自然体のまま垣根を越えて行くMONJU N CHIE。皆を笑顔にするラップ・クルーの魅力に迫る

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第9回目はMONJU N CHIEが登場。

阿佐ヶ谷から粋なグループが出てきた。下北沢サイファーを主催するMCオトウト、KTY、カルロスまーちゃんの3人からなるユニットで、ゆる~いテンションのままみんなを笑顔にするラップ・クルーだ。2018年の3月に活動を開始し、いきなりりんご音楽祭に出場。今年の4月には2作目のシングル「3’s THEMA」を発表するなど、既にそのハッピーな輪を広げ始めている。魅力は脱力気味のラップとチルなトラック、そして3人の飾らない佇まいだろう。全くことなるルーツを持った3人が集まっているからこそ、どこまでも自由に行ける可能性を持っている。自然体のまま垣根を超えていくMONJU N CHIEに話を聞いた。

涙よりも笑顔。バラバラのルーツがガチっとはまったラップ・クルー

どういう経緯で集まった3人なんでしょうか?
オトウト

オトウト:

3年くらい前に下北のライヴハウスでやっていたラップバトルで、共通の友人を通して僕とKTYが出会ったんですけど、それから僕が開いているサイファー(※複数人が輪になって即興でラップを行うこと)に彼がよく遊びに来るようになって仲良くなりました。

KTY

KTY:

ラップバトルに出たのは、僕がなんとなくラップを始めようかなって思っていたタイミングだったんですけど。サイファーに僕がPearl JamのTシャツを着て行ってたら、オトウトさんが話しかけてくれて。

オトウト

オトウト:

その頃はフリースタイルダンジョンが話題になっていた時期だから、ゴリゴリのラップキッズ達が集まってたんですよ。そこにいきなりPearl Jam着てるやつが来るっていう(笑)。

あははは。
KTY

KTY:

Pearl Jamが好きだったわけではないんですけど、近所のハードオフに一着500円で売っていて。スーツ着てる男の人がガスマスクつけててカッコいいじゃん!と思って買ったんですよね(笑)。オトウトさんは元々ロックバンドをやってる人だから、それが共通の話題になりましたね。

オトウトさんは、音楽的にはロック出身なんですね?
オトウト

オトウト:

はい。僕はオルタナティヴロックとかが好きで、自分でもバンドをやっていて。

何故ラップバトルやサイファーの主催をやるようになっていったんですか?
オトウト

オトウト:

ライヴハウスでラップイベントがあった時、そこの店長さんに「お前、ラップも聴いてるんだったらラップバトルもできるよ」って言われてポンと出されて。

え?(笑)。
オトウト

オトウト:

本当に「え」って感じですよね(笑)。で、最初はそのイベントにめちゃくちゃ上手い人がいたんですけど、その人がいなくなっちゃって。でも、ラップのイベントをこのままなくすのももったいないということで、僕が主宰を始めるようになりました。それを続けていくうちにラッパーの輪ができていって、サイファーも開くようになりましたね。

なるほど。オトウトさんとKTYさんが一緒に音楽をやるようになったきっかけはなんですか?
KTY

KTY:

僕は元々演劇をやっていたんですけど、友達が小っちゃい劇団をいっぱい集めてコント大会を企画して。それに誘われ時に、演劇はもうやらないつもりだったので、オトウトさんにギターを弾いてもらって僕がラップするっていう形で出場したんです。

オトウト

オトウト:

その頃は僕もバンドメンバーが抜けちゃった時期で、弾き語りで活動していたから。だったらKTYと一緒にやろうと思って、オトウトのKTYというグループ名で活動するようになって。その後にライヴで共演することでまーちゃんと出会いました。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

オトウトさん主催のイベントにカルロスまーちゃんっていう名前で出演したんですけど、そこでライヴを観てくれたふたりから、「ビートを提供してください」って頼まれたのがきっかけです。

オトウト

オトウト:

僕らはトラックが作れなかったので、提供してくれる人を探していたんです。

KTY

KTY:

そこで出会ったまーちゃんがとにかくカッコよかったんです。みんな体育座りして聴くような感じで、ライヴハウス全体がまーちゃんの空間みたいになっていたから。本当に凄いなと思って、終わった後にすぐ話しかけました。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そこで最初は曲提供するだけのつもりだったんですけど、どうしても私が曲を作ると、メロディありきの曲作りになっちゃって。それで楽曲の中にサビだったり私の歌のパートも入っていって、オトウトのKTY&カルロスまーちゃんという名前でやるようになりました。

みんな後ろにくっついていくシステムなんですね?(笑)。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そうですね(笑)。最初は控えめに後ろにくっつけてもらいました。

まーちゃんが作ると「サビがある」というのは、ラップというよりも歌をやっていたっていうことですか?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そうです。私はラッパーではなくて、シンガーとして歌っていました。ふたりと出会った時には、弾き語りと打ち込みの上で歌うことの両方を一つのステージで使い分けるようなことをやっていましたね。

そんなまーちゃんがふたりと一緒にやろうと思った理由はなんですか?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

MONJU N CHIEはポップな曲を歌っていると思うんですけど、私がソロでやってる時は、それとは真逆のライヴ中に静寂が漂うようなライヴをしていたんです。

内省的な歌だったんですね。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

ひとりで曲を作っていると、どうしてもそういう方向に行ってしまうんです。でも、本当はもっと楽しむことに重きを置いたアーティスト活動をしていきたくて、どうしようと思ってたところでした。そんな時にふたりに頼まれて曲を書いてみたら、「これは自分の曲じゃない」ということが言い訳になって凄くポップな曲を書けて。このメンバーで続けていきたいなって気持ちになりました。

つまり、3人とも今のラップを聴かせる音楽とは全く違うところにルーツがある?
オトウト

オトウト:

そうですね。僕はGreen DayとかOasisから入って、SNOOZERとかCROSSBEATを読むのが好きなリスナーでした。ラップも聴いてはいたんですけど、今でもラップよりRancidやNOFXばかり聴いているくらいですね(笑)。

なるほど(笑)。
オトウト

オトウト:

だから僕の中ではラップと言ったら、Beckの「Loser」とかBeastie Boys「Sure Shot」でした。ヒップホップを聴くようになっても、ゴリゴリのラップよりもThe Pharcydeとかのほうを好きになりましたね。

その感じは、MONJU N CHIEの音楽に通じていそうですね。KTYさんとまーちゃんはどういう音楽を聴いてきましたか?
KTY

KTY:

僕はTHE BLUE HEARTSが大好きで、そこから音楽を掘っていきました。真島昌利さんから辿っていって、友部正人とか高田渡といった60年代、70年代のフォークを聴くようになって、忌野清志郎などもずっと聴いていました。あとはサンボマスターとかが出てきた時期だったので、彼らのような歌詞を重視しているロックが好きでした。

ラップにはいつ目覚めたんですか?
KTY

KTY:

大学の授業でフランス文化研究を受けていたんですけど、それがフランスのヒップホップの広がりと日本のヒップホップの広がりが似ているっていうことで、EAST END×YURIからBAD HOPまでのヒップホップ史を見ていく授業だったんです。そこでTHA BLUE HERBとか志人を聴いてラップ凄い良いじゃん!と思って、そこからはまっていきました。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

私はダンスをやっていて、中でもモダンバレエとかジャズダンスをやっていたので、R&Bとかヒップホップのノリの音楽を聴いて育ってはいたんですよね。でも、中学と高校ではずっとロックを聴いていて、GO!GO!7188やMASS OF THE FERMENTING DREGSが大好きだし、THE HIGH-LOWSやTHE BLUE HEARTSが好きっていう感じでした。

それからから変わってきたのは?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

Jessie Jっていうイギリスでは有名なポップスターがいて、2013年の夏に彼女の曲を聴いた時に、ポップスって凄い!って感銘を受けたんです。それまではロックという音楽にある、自分の中のとがっている部分を出していくこととか、強い言葉で人を引きつけるものがカッコいいって思っていたんですけど。Jessie Jの曲を聴いた時に、私もポップスが持つ多くの人を惹きつけるパワーを身に着けてみたいと思うようになりました。そこからRihannaが好きになって、皆から愛される音楽というものを聴くようになっていきましたね。

なんでポップスに打たれたんでしょうか。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

一緒に泣いてもらうよりかは、一緒に笑いたいから。私達も聴いてくれる人の生きる力になるような音楽ができたら、凄くハッピーだなって思います。ポジティヴな世界に自分自身も持っていきたかったし、自分自身が変わったその先で、また他の誰かを引っ張れたら凄く良い循環を作れる気がしていたんですよね。

SIMI LAB主催のイベントから引き継いだソウル

そして晴れて去年からMONJU N CHIE名義で、一歩目を踏み出していったわけですね。
オトウト

オトウト:

最初はやっぱりまーちゃんのトラックが大きかったですね。ふたりでやっていた時は、好きな音楽のインストにラップを乗せてやっていたから。

KTY

KTY:

トラックがなかったからね(笑)。映画が好きで、『アメリ』(ジャン=ピエール・ジュネ監督)とか北野武の『キッズ・リターン』のサントラでラップしていました。

オトウト

オトウト:

あと、Pavementのインストにラップするとかね(笑)。

あはははは!
KTY

KTY:

なので、オトウトさんとやっている時は粗削りな感じが凄くあったんですけど。まーちゃんが加わったことで歌が入ったし、ハッピーな感じに変りましたね。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

でも、日常の範囲内のことを歌うグループであるっていうことは共通していると思う。

オトウト

オトウト:

あ確かに。歌詞の内容はあんまり変わってないね。

KTY

KTY:

僕達の1枚目のシングルに「Heys morning」っていう曲があるんですけど、それも3人で一緒にクラブに行った時の帰り道を歌った曲なんですよね。3人で経験して楽しかったこととか嬉しかったことっていうのが、自然と曲になっていきます。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

鳥の声が入っている曲もあって、歌詞だけじゃなくて、曲を作る上でも日常の景色に溶け込むようなトラック作りは意識しています。

まさにそれを感じていました。MONJU N CHIEの音楽には凄く生活感があると思います。3人がそうした音で活動していきたいと思う理由はなんですか?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

フレンドリーでいたいんですよね。自分達が作っているシーンみたいなものの中ではもちろん、そのシーンの向こう側にいる人達に対しても私達は近しい距離を感じてもらえる曲を書きたい。周りの仲間を大切にしていきたいけど、でもそれは決して、「お前は仲間で、お前は仲間じゃない」っていう線引きをしたいわけではなくて。音が届けばみんな仲間じゃんって私は思っているから、だからこそ3人の人柄や人生観みたいなところで勝負するような曲を書いています。

等身大でいたい?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そういうことですね。ヒップホップにはお金持ちになるとか、いかに自分を大きく見せるかっていうところがあると思うんですけど、それ以外にもクールな勝負の仕方ってあると思うんですよ。どれだけありのままの自分を認めて愛せるかが大事だと思っているので、その姿勢を私達はヒップホップにして発信しています。

先ほど言われた「Heys morning」では、クラブで感じた朝まで冷めない熱のことを歌っていますよね。そこでは実際にどんな熱を感じたんですか。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

私達のような普段からゆるゆるした人間が、町田のドープなFLAVAというクラブで行われているSIMI LAB主催のイベントに行ってみた時、本当にドキドキしながら重厚なドアを開けたんですけど中に入ってみたらオープンして間もなかったこともあって、まだそんなに人がいなかったんです。人が少なかった分、馴染めないだけならともかくこれでは埋もれることもできないと思って。。

浮いてしまうぞと(笑)。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そうしたらMCのNONKEYさんが、「ハイ、いらっしゃいませー!」みたいに向かい入れてくれたんですよ。それで拍子抜けしたというか、もっと怖くてもっと地元感出されると思っていたけど、凄く受け入れてくれたんです。

まさにフレンドリーだったんだ。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

その楽しかった気持ちを自分達のイベントでも出していきたいし、これからMONJU N CHIEのライヴを見る人にもそういう気持ちを感じて欲しいと思いました…まあ、そんな中でも、オトウトさんは3時くらいから眠いと言ってソファに座っていましたけどね。

失礼ですけど、確かに朝まで踊るタイプには見えないです(笑)。
オトウト

オトウト:

いや、本当にそうですよ。

KTY

KTY:

あははは。でも、僕はFLAVAの時は凄く楽しかったから、こんなに俺踊るんだ?って思うくらい朝までいけました。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

頭のネジ、バカになるくらい踊ってたもんね。

KTY

KTY:

OMSBさんがDJやっていて、NONKEYさんも曲がかかる度に盛り上げていたから。本当に楽しかったんです。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

それで女の子にお酒奢れよ~って言われてね。

KTY

KTY:

初めて奢りました。

(笑)。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

3人でクラブ行ったのも初めてだったよね。

オトウト

オトウト:

色んな初めてがあったよね。それで歌詞のネタも凄くもらいました。

じゃあアーティスト像としての目標が見つかった感じ?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そうですね。ああいう風にはなれない自分達がいるけど、でもお手本にしたいソウルみたいなものも感じました。

MONJU N CHIEは地球を救う!

2枚目のシングル「3’s THEMA」では<去年からなんとなくわかりだしているやり方>って歌っていますよね。つまり、3人のバイブスとか長所みたいのがわかってきたっていうことだと思うんですけど、活動の中でどういう手応えを掴んでいきましたか。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

3つの単色だったのが、綺麗なマーブル色になってきたのが「3’s THEMA」を作っていた時期だと思う。自分が一発メロディをかますことで、ふたりも引き立つっていうバランスを実感しながら作れた曲でした。

オトウト

オトウト:

「3’s THEMA」はMONJU N CHIEとしての結束感みたいなものが生まれてきた時に書いた曲ですね。

これから作りたいトラックのイメージなどはありますか?
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

もっとゆっくりとしていてチルに寄せた曲。弾き語りの方がいいんじゃない?って言われるぐらい、音数が少ない曲を作りたいです。より3人の声と言葉が際立つんだけど、情熱的で熱い感じには聞こえない心地良い音楽っていう、MONJU N CHIEだからこそ達成できるであろうジャンルに到達してみたいです。

凄く良いと思います。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

あと、これから作りたいものとは違いますが、KTYがめっちゃフリースタイル上手くなっているんですよ。ポンポンポンポン言葉が出てくるから、ラップするための脳ミソを持っているんだなって思います。頑張って鎮座(鎮座DOPENESS)さんを超えて欲しい。

デカいところ行きましたね…!
KTY

KTY:

凄く高い目標ができました(笑)。でも、鎮座さんみたいなフリースタイルできたら、本当にカッコいいですね。最近は今まで以上にフリースタイルをやっていて気持ち良い瞬間があるので、頑張ります。

オトウト

オトウト:

本当に、KTYはどんどんラップ上手くなってるんですよ。

KTY

KTY:

というか、オトウトさんは全然上手くなってない…。

オトウト

オトウト:

一番ヒップホップしていないサイファーと言われています(笑)。というか、僕はサイファーとかに行ってもみんなに会うのが楽しくてやっているんだと思う。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

コミュニケーション・ツールなんだね。

KTY

KTY:

実際オトウトさん主催のイベントで出会えた人は多いからね。そういうオトウトさんが書くラップだから良いいんだろうなって思います。

今後MONJU N CHIEとしてはどういう存在になっていきたいですか。
<カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

私達がフロアにいるお客さんやリスナーといかに楽しんでいるかを知ってもらいたい。

KTY

KTY:

MONJU N CHIEって3人のグループだけど、りんご音楽祭に出た頃から変わってきたよね。MONJU N CHIEに関わってくれている友達もどんどん増えていったし、僕らはお客さんと肩組んで踊ったりもするから。MONJU N CHIEとお客さんっていうところの隔たりがなくなっていて、僕はお客さんも含めてフロアで踊っている今の感じが凄く好き。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

だって私達、たまに「地球」とか言われるもんね?

どういうことですか?(笑)。
カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

「MONJU N CHIEは地球を救う」って言ってくれる人がいるんです。最近は「お客さんと演者の垣根を感じなくて泣いちゃいましたって」言ってくれる人もいて嬉しいですね。

KTY

KTY:

うん。この輪が広がっていったらいいなと思います。

カルロスまーちゃん

カルロスまーちゃん:

そして、EPを出したいです。ずっと曲を作っているんですけど、それがいろんな人に聴かれるのが夢ですね。海外の曲を聴いて、何故だかわかんないけど泣いちゃうようなことって皆さんあると思うんですけど、今は配信で海外の人にも聴いてもらえる機会があると思うから、MONJU N CHIEがどこかの世界で涙を導いていたら面白いなって思います。私達の曲が見えないところにも飛んでいけばいいなと思って活動していきたいです。

Presented by.DIGLE MAGAZINE