Newspeakが歌う自由への渇望『No Man’s Empire』
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第21回目はNewspeakが登場。
Title List
ColdplayやOasisを彷彿とさせる、巨大なスケールを持ったダイナミックな歌。スタジアムやグラストンベリーまで突き抜けていこうという、野心に満ちたロックバンドだ。結成は2017年、この2年の間に3枚のEPと1枚のミニアルバムをリリースし、47都道府県ツアーも敢行。バンドとしての地力を底上げして産み落とされるのが、初のアルバム『No Man’s Empire』である。「誰の帝国でもない」と冠せられたそれは、世界に牙をつきつけるアルバムであり自分のいる世界を抱きしめるためのアルバムだ。生音とエレクトロを同居させ、くだらない世界から解き放たれたいという欲求と、幸せになりたいという素直な感情がありのまま歌われている。Reiは<君は金色に燃える様な目をしていた もう怖がらないで>と歌っている。「君」とはすなわちこの音楽を聴くリスナーのことであり、同時に彼自身のことだろう。火のついた目をしているバンドだ。
何にも縛られない
- ColdplayやMuse、もしくはOasisやThe Strokesの影響が聴こえてきますが、皆さんがそれぞれ10代の頃に熱狂した音楽は何ですか?
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Ryoya:
僕はOasisですね。高校1年生の頃によく聴いていて、2005年のマンチェスターで「Don’t Look Back in Anger」をやっている映像をYouTubeで観た時に、みんながAメロからサビまでずっと歌っていることに感動して。僕もバンドやりたいと思いました。
- Reiさんはどうですか?
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Rei:
僕らが10代の頃にはガレージロック・リバイバルがあったので、The StrokesとかArctic Monkeys、The Fratellisが凄く流行っていて、友達と一緒に聴いたりコピーバンドをしていました。そうした2000年代のロックが根底にありつつ、最新のシンセポップを聴きながら、80’sとか70’sの音楽も聴いていましたね。僕もOasisは通っているし、RadioheadやNirvana、ベルセバ(Belle And Sebastian)やThe Smithsも聴いていました。
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Yohey:
僕は10代の頃に一番聴いたのはRancidです。Nirvana、KISS、Deep Purpleも好きだったんですけど、Rancidはとにかく激しくて、なおかつポップだったから。僕がポップなものが好きになる原点を探ると、Rancidが出てくるというか。彼らは音楽的に一辺倒になるのではなく、歌やギターフレーズが物凄くポップなところが好きでした。
- 最後にStevenさんは?
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Steven:
僕の親はクリスチャンだったから、クリスチャン・バンドじゃないものは聴いちゃダメっていうルールがあったんですよね。でも、音楽の先生からもらったMr. BigのCDに凄くハマって、12歳くらいまではMr. Bigしか聴いてなかったです。
- いいですね(笑)。
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Steven:
それからパンクロックのThe Offspringとかblink-182、New Found Gloryを隠れて聴いてました。
- 逆に言うと、こっそり聴くくらいエモやパンクには惹きつけられる何かがあった?
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Steven:
なんでかわからないけど、本当に好きだった。単純に若い俺の気持ちがあったんだと思う。
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Rei:
俺は何にも縛られねえっていうパンクじゃない?
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Yohey:
僕らが10代の頃って、ガレージロックリバイバルもそうだし、Red Hot Chili PeppersとかBring Me the Horizonとかやんちゃな人達が多くて、それに惹かれるところはありましたね。
- それぞれ、ご自身が演奏しているパートでリスペクトしているプレイヤーはいますか?
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Rei:
俺はQueenのフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)かな。あいつが歌ったら全部Queenじゃないですか。何を歌っても俺が歌えばNewspeakになるような、そういうヴォーカリストになりたいです。
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Yohey:
それで言うと僕はジョン・ディーコンですね。
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Rei:
Queen大好きバンドじゃん!(笑)。
- (笑)。
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Yohey:
でも、実際にQueenの曲のバリエーションを支えているのはジョン・ディーコンだと思う。あの人はベースプレイヤーとして派手なことは何ひとつしていないけど、いろいろな曲がある中で、ベーシックな部分を細かく変えて楽曲を引き立たせていると思います。
- 自分と通ずるところを感じますか?
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Yohey:
感じますね。このバンドもいろいろな曲調で歌がちゃんと立ったロックをやっていて、その中で僕は派手ではないけど、面白い支え方をしたいと思っています。僕は個人でスタープレイヤーになりたいとは思っていなくて、バリエーション豊かな曲を、バリエーションのあるベースで支えたいです。
- Ryoyaさんは?
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Ryoya:
このバンドのスタイルとは重ならないんですけど、憧れだけで言えばジミー・ペイジかな。ジミー・ペイジは完全にザ・ギタリストって感じがカッコいいですよね。もう、あの人がLed Zeppelinじゃないですか。そういうギタリストが好きで、ジェフ・ベック(Jeff Beck)とかも凄く好きでした。ただ、Newspeakでは僕もあまり個人で目立つことは考えてないですね。ギターに特化した曲ではなくて、みんなの個性が相まってひとつの曲になるような音楽をNewspeakではやりたいです。
- では、Stevenさん。
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Steven:
ひとりはMr. Bigのパット・トーピー、あとはblink-182のトラヴィス・バーカー。ドラマーにハマるきっかけをもらったのはこのふたりです。
- ご自身はどういうドラムを叩きたいと思っていますか。
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Steven:
昔の速いパンクロックが好きですね。ダブルペダルが嫌だったから、メタルではなくパンクロックが好きだった。ただ、がっつりそっちをやってきたけど、歳を取ってゆったりしたものになってきたというか…気持ちはまだ昔の速いパンクロックなんですけど、最近はちょっとだけテンポを落としてます。
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Rei:
この間Stevenが速い曲をやりたいっていうから作ってみたら、ライヴでしんどいっていう(笑)。
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Steven:
昔簡単に弾いていたトラヴィス・バーカーのフレーズが本当に大変なんですよ(笑)。1分も続けられない。
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一同:
(笑)。
- バラバラなルーツやスタイルを持った4人が集まっていると思うんですけど、初めにやりたい音楽像などはありましたか?
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Steven:
はじめてスタジオに入る前に、どのジャンルやろうかって話したことなかったです。Reiがインディーロックをやっていたのはみんな知っていて、Reiのバンドだからなんとなくこうなるかなとは思っていたけど、詳しい話は全然話していなかったですね。
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Rei:
いまだにそういう話しはしないかもしれないです。どういう風にバンドとして大きくなりたいかとか、最終的に目指すのはどこかっていう話はしますけど。
- たとえば?
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Yohey:
どうせやるならスタジアムだったり、グラストンベリーに出るくらいまでは絶対に行こうっていう話はしていました。デカいところは絶対に見ておきたいよねって。
- そうしたヴィジョンを持っていることが一番大事だと思います。世界で戦っていく上で、どういったメンタリティを持って、ロックバンドとしてどう戦っていこうと思っていますか。
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Rei:
根拠のない自信を持ち続けていようっていうのはあります。海外や日本のいろんな音楽を聴いてきて、僕は負けていないと思い込んでいる。Stevenにもよく海外のアーティストを聴かせてみると、「まぁこれくらいだったらいけるっしょ」とか、「これよりはカッコいい音楽作れるよ!」って言うんですよ。自分達がカッコいいって思い続けていないといい音楽は作れないし、大きいところまでは絶対に行かないから。僕は常にロックで沢山の人に届けたいというイメージを持っているので、スタジアムまでいけるイメージを持ちながら曲を作っています。
- まさにこのバンドからは、今時珍しいくらいロック然としたスピリットを感じます。Reiさん達は何故この時代にロックを自負して活動していますか。
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Rei:
それはただロックが好きだから。何故かはわからないけど、僕はロックは時代を超えれそうな気がしています。一瞬で流行ったものは一瞬でなくなると思うんですけど。
- ロックには普遍性を感じる?
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Rei:
そうですね。あと、人間らしさが出ているから好きなのかなって思います。ロックって怒りや反発心を曝け出すことじゃないですか。Newspeakは、ありのままの姿を飾らずに出す音楽に惹かれている人間が集まっているのかもしれないですね。
- Newspeakという名前は、「新しい言語」というようなニュアンスがあるんですか?
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Rei:
そうですね。
- 自分達のバンドにそういう名前を冠したのはどうしてですか。
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Yohey:
ジョージ・オーウェルの小説の中に出てくる言葉なんです。
- 『1984』?
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Yohey:
そうです。仮想世界の中で、鎖国状態の国の政府が国民の意思統制を図るため、反政府的な言葉や自由を求めるような概念を取り払っていき、国民の言葉を長い年月をかけて新言語に変えていく。その意味が極端に減った新しい言葉っていうのが「Newspeak」なんですけど、僕らはそうしたストーリーとは切り離して、自分達なりの意味で使っています。
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Rei:
言語を統制することで、人々の心を狭めていくっていう考え方が面白いなと思います。日々めんどくさいことがあるし、情報が多すぎて何が大切なのかわからなくなってくる中で、シンプルに喜怒哀楽が表現できたらいいなってずっと思っていて。Newspeakを聴くことで感情を呼び起こしてもらって、泣きたかったら泣けばいいし、踊りたかったら踊ればいいし、楽しかったら楽しんでもらいたいと思ってつけました。
- 直感的に自分の信じる道を行くことや、剥き出しの本能で楽しむことを歌っている曲がいくつもありますよね。
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Rei:
そうですね。そういう内容の曲が多いかもしれないです。毎日大変だけど好きな人さえそばにいてくれたらいいんじゃないっていうような、最終的にはシンプルな内容に辿り着くことが多いですね。本当に大事なことはいっぱいあるわけはないと思うから、自然にそうなっているんじゃないかな。
- 開放感があるから音楽をやっている?
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Rei:
うん、それがなかったら音楽をやっていないと思います。Newspeakでは自分を解放できる音楽をやりたいし、聴く人にもそう思ってほしいですね。
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Steven:
僕はカバーバンドの仕事もいっぱいやってきたけど、そこで演奏する時って、ロックバンドで必要なマインドとは全然違うんですよね。やっぱりNewspeakでは全然違うマインドでステージに上がるから、僕は自由を認めたい。そんな気持ちでやりたいです。
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Yohey:
見てくれる人に、こいつらどのバンドよりも自由だなって思われたいよね。
- 『No Man’s Empire』についても話を聞かせてください。まず、ご自身達はどんな作品になったと思いますか。
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Ryoya:
こんなアルバムを出せるバンドは日本には絶対にいないと思いますし、海外でもなかなかいないんじゃないかなと思うので、単純に出来上がって嬉しかったです。まだライヴで披露していない曲が多いので、ライヴでどう変化するのかもめちゃくちゃ楽しみです。
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Steven:
今回は頑張りましたね。絶対にライヴで盛り上がる曲を作りたかった。
- というのは?
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Steven:
前のアルバムはちょっとだけやりすぎたっていうか、複雑すぎたところがあって。それこそライヴでやると速くて疲れちゃうし(笑)、前は自分が楽しめるように曲を作っていたけど、今回はもっとみんなにカッコよく思ってもらいたかった。
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Rei:
そうだね。2年くらいやってきて、自分達がやりたいことと、お客さんがやってほしいことの照準が合ってきたのかもしれないです。それが具現化されたアルバムなので、僕はバンドとしてのファーストステップをこの作品で踏みたかったし、この2年間の集大成になっていると思います。
- ミックスはYoheyさんとStevenさんがやられているとのことですが、音の質感で意識したことはありますか。
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Yohey:
デジタルとアナログをいかにカッコよく融合させるかです。
- ハイファイにしようとしたわけではない?
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Yohey:
それは特に考えなかったですね。天井が高くて部屋も広い、ちゃんとしたスタジオでドラムを録って、ベースも自分がこだわっているアンプで録り、ギターもアンプのドライブ感を意識しながら録ったので。むしろそれを無理やりハイファイにパッケージするのは難しいんですよね。
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Steven:
僕はミックス中には綺麗過ぎた音を歪めたり、もっとジョボク作ろうっていうアプローチをしてたかもしれないです。
- 何故?
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Steven:
Reiのリリックが結構インサイドのほうに向いてたじゃん?
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Rei:
そうだね。
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Steven:
今回はパーソナルなものを歌っているから、ダーティな音に繋がったかなと思います。自分が思っていることをベッドルームで歌っているようにしたかったから、綺麗過ぎると通じないんですよね。そこでわざと歪んだ音を入れることで、そういう実感を音として表現しようとしてました。
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Yohey:
だからあくまでも、その曲が一番素直に受け入れられる形を考えていましたね。あと2曲目の「Wide Bright Eyes」と6曲目の「Stay Young」は、トニーとダニエルっていう、グラミーにノミネートされたこともあるアメリカのエンジニアにお願いしたんですけど。一度人の手に渡ってブラッシュアップされて返ってきたものを聴いた時、物凄く衝撃を受けました。自分達の曲に対する認識の差を実感して、そこを詰めていく作業がありましたね。
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※トニー・ホッファー:The fratellisやBeck、Belle and Sebastian、Sondre Lerche等を手掛け、 7度グラミー賞をノミネートされた巨匠。
※ダニエル・ジェイ・シュレット:DIIV、Arto Lindsay、Nick Hakim、War on Drugs、 Ghostface Killah等の作品を手がけるニューヨーク在住の音楽プロデューサー。 - 一番どこが変わりましたか?
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Yohey:
トニーとテレビ電話でミーティングをした時に、どんな風にこの曲を聴かせたいんだ?って聞かれて。ダンサブルにしたいって伝えたら、返ってきたものが凄すぎて。もう、勢いがいいだけというか(笑)。
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Rei:
そう、正解はないんだなって思った。踊れコラー!っていう感じのミックスで。
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Yohey:
ダンサブルというか、強制ダンスだよね(笑)。バンド対スネアみたいなバランスで、もうバンド全体の音とスネアの音が同じくらいのボリュームで鳴ってるんですよ。
- なるほど(笑)。
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Yohey:
元々踊れる曲だと思ってましたけど、ミックスされたものを聴いて、こんなにノレる曲だったっけ?って思いました。アメリカ中から支持を受けるような人って、ここまでやるんだなと。それから改めて僕とStevenで、何を一番伝えたいのかっていうのを念頭に置いて、メインにする楽器を考えていきました。
- 先ほどStevenさんがリリックも意識していたと言われていましたが、歌詞にも音像にも訴えてくるものがありますね。
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Rei:
タイトルの『No Man’s Empire』は「誰の帝国でもない」という意味なんですけど、これから自分達がどうなっていきたいかっていう意思表示も込めてます。誰かに支配されていると思いながら音楽をやりたくないし、そんな世界だと思って生きたくない。僕は聴く人も自由に生きて欲しくて、11曲を通していろいろな視点からそういうことを訴えかけています。音楽的にもどこかのジャンルに属するのではなく、いろいろな人を巻き込みながら垣根を突き破ってど真ん中に行きたい。
- 僕はこの作品を聴いて、音や歌から「World is mine」っていう気概を感じたんです。そう歌っているわけではないけど、これまで沢山のロックバンドが歌ってきた「World is mine」を、今Newspeak流の言い方をしたら「No Man’s Empire」になるのかなと思いました。
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Rei:
ああ、なるほど。確かに近いところはありますね。でも、「World is mine」は俺が支配者だ!っていう感じだけど、「No Man’s Empire」は人それぞれが自分のエンパイアを持っていればいい、みんなで幸せになろうぜっていうニュアンスで歌っています。
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Steven:
「World is mine!!」というよりかは、「Anything Is Possible」みたいなニュアンスに近いかも。
- ああ、それ凄くわかりやすいですね。そして歌詞について思ったことがもうひとつあって、『No Man’s Empire』では実に7曲で「eye」という単語が出てきます。中でも1曲目と2曲目では「燃える様な目」や「輝く瞳」というように、パワーの象徴として「eye」という言葉を使っています。
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Rei:
全然意識してなかったですけど、たぶん感覚的にパッと世界を見れるのは目だからかな。割と世界対俺、世界対私みたいな曲が多いんですよね。
- 世界に噛みつきたい?
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Rei:
ハッキリ聞きますね(笑)。まあ、満足していないんでしょうね。僕は常に何かを変えたいと思っています。何かを変えてもっと幸せになりたい、もっとこのバンドを大きくしたい。このアルバムではそれぞれの世界があるんだよっていうことを歌っているから、そういうことを提示していけるバンドでありたいです。
時代を超える
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世界対俺
Presented by.DIGLE MAGAZINE