モラトリアムを生きるポップ・ミュージック・crap clap
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第25回目はcrap clapが登場
バンド名はcrap clap、「酷い手拍子」という意味である。昨年リリースした『Sunday comes again』のレコーディングにて、メンバーのハンズクラップがあまりに下手だったことから付けたとのこと。音楽からもそうしたゆるさや、和気あいあいとした雰囲気が伝わってくる。肩肘張らないポップソングを歌うバンドである。そしてヴォーカルの峰岸が付けたバンドのキャッチフレーズは、「大人になり過ぎた子供によるモラトリアム・ポップバンド」。つまり、若さを捨てることのできなかった大人による等身大の音楽だ。彼らの歌には、ずっと放課後が続いているような青春の残り香が漂っている。
5本の指に入るくらい手拍子が下手
- レコーディングの際、あまりにもクラップが下手だったことから「crap clap(酷い手拍子)」と命名したそうですね。
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峰岸新(Vo&G):
はい。『Sunday comes again』というEPの、「トワイライト・ラプソディー」という曲の中で、皆でハンズクラップをしているところがあるんですけど。エンジニアさんからは、「いろんなアーティストを録ってきたけど、5本の指に入るくらい下手だよ」って言われました(笑)。
- 誰が下手なんですか?
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土居和真(B):
絶対こいつ(上川)です。
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上川智也(G&Vo):
僕もそうかなあと思いつつ、録ったものを聴いても誰だかわからないからいいだろうと思って叩いていたんですけどね。
- (笑)。
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峰岸新(Vo&G):
それで休憩中に「クラップ」って言葉を検索したらふたつの言葉が出てきて。まだバンド名も決まってなかったので、重ねてみたらいいんじゃないかってことで決まりました。
- どういう経緯で結成されたんですか?
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森川雄太(Dr):
5人とも大学のサークルの同級生なんですけど、卒業してから僕が音楽をやりたくって。その時にフジファブリックにどハマりしていたので、ピアノがいるバンドをやりたいと思ってこのメンバーに声をかけました。
- その頃から一緒にやられていたんですか?
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土居和真(B):
僕と森川と上川の3人はやっていました。
- じゃあ新たにヴォーカルを招いたんですね。
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峰岸新(Vo&G):
でも、僕はサークルではcrap clapのようなポップスではなく、ハードロックばかりやっていたので、誘ってもらった時はびっくりしました。
- crap clapの歌からは想像もつかないですが、ハードロックのバンドでもヴォーカルだったんですか?
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峰岸新(Vo&G):
歌ってました。楽器も何もできないままサークルに入ったので、ヴォーカルしかできなかったんですよね。で、新しい代が入ってくる度に何人か(ハードロックが)好きな人がいるので、最初にヴォーカルをやったからその後もみんなが誘ってくれるんです。AC/DCとかLed Zeppelin、Deep Purpleをやっていました。
- 何故ポップなバンドを組もうと思った時、峰岸さんに声をかけたんですか?
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森川雄太(Dr):
最後の卒業ライヴで彼が大橋トリオをやっていて、声がよすぎたので歌ってほしいと思ったんですよね。僕はゴリゴリのロックよりもポップスをやりたかったので、峰岸を誘いました。
- 川瀬さんはこのバンドに入りたいと思う決め手があったんですか?
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川瀬朱華(Key):
私は単純に卒業が凄く寂しくて。オリジナルをやったことがなく、サークルも軽い気持ちで入ったので自信はなかったんですけど、卒業してからも繋がれるならと思って入りました。
- 鍵盤はずっとやられていたんですか?
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川瀬朱華(Key):
はい。3歳の頃にクラシックピアノを親の影響で始めて、高校卒業くらいまでやっていました。それと同時に小6から吹奏楽をやっていて、先輩に誘ってもらいアマチュアバンドを今もやっています。なのでクラシック歴のほうが長いですね。
- 好きなアーティストは?
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川瀬朱華(Key):
クラシックはそんなに詳しくはなくて、よく聴くのは椎名林檎さんです。
- 皆さんはどんな音楽を聴かれていたんですか。
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峰岸新(Vo&G):
僕は元々ノイズ・ミュージックとかポストパンクが好きで、This Heatが大好きでした。サークルに入ったばかりの頃は、暴れまわったりギターをわざとゆるゆるの弦にして大きい音出したり、そんなことばかりやっていましたね。
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土居和真(B):
そうなんだ(笑)。
- ノイズ・ミュージックにハマったきっかけは?
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峰岸新(Vo&G):
福島の復興支援で「ノイズ電車」というものがあって、それが福島の在来線に各駅で停車しながら、その都度ノイズミュージシャンが乗ってくるっていう企画なんですけど。
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一同:
どういうこと?(笑)。
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峰岸新(Vo&G):
それを見に来た人が、地元の旅館に泊まっていくということですね。それで大友良英とかJOJO広重とかが出ていて、その映像を高校生の時に見て、こんな音楽もあるんだ!と思ってハマっていきました。それが大学に入ってからバンドをやろうと思ったきっかけです。
- 元々一緒にバンドをやられていた3人は?
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上川智也(G&Vo):
僕がよく聴くのはQueenですね。ポップスも好きでスピッツとかも聴いているんですけど、ギタリストとして好きだったのはBrian Setzer(ブライアン・セッツァー)だったり、ロック寄りの音楽が多いです。あっと、高校の時に森川の影響でブリティッシュにハマって、The Libertinesはも好きですね。
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土居和真(B):
僕は特にこのアーティストが好きで聴くっていうものはいないんですけど、大学時代からずっとハマっているのはandymoriです。
- 作詞作曲されている森川さんは?
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森川雄太(Dr):
僕はThe Beatlesとかフジファブリック、あとはBen Folds Fiveのようなピアノが入るバンドが好きですね。でも、The Libertinesやandymori、The WhoやLed Zeppelinも聴いていました。
- 最初に音楽にのめりこんだきっかけはなんですか?
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森川雄太(Dr):
一番最初に買ってもらったCDはQueenのベストだったんですけど、組体操の曲で使われていてカッコいいなって思って。ずっと「Jewels」を聴いていました。
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峰岸新(Vo&G):
そうなんだ(笑)。
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森川雄太(Dr):
ドラムを始めたきっかけはレミオロメンですね。自転車で隣の駅までCDを買いに行ったんです。それで中学校の頃友達と3人でバンドやろうってなった時に余ったのがドラムで、結局バンド自体はやらなかったんですけど、家にあったお父さんのパソコンの椅子を利用して練習したら虜になっていました。
大人になり過ぎた子供によるモラトリアム・ポップバンド
- 「大人になり過ぎた子供によるモラトリアム・ポップバンド」というキャッチフレーズがありますよね。
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峰岸新(Vo&G):
僕が考えました…!
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川瀬朱華(Key):
嬉しそう(笑)。
- (笑)。それは音楽性も含めて、バンドとしてのビジョンがあったからですか?
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峰岸新(Vo&G):
森川が曲と歌詞を作っているんですけど、彼の歌詞は大人でもないし、かといって青春真っただ中でもない、そんな情景が描かれていると思って、パッと見た時にモラトリアムって言葉が浮かんだんです。それでキャッチフレーズを考える時に「モラトリアムポップ」という言葉を思い付いて、そこにもう一言「社会人」という言葉を使うのも変なので、「大人になりすぎた子供」という言葉を足しました。
- なるほど。
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峰岸新(Vo&G):
僕、GOMES THE HITMANっていうバンドが好きで、彼らの作品に『weekend』っていうアルバムがあるんですけど。それが青春を過ぎた人が週末に集まって遊んでるいるような、そんな雰囲気の作品なんですよね。で、何となく森川の曲を聴いた時に同じような空気感を感じたんです。彼は彼でこう見えても真面目に社会人をやっていて、普段は歌詞に書いてあるようなことを絶対に口にはしないですけど、根っこにはこういう思いがあるんだなって。そういう言葉にはしないままバンドを続けようというところがまた、過ぎ去った後のモラトリアム感があるのかなって思います。
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森川雄太(Dr):
そうだなぁ…ずっとモラトリアムの中にいたいですね。
- 何故?
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森川雄太(Dr):
郷愁とかそういう言葉ってなんかいいですよね。ノスタルジックな気分が僕は好きです。この歳になってノスタルジーを感じるものとか、モラトリアムの中にいれるのって、バンドしかないんですよ。たぶん他の事じゃここまで感じられないし、きっと一番童心に帰れるものが音楽な気がします。
- 峰岸さんの中にも何かバンドに対する思いはありますか?
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峰岸新(Vo&G):
僕はこれまでオリジナルのバンドをほとんどやったことがなかったので、「バンドをやる」ってことそのものに憧れがありました。元々音楽を聴くのが好きで、プレイヤーというよりリスナーのところがあるんですけど、彼から誘ってもらった時自分も聴いてもらう側になれるんだって思って。そう考えた時に、イヤホンから自分の歌が聴こえてくることに対する気恥ずかしさもあるし、でもその気恥ずかしさこそが憧れっていうんですかね。僕は自分の声を聴いてほしいっていう気持ちは全くないんですけど、これまで「聴く」だけだった峰岸新が、何かを「届ける」ことができるんだっていうところに成長を感じます。
微妙な関係のふたり
- これからリリースする「雨」、「The time」、「milk tea」は『Sunday comes again』に収録されている曲よりも洗練された印象を受けました。
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森川雄太(Dr):
なるほど。でも、「The time」は朝起きてもうちょっとグダグダしていたいけど。もう会社行かなきゃっていう、それだけの歌なんですよね(笑)。なので平和な感じの曲調にしました。「milk tea」は女性目線の曲なんですけど、たとえば最近流行ってるTinderとか、好きな人がいるけど身体だけの関係を持つような間柄の女性の歌なので、エロめの曲にしようと思ったというか。それぐらいなんです。
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上川智也(G&Vo):
じゃあ「雨」は?
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森川雄太(Dr):
あれは特にないな。
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一同:
(笑)。
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土居和真(B):
いい歌詞なのに(笑)。
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峰岸新(Vo&G):
なんとなく森川の歌詞はいつも登場人物が二人がいるよね。
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土居和真(B):
しかもいつも微妙な関係だよな。
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峰岸新(Vo&G):
うん。ラブラブではない、片思いだったり。
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森川雄太(Dr):
そういう人生だったのかもしれないです。
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一同:
(笑)。
- 今は幸福な歌など書けない?
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森川雄太(Dr):
そうですね(笑)。でも、今後幸福な曲が出てくるかもしれないので、その時は心の中で祝福してください。
- はい(笑)。新曲も詞曲は森川さんですか?
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上川智也(G&Vo):
そうですね。現在レコーディングしているものは全部彼が作っています。ただ、今後は僕や峰岸が作った曲もリリースしていくことになると思います。
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土居和真(B):
もう作ってるもんね。
- 上川さんと峰岸さんが作る曲は、森川さんの曲とは大分タイプが違いますか?
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土居和真(B):
うん、全然違うよね?
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森川雄太(Dr):
そうだね。
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峰岸新(Vo&G):
僕は初めて曲を作った時にミツメやスカートが好きだったので、東京のインディポップを意識して作ることが多いです。あと2000年代のポップス、特にROUND TABLEとか渋谷系第二世代ぐらいのバンドが好きで、advantage Lucyとかは子供の頃から聴いていたので、メロディラインは影響を受けています。僕が作るものは、ふたりが作る曲とは結構離れているかもしれないですね。
- 川瀬さんはアレンジの時にアイデアを出したりしますか?
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川瀬朱華(Key):
私はバンド経験はみんなより拙いんですけど、聴いた時に「このフレーズは嫌だ」っていう感覚は率直にあって。キーボードに関してはこの音色がずっと続くのは気持ち悪いな、と思う時は言うようにしています。
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上川智也(G&Vo):
その「イヤ」が結構はっきりしてるよね。
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峰岸新(Vo&G):
いい意味でバンドをやってる人の意見じゃない、俯瞰で見てくれているんですよね。だから僕らがいいと思ってても、「それちょっと聴きにくいかも」って川瀬に言われると確かになってなります。
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土居和真(B):
ピアノのフレーズを考えるのが上手だし、一番素晴らしい音感を持ってるのは彼女なので。メロのコーラスを考えるところはみんな頼りにしていますね。
- それはやっぱり吹奏楽で養われたものですか?
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川瀬朱華(Key):
王道の曲をサークルで沢山コピーしてきたので、音色はそこで培われたものかなって思います。ハーモニーとか全体のバランスを取るのはやっぱり吹奏楽ですね。
「シティポップ」と呼ばれたのは意外だった?
- 結成した当初は鍵盤を入れたバンドを作りたいと思ったとのことですが、今は新しいバンドのビジョンや方向性を持っていますか?
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森川雄太(Dr):
そうですね…僕自身は全然そんな気はなかったんですけど、レコーディングしてCDを出して、ライヴをやっていったら、「シティポップ」って言われることが多かったんです。でも、なんでシティポップって言われるのかちょっとよくわからないですね。
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一同:
(笑)。
- 自己評価とは食い違っていたんですね(笑)。
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森川雄太(Dr):
うん、僕はピアノがいるロックバンドだと思って世に放ったんですよね。そしたら渋谷系って言われて、あら?っていう。
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土居和真(B):
そうなんだ。でも、俺はロックバンドだとは思ってないな。
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上川智也(G&Vo):
うん。ポップバンドかと思ってた。
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峰岸新(Vo&G):
メンバー内でも食い違っています(笑)。でも、僕は(シティポップと呼ばれることに対して)あんまり抵抗ないですね。ああ、そうなんだって思う。評価はお任せしますっていうスタイルだし、渋谷系とかシティポップに聴こえるのは僕の歌い方も結構あると思う。
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森川雄太(Dr):
そっか。じゃあしょうがねえな。
- (笑)。ご自身としてはどういう立ち位置がいいと思っていますか?
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森川雄太(Dr):
もうちょっとポップスとか、邦ロックみたいな立ち位置に行きたいです。最近のバンドだと僕はマカロニえんぴつが凄い好きで、彼らの音楽を聴いた時そこだ!って思ったんですよ。
- なるほど。ポップスとして素晴らしい曲であり、邦楽のロックリスナーにも受け入れられていますね。
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森川雄太(Dr):
そうなんです。僕らもそういう存在になれたらいいなって思います。
- 峰岸さんはゆくゆくはこのバンドがどんな存在になりたいと思っていますか。
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峰岸新(Vo&G):
ライブハウスでライヴをやるってなると、音楽が好きな人が来るじゃないですか。でも、僕はできれば今年1年で、バンド好きではない人でも聴いてくれるような場にいきたいです。
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森川雄太(Dr):
ああ、僕もそれだ。まさにそう。
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峰岸新(Vo&G):
テレビだったりラジオだったり、わかりやすく極端な例を言うと、紅白歌合戦みたいな自分達の親も聴いてくれるような場にいけたらいいなって思います。このバンドは自分達の親が聴いても良いって言ってもらえる曲を作っている自負があるので、普段音楽を聴かない人にも届いたらいいなって思います。
- 主題歌映えしそうな曲ですよね。
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土居和真(B):
そうなんですよ。
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上川智也(G&Vo):
こっちはいつでも準備はできてるんです。
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峰岸新(Vo&G):
これから配信される「The Time」や「milk tea」を友達に聴かせたら、学園ドラマみたいだねって言われて、どんな映像をつけても違和感がない曲になったかなって思っています。
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土居和真(B):
crap clapの曲がエンドロールで流れてほしいよね。
Presented by.DIGLE MAGAZINE