退屈を切り裂く音楽を。(sic)boyが生み出すオルタナティヴロックとラップの融合

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第15回目は(sic)boyが登場

SlipknotのTシャツを着て現れた。Marilyn Mansonの画像をTwitterのヘッダーに使い、昨年発表した「When I ft.Sid the Lynch Salvador Mani(Smoke & Drive remix)」ではWeezerの「Island in the Sun」をサンプリング。(sic)boyの音楽の背中に広がるのは、ラップよりもロックであることは疑うまでもない。昨年3月にSid the Lynch名義での1stEP『NEVERENDING??』をSoundCloudにアップし、この1年で数々の音源を生み出してきたエモラップの新星・(sic)boy。遂に彼が初の正式リリースをする。プロデュースは釈迦坊主、即効性を持ったメロとビートの上に、作家が抱えるリアルな焦燥感が噴出する「Hype’s」である。彼はロックの何に魅せられてきたのか。(sic)boyの初インタヴューをここにおくる。

ロックキッズがラップを歌うまで

ー音楽に目覚めたきっかけはなんですか。

小学6年生の時にL’Arc〜en〜Cielから入りました。小6の時オリンピックの主題歌(「BLESS」)を歌っていて、その1曲で凄くハマったのがきっかけです。翌年には20周年のプロモーションでシングルを3枚出したんですけど、ずっと好きですね。

ーラルクは、当時の自分にとってどうしてそんなに響いたんだと思いますか?

元々父親がロック好きだったから、プログレッシブロックがよく流れていて。それでYesとかKing Crimsonを小さい頃から車で聴いていたんですけど、プログレってやっぱり難しじゃないですか。

ー少なくとも、小学生にはそうですよね(笑)。

だからロックって難しいものなのかなって思っていたんですけど、ラルクを聴いて一気に変わったというか。メイクをしいているような、独特な雰囲気を持つバンドって苦手な人もいるかもしれないけど、僕にとってラルクはガツンと響きました。見た目もファッションも映像も全部に惹かれたし、凄く美しいですよね。彼らの音楽をきっかけにいろいろ聴くようになって、中学、高校生とずっとロックばかりを聴いてました。

ーたとえば?

hydeさんが好きだったMarilyn Mansonとか、Nirvanaだったり、そこからポップパンクも聴くようになって。Green DayのCDを中1の頃に買ったり、Sum 41だったり、他にはミクスチャーロックも聴いていました。で、中学3年生くらいの時にYouTubeで見つけたMy Chemical Romanceに凄くハマって。それまではハードロックとかを主に聴いていたんですけど、どちらかというエモーショナルでオルタナティブなものを聴くようになりましたね。

ーメロディアスでストーリー性のあるところに惹かれた?

そうですね。最初の1曲から最後の1曲まで、すべてを通してひとつの物語に仕上がっているっていう点で、My Chemical Romanceの『The Black Parade』っていうアルバムには本当にびっくりしました。元々絵を描くのが好きだったんですけど、音楽でもこういうドラマチックな見せ方ができるんだなって思ったんですよね。自分の楽曲でもストーリー性を考えて順番を決めているのは、あのアルバムを聴いたことが大きいです。

ーじゃあヒップホップよりも、ロックキッズだったんですね。

はい、今でもそうですね。

ーじゃあラップやトラップにのめり込んでいったのはいつ頃?

高校生ラップ選手権にも出場しているSalvadorくんとは、小6の塾から一緒の友達なんですけど。彼はずっとヒップホップを聴いていて、僕もその影響で少しヒップホップを聴くようになったんですよね。当時はEminemとか有名どころをささっと聴くくらいだったんですけど、高校3年生くらいになってから今のトラップシーンが盛り上がってきて。僕もカッコいいなって思ってよく聴くようになりました。

ー(sic)boyさんは、ラップだとどこらへんのラッパーに共感を覚えましたか?

ロックしか基本聴かないんですけど、亡くなったLil peepとか、オルタナティブなノリをヒップホップに落とし込んでいるラッパーは衝撃的でしたね。

ーやっぱりエモラップには惹かれるものがあるんですね。

ありますね。Nothing Nowhereも聴いていて、あとXXXTentacionもカッコいいなって思います。

ーそれが自分の創作に入ってきたのは?

大学に入ったらバンドをやろうと思っていたんですけど、サークルに行ってもあんまり面白そうじゃなかったんですよ。

ーそれはバンドが? それともそのサークルが?

サークルがですね。僕はオリジナルをやりたかったんですけど、コピーしかやらないところだったから。そうなったらひとりで動くしかないかなって。それで結局自分でロックを混ぜたヒップホップをやろうかなと思って始めました。

ー混ぜようと思った時から、自分の中でロックとラップは不可分なものでしたか?

タイプビートがYouTubeに落ちているんですけど、まずそれを探すのが楽しくて。で、Slipknotもそうですけど、キックが「ドコドコドコ」っていう感じではなくて、速さがトラップに近いじゃないですか。なのでそんなに抵抗はなかったですね。それで「Stay Close To Me」をSalvadorくんとかと一緒に作ったりして、初めてEP(『NEVERENDING??』)を出したのが去年の3月なので、作り始めてから大体2年くらいですね。

ー敢えて言うなら、(sic)boyさんは自分のことをラッパーだと思っていますか? ロックアーティストだと思っていますか?

イベントはヒップホップのものしか出たことがないので、一応ラッパーとして認識されてはいるんですけど。僕自身はロックのアーティストとしてやっている気持ちですね。ラッパーだとは思ったことなくて、マインドはロックです。

違う自分になれる音楽

ーファッションやヴィジュアルも含めて、L’Arc-en-Cielに惹かれたと。

はい。

ーラルクだけではなく、たとえば今日出てきた名前だとMarilyn Mansonが最たる存在だと思いますが、彼らのようなメイクをしてステージに立つ人が魅力的に映ったのは何故ですか?

たとえばライヴひとつ取っても、ただのライヴではない、ひとつのショーとして成立しているから。音楽を聴いているっていうよりも、劇とか舞台を観ている感覚に近いなと思ったんですよね。その凄みは他にはないものを感じました。僕も普段からメイクをするんですけど、ライヴだと目元をめっちゃ黒くしたり、それくらいステージに立つ人として作り込んでライヴをしています。自分が彼らのライヴで感じたようなことを、見てくれる人にも感じてもらいたい、そのくらいの気合いを持って毎回頑張っています。

ーマスクをつける人やメイクをする人って、変身願望がある方も少なくないですよね。(sic)boyさんもステージ上だけは違う自分になりたいとか、そういう願望を持っているところはありますか。

確かに、ライヴでは普段の性格とは真逆の自分がいます。普段の自分はあんまり人と話さないほうで、家でもそんなに喋らないんですけど。良い意味でも悪い意味でも、メイクしてステージに立つことでスッキリするというか、何かが発散されていく感じがあります。

ーカタルシスがある?

そうですね。凄く楽しいですし、何より歌うのは好きです。普段は仲良しの友達じゃない限り、お酒がないと上手く喋れないんですよね。でも、ライブだと人を前にしてパフォーマンスをしなくちゃいけないし、やっぱり僕の曲を知らない人にも自分の音楽をわかってほしいという想いが強いので。ライヴではできるだけ明るくしています。

ー「わかってほしい」というのは?

今のところ出ているイベントはロックのイベントじゃなく、全部ヒップホップのイベントなんですけど。やっぱりそこでは、「なんだ、こいつ」みたいな目をされることもあるわけです。釈迦坊主さんが主催している<TOKIO SHAMAN>とか、ちょっとオルタナティヴな音楽をやっている人達が集まるイベントだと違和感はないんですけど。マンブルラップとかガチガチのヒップホップを聴きにきている人もいるわけで、その中だと僕のような音楽はすんなり受け入れられないこともあるんですよね。でも、やっぱりそういう場であっても僕自身の音楽をわかってほしいというか。おこがましいかもしれないですけど、単純に「こういう音楽もある」っていうことを教えてあげたいんです。

ーなるほど。

悪い言い方ですけど、たぶんトラップとかヒップホップの人達は売れてお金を稼いでGUCCIを買うとか、どちらかと言うとUSの売れているラッパーとかに憧れている人が多いと思っていて。音楽としてノリがいいし、僕自身もそういう音楽は好きなんですけど、偏った歌詞が多いなってちょっと内心思っていたんですよね。僕は日常で思ったことを伝えたい人に向けて書いているから、リリックを重視しています。歌詞は凄く大事な部分なので、歌詞を理解してほしいというのはいつも思っていますね。

ーたとえば「Hype’s」は退屈に耐えられないっていうことを歌っていると思うし、そこから新しい世界をみたいっていう気持ちが表れている歌われていると思うんですよね。

うん、そうですね。

ーつまり、そこには(sic)boyさん自身のリアリティが現れていると思うんです。

なんだろう、なんか退屈だったんですよね。いや、今でもひとりでいる時は常に退屈なんですけど。「Hype’s」を作ったのも去年の8月頃で、たまたま夏休みに知り合ったSleet Mageくんと一緒にやろうよって形になったんですけど。その時は撮影だったりイベント出演もあまりなかったのでやっぱり不安で、大学も面白くなくて退屈だったんですよね。そこで抱えていたものが結果的にいい曲に繋がったんだと思います。

ー攻撃的な音楽を好んで聴いてきた方なんじゃないかなと思います。つまらない生活から抜け出す、もしくは一時的にでも開放感を得られるのが(sic)boyさんにとっての音楽なのかなと思いました。

ああ、まさにそうですね。確かに攻撃的な音楽っていうのが好きでしたし、いい曲が作れた時、レコーディングをしている時、もしくはいい歌詞が書けた時だったり、いいパフォーマンスができた時は退屈しないから。本当にその通りです。SoundCloudって数値が見れるから、日に日に少しづつ増えていくのが凄く嬉しくて、音楽やっている間は幸せですね。

変化し続ける自分だけの音

ー少し話は戻っちゃいますけど、やっぱり中でもエモという音楽性が(sic)boyさんの曲では重要なファクターになっていますよね。

そうですね。やっぱりあの音楽の世界観に惹かれるているんですかね。僕が好きだったのは初期のPanic! at the Discoとか初期のFall Out Boy、あとはやっぱりMy Chemical Romanceですね。難しいギターソロはないけど心に残るメロディやサビがあって、大衆音楽的なポップなメロディを持っているのに、尖った方向の歌を歌っているっていうのが凄くカッコいいと思います。

ー(sic)boyさんの曲も、オルタナティブロックやラップ云々ではなく、まずポップだと思うんですよね。

よく言われますね。それこそエモって、覚えやすいリフとか1回聴いたら忘れないメロディってあるじゃないですか。そういう点で凄く惹かれますし、自分もできるだけキャッチーなものを作ろうっていう意識は常にあります。どうせだったら沢山の人に聴いてほしいですね。

ーじゃあ今具体的に、音楽をやっていく上での達成したい目標などはありますか。

とりあえず目の前のことで頭がいっぱいなので、あまり考えてこなかったですね。でも、古着が大好きだし洋服への興味もあるから、僕もTシャツを作ろうかなと思っていて。日本でアパレルを立ち上げるアーティストって結構いると思うんですけど、Tシャツやパーカーだけではなくて、もっと個性的で独特なものを作れたらなと考えています。韓国のG-DRAGONとかは凄くカッコいいアイテムを作っているので、惹かれますね。

ー洋服に興味を持った理由は?

海外のロックを聴いてたら、MVやライヴ映像で着ている洋服が凄くカッコいいなと思って。そこからは古着屋さんにいってそれっぽいものを探すようになったんですよね。ヒップホップ好きがみんなスニーカーにハマるのと同じような感覚で、お金を貯めてライダースやDr.Martensを買ったりしていましたね。

ーなるほど。

あと、先ほどの「達成したい目標」っていうほどではないんですけど、僕はたったひとり、「自分だけがこの音楽を作れるんだ」っていう存在になりたいです。僕の音楽が有名になって、同じようなジャンルで同じようなビートやメロディでラップする人が出てきたとしても、その時々で新しい何かを加えて自分だけの音楽にして行けたら嬉しいです。服もそうなんですけど、僕は被るのが嫌いなので。

ー人と同じとうのに耐えられない?

そうですね、ただの中二病かもしれないですけど。やっぱり被るのは嫌いです。でも、ずっと同じことやっていても飽きられちゃうと思うので、リスナーさん達を飽きさせないものを作り続けるっていうのは凄く必要なことかなと思います。それこそL’Arc〜en〜Cielはアルバム1枚1枚世界観が違うし、亡くなってしまったPrinceもそうですよね。自分もそういうアーティストになりたいし、今のところはオルタナティヴなラップで日本で売れている人があまりいないので、自分はこの音楽で沢山の人に聴かれるようなところまで行きたいです。

ー最後に。今後一緒にやりたいアーティストはいますか?

まだ先のことですけど、イギリスのYungbludっていう僕の同い年か1個上のアーティストが凄くカッコよくて、彼とは曲を作ってみたいなと思います。あとはやっぱりhydeさんですね(笑)。

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