気鋭のアーティストが集うコレクティヴ・Soulflex。10周年を前に語るクルーの軌跡と信念とは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第16回目はSoulflexが登場

音楽は人の心を育む。文化を伝え、ささやかだが心を解放させてくれる、それこそが音楽の魅力だろう。総勢11名のコレクティヴとして活動するSoulflexは、そうした豊かさを伝えてくれるクルーだ。結成は今から9年前で、メンバーの中にはこの1年で急速に存在感を増していったSIRUPも在籍。Mori Zentaroを中心にして集まった、シンガー、ラッパー、ビートメイカー、インストゥルメンタリスト、フォトグラファー、ペインターらを擁するアート集団である。彼らは昨年の10ヵ月連続の配信リリースで軌道に乗り、来年の10周年を前に、今年2枚のEPを発表する。まずは既にリリースされている『Collected 1』、そして秋頃にドロップ予定の『Collected 2』だ。海外のシーンに比して、「コレクティヴ」という形態が決して浸透しているとは言い難いこの国の中で、どう舵を切っていくのか。「暗中模索だった」というこれまでの活動と、個性豊かな面々が集うことで生まれる創作の魅力を、SkypeインタヴューでMori Zentaro(コンポーザー)とMa-Nu(MC)に語ってもらった。

ソウルクエリアンズに魅せられた

結成されたのが9年前ですね。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

はい。メンバーと出会ったのはもう12年くらい前で、僕がDTMで曲を作ったり、DJをしたり、たまに弾き語りでライヴをやっていた頃にイベントで知り合ったKYOtaro(現SIRUP)と意気投合して。ちょうどその頃Ma-NuやドラムのRaBとも出会い、KYOtaroのライヴで僕がキーボードを弾いて、RaBがドラム叩いたのがそもそもの始まりです。

コレクティヴという形態で活動していこうと思った理由は?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

その頃J DillaやD’Angeloらが所属していた、ソウルクエリアンズっていうアーティストコレクティブに凄く夢中になっていて。僕らも音楽的に通じるところがあるし、みんなで繋がって何か面白いことをやれたらいいなと思ってSoulflexを始めました。

なるほど。ソウルクエリアンズのどういうところにシンパシーを感じましたか。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

音楽がいいっていうのがもちろんあるんですけど、文化の匂いがしたというか。彼らはカルチャーや生き方も含めて提示しているように感じて、僕はそこに惹かれました。これはよく言っていることなんですけど、「衣食住+音」っていうのが普通にある社会になったらいいなと思っていて。衣食住と音楽が分かち難く結び付くような、ライフスタイルとしての音楽を僕らは目指しているから。それをソウルクエリアンズから感じたんですよね。

つまりそのくらい音楽が生活の中で身近なものになってほしいという願いがあるんじゃないかと思うんですが、そういう発想を持つようになったのはどういうきっかけからですか。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

僕の親が音楽を聴く人だったから、物心ついた頃からThe Beatlesなどが生活にある状態で、最初は音楽が身近にあることが当たり前過ぎて好きだとも思っていなかったんです。でも、小学生になって周りの友達と音楽の話しをした時に凄く温度差を感じて。「自分らそんなもんなの?」って思ったんですよ。

相対的に、自分のことを知ったんですね。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

はい。そこで僕は音楽が好きなんやと思って、それで振り返ってみたら音楽にいつも感動している自分に気づいたし、音楽に触れてきたおかげで感受性が豊かに育ったと思うんです。それで音楽や芸術っていうような、嗜好品と呼ばれるものがもっと誰にとっても身近なものになったらいいんじゃないかなって思って。自分の活動でそういう音楽のあり方を提案をしていきたいと思うようになりました。

なるほど。The Beatlesの他にはどんなルーツがありますか。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

Miles DavisとかBill Evansのような有名どころのジャズも家で鳴っていたから、それを聴いて育ったんですけど。自発的に聴くようになったのはEric Claptonの「Change the World」を聴いたのがきっかけで、その時は小学3、4年生くらいだったと思うんですけど、涙が出るくらい感動したんですよね。

ませてますね。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

(笑)。それでまずはEric Claptonが最初のアイドルになったんですけど、中学生の頃にはパンクにはまって、The Clashが自分で楽器を持とうと思ったきっかけでした。それまでは音楽は選ばれた人がやるものって漠然と思っていたんですけど、The Clashは近所の兄ちゃんみたいな感じがあったから、俺にもやれそうだって勇気付けられて。The Clashは音楽的にも折衷的というか、パンクをベースにしつつ、レゲエとかヒップホップに接近していた人達ですし、僕自身2PacとDef Leppardを平行して聴くような感じだったので、ルーツとかはあまり気にせず聴いていました。

今の音楽性に目覚めたのは?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

中高生の頃はオルタナティブロックやパンクをメインに聴いていたんですけど、10代の終わり頃には、ロックやパンクを聴き過ぎて自分の中で飽和状態みたいになっちゃって。ちょっと違う音楽を色々探っていた時にStevie Wonderに出会ったんです。もちろん名前は知ってたけど、ちゃんと聴いたことないなと思って『music of my mind』というアルバムを聴いた時に、The Clashを聴いた時と同じくらいの衝撃を受けて。「音楽的に自由ってこういうことかも」と思って、そこからブラックミュージックの沼にハマっていき、ソウルクエリアンズにはまっている時にSoulflexのみんなと出会ったという感じです。

どうして黒い音楽が馴染んだんだと思いますか?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

改めて聞かれると不思議なんですけど、「音楽」って感じがしたというか。ロックやヒップホップって音楽を使った若者のアートだと思うんですけど、ブラックミュージックはもっと伝統に根ざした、「音楽」自体が目的にあるものだと僕は思っていて。もちろんブラックミュージックにも自己表現はあるけど、音楽ファーストであるというところに惹かれましたね。

一方でMa-Nuさんはどんなものを聴かれていましたか?
Ma-Nu

Ma-Nu:

僕は彼とは真逆で、中学高校とJ-POPとかJ-ROCKを聴いて生きてきて、10代の終わりくらいにラップに注目し始めたんですけど。その時はラップって、悪いことを威張って言うみたいな風に僕は見えていて、そういうことをあまり歌っていなかったRIP SLYMEとかKICK THE CAN CREWを聴いてました。

なるほど。
Ma-Nu

Ma-Nu:

で、その後SD Junkstaというクルーに出会いまして、それがとにかく衝撃でした。その人らも悪いことしか言ってないとは思うんですけど、彼らにはカッコいいからOKみたいなところがあって、リリックの内容ではないその無茶苦茶感が僕にはかなりのインパクトがありました。そこから色々なラップを聴いていって、洋楽を聴き、ソウルクエリアンズ周りの音楽を聴いている時に彼らと出会って…という感じですね。

Soulflexのド真ん中

この活動を続ける中で、最初に手応えを掴んだのはいつ頃でした?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

それは割と最近だったりしますね。自分達より後に出てきて脚光を浴びていく人達も見てきたし、僕達はクラブシーンにもバンドシーンにもどっぷり入っていくことはなかったから、そういう意味ではみ出している部分があって。活動のフィールドっていう部分でも悩みながら、それでも自分達がやってることはカッコいいことなんだって確信もあるから続けてきて。最近SIRUPが先陣切って活躍していたり、去年毎月曲を配信する企画をやったことで目に見えて反響が増えてきて、やっと時代のムードと自分達が噛み合ってきたなという感触があります。

つまり、シーンの中で確固たる居場所を見つけられなかった時間があったと思うんですよね。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

はい。

日本ではこのような形態で活動している人たちはまだ少ないし、そこに難しさがあったと思うんですけど。それでも10年弱やめずにやってこれたのはどういう原動力があったからだと思いますか。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

青臭いことを言いますが、そこは好きって気持ちが抑えきれなかったっていう感じですかね。凄く辛いこともあったし、日の目を見ないんじゃないかっていう不安もあったんですけど、それでもやらざるをえないくらい自分達の音楽に対する情熱があったから。僕はやめるっていう発想はなかったですね。

Ma-Nu

Ma-Nu:

でも、10ヶ月連続リリースをやる前の年くらいには、Soulflexどうなの?っていうことを本気で考える時もあって。もしかしたらなくなるかもしれないっていうタイミングもあった中、その選択をするくらいなら頑張ってみようってなって。それで去年の連続配信が始まったと思います。

Mori Zentaro

Mori Zentaro:

そう、確かに転換期ではあったよね。このままやっていくのかっていうことを考える時間があったからこそ、みんなのバイブスが合致したというか。それでSoulflex名義での曲がないから、じゃあ作ろうよってなって。「やる」っていう選択をしてからは自ずと(連続配信)企画に向かって動いていく感じになりました。

Ma-Nu

Ma-Nu:

あと、やめなかったのは仲が良いっていうのもあるよね。この間MVの撮影があって車移動だったんですけど、道中腹よじれるくらい笑うやつもいて。僕らは10年経ってもまだ心がフレッシュだから、それもバラバラにならなかった理由のひとつかなと思います。

Mori Zentaro

Mori Zentaro:

人間的なバイブスや波長が合っているっていうのが何よりも大きいし、その上で音楽をやっていますね。

ここからは『Collected 1』という作品について聞かせてください。まず、昨年リリースした楽曲をふたつに分け、新曲を足してパッケージしようと思った理由はなんですか。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

去年僕らを認知してくれる人が増えたけど、草の根でPRをしていたから、自分達のお客さんより広いところにはリーチできなかったところがあって。もうひと押し広めたいなという感じもあったし、こんだけ曲も溜まったから、もっと色々な人にリーチできる形で再提示しようって話しになって今回の制作が始まりました。

「Testimony」が象徴的ですが、Soulflexの音楽はどの曲もベースが太くて低音に存在感がある音楽が多いと思うのですけど、そこは意識的に作っているところがありますか?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

いや、めっちゃ無意識ですね。思い当たることがあるとすれば、僕達の共通項はヒップホップとかネオソウルのようなローが効いている音楽で、ラフな格好よさのある音楽だから。この名義で曲を作っていったら自然にそういうサウンドになっていくのかなと思います。

じゃあ逆に、制作で一番意識していることは?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

Soulflexに限って言えば、全員の魅力が引き立つものを毎回意識しています。フロント3人が全員歌う曲であれば、3人が引き立つものにしたいし、演奏しているみんなも達者なので、そのトラックをさらにライヴで育てて欲しいという気持ちで、それだけの器のある曲にしたいとは常に考えています。

Ma-Nu

Ma-Nu:

ただ、共通しているのがヒップホップやソウルだったりするんですけど、Soulflexがやっていることって、鮮度100%のヒップホップでもないし、色々なものが混ざっているから。

Mori Zentaro

Mori Zentaro:

そうだね。

Ma-Nu

Ma-Nu:

ソロでやる時とも、バンドでやる時とも違っていて、Soulflexでやる時は「ラップはこう」、「ヒップホップはこう」っていうような今まで育ててきた考え方を一旦フラットにすることはありますね。で、「このメンバーでやったらよくならないわけがないやろ」っていう感じで、みんなが武器を持ち合うことで必ず凄いことが起こるから。それぞれが自由にやって、それが合わさった時の楽しみが凄くあります。

音楽が人生を豊かにする

MVを作られた「Free Ya Mind」は、ビートは脱力しているけどラップにはエネルギーがあって、言葉と音にコントラストがありますよね。コーラスぽい展開も含めて面白い曲だなと思います。
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

「Free Ya Mind」は僕らの中では普段着な曲というか、挨拶するならこんな感じみたいな本当に自然に出てくるものなんですよね。90’sのヒップホップや、R&B、ネオソウル、まさに我々のエッセンスが詰まった曲です。

じゃあこれがSoulflexのど真ん中?
Ma-Nu

Ma-Nu:

そうですね。まさにど真ん中。

Mori Zentaro

Mori Zentaro:

MVはISSEIくんっていう敏腕のマルチアーティストにお願いしたんですけど、その映像も「普段の僕らを見てほしい」っていうことをテーマにしていて。全く着飾っていない我々の素の姿を見せるように撮ってもらっています。

タイトルも直訳すれば「心を解き放て」ですね。普段着の曲でこういう言葉がついてくるのは、Soulflexの1番伝えたいことがここにあるからでしょうか?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

「Free Ya Mind」という言葉はZINが持ってきたんですけど、SIRUPが最近「フロアでこうしなきゃいけないっていうのはない、思い思いに踊ればいい」って強く思うってよく言っていて。この曲のイメージはそこからどんどん広げていきました。

Ma-Nu

Ma-Nu:

そうすることで自分が楽になるというか、人の言葉でも、ただ受け止めるだけが吸収の仕方ではないし、心を解き放つことで嫌なことやいらないものは流していくことができるから。自分が広がっていく感じがありますね。

今社会的にも凄くざわついていたり、重苦しい空気があると思うんですけど。その中でこうした楽曲を発信していくことにどういう意義を感じていますか?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

音楽をやることに意義を感じています。戦争は続いてるし環境は破壊されているし、混沌とした時代だから悪い面を見たら沢山あると思うんですけど、音楽や芸術っていう文化は間違いなく今の時代の良い面だと思うんですよね。僕はそういうところに希望を感じるので、音楽で世の中が舵を切っていく一翼を担いたいという気持ちが少なからずあって。大袈裟な話になりますけど、そういう大義名分的なことも潜在的には心の片隅に持っています。やっぱり僕は音楽がそばにあったことで豊かな人生を送れているから、いろんな人が、そういうところに目が向くような世の中になってほしいと思います。

BROCKHAMPTONなど、海外では一層「コレクティブ」という形態が存在感をもっている中、日本ではまだまだ少ないですよね。このような状況で、今後どのような存在になっていきたいですか?
Mori Zentaro

Mori Zentaro:

日本でこういう形でクルーをやっていくことに関してはずっと暗中模索だと思っています。ただ、たとえばメンバーの中でSIRUPみたいなバチーンって飛びぬけていったやつもいれば、音楽とは別の職業に務めながら、その傍らで参加しているメンバーもいて。僕はSoulflexのあり方については、そこに何かがあるような気がしています。それぞれに音楽との付き合い方があっていいと思うし、誰もが音楽で稼げるなんてことはない。それに、そもそも音楽はお金に変換できるものではないと思っているから、それぞれの音楽への距離感を保ちながら、僕らはひとつのコレクティヴとしてやっていきたい。そういう多様性を日本の中で提示していけたらいいなと思っています。

Ma-Nu

Ma-Nu:

Zentaroがボスなので、Soulflexのそうしたビジョンは彼が持ちながら、その上でみんな自由にやらせてもらっているから。Soulflexで集まって何かをする時は良くならないことがないので、僕はその感覚のままずっと楽しみたいですね。凄く楽しいことが、これからも続いていったらいいなと思います。

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