新世代と共に作り上げた『2020』。若き旗手・Yackle、その横断的な活動の秘訣とは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第30回目はYackleが登場。

2000年生まれ、奈良を拠点とするマルチ・アーティスト/クリエイターのYackleが同名義では2作目となるフル・アルバム『2020』を4月22日(水)にリリースする。

これまでに日本各地、果ては韓国でも開催してきた人気イベント<合法>を始めとしたイベント・オーガナイズから、多彩な引き出しを持つDJ、そしてDÉ DÉ MOUSEや三坂咲、パブリック娘。、ちゃんもも◎、吉田凜音らともコラボするミュージシャンとして知られるほか、日本のブランド”sOMEThING by YoYoAddict”からのスポンサードも受けるヨーヨー・プレイヤーとしての顔を持つYackle。

本インタビューでは、その多様な才能と行動力で、高校在学中から注目を集めてきた彼のこれまでの足跡、そして10代最後のメモリアル的作品として発表する『2020』を紐解く。

ヨーヨーから音楽へ、手探りで前進し続けた学生時代

―音楽に興味を持つきっかけがヨーヨーだったそうですね。どのように始めたのでしょうか?

ヨーヨーを始めたのが10歳の時、2010年のことなんですけど、ちょうどそのくらいに第3期ハイパーヨーヨーが発売されて、学校でもすごく流行っていたんです。だから、最初はすごく自然な流れで入りましたね。

―その後、競技シーンにも足を踏み入れハマっていった。

周りの友だちより技を習得するのが早かったんですよね。難しい技ができるようになっていくにつれて、どんどんのめり込んでいって。ヨーヨーやり始めてからはゲームもやらなくなって、学校の時間以外はずっとヨーヨーばかりやるような生活になりました。

―その後、大会でパフォーマンスをする際に使用するBGM選びから、音楽の方にも興味を持っていくと。

はい。当時はCAPSULEさん、Shinichi Osawaさん、m-floさんなどのエレクトロが多くて。僕が初めて出場した大会の時に使わせてもらったのは、m-flo loves DOPING PANDAの「she loves the CREAM (DEXPISTOLS REMIX)」でした。

―その数年後に、☆Taku Takahashiさんにインタビューされたり、イベントに出演してもらったり、きっと当時は思いもよらなかったですよね(笑)。

衝撃でした。しかも、高校生の時に開催した最後のイベントに中田ヤスタカさんが出演してくれたり、アルバムのリリース・パーティに遊びに来てくださったりして。当時の自分からしたら考えられない状況ですよね(笑)。

―ヨーヨーの大会で使うための音楽をディグっていくうちに、次第に音楽にもハマり、そこからDJやトラックメイクへと繋がっていった。

ヨーヨーの日本公式大会って、予選は人数が多いこともあってか、著作権フリーの楽曲じゃないと使えないんです(2017年に予選は大会推奨曲のみに改定)。なので、プレイヤーもネット上で音楽をディグる必要があって。そういったことがきかっけで、〈Maltine Records〉にも出会ったんです。2011年〜2012年くらいはbanvoxさんの「Laser」がめちゃくちゃ使われていたりして。Seihoさん、PARKGOLFさん、Pa’s Lam Systemさんとかも、ヨーヨーきっかけで存在を知りました。

―そこからDJに繋がったのは、どういう経緯で?

ヨーヨー・プレイヤーって、映像作ってたりDJやってたりする人も多くて。〈CLOCK HAZARD〉(アンダーグラウンド・テクノ・レーベル)界隈の人たちとか、僕の「Feel Me (feat. DÉ DÉ MOUSE & 三阪咲)」という曲のMVを撮ってくれたKota Watanabeさんとかも、ヨーヨーを通じて知り合いました。そういうところからの影響もあったんだと思います。

―なるほど。

ネットでDJの機材を調べてみたらPCDJだったら比較的安価で購入できそうっていうことがわかったので、中1のクリスマスプレゼントに買ってもらって。やり方もわからないまま、家族共用のPCに繋いで、手探りで覚えましたね(笑)。初めてイベントでDJしたのは中2の時、ネットでDJを募集していた大学生主催のイベントに出させてもらいました。

―ヨーヨー、音楽共に言えることですけど、行動力がすごいですよね。

元々はすごく人見知りな性格だったんです。それがヨーヨーをきっかけに、初対面の方、しかも大半が年上の方たちと話すきっかけができたり、あとは自分から話しかけないと先に進めない状態だったので、自ら克服するよう意識していた時期はありますね。僕らって、幼い頃からSNSが身近にあった世代だと思うんですけど、僕は直接会って話すこともとても大事なことだと思っていて。一番最初にイベントを開催する時も、出演者と直接コミュニケーションすることを意識していました。

―では、トラックメイクを始めたのは?

中3の秋くらいに、iPhoneを買ってもらったタイミングで、「GarageBand」というアプリを見つけて。iPhoneだけで曲を作れるということがわかって作り始めました。最初「Yakkuru」名義で、『FOGPAK』(Redcompass主宰の公募型コンピレーション・シリーズ)に応募して、『FOGPAK #15』に“Derangement”という曲が収録されました。その時に一緒になった(楽曲が収録された)yuigotくん、長谷川白紙くんは<合法>の1周年に出てもらいました。

未成年でも安心して遊びに来れる<合法>立ち上げ

―主催イベント<合法>の初開催は高1の時ですよね。イベント・オーガナイズは、Seihoさんのアドバイスも大きかったそうですね。

その頃、『Seiho会』が大阪で開催されていたんです。参加者の音源をSeihoさんたちに聴いてもらうDTMerの集い的なイベントで。告知も前日か当日にされる、みたいな(笑)。そこでtofubeatsさん、okadadaさん、アリムラさん(in the blue shirt)、井入さん(Le Makeup)、isagenさんなどと出会いました。そこで音源制作のことはもちろん、「イベントにもっと出演したいんですけど」っていう相談をしたら、「自分で開催した方が早いんじゃない?」って言われて。それで高校入学してからバイトでお金を貯めて、高1の夏に開催しました。

―風営法の改正などが大きなトピックとして騒がれていた当時の時流も汲み取って、<合法>というイベント・タイトルになったんですよね。

はい。当時、大阪のクラブの摘発などが続いていて。でも、改正によって22時までだったら未成年もクラブに行けるようになった。なので、イベントの終わりを21時に設定して、22時には家に帰るような時間で、中高生のみんなにも安心して来てほしいっていう思いも込めて<合法>というタイトルにしました。

―<合法>はそのジャンルやシーンを横断するラインナップが特徴のひとつとして挙げられると思います。オーガナイザーとして、そこは意識的に?

<合法>は2017年の周年から特に色々なジャンルを取り入れるようにしています。でも、あまり意識はしていないですね。単純に、音楽的な視点で自分が好きな人にお声がけさせてもらっているという感じで。

―様々なカラーのアーティストが出演するイベントをオーガナイズする身として、なにか気をつけていることは?

タイムテーブルはすごく意識しています。じゃないと、カラーもコンセプトもバラバラなイベントになっちゃうと思って。毎回タイムテーブルを作りながら同時にオファーをしています。イベントのオーガナイズは本当に大変なんですけど、出演者の方やイベント来場者から「新しい音楽に出会えた」っていう感想を聞けると、とても達成感を感じますね。

先達からの恩恵を、下の世代にも伝えていきたい

―Yackleくんの作る楽曲は、ここ最近より一層フロア映えする、バンガー色の強い楽曲が増えてきましたよね。何かターニング・ポイントとなった出来事はありましたか?

「GarageBand」で作っていた頃の作品は、今から考えたら「よくあれだけで作ってたな」って思うんですけど、でも、あの頃から変な感じのパーカッションとか、異物感のある音が好きっていうのは変わってなくて。去年リリースした1stアルバム『FRANK THROW』では、それまであまり挑戦してこなかった歌モノにフィーチャーしてみたんです。ただ、自分がDJで出演する際に、もっと自分の曲をかけたいと思うようになって、今回の2ndアルバム『2020』ではよりクラブ映えするような楽曲にシフトしました。

―2018年には本名のYuuki Yamaguchi名義でも1stアルバム『Another Planet』をリリースしていますよね。

本名名義の方は、エレクトロニック・ミュージックやテクノなど、より自分のルーツに特化した作品を発表しています。人からどう思われるかなどを気にせず、よりパーソナルな感じというか。もちろん多くの人に聴いてもらえたら嬉しいんですけど、極論、自分で作って自分で聴ければいい。そんなテンション感でやっています。

僕自身、Yuuki Yamaguchi = Yackleというよりは、あくまでYackleはYuuki Yamaguchiのソロ・プロジェクトという見せ方をしたくて。そのためにも、本名名義でリリースしておいた方がいいなと思って。

―リリース元となった〈ceramicrecords〉は、どのようにして繋がったのでしょう?

ヨーヨーの大会でディグっている時に、SEKITOVAさんとかbanvoxさんがリリースしているのを見つけて。〈ceramicrecords〉主宰の方ともヨーヨーのイベントを通じて知り合いました。

―おそらく、これまではイベントにしろDJ、音源制作にしろ、主に年上の先輩たちのことを見て急速的な成長を遂げてきたのだと思うのですが、昨年のインタビューでは自分より年下の人たち、中高生の方にもっと音楽を届けたいといったことを語っていました。ご自身の中で何か心境の変化が起きたポイントがあるのでしょうか?

<合法>と並行して、<MusicCreation>っていう、出演者の平均年齢が10代になるようなイベントを主催していたんですけど、それをよりコンセプチュアルな活動にしていきたいという想いで、吉田凜音と一緒に『00motion(ダブルオーモーション)』という2000年代以降のアーティスト・コミュニティを立ち上げました。それによって思考もより変わってきたように思います。やっぱり、自分が先輩たちから色々教えてもらったことによって成長できた。それを同世代やもっと下の世代にも伝えていきたい。そうやって、みんなで切磋琢磨していく方が、より良いシーンを作ることに繋がるんじゃないかなって思うんです。

―なるほど。

昔は同世代のクリエイターがほぼいない状態だったんですけど、凜音やさなり、元HONG¥O.JPのRYUTOたちと出会って、これからのシーンがすごく楽しみになりました。ヒップホップが流行ったおかげで、若いラッパーも増えましたし。

同世代と作り上げた10代最後の記念碑的作品『2020』

―2ndアルバム『2020』について

10代のうちに何か作品を出したいっていうのは、結構前から考えていたんですけど、それがEPなのかアルバムなのか、全然決めていなかったんです。それが、RIA & Yackle名義で作品をリリースしたことをきっかけに、もっと同世代、もしくはさらに下の世代との作品を作っていきたいなって考えるようになって。最初はそれぞれのアーティストさんと単発のシングルをリリースする予定で動いていたんですけど、これは途中からまとめた方がいいなって思うようになって。それが去年の11月とかですかね。そこから急ピッチで作り上げていきました。

―今作『2020』では、トラップ × ドラムンベース、トラップ × フューチャー・ベースなど、様々なジャンルの掛け合わせを積極的に行っていますよね。

そこは今回意識的に行っています。連続リリースの第2弾としてリリースしたのが、ドラムンベースを軸とするプロデューサー・Fetusくんとのコラボ曲だったんですけど、あまりそういう組み合わせってこれまでになかったような気がして。それに加えて、プロデューサー同士のコラボ曲っていうのも、まだ世間的にはあまり一般的ではないと思うんです。僕自身も、DÉ DÉ MOUSEさんとコラボして以来、2回目のことでしたし。

―個人的に、4s4kiさんとの「Feel Like Dying」はラップのフロウなど彼女の新たな一面が引き出せているような気がして、とても新鮮でした。

あの曲はトラックのデモを僕が投げて、そこに歌やラップを乗せてもらったんですけど、僕のテイストと4s4kiさんのカラーがすごく良い感じに混ざったなっていう感触があります。

―okkaaaさんとの曲は2ステップなナンバーですよね。この楽曲も2人のこれまでの作風とはガラッと異なる印象を受けました。

僕自身、2ステップの曲を作ったのは初めてだったんですけど、okkaaaくんの声質に絶対合うなと思っていて。最初に送られてきたデモは2ステップではなかったんですけど、それを思いっきり再構築して送り返したら、okkaaaくんも「いいね」って言ってくれて。最終的に2ステップの方向性でまとめていくことにしました。

―では、今作で一番難産だった曲は?

苦戦したっていうのとはちょっと違うかもしれないんですけど、Saint Vegaくん、uyuniちゃんとコラボした「Galactica Trip」は、SNSでのやり取りから完成まで、一番早かったです。僕にとっても、直接会ったことのない方と曲を作るのはあまりないことで、慣れない部分もあったと思うんですけど、最終的にとても手応えを感じる曲になりました。そもそも、最初はSaint Vegaくんと2人で曲を作っていて。そのやり取りをしている間に、「uyuniちゃんとも一緒に作りたいね」っていう話になり、そこから「今作っている曲に参加してもらおう」って。

―今作は「Feel Like Dying feat. 4s4ki」以外は全て先行シングルとして配信されるわけですよね。

今はストリーミングの時代なので、こういった方法もおもしろいかなと思って。毎週、それぞれのアーティストさんとコラボした曲を発表して、話題を作れる一方で、アルバムのリリース・タイミングではリード曲となる「Feel Like Dying feat. 4s4ki」に注目してもらえるかなと。

―元々は人見知りだったというYackleくんにとって、他アーティストと円滑にコミュニケーションを取り、コラボしていく秘訣のようなものはありますか?

これは音源制作もイベントでも当てはまることだと思うのですが、とにかく仲良くなるっていうのが大事だと思います。音楽性ももちろんなのですが、それ以外の部分、人間性みたいなものも知るべきだなと。その方が、音源制作もイベントのオーガナイズもスムーズにいくと思います。なので、イベントとか関係なく、個人的にご飯行ったり遊んだりする人もいっぱいいます。

―コラボするとなると、相手の色やテイストも尊重しつつも、自分のサウンドも出さなければいけない。そういった部分の調整、折り合いの付け方は、いつも意識されていますか?

意外と意識していないかもしれないですね。相手のことを考えながら作っていれば、自然とそれが出るというか。今言ったように、先に仲良くなっていることが活きているのかもしれません。

―今後、コラボしてみたいアーティストは?

憧れの存在である中田ヤスタカさん、m-floさんとは、いつかコラボできたら嬉しいですね。若手アーティストとはもっとコラボしていきたいですし、あとはプロデュース・ワークも増やしていきたいです。

―Yackleくんはプロデュース・ワーク、楽曲提供でもフィーチャリング名義で表記してもらっているんですよね。

はい。プロデュース・ワークでも、裏方ではなく、いちアーティストとして見て頂きたくて。これまでのプロデュース作品ではほとんどフィーチャリング名義で発表してもらっています。プロデューサー/トラックメイカーの世間的な認知を高めたいっていう思いもあります。

―今作ではフューチャー・ベース、EDMを経由したトラップというか、変則的なドロップがアクセントになっている曲が多いように感じます。これはYackleくんの今のムードなのでしょうか。

いえ、敢えて狙っています。今回のアルバムに関しては、ドロップで同じ音を使っていて。アルバム全体で統一感を出すことを考えています。音楽理論とかではダメとされているような、歪な構成、音使いって、意外と若手のミュージシャンの方がやっていないような気がするんです。なので、今回は敢えてそこを前面に出してみました。

あと、サウンド・ロゴのようなものも入れていて。自分の出自である奈良っぽさを出したくて、鈴の音と、お寺の鐘の音をイントロの部分に入れているんです(笑)。

―Yackleくんが<合法>を立ち上げたくらいの時期と比べて、ここ数年はトレンドのサウンドと言ったものが可視化しにくい状態になっていると思います。それぞれが興味のある音楽を聴いて、それぞれが無数のコミュニティを生み出していく。Yackleくんはプロデューサー/音楽家として、こういった状態においてどのようなスタンスで活動していますか?

僕にとってはすごく良い傾向だと思っています。昔から、流行りのサウンドはチェックするけど、好きじゃないモノには興味を持てない性格でしたし、そもそも音楽の趣味趣向っていうのは人それぞれで、トレンドっていうのはその分母が多いだけですよね。ストリーミングやプレイリスリトが主流となった今の時代では、トレンドみたいなモノをより気にしなくてよくなったと思っているので、これからも自分の興味の赴くままに制作していければと。

―最後に、今後の展望を教えてもらえますか?

これまではアーティストだったらアーティスト活動、オーガナイザーならイベント・オーガナイズっていうように、何かひとつを突き詰める方が良しとされてきた風潮みたいなものがあると思っていて。でも、今はより色々な分野への技術や知見がある人の方が重宝される時代になってきていると思うんです。なので、これまで通り音源制作、イベント・オーガナイズ、ヨーヨーと、それぞれの軸を並行して高めていきたいです。

後は『00motion』というコミュニティを活かして、自分ひとりではなく、自分と近い世代でシーンを盛り上げていきたい。2021年には日本でヨーヨーの世界大会が開催予定なので、来年はもっとヨーヨーに力を入れるかもしれません。

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