くカッコいいなと思って。そういうところも意識するようになって今の音楽になっていきました。
メランコリーと透明の声
- 質感としては聴いていて物悲しくなるような、メランコリックな要素もある音楽ですよね。
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菅谷:
自分が明るい曲を作れる人ではないからですね。でも、世界的に見てもクラブっぽい音楽が明るいものよりは暗いものだったり、アンニュイなものが増えてきてると思うので。そういう影響はある気がしますね。
- ヴォーカルの感じとも非常に合っているし、このはさんもそういう音楽が好きな方なのかなと思いました。
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このは:
最初ひとりでカヴァー曲を歌い始めた時は、明るい曲を無理やり歌っていたんですけど。それがしんどくて。私はこんなこと思っていない、これじゃないって思いながら歌っていたんですよね。確かにこのバンドをやりたいと思ったのも、最初に歌いたかった系統に合っていたからだと思います。
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郷田:
でも、誰しもそういうものを抱えているはずだから。パッパラパーなヴォーカリストとかっていないよね。
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このは:
うん。じゃないと音楽やりたいとか思わないと思う。
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郷田:
音楽やっている人って凄くマイノリティだと思うんですよ。クラスに40人いたら、自分達がやっているような音楽を聴いてる人なんてその内のひとりもいないし、楽器やっているやつだってひとりかふたりしかいない。その上でがっつりバンドをやるなんてやつは少ないじゃないですか。だからきっと、生活していく中で表舞台には立てないけど、バンドっていう機会を与えられることで人前に立てるっていうようなやつが多いし、基本的に楽器を続けるっていうのはめちゃめちゃマイノリティな連中なんです。中には底抜けに明るい人もいるのかもしれないけど、みんなどっかしら闇を抱えてると思います。
- 後ろ暗いものがあって楽器を持つ人間が多い中でも、だからこそ明るい曲をやる人もいれば、そのまま暗い曲をやる人のふたつに分かれると思うんです。yardlandsはどちらかというと陰鬱さがありますよね。
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このは:
無理したくないからですね。日常生活の中で無理やり笑うことが多いから、バンドではしたくない。
- なるほど。
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高橋:
自分が一番楽しみながらやれるっていうことが大事ですよね。それを評価してくれる人も少なからずいると思うし、身を削っても良いものはできないと思うから。
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菅谷:
そう。だから単純にこのほうが表現しやすいってことだと思います。たとえば、辛いことがあった時にアイドルの曲やアニソンを聴いて「頑張ろう!」と思う人もいると思うんですけど、自分はあんまりそういう感覚はなくて。どちらかというと凄く暗い曲とか激しい曲とかを聴いて、落とすとこまで落として考えてみるっていう生き方をしてきたから。作る音楽にしてもそういうところに結びついているのかなと思います。
- このはさんの声は透明感があって、曲によって温かくも冷たくも聴こえるのがこの音楽の魅力になっているとなって思います。
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郷田:
そうですね。今も曲によってはめちゃくちゃ冷たいことをやっていると思うんですけど、その中でポップな歌を渡しても歌える子で。いろんな温度の曲を歌えるから、それがこのバンドで歌ってもらうことの意義なのかなって思います。
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菅谷:
変幻自在ですよね。これまでバンドをやったことがなかったからこそ吸収力があって。Janne Da ArcとELLEGARDENが好きって言って入ってきたけど、真面目だからOGRE YOU ASSHOLEとかを勧めても聴き込んできたり、めちゃめちゃ研究熱心なヴォーカルです。変な言い方ですけど、曲を作るにあたってヴォーカルも楽器的に考えられるから凄く良いなって思っています。
マイノリティのまま切り拓いていく
- 菅谷さんの作詞については、このはさんはどういうふうに受け取っていますか。
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このは:
パッと見ただけではわからない歌詞ですよね(笑)。ただ、過去よりも今を見ているっていう気持ちとか、生まれ変わりたい願望みたいのが強い歌詞だなと思っています。
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菅谷:
ああ、そうかもね。自然と思っていることを歌詞にすると、「昨日より今日、今日より明日」みたいな言葉が出てくるというか、どんどんアップデートしていきたいっていうことしか僕は書いていない。最初のEPが『Somewhere not here』っていう「ここではないどこか」っていうタイトルだったし、去年末に出したEPも『everything is new』って付けていて。何も意識してなかったんですけど、僕が書くものはそういうものばかりになっていますね。
- どうして無意識でそういいうものが出てくるんでしょうか?
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菅谷:
現状に対しての不満が多いからじゃないですかね。それこそライヴのステージ的にも至らない点は多いし、もっと上に行きたいっていうようなハングリー精神とかもあって。今やっている音楽が浸透してくれればいいなって気持ちもあるし、でも自分が思い描いているものを自分が出し切れていないっていうこともわかっているから。潜在的に抱えている「脱皮していかないといけない」っていう気持ちが言葉に表れることが多いです。
- なるほど。
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菅谷:
あともうひとつ歌詞について思うことがあるのは、Rage Against the Machineみたいな思想が絡んだ音楽も良いと思うんですけど。僕がやりたいのは、自分の意見とか思想に共鳴してもらうことではなくて、どんな考えを持っている人でも楽しんでもらえるような音楽をすることだから。俺がやるエンタメは、思想は強くなくていいなって思っています。そして、その上で現代性を発信していきたいですね。D.A.N.とかyahyelとか水曜日のカンパネラとか凄くカッコいいなって思うので、自分も今を生きている人にフィットする音楽を作りたいです。
- それは大衆性とは違うもの?
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このは:
日本の大衆性っていうのはあまり考えてないですね。もちろん中には好きな曲もあるけど、でもチャートを埋めているような音楽が好きなわけではないから。自分がカッコいいと思うものをやりたいです。
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郷田:
サカナクションの山口一郎さんが、昔どこかのインタビューで「自分達がやる音楽はマイノリティが聴く音楽だけど、そのマイノリティが広がればそれはマジョリティに変わる」って話していて。クラスにひとりかふたりしか聴いていないような音楽でも、それが全国の学校のクラスで考えると大きな人数になっていってというものだと思うんですよね。僕がyardlandsでやりたいのはそういう音楽です。
- 皆さんもこのバンドの未来に何かビジョンを持っていたりはしますか。
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佐々木:
フェスに出たいですね。対バンしたいバンドとかもいるので、それを少しでも大きい規模感でできるようになったら嬉しいです。
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菅谷:
僕は<FUJI ROCK>に出たいです(笑)。あと、俺らの音楽を知ったことによって、僕らが影響を受けたバンドを聴いてくれたり、我々みたいなニッチな音楽性のバンドがいるシーンが少しでも浸透してくれたら嬉しいなって思います。
- このはさんはどうですか。
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このは:
私は日常から少し離れたい時に音楽を聴くので、yardlandsを聴いた人もそういう気持ちになってくれたら嬉しいです。
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菅谷:
トリップできる音楽ってことだよね。
- それは音楽の重要な要素ですよね。
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郷田:
でも、僕は余裕がない時は音楽は聴かないなぁ。疲れている時とか音楽聴きたくないので。どっちかっていうと余裕の象徴だと思うもん。
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このは:
え! そしたら私は真逆。気分が落ちてる時ほど聴いていると思う。
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郷田:
普通気分が落ちている時には音楽なんて邪魔じゃない?
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菅谷:
ちょっと、音楽のインタビューなのに大丈夫?(笑)
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高橋:
あははは。
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菅谷:
でも、確かに俺も昔は女の子にフラれた時にRADWIMPSの「有心論」を聴きながら号泣して1週間過ごす、みたいなこともあったんですけど。
- (笑)。
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菅谷:
今はそういう聴き方はしないですね。
- 要するに自分の思春的を投影するように音楽を聴くことはなくなったということですよね。
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菅谷:
そうですね。今は技術的に優れている部分とか、これはどうなっているんだろう?っていう構造理解から入るので。でも、だからこそどういう考えを持っている人にも楽しめるコンテンツになったらいいなって思って曲を作っています。
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