「ネオ歌謡ポップス」を掲げるSijima。日常の全シチュエーションを照らす音楽とは
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第13回目はSijimaが登場
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山下達郎を敬愛し、バンド名も彼の歌詞から拝借。首謀者のヒガケンタはかなりのフリークと見ていいだろう。Sijimaは彼の呼びかけで結成されたバンドであり、歌謡曲、AOR、シティポップをブレンドし、都会の夜に馴染む洒脱な音楽を標榜する5人組である。ムードがありドラマチックな音楽を目指す理由は何か? Sijimaが目指すバンドとしてのヴィジョンを聞いた。
ずっとやりたかったシティポップ
- 楽曲を聴いて山下達郎イズムみたいなものを感じたんですけど。
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一同:
(笑)。
- バンド名も山下達郎の歌詞からつけられているんですね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
最初は「シティポップハンター」っていう候補が挙がったりしてたんですけど(笑)、前の職場で山下達郎が流れた時「静寂(しじま)へ~」って歌詞が聴こえてきて。これはいいんじゃないかと思って皆に提案しました。
- ずっと山下達郎が好きだったんですか?
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ヒガケンタ(B&Cho):
いや、聴き出したのは大学生くらいからですね。なので自分の根幹にあったわけではないんですけど、聴いた時から凄くフィットして。楽器が上手いところも含めて凄く惹かれました。それまで洋楽を聴くことが多かったので、日本語歌詞で海外のようなクオリティでやってることに衝撃を受けたんですよね。
- 掲げている「ネオ歌謡ポップスバンド」っていうのは?
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江上龍(Dr&Cho):
なにか肩書きというか、新しいジャンルみたいなものが欲しいなと思って。ネオ歌謡っぽいねって人から言われたので、そこから勝手につけちゃいました。ただ、もっといい言葉はないかなと思って考え中です。
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ヒガケンタ(B&Cho):
理由としては、歌謡曲に新しい要素を入れて、シティポップにも寄せた楽曲を作っていきたい気持ちがあったので。それを表す言葉として「ネオ歌謡ポップス」って言っています。
- つまり、やりたい音楽性が明確にあったということですよね。どういう経緯で集まった5人なんですか。
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ヒガケンタ(B&Cho):
僕だけ6個上なんですけど、他の4人はほぼ同級生で。5人とも大学が一緒なんです。
- ヒガさんだけ長く大学にいたんですか?
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ヒガケンタ(B&Cho):
いや、ちゃんと卒業しています(笑)。大学生の時からずっとこういうバンドをやりたかったんですけど、同じ趣味の人が少なくて、バンドを組めるほど人数を集められなかったんです。で、フリーターになってからも違うジャンルのバンドをやっていたんですけど、少し活動を休止していた時期があって。そこで自分がやりたいことはなんだろうと見直した時に、やっぱり自分はシティポップだったというか。歳も取ったしやりたいことやらないとダメじゃんって今更思って、ドラムの江上とキーボードの吉澤に声をかけて結成しました。
- 誘われた江上さんもこうした音楽性へのモチベーションがあったんですか?
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江上龍(Dr&Cho):
そうですね。僕も別のバンドもやっているんですけど、本当にやっていきたい音楽っていうのはシティポップだったりして。Sijimaの音楽はまさに自分のやりたいことでした。
- 後から入られたおふたりは?
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吉岡広樹(G):
僕はそれまではコピバンしかやったことがなくて。オリジナルのバンドをやってみたいと思っていて、入れてもらいました。
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高城郁也(Vo&G):
僕はちょっと特殊で、ヴォーカルは一回変わってるんですよね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
彼の前に初代がいたんですけど、その人が脱退してしまって。
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高城郁也(Vo&G):
自分も社会人になる前にもうひとつバンドを組んでいたんですけど、そのバンドはこの先活動しないって決まっていたから。僕としてはまだバンドをやってたいなって思ってたところに吉澤が誘ってくれました。
- おふたりのルーツにはSijimaの音楽性があったんですか?
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吉岡広樹(G):
いや、ルーツは別ですね。父親が楽器をやっている影響でギターを始めて、中高の時はメタルやハードロックが好きでした。でも、大学で江上と一緒に軽音に入ったんですけど、彼に誘われてペトロールズのライヴを見た時に衝撃を受けて。それがきっかけでこういう音楽にどんどん興味を持つようになりました。
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高城郁也(Vo&G):
僕は兄貴がギターをやっていたんですけど、彼がフジファブリックが好きで自分も好きになりました。それで大学に入ってからキリンジが好きになりましたね。
- 最初に声をかけてもらった江上さんと吉澤さんは?
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江上龍(Dr&Cho):
僕は椎名林檎さんが好きなんですけど、一番最初はV系が好きでした。そこから色んな音楽を聴いていった中で、山下達郎とか角松敏生のようなソウル/AORをどんどん聴くようになって今に至るという感じです。
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吉澤慶祐(Key):
僕は小さい頃に親父からEarth, Wind & Fire、The Doobie Brothers辺りのブラックな音楽を聴かせてもらっていて。一方で母ちゃんが中森明菜やサザンオールスターズのような歌謡曲が好きだったので、そういった音楽が根底にあります。
- ご自身が音楽を始めたのは?
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吉澤慶祐(Key):
大学に入ってからです。昔ピアノをちょっとやっていたんですけど、両手で弾けなくてやめちゃって。大学に行ったタイミングで、中途半端に終わっていた音楽をやりたいなと思ってまた始めました。音楽を始めるまではサッカー部に入っていて、aikoさんとかスキマスイッチのような歌モノが好きでしたね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
あと、EXILEとかね。
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吉澤慶祐(Key):
そう。この場で言っていいのかわからなくて押さえていたんですけど、EXILE大好きです(笑)。音楽に関してはこれ!っていうこだわりはあまりないタイプで、良いものは良いっていう感じで聴いていました。
- ヒガさんは山下達郎に出会ったのは大学からとのことでしたが、それまではどんな音楽を聴いてきたんですか?
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ヒガケンタ(B&Cho):
自分は親の影響で小さい頃からTOTOを聴いていて、AORっていうことは知らないまま、無意識にそういう音楽を好きになっていたんですけど。
学生の頃は普通の流行ってるものを聴いていって、パンクから入ってポップスを通ってハードロックにいき、最終的にメタルまで聴きましたね。でも、結局戻ってきたのは山下達郎、スピッツ、ZARDあたりの日本のアーティストでした。今はそこにAORやファンキーな要素が絡む音楽が好きですね。
万能プレイリスト「Sijima」
- 歌謡曲やシティポップの音楽が身体の中に入っているっていうことだと思いますが、その音楽のどういうところに惹かれていますか。
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吉澤慶祐(Key):
自分が音楽を好きになるポイントとして、その曲から情景が浮かぶかどうかっていうのが大きい気がします。歌謡曲を聴いてると絶対に情景が浮かぶし、それが凄くいいなって思っていて。音楽を通してシーンが見えてくるかっていうのが、僕にとっては大事な要素なのかな。
- Sijimaでも情景描写が優れた表現をしたい?
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吉澤慶祐(Key):
そうですね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
確かに僕も、歌詞からパッと想像できるかどうかっていうところに重きを置いています。思い浮かんだワンシーンから曲を作ることが多いんですけど、たとえばソファに男の人と女の人が座っていて、それを後ろから見ている自分がいるとして、彼らは今何をしてるのかなっていうのをイメージしていって。それがある意味CDのジャケットのように画として浮かんできて、そこから曲ができていくんです。山下達郎の音楽も、言葉が魅力的でそこから情景が見えるから、僕はそういう音楽が好きなんだと思います。
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吉澤慶祐(Key):
音楽って、日常の楽しさゲージを上げるために聴くことが多いと思うんですよね。だとしたら、それぞれ自分の人生があった上で音楽が鳴るっていうことになるから、Sjimaの中で色んなシーンに合うようなサウンドを作っておきたいなって思います。聴く人達が、自分の生活に併せて選べるようにしておけばいいなって思っています。
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高城郁也(Vo&G):
一日中Sijima聴いてられるくらい、シーンのバリエーションを曲で表現できたらいいよね。
- 万能型のBGMを作ろうっていうことですね。
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吉澤慶祐(Key):
ああ、確かに。Sijimaがプレイリストみたいな感じになるといいのかもしれないですね。ヒガさんの作曲の仕方で良いなって思うのは、ワンシーンで切ってくれるから色んなシーンが生まれるんですよね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
最初から想定していたわけじゃないんですけどね。でも、毎回同じシーンで曲を書くことはないし、必然的にそうなっていったのかなと思います。で、それなら暗い曲だけじゃなくて明るい曲も必要だよねって思いまして(笑)。
- 「Magic Time」はやけに音色が明るいですよね?
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吉岡広樹(G):
まさに「明るい曲」っていうのを意識して作った曲です(笑)。
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江上龍(Dr&Cho):
リフとか展開はシュガー・ベイブとかを意識して作っていて。
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ヒガケンタ(B&Cho):
歌詞の風景は完全に海ですね(笑)。
- 「Ride on time」的な?
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ヒガケンタ(B&Cho):
はい。
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江上龍(Dr&Cho):
どんどん影響元が出てくる(笑)。
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ヒガケンタ(B&Cho):
結局凄く影響されています(笑)。
- 基本的にはしっとりとした曲が多くなるっていうのは、自分の中で何か思い当たるところはありますか?
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ヒガケンタ(B&Cho):
夜の音楽が好きっていうのがあると思います。オリジナルラブの「接吻」とか、くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」を夜にぼーっと聴くのが好きで、そういった音楽を集めていた時期もありました。
その時の感覚は作曲する上で凄く残っているのかなって思います。特に初めてバンドでやった「FM」っていう曲は、雰囲気もサビの入り方も「接吻」から凄く影響受けていて、「接吻」はめちゃくちゃ好きな楽曲のひとつですね。 - 歌謡曲は日本人の心にずっと残っているものだと思いますし、Sijimaの音楽にはそういう代々受け継がれてきた日本のメロディっていうものがあると思います。実際にそういう音楽をやろうと思ってバンドを組んだ時、どんな野心や目標を持っていましたか。
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吉澤慶祐(Key):
僕はずっとポップな音楽を聴いてきたので、絶対的な普遍性は極めたいです。「Sijimaの曲は絶対的にいいよね」って思ってもらえるようなバンドになりたいっていう野心はあります。
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吉岡広樹(G):
あと、そういう普遍的な音楽の中に、常に新しいエッセンスを取り入れていきたいっていうのは皆で話していますね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
普遍性っていうのは重要なんですけど、それをやりすぎると80年、90年代のものをなぞっているだけになってしまうから。音の面では最近のシティポップと言われている音楽の要素を、やりすぎない程度に取り入れています。あと、こういう音楽性だと、複数の楽器で同じ事やっても意味ないんだなって気づいて。だったらコードを弾いてる人がひとりいて、他の人達はそのコードに沿って別のことをして、どの楽器を前に出すのかっていうのを意識しながらSijimaのサウンドを作っていけたらいいなって思っています。
- 歌謡曲はヴォーカルの存在感も非常に重要な要素になってくるんじゃないかと思いますが、高城さんは歌に対して何か意識してることはありますか。
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高城郁也(Vo&G):
色んな歌い方ができると強いなって思っています。たとえばTENDREさんみたいなこもったような声だったり、オリジナルラブの田島(貴男)さんみたいな力強い声だったり、楽曲によって色々な声色を使い分けることが出来たらどんなシーンにも合った声で歌えるなと。
- 吉澤さんは、何かキーボーディストとしての理想像みたいなものはありますか。
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吉澤慶祐(Key):
キーボード=吉澤慶祐になれればなって思います。
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江上龍(Dr&Cho):
一体化するの?
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吉澤慶祐(Key):
いやいや(笑)。技術は上手い人はいっぱいいるけど、ただ上手いだけじゃなくて、「キーボーディスト」って聞いた時に吉澤が思い浮かぶくらいの存在になれればいいなって思います。そのためにも、多くの人の心を動かせるサウンドをどんどん作っていきたいです。
- バンドとしてはどんなビジョンを持っていますか?
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吉岡広樹(G):
バンドとしても、東京事変みたいにそれぞれが個性を持っていて、色々なところで活躍できるようなバンドになりたいです。
- なるほど。
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吉岡広樹(G):
そして、やっぱり多くの人に聴いてもらいたいですね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
そうだね。ceroとかTENDREみたいな音楽がめちゃくちゃ好きなので、そういう人たちとも対バンできるような音楽をやっていきたいんですけど、同時に普通の人が耳にするようなところにも出たくて。凄く贅沢を言えば、音楽好きが聴く音楽とお茶の間が聴く音楽っていうのを両方できるのが一番いいなって思います。
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高城郁也(Vo&G):
ドラマの主題歌とかやりたいよね。
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ヒガケンタ(B&Cho):
そうそう、ドラマの主題歌をやりたいっていうのが一番です(笑)。ドラマチックで、ドラマの主題歌タイアップを狙えるようなシングル曲を常に作るということを目標にやっていきたいです。
- 何故そういうものを目指したいんですか?
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ヒガケンタ(B&Cho):
僕は1989年生まれなので、幼い頃からトレンディドラマみたいなものをよく見てきていて。そこで流れる主題歌が好きだったんですよね。今でもSpotifyで、テレビドラマに使われてた主題歌を集めたプレイリストとかを聴くと最高だなって思います。
- 高視聴率のヒットドラマが毎クールあった時代は、主題歌のタイトルを聞くだけで同じ情景を思い浮かべたり、見てる人同士で色んな共通言語がありましたよね。この時代に歌が自分達の歌がそういう役割を果たして欲しいってう気持ちがありますか?
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ヒガケンタ(B&Cho):
ああ、確かにそれはひとつ理想としてありますね。昔は「GLAYの曲が使われてるあのドラマ」っていうふうに作品を通して色んな会話ができたけど、最近は「あのドラマの主題歌なんだっけ?」ってなることが多くて。「主題歌が入ってくるタイミング最高だよね!」っていう思うようなタイアップをして、シーンと一緒に僕らの曲を口ずさんでもらうような風景をリバイバルさせたいっていう野心が、今話していて芽生えました(笑)。
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吉澤慶祐(Key):
『GOOD LUCK!!』で堤真一が語った瞬間に「Ride on time」が流れるみたいな、ああいうのは凄くいいですよね。Sijimaの音楽がそういう風に世間に受け入れられていったら最高だなって思います。そして、そんなロマンチックな音楽でありながら、蓋開けてみたらこんな人達なんだって思ってもらえるような存在になれた面白いですね。
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