新しいレコード会社の形。BIG UP!が考えるアーティストサポートとは

インタビュー

音楽配信代行サービスをはじめ様々な形でアーティストをサポートしている『BIG UP!』のサービスや今後について、エイベックス・エンタテインメント株式会社 内田正俊さんにお話を伺いました。

ストリーミングサービスが浸透し、アーティスト活動やレーベルの機能も大きな変化を迎えています。音楽配信代行サービス(デジタルディストリビューション)の登場により、今やレーベルに所属しなくとも、簡単に世界中のリスナーへ楽曲を届けることが可能となりました。数あるサービスの中でもエイベックスが運営する『BIG UP!』は音楽配信代行サービスだけでなく、様々な形でアーティストをサポートしています。

今回は『BIG UP!』のサービスやこれからのアーティストサポートについて、エイベックス・エンタテインメント株式会社 レーベル事業本部 企画開発グループBIG UP!ユニット、チーフ・プロデューサーの内田正俊さんにお話を伺いました。

レコード会社が運営しているメリット

ーBIG UP!がローンチしたのは2016年10月ですよね。

そうです。当時、音楽配信代行サービスはTuneCoreさんしかいない状態で、僕らは“メジャーレーベルのインフラをみなさんに貸出す”という発想でBIG UP!のプロジェクトを2015年にスタートさせました。

ー単刀直入にお聞きしたいのですが、BIG UP!を利用する一番のメリットとはなんでしょうか。

音楽配信代行サービスはプランも様々で差別化しづらいですが、BIG UP!はフリープランがあるので誰でも気軽に配信始められるというのが第一にあると思います。
そして僕らはレコード会社が母体なので、プロモーション方法などの知識を持っているというのは他のサービスにはないものだと思っています。僕もスタッフも、メジャーアーティストのA&Rや配信営業業務も手掛けていますから、最前線のプロモーション手段を共有することができるのです。

ープロモーション方法などはBIG UP!側から、登録しているアーティストに声をかけて提案していくのでしょうか?

そうですね。才能ある方にはこちらから声をかけたりしています。他にも、楽曲は素晴らしいけれど配信に関して知識が足りない方には、連絡をして会社に来てもらったり、出張の際にお会いして直接説明したりもしています。

ーすごく手厚くサポートをしてもらえるんですね。実際に登録されている方に喜ばれているのはどんなサービスですか?

今一番喜ばれていると思うのはBIG UP!のオウンドメディアの中で展開している『ピックアップアーティスト』ですかね。日に2アーティストのレビューをプロのライターさんに書いてもらっているんですが、SNSでの反応が非常にいいです。人に自分の音源をしっかり評論してもらう機会がまだない方もいるので、客観的に自分の音をとらえられるというのはモチベーションも上がると思います。モノを作るにはモチベーションが一番大事なので。

ーBIG UP!ではオーディション企画も展開していますよね。こちらの方が新人アーティストの方には喜ばれる企画なのかと思っていたのですが。

喜んでもらえている人は多いとは思いますが、一回受からないとモチベーションがキープできないんですよ。受からないと段々エントリーしなくなってしまったりして…。
でも、オーディションは音楽業界の人に音源を聴いてもらえるチャンスなので、自分の音源を配るくらいの勢いで、受かる受からない気にせずにエントリーしてもらった方がいいと思います。
実際、審査員が複数社から出ると合議になるので「僕はこれがよかったのに」という人も必ずいます。それがライブハウスの方なら、普段のイベントにブッキングしたりということが起こるので、メディアに音源送るのと同じ感覚でエントリーしてもらいたいですね。審査するにあたり、絶対に音源は聴きますから。

ーこれまでの企画を見るとサーキット系のイベントでよく開催されていますよね。

ライブハウスとのお付き合いも多いので。今後も新人アーティスト向けのイベントとは継続的にやってこうと思っています。

ーレコード会社ならではのサービスとしては「著作権管理の委託」ものあると思うのですが、具体的にどういうことをお願いできるのでしょうか。

著作権を登録するには著作権管理団体への申請が必要です。日本では大きいところだとJASRACとNexToneの2社があります。BIG UP!ではサービスページからエントリーしてもらえれば、エイベックスが代行して著作権管理団体に申請の手続きをします。

ーなるほど。そうすることで使用料がしっかりアーティストに入ってくるようになると。

そうですね。自分の知らないところで使用された時の回収経路が作られます。しかし、著作権登録をすると、自分の曲を使用して、自身でCDを作る場合でも管理団体に使用料を納めないといけないとか、それを免除してもらうためにも申請が必要とか、手間が増えるというデメリットもあります。そこをどう解釈していくかですね。

ーでは売れているアーティストでないと手間が増えるだけなのでしょうか?

実際大変だと思います。でもヨーロッパでは著作権教育がしっかりできてるので、インディーズのアーティストも基本的にみんな著作権登録をしているんです。若いアーティストに対して著作権についての講習も色々な場で開かれています。
彼らの場合は英語で歌ってる以上、様々な国で聴かれる可能性が高いので著作権使用料への意識がしっかりしているんだと思います。

ー実際、日本では著作権に関する知識をきちんと持っているアーティストは少なのではないかなと思います。

確かにヨーロッパのアーティストと比べると知識は少ないですよね。こればかりは一つ一つ説明して行かないといけないですが、デジタルへの対応が進んで著作権管理団体や出版管理会社のシステムが向上すれば、そういういった方面にも手が回るのかなとは思っています。

ー配信代行と一緒に著作権管理に関するサービスを提供しているところはBIG UP!以外にもあるのでしょうか?

サービスとして扱っているのは多分BIG UP!だけだと思います。著作権というのは出版管理会社にお願いすれば管理してもらうことはできますが、BIG UP!ではその窓口として簡単に登録できるシステムを提供しています。

効率の良い利用方法

ー楽曲配信するにあたり、BIG UP!では「フリープラン」と「ベーシックプラン」がありますが、どう使いわけるのがいいのでしょうか?

ある程度の結果が出るまではフリープランを使用して、再生回数が伸びるタイミングを見て1年目はベーシックプランを使用してもらうのがベストかなと思っています。
例えば、地道に楽曲配信を続けていって、まとまった曲をアルバムという形態でリリースするタイミングで配信業者の公式プレイリスト入り始めたとします。すると再生回数が伸びるので、そのタイミングで1年のベーシックプランを使う。しかし時間が経つと再生数が減って元が取れなくなってしまうので、2年目からはフリープランに切り替える。BIG UP!ではベーシックプランの更新手続きをしない場合、自動的にフリープランに切り替わるようになってます。

ーそれは安心ですね。気づかない間に曲が聴けなくなることもありませんし。

2年目からフリープランに切り替えれば更新手続きもかかりません。楽曲の配信を止めたければ配信停止の申請すればいいだけになっています。何年も楽曲配信を続けていると、毎年更新作業が必要になって大変ですから。

ー個人で活動してる方にとっては労力が減るので助かりますね。配信後はどれくらい再生されたのかなどのレポートは見ることができるんですよね?

どの配信業者でどれくらい再生されたのかは分かるようになっています。配信業社によって、LINE MUSICであれば“年齢層が若い”といった特性がありますし、Spotifyはどこの都市で聴かれてるかも分かるので、そういうデータを分析の頼りできると思います。ただ、あまりデータで頭でっかちになるよりは、感覚を信じて動いてみることが大事だと思います。分析はその後でもいいと思うので。

ーレポート以外にも配信後はプロモーション面のサポートとして、プレイリストの展開などもされていますよね。

僕ら独自のプレイリストやDIGLE MAGAZINEさんとのプレイリストもありますが、他のプレイリストへのサブミットも行なっているんです。FNMNL、Spincoaster、CINRAといったプレイリストを持っているメディアや個人でプレイリストを作ってる方など、面白いプレイリストを作ってる人たちには毎週配信された音源の中からいい作品をまとめて送っています。

ーピックアップする基準はありますか?

それぞれプレイリストの特徴があるので、それに合わせてますね。いい音源でも、プレイリストに合わなければ選ばないこともあります。毎日朝9時から10時は前日登録された楽曲を全部チェックしています。一曲一曲聴いて判断をしています。

ーそういったプロモーションのサポートをしてもらえれば、アーティスト活動にもより集中できそうですね。

ただ、SNSだけは自分でやってもらわないといけないです。あればかりは本人が発信しないと説得力が増さないので。今、あいみょんやOfficial髭男dismもセルフコンテンツじゃないですか。本人の本当の思いじゃないと伝わらないんですね。ものづくりに対する想いとそれに連動した発言があって初めて物事が伝わっていくんだと思います。

未来のレコード会社になりたい

ーすでに様々なサービスを提供されていますが、今後はどんな展開を予定しているのでしょうか?

今はYouTubeチャンネルの準備を進めています。社内にある撮影スタジオでスタジオセッションを撮影してアップしていく予定です。
Content IDを習得して収益化するお手伝いはやっていましたが、再生回数を伸ばすのはそれぞれのアーティストに頑張ってもらっていたので、メディアとしてYouTubeチャンネルを機能化させるというのは来年にかけての新たな試みです。

ー他に、楽曲配信に関する機能面ではいかがでしょうか?

今はまだ言えませんが来年は計画していることがたくさんあるので、より使いやすいサービスになると思います。

ーでは長い目で見て、今後BIG UP!ではどんなこと実現させたいと考えていますか?

未来のレコード会社、日本人みんなのレコード会社になりたいと思っています。あとは新人開発機能の刷新。今までのやり方ではなく、マネタイズを手伝いながら一緒にアーティストもサービスも育っていきたいですね。

ー現状でマネタイズの課題は何だと思いますか。

まだまだ日本のサブスクのマーケットは成長しきってないのでストリーミングサービスだけでマネタイズするのは難しい状況です。だから、その他でマネタイズできる経路を作ってあげないといけない。今はグッズを制作するにも、デザインだけあれば簡単には発注できる新しいサービスがどんどん出てきていますから、そういったマネタイズへのつなぎ込みのお手伝いをしていきたいですね。カロリー少なく運用できれば、働きながら副業でレーベルを運営することもできると思いますから。

ー特に個人で活動している方へ音楽活動の間口が広がるといいですね。今後、競合他社が入ってくる中での差別化のポイントにもなりそうですね。

僕らは楽曲配信の売上だけでビジネスを成り立たせるというよりは、アーティストの色々なマネタイズのお手伝いをすることを考えています。その中の一つが音楽配信代行になっていけばいい。アーティストがより長くアーティスト活動つづけられるお手伝いができればいいなと思っています。

ーそうなると展開されるサービスも多岐に渡りそうですね。

基本インフラは社内に色々なものがありますし、それ以外のところはゼロから作るよりも質のいいサービスはたくさんあるので、社内外問わず周りの人たちと一緒にやっていきたいと思っています。僕らはアーティストの味方じゃないといけないので、そういう視点でサービスの向上を図りたいと思っています。

ーまさに新しいレコード会社ですね。BIG UP!のように、今後は音楽配信代行サービスがレコード会社の役割を担っていくのでしょうか?

そうなっていくと思います。全世界的にはその動きになっていますし、A&Rの機能も持ったサービスにアーティストが流れ始めていますから。
ただ、僕らは趣味としての音楽制作の領域への貢献もしたいと思っています。今のようにフリープランを用意していれば、趣味としても利用することができる。趣味であろうが、音楽制作の知識が上がればプロへのリスペクトも上がるだろうし、プロに対する要求も上がる。日本の音楽シーン全体のそういう底上げができると思うんです。それによって国際的な競争力の向上にも繋がればと思ってます。

Presented by.DIGLE MAGAZINE