世界を見据えるFrozen Gap。赴くままに創作を続ける、理想の音楽活動とは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第26回目はFrozen Gapが登場

幼少の頃から親しんできたThe Beatlesと、学生時代に魅せられたThe fin.を二大影響源に挙げる、川原悠太朗のソロプロジェクト・Frozen Gap。ストリーミング・サービスが普及し、アジア勢が積極的に欧米のシーンへと乗り出している時流の中、ここ日本からも挑戦心を持って海外へと飛び出そうという作家が多数いるのは周知の通りである。今回初インタビューを試みたFrozen Gapも、そうした気概を持った音楽家である。

2018年に始動してから、EP『The Moon in the Lake』やAL『Collecting Light』を初めとし、既に複数のシングルをリリース。今年に入ってからも「Noise」、「Genuine」と立て続けに音源を発表するなど、活発なクリエイティブで次なる舞台を虎視眈々と狙っている。流麗だがどこか切ないシンセポップを軸に、様々な音楽性にトライしていく彼の活動ヴィジョンを聞いた。

ポール・マッカートニーの「Frozen Jap」から命名

ーFrozen Gapというのは、どういう動機から始でたプロジェクトですか?

元々「川原悠太朗」という個人名義で日本語の歌を歌っていたんですけれど、今はSpotifyとかで全世界に配信していると、データが見れるじゃないですか。

ー聴かれている地域などの?

はい。どの国の、どういう人達が聴いてくれているのかを見れますよね。僕はそんなに再生回数が多かったわけではないんですけど、たとえばメキシコの20代の女の子が聴いてくれているとか、その国の方がプレイリストに入れてくれることで、ちょっと広がっていったりするのを見て、今の時代はこういう聴かれ方もするんだなって思って。だったらもっとダイレクトに届けられるように英語で歌ってみるのもいいかなと思ったのが、動機としてひとつありました。

ーなるほど。

小さい頃にThe Beatlesにのめり込んでいたのもあって、やっぱり浮かんでくるメロディも英語で歌ったほうがハマることが多くて、それでFrozen Gapを始めました。

ーじゃあ、元々音楽で国境を超えたいと思っていたわけではないんですね。

そうですね。最初はそんなこと考えていなかったんですけど、ネットでどの国の音楽でも聴けるし、今はアジアが凄く熱いじゃないですか。韓国に面白いバンドがいたり、タイのバンドが世界で聴かれたり、そういうことが平気で起こる時代なので。だったら日本人の僕でもやっていけるのかなと思います。

ーその点では、率直に言って日本はアジア諸国の中で後れを取っているところがあるように思いますが、日本のアーティストが一層外に出ていくためには何が必要だと思いますか?

やっぱり、どうしてもJ-POPというのが鎖国化しているのかなとは思います。Aメロ、Bメロ、サビという構成があったり、楽器を詰め込んでいくところなど、国内独自で発展したものがありますよね。そういうこの国で受け入れられやすい枠に、みんな知らず知らずに囚われているところがあるのかなって。でも、そういうものを取っ払って、ただただ好きなことを追求することを今の海外の人達はやっているのかなって思うので、僕も変に縛られないように音楽をやりたいと意識はしています。

ーFrozen Gapという名前はどこからつけたんですか?

Paul McCartneyが80年代に出した『McCartney II』というアルバムの中に、「Frozen Jap」という曲があるんです。大麻所持で逮捕されちゃって、来日したのにライブもできずにそのまま帰っちゃった年に出たアルバムだったから、そのタイトルを見て凄く叩かれたらしくて。「Jap」というのも差別的発言だし、日本に対する当てつけだって言われて、国内で発売された時は「Frozen Japanese」に変えられた曲なんですよね。でも、僕はそのエピソードが凄く好きで、Paul McCartneyは「別にJapってもっとフレンドリーな感じで言ったんだよ。文句言いたかったらもっと悪い言葉を僕は知っているから」と言っているし、その言葉の響きが好きだったので。それを文字ってつけました。

ーThe Beatlesの曲にそこまでハマった理由はなんですか?

小学生の時にエレクトーンを習っていて、発表会でThe Beatlsの曲をやることになったのがきっかけでハマっていきました。その時やったのが「Hey Jude」だったんですけど、なんて美しいメロディなんだろうと小学生ながらに思いましたね。で、6年生の夏休みに従兄弟が住んでいたアメリカに1ヶ月くらい遊びに行く機会があって、MDに焼いた青盤赤盤をドライブする度にずっと聴いていたんです。その時の新鮮な海外の風景が刻み込まれたのも、大きいかもしれないですね。

ーご自身のルーツはThe Beatlesの他にどんなものがありますか?

60年代のロックが好きで、The KinksやSimon & Garfunkel、The ZombiesとかThe Velvet Undergroundはよく聴いていました。あと、2000年代以降の音楽だったら、Jack WhiteやThe White Stripesも大好きだし、The Strokesも好きですね。今の僕の音楽に影響を与えているもので言えばTame Impalaです。

ーそれはどういうふうに?

Tame Impalaはバンドですけど、フロントマンのケヴィン・パーカーが曲を作り、レコーディングとミックスも自分でやって、ライブの時にバンドメンバーが出てくるっていうスタイルですよね。彼は自分の表現したいものを思いのままに形にしていくっていうのを体現していて、それが僕がやりたいスタンスなんです。そういう点では、Toro Y Moiもそうですね。

The fin.の背中を見ていた

ー去年のアルバム『Collecting Light』は、どんなヴィジョンがあって取り掛かっていきましたか。

2018年の10月から3ヶ月連続でリリースしたシングルがあったので、その曲達を元に組み立てていったようなところはあるんですけど。ちょうどそのタイミングで東京に出てきてレコーディング環境も変わったので、発売日は決めずに納得できるまでやろうと思って1年かけて作りました。それで、自分が好きなシンセポップの曲をいくつか作りつつ、アルバムなので1曲くらいはポップで分かりやすい曲もいるかなと思って作ったのが「Waves」で。あの曲をプレイリストで取り上げてもらったところから少し広まったので、名刺代わりの曲ができたアルバムになりました。

ーシンセポップに惹かれている理由は?

The Beatlesと同じくらい影響を受けたバンドがもうひとつあって、それが日本のThe fin.なんです。僕は大学の時にやっていたバンドで、京都の音楽コンテストに応募したことがあるんですけど、その時優勝したのがThe fin.でした。メンバーも今とは違うし、ファンクロックぽい音楽をやっていた時代で、凄くカッコよくてライブも見に行ったりしてました。そしたらある時急に活動休止して、2年くらい間を空けて復活したら、シンセポップやドリームポップっぽい感じになっていて。歌詞は英語で、拠点もロンドンに移していきましたよね。僕がFrozen Gapを始めたのも、どんどん世界で活躍していく彼らの背中を見ていたのが大きいかもしれないです。

ー川原さんも海外に移住して音楽をやりたいですか?

それは凄く思います。できれば、30代で行きたいです。小さい頃からイギリスに憧れがあって、The Beatlesが好きですし、『Mr. Bean』も凄く好きでした。今はロンドンで毎年面白い音楽が出てきていて、The fin.や小袋成彬さんのインタビューを読んでいても、凄く刺激がある環境だと思うので、そこに生で触れてみたい気持ちはあります。

ーそして今年に入ってからは、既に2曲シングルが出ますね。

毎月1曲出していこうという状態です。

ーそれは今の時代的な流れも見て?

そうですね。AmPmさんから影響を受けました。先日AmPmさんの<AmPm Thinking>というオーディション出させてもらって、色々お話を聞いていたんですけど。次もアルバムを作ろうと思っていますって伝えたところ、「今はSpotifyで広がる時代だから、知ってもらえるまではコンスタントに出していったほうがいいよ」って言われて、素直に「はい。」って思いました(笑)。

Frozen Gapという船を作った

ー先に出された「Noise」の方は、ダンサブルで打ち込みのリズムが目立っている曲ですね。

「Noise」はいつもと違う作り方をした曲ですね。ドラムのRyujiに一番叩きたいリズムを叩いてくれってリクエストして、BPMも全部任せ、そのドラムを元に作っています。ライブでは固定で彼に叩いてもらってるんですけど、僕はFrozen Gapっていう1個の船を作ったつもりなんです。たとえばベースを弾いてもらいたい人がいたら自由に弾いてもらえばいいし、そういうのもフリーにできたらと思っています。

ーちょっとプラットホームぽいですね

そうですね。

ーでは、「Genuine」は?

そちらはピアノで作った曲で、レコーディングも全部自分でやっています。やっぱり、ひとりでやるとフットワークの軽さがあるので、それは魅力ですね。今年の1月1日に出来た曲なんですけど、出来た瞬間に「今すぐ録りたい!」っていうスイッチが入ちゃって、熱いうちに作った感じです。

ーあれこそ、先ほど言われた川原さんの好きなシンセポップの感触が出た曲かなと思います。

そうですね。Frozen Gapぽいサウンドってなんだろう?って言われた時に、多分これですって言えるのが「Genuine」。あの日は特に正月ぽいこともやっていなくて、1日家にいながら何か録ろうとピアノの前に座って、とりあえず8分の音でコードを弾いた時にしっくりくるコード進行が思い浮かんでできたんですけど…凄くシンプルだけど捻くれている感じが自分の心境とリンクしているかもしれないです。

ー総じて言うと、どこかノスタルジックな曲が多いのかなって思います。

ああ、それはちょっとあるかもしれないです。自分の中で「切なさ」みたいなものは大事にしています。

ー何故?

切なさってパッと英訳するのが難しい感覚じゃないですか。つまりは、それって日本人独特の感覚なのかなと。

ー侘び寂びみたいなもの?

それに近いものかなって思います。なので英詞で歌うにしても、日本で生まれ育った日本人としてのエッセンスは加えたいと思っていて、それがちょっとノスタルジックな響きに繋がっているのかもしれないです。

ーレコーディングはご自身でやられたとのことですけど、ちなみにミックスはどうですか?

ミックスも全部やってます。

ー何に一番気を使っていますか?

響きですかね。昔、海外の音楽と日本の音楽を比べた時の響きの違いについて、「海外は教会でみんなで歌っていた時の感覚が根底にあるから、音楽の中で響きを重視している。でも、日本はやっぱり歌ありきだから、どうしてもボーカルが大きくなって響きはそんなに重要視されない」という話を聞いたことがあって。僕は響きがある音楽が好きなので、そこは自分のミックスでは気を使っています。

ーなるほど。その響きで重要なのは?

余白や余韻ですかね。音を引き算していったら隙間空いちゃうので、その分響きを設計しないと薄っぺらくなっちゃうんです。そこでリバーブ感や、響きで空間を演出するような音作りを心がけていて、あまり詰め込み過ぎずに綺麗な聴こえ方をする音楽を作ろうとしています。

ー今これまでやってこなかった音楽で惹かれているものはありますか?

最近はヒップホップに惹かれています。Easy Lifeっていう5人組バンドなんですけど、バンドサウンドにヒップホップを取り入れていてカッコよくて。僕もジャンルは関係なく、細野晴臣さんみたいに、その時々で興味の赴くままに音楽をやりたいなと思っています。

ー今年1年どういう活動をしていきたいのかを聞かせてください。

今年はオリンピックもあって日本が注目されると思うので、もっと世界に向けて発信していきたいです。毎月リリースをしていきながら、年内にアルバムを作りたいと思っています。

ーそのシングル群をパッケージする?

いや、それはもうUQiYOさんがやってるんですよね…(笑)。The Beatlesもシングル曲は極力アルバムに入れなかったし、毎月リリースするものとは別にアルバムを作りたいですね。あと、ドラムのRyujiと大阪にいるベースのMasayaと3人でライブもやっていこうと思っていて、今年はフェスにも出たいです。

ーそれこそ、海外のフェスを目指したいですね。

そうですね。コーチェラは出てみたいです。今はきゃりーぱみゅぱみゅとかX JAPANのように、「世界から見た日本」という受け取られ方をしている人達が出ているけど、それこそThe fin.みたいなバンドが出演したら面白くなっていくんだろうなとは思います。

ーつまり、日本独自の文化ではなく、世界的なスタンダードで音楽をやりたい?

そうです。いずれは僕もそうなりたい。海外のフェスも日本のフェスと並列で考えられるようなアーティストになりたいです。

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