無垢な心で歌う孤独の詩。Ring Ring Lonely Rollssの煌めくロックンロールの裏にあるものとは
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第18回目はRing Ring Lonely Rollssが登場
ピート・タウンゼントが言った通り、「ロックンロールは俺達を苦悩から解放してはくれない。 ただ、悩んだまま躍らせるんだ」。ロックンロールは薬にはならない、誰の孤独も救いはしない。ただ、ほんの束の間、極上の夢を見せてくれる。だから大坂元紀が言う「全部、夢」とは、まさしくその通りだろう。この音楽は夢と理想でできている。
さて、このバンドのメンバーを結ぶものは3つある。そのうちのふたつはBLANKEY JET CITYとMGMT。穢れることのない美しきロックンロールと、まばゆくデコレーションされた甘くとろけるサイケポップ。彼らのルーツは、そのままRing Ring Lonely Rollss(通称:リンリン)の音楽性を表している。そして、もうひとつが中期のThe Beatlesである。これだけ名前を出せば説明はいらないだろう。<理解されないことには慣れてしまった>と歌い、下北沢でチケット無料のイベントを行う煌めくサイケデリア。これは居場所のない人間のための音楽だ。
MGMTとブランキー
- 60年代のロックンロールと80年代の煌びやかなロック、そして00年代のUSインディを結びつけて、どこまでもロマンチックな音楽を鳴らしていると思います。
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森ともか(Vo&Pf&G):
おお!
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大坂元紀(Vo&G):
ちゃんと伝わっていてよかったぁ。
- (笑)。まずはルーツから聞かせてください。みなさんが、人生で最も撃ち抜かれた音楽はなんですか。
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大坂元紀(Vo&G):
俺はブランキー(BLANKEY JET CITY)の解散ライヴを納めた『Last Dance』と、あとはMGMTのファースト『Oracular Spectacular』です。MGMTは、2000年代と60年代を上手く融合したところが好きです。
- そのふたつは、まさにこのバンドの音に直結しますね。
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森ともか(Vo&Pf&G):
私はブランキーとMuseです。Museは初期から中期くらいまでが好きですね。
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大坂元紀(Vo&G):
ゴシックな頃だね。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
俺はなんだろう?
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大坂元紀(Vo&G):
イングヴェイ・マルムスティーンでしょ?
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
全然通ってないよ!
- (笑)。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
Red Hot Chili Peppersですかね。ギタリストあるあるでお恥ずかしいですけど。
- ジョン・フルシアンテ?
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
そう、フルシアンテですね。作品で言うと『Californication』、彼が抜ける直前のレッチリが好きです。
- Showさんは?
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ChanShow(B&Cho):
僕も被っちゃうんですけど、MGMTのファーストですね。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
バンドの振り幅が狭い!(笑)。
- (笑)。逆に言うと、共通するバイブスみたいなものを感じてこの4人でやっているのかなと思ったんですけど。最初からやりたい音楽のイメージがあったんですか?
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大坂元紀(Vo&G):
僕は学生の頃にウッドストックのDVDをずっと見ていたんですけど、あの時代の色というか、あの頃のサイケデリックな色彩に凄く惹かれていました。The Flaming Lipsも好きなんですけど、あれも音楽的にサイケっていうだけではなくて、音に色彩があるように思うんです。
- なるほど。
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大坂元紀(Vo&G):
このバンドを始めた時にはGrouploveが好きで、彼らを見た時に2000年代ぽい色彩サイケやられた!って思って。自分もそういう音楽をやりたくてリンリンを始めました。
- サイケのルーツはそこにあったんですね。じゃあ、ブランキーに惹かれる理由は?
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ChanShow(B&Cho):
唯一無二。
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大坂元紀(Vo&G):
誰からも理解されていない感じ。
- それは、凄くよくわかります。
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大坂元紀(Vo&G):
本当に純粋。その純粋さに惹かれています。
- その「誰からも理解されない」という感覚は、このバンドのリリックにもよく書かれていますよね。
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大坂元紀(Vo&G):
そうですね、ずっと孤独。その感覚は常にあります。そんなに音楽的に仲良くなるバンドもいないし、いろんなシーンがあるのに僕らだけがどこにもはまらない。だからもう、好きなことやればいいや、生きている内にっていう感じでこのバンドをやっています。
- ブランキーって危いからこそ魅惑的で、抜き身の刃物みたいなバンドだと思うんです。
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森ともか(Vo&Pf&G):
ああ、わかります。
- それに比べるとこのバンドは、それこそMGMTのようなキラキラとした音を出しています。その差はなんだと思いますか。
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大坂元紀(Vo&G):
ヤンキーじゃない。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
即答だったね(笑)。
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ChanShow(B&Cho):
でも、元々はそういう尖ったバンドをやっていたんですよ。
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森ともか(Vo&Pf&G):
そう、昔そういう時期があってのこの音楽です。20代前半くらいまでは、皆各々が尖ったバンドをやっていました(笑)。
- 新しいバンドを組んだ時、スタンスが変わったのは何故ですか?
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大坂元紀(Vo&G):
1回音楽をやめて、それでももう1回音楽をやりたいと思った時に、老若男女が楽しめるものをやりたいと思って。それで「受け入れ態勢ミュージック」になりました。
- 大坂さんと森さんで結成されたんですよね?
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森ともか(Vo&Pf&G):
そうですね。その時にもう尖る時代じゃないよねって話て。みんなで音楽を楽しんで、お酒飲んで笑うような空気を作れる曲をやりたいなって思いました。その上で自分達の好きな音楽、ルーツを入れてやっていこうと決めました。
全部、夢
- そうしてこのポップでサイケなロックンロールができあがっていったと。ただ、先ほどウッドストックの時代の色が好きって言われてましたけど、あれはまさしくドラッグが前提にあるわけですよね。
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大坂元紀(Vo&G):
そうですね。
- そうした時代の音や色彩に憧れて、今この時代にバンドをやるということにどういうモチベーションを持っていますか。
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森ともか(Vo&Pf&G):
ずっと一貫して思っていることがあります。私はドラッグどころか、タバコも吸わないし、お酒もそんなに飲めないんですけど。音楽がそういうものを超えられると思っているんですよ。
- 音楽こそが、一番ぶっ飛べるもの?
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森ともか(Vo&Pf&G):
そう。私は音楽の力でぶっ飛べると思っている。そういう音楽を死ぬまでにできたらいいなと思うし、それをリンリンで表現したいです。
- 言葉も音も非常にロマンチックな音楽だと思います。ただ、夢みたいに綺麗な音を奏でる人は、往々にして空虚だからこそそうした音を鳴らし歌うんじゃないかと思うんです。
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森ともか(Vo&Pf&G):
まさに。本当にその通り。
- 何がそんなに虚しくて、儚いですか?
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大坂元紀(Vo&G):
わかんないです。でも、ずっと抱えています…頭がいいのかもしれません。
- 馬鹿になれないからこそ?
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大坂元紀(Vo&G):
たぶん何も知らなかったらもっと幸せだったけど、いろんな事に興味があって知っていってしまうので。知れば知るほど寂しくなっちゃう。
- 内面が鬱屈としてても、この音を出すのは何故?
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大坂元紀(Vo&G):
悲劇的だけどキラキラしているものが好きなんです。映画を観ることも好きなバンドなんですけど、たとえば昔の悲劇作品を現代版にアレンジすると、どこかしらとっつきやすいポップさを出したりするじゃないですか。僕は悲しいからこそ、キラキラしているものが好きですね。悲しいまま終わるフランス映画よりも、ハリウッド映画に惹かれます。最近だと『ラ・ラ・ランド』もそうですよね。だからそうだな…理想なのかもしれない。
- Ring Ring Lonely Rollssの音楽が?
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大坂元紀(Vo&G):
そう。寂しい人が描く理想の世界。全部、夢。こうなったらいいなっていう願いなんだと思います。
Queenは少年ジャンプ、The Beatlesは中期
- showさんとけんじさんはどういうモチベーションでこの音楽をやっていますか?
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ChanShow(B&Cho):
僕は虚しいからどうっていうのはあまり考えてないですね。ただ、これが音楽、これが人間だって感覚でやっています。これがいい音楽だぞって気持ち、それだけですね。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
やっぱり、プレイヤーは脳の作りが違いますよね。でも、だからこそ僕は作った人の気持ちを共有するっていうことが大事だと思っています。
- それは曲作りの時?
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
そう、作った人のイメージを聞いて、どういう音を出そうかって考えます。プレイヤーはどれだけ制作者に寄り添えるかっていうのは、凄く重要だと思っていますね。曲を作る時はフレーズの候補を自信満々に何パターンか出してみて、「全部ダサい」って言われて突き返されたりもするんですけど。僕、そういうの全然めげないので。
- 寄り添えるまで出すと(笑)。
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大坂元紀(Vo&G):
新曲の「King」はブライアン・メイみたいにやっちゃってって伝えました。
- やっぱり。Queenへの愛は凄く感じます。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
(ブライアン・メイのような音を)やれるだけやっていいよって言われて(笑)。じゃあいっぱい弾きますって言って結構ギターも重ねています。
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大坂元紀(Vo&G):
そしたら予想以上にQueenが来ました。
- あはははは! 何故今Queen?
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森ともか(Vo&Pf&G):
王者だよね?
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
Queenが凄いのは全員が曲を作るし、全員が歌が上手いし、各々のパートも上手いところだと思います。
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大坂元紀(Vo&G):
そだからもう、少年ジャンプです。一番の王道。気取ってもないし、あれには勝てないでしょっていう。で、ちょうど僕の次出す曲の候補録音集の中にQueenっぽい曲があって、『ボヘミアン・ラプソディ』観たしこれでいこうと思いました。
- 10月に出す曲も聴かせていただきました。こちらはヘヴィな音を聴かせるロックになりましたね。
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大坂元紀(Vo&G):
ハードロックですね。そっちは最初King Crimsonっぽいリフをやろうと思ってひとりで作っていったんですけど。そうしているうちにちょうどいいコードが見つかって、そこからは2000年代後期ぽい重いローの曲がほしいと思って、だんだんスタジアム系の曲になっていきましたね。
- なるほど。
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大坂元紀(Vo&G):
最初に思いついたものだとハードロック過ぎるというか、このリフをただなぞるだけだと70年代ぽくなるだけなので、コードをメジャーにしてバランスを取りました。
- 初期の頃の方がどこか閉じているイメージがあったんですけど、作品を経るごとに曲が開いていっているイメージがあります。ご自身では、そういう実感はありますか?
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大坂元紀(Vo&G):
変わっていってる実感はあります。最初の頃は僕がひとりでリードギターも考えてやっていたんですけど、最近はパートを任せるようになったので、その影響が出ているんだと思います。俺がひとりで作るとこじんまりするというか、Youth Lagoonが好きだったし、ベッドルームミュージックみたいになるのかもしれない。でも、みんなでライヴをやるって思うといろんな楽器を考えて作るので、それで開けてきた感覚はありますね。
- 初音楽的なところで言うともうひとつ。どの作品にも共通して、The Beatlesからの影響を感じます。
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大坂元紀(Vo&G):
みんなThe Beatles大好きです。
- The Beatlesとの出会いは?
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ChanShow(B&Cho):
僕は母親が凄い聴いていたので、車でよく流れていて。それを大人になってから、ああ、俺が聴いていたのってThe Beatlesなんだって知りました。
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大坂元紀(Vo&G):
確かに、最初から好きだったわけじゃないのかも。いろいろな音楽を聴いていくうちに、The Beatlesを本当の意味で知ったというか。いろんな音楽を聴くといつもThe Beatlesに戻るわ。
- ケンジさんは?
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
俺は入り方が違いますね。父親も昔バンドをやっていたので楽器が家にあったんですけど、ギター教えてって言っても、「コード覚えないとギターなんて弾けないぞ」って言われてつっかえされてて。それが悔しくてコードだけひたすら覚えていたら、The BeatlesのCDとコードと歌詞が乗っているものを渡されて。それを片っ端からコピーしていったんですよね。
大坂元紀(Vo&G):
いいなあ。
- 文字通りの教科書ですね。じゃあ、フェイバリットのアルバムを1枚挙げるとしたら?
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ChanShow(B&Cho):
『Revolver』。
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大坂元紀(Vo&G):
俺は『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』。
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森ともか(Vo&Pf&G):
私も!
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
俺は『Rubber Soul』か『Revolver』かな。
- 全員、中期の頃ですね。
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大坂元紀(Vo&G):
どの曲を聴いても新しい感じがしますね。はっぴいえんどを聴いても同じ感覚になるんですけど、今でも全然聴けるアルバムばかりですよね。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
それこそThe Beatlesの中期は、今で言うサイケの大元みたいな感じがしますよね。
- まさしく。
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大坂元紀(Vo&G):
それにあの頃は特に遊び心がありますよね。
- ライヴをしないで制作していた時期がありますしね。それで言うと、このバンドも制作中には遊び心がありますか?
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大坂元紀(Vo&G):
『IKEBANA POP』に入れた「Hyper Love Song」のレックは、PA卓に直接ギターぶち込んで録りました。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
ダイレクト・インって言うやつです。
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大坂元紀(Vo&G):
The Beatlesの「Revolution」のギター録った方法で、アンプの歪みじゃなく、録音の卓に直接シールドを刺して凄いボリュームで割って録るんです。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
作って歪ませている感じではなく、本当に割れて出ちゃった音っていう感じなので、たぶんそれだけで聴くと凄く汚い音なんですけど。
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森ともか(Vo&Pf&G):
超カッコよかったよね。私達はめっちゃテンション上がりました。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
そのまま録れー!って言って(笑)。
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森ともか(Vo&Pf&G):
アイディアを出すのが楽しいよね。
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大坂元紀(Vo&G):
時間があるのなら、僕は実験ばっかりすると思います。
与えたい、忘れたい
- Ring Ring Lonely Rollssはチケット無料のイベント「 PHYCHO 」をやっていますよね。
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森ともか(Vo&Pf&G):
「PHYCHO」は文字ずらもよくてインパクトがあるかなって思ってつけたんですけど。毎回ぶっ飛んだ感じのイベントができたらいいよねって思っています。
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大坂元紀(Vo&G):
僕はみんなが平等な空間を作りたいです。みんなでお酒飲んで騒いでいたら、上下がなくなっていくので。サイコだけど平等、そういうイメージですね。
- シーンのどこにもはまらなかった自分達だからこそ、ホームを自分の手で作ろうっていう感覚ですか?
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大坂元紀(Vo&G):
ああ、そうですね。その気持ちはあります。
- 強いて言えば、今同じ精神を感じているバンドはいますか?
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大坂元紀(Vo&G):
最近はFRSKID。
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森ともか(Vo&Pf&G):
あと、w.o.d.。
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大坂元紀(Vo&G):
ヴォーカルのタクヤ(サイトウタクヤ/Vo&G)とは長いことふたりだけで飲めるんですよね。
- どういうところにシンパシーを感じていますか?
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大坂元紀(Vo&G):
孤独。みんな正直者だと思います。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
そうだね、ピュア。心が綺麗だよね。
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大坂元紀(Vo&G):
変な建前がない。こっちがダメな時は褒めてこないし。嘘をつかない人と仲良くなります。
- ブランキーに心を奪われた理由と一緒ですね。
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大坂元紀(Vo&G):
はい。
- でも、嘘をつけない人間の方がマイノリティじゃないですか。
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大坂元紀(Vo&G):
ヤバいですよね。本当にそう。だからもう何も考えてないし、俺はこのまま行きます。ただ、ちょっと音楽的に大人にはりたいな。もうちょっと渋くなりたい。アメリカ旅行でも行ってきたの?って思われるくらい、渋みと冷静さを出したいです。
- メンバーのみなさんは、このバンドでどんな活動をしたいというヴィジョンはありますか?
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森ともか(Vo&Pf&G):
私は人と話すの苦手なんですけど、ステージに立つとガラっと人柄が変われるので。ライヴをやっている時にはすべてを与えたいし、すべてを忘れたい。ステージに立って音楽の中にはまっていって、グルーヴが生まれてくると無になるんです。その感覚をどれだけ味わえるかだと思います。ずっと味わっていたいし、それが来た時の快感が凄いです。
- それが最初に言っていた音楽で飛ぶってこと?
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森ともか(Vo&Pf&G):
そう。それです。
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浦野けんじ(G&Syn&Cho):
僕はこのまま逆行していきたい感じはありますね。ずっとアナログな感じでデカい音を出し続けたい。そこにこだわりたいです。
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大坂元紀(Vo&G):
うん、毎回裏切りたい。毎回前のイメージは全部なくしていきたいくらいです。日本では絶対に売れないやり方なんですけど。
- 敢えて聞くと、絶対売れないやり方っていう自覚がありつつ、こういう音楽を貫きたいのはどうでして?
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大坂元紀(Vo&G):
もう俺達はそれでしか楽しくないから。
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ChanShow(B&Cho):
人同じことやってもしょうがないから。やっている意味ないし。
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大坂元紀(Vo&G):
みんな飽き性だしね。せっかく音楽をやっているんだから好きにやるだけですね。
Presented by.DIGLE MAGAZINE