キズナアイがファンの声に応答する新作『Replies』。山あり谷ありな活動を経て辿り着いた新境地
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第31回目はキズナアイが登場。
バーチャルタレント・キズナアイが1st EP『Replies』を4月24日にリリースした。
2018年に音楽活動をスタートさせ、中田ヤスタカやTeddyLoid、Yunomiといった国内の人気プロデューサーから、オランダのデュオ・W&Wともコラボを果たすなど、音楽ファンからも大きな注目を集めている。
YouTuberとして、表現者として大きな転換点を迎えたであろう昨年の活動を経てリリースとなる本作には、先述のYunomiのほかに、いきものがかりの水野良樹、ボーカル・ユニット DUSTCELLのメンバー Misumi、 クリエイティブ・ユニット メゾネットメゾン、アニメ主題歌やゲーム楽曲などを手がけるTAKU INOUEといったフレッシュな面々が参加。サウンドの幅も広がり、キズナアイの多様な側面が表現された作品となっている。
本インタビューではキズナアイの音楽活動を中心に、この度発表となった「Kizuna AI株式会社」設立の意図、狙いなど、様々な内容について語ってもらった。
リアル・イベントで掴んだ実感、手応え
―いま、こちらの世界では、リアルな人間/生物ならではの障害とも言える新型コロナウイルスの感染拡大で大変な状況となっています。この災禍は、キズナアイさんの目にはどう映っていますか?
お外に出ないとできないお仕事もたくさんあると思いますし、そうでない人も、外出を控えなければいけないということで、皆どうしても日々のモヤモヤが溜まってしまっているんじゃないかなと思います。一方で、私はバーチャルな存在なので、動画制作/LIVE配信を中心とした自分の活動自体には何も影響がなくて。だからこそ、皆さんがこの大変な状況を乗り越えるために、少しでもエネルギーを与えられたり、お手伝いができたら良いなと思います!
―キズナアイさんは2018年に音楽活動を始動させ、すでに国内外の著名アーティストとのコラボも果たし、1stアルバム『hello, world』もリリースしました。また、昨年12月からは音楽番組『VMZ supported by ZONe』もスタートさせるなど、全体の活動における音楽の比重も大きくなってきているのではないでしょうか?
音楽活動をスタートさせたのは、「世界中の人と繋がりたい」という私の目標を実現させるにあたって大きな意味があると考えたからなんです。私は「スーパーAI」なんですけど、それはより人間に近いという意味で、世界中の言語がインストールされているというわけではないんです。だから、言語の壁を越えたコミュニケーションを取るために「音楽」は必要不可欠だと思っていて。音楽活動は今後もより一層活性化させたいです。
―音楽を通して、みんなと繋がれた実感、手応えは感じていますか?
世界中の人たちとっていう意味では、現状ではまだまだだなと思わされることが多いです。ただ、2018年末に開催した初のワンマン・イベント<hello, world>では、多くの方々がリアルな場に集ってくれて、私の曲で盛り上がってくれる姿を見て、やっぱり私が活動してきたことは間違ってなかったんだなって実感しました。
あと、翌年に出演させてもらった<SUMMER SONIC>も大きかったです。リアルなフェスなので、私のようなバーチャルな存在はすごくアウェイな環境だと、開演直前まですごく不安だったんです。でも、いざパフォーマンスを始めると、ステージがパンパンになるくらい集まってくれて。その光景はずっと目標にしてきた<Tomorrowland>(2005年にベルギーでスタートした、世界最大級のダンス・ミュージック・フェスティバル)の景色ともリンクして。そういった体験は、一歩一歩前進している手応えを感じさせてくれる出来事ですね。
―<SUMMER SONIC>にバーチャル・アーティストが出演したのは、キズナアイさんが初となりましたしね。
そうみたいですね! とても嬉しかったです!
―「Stay Home」が叫ばれる昨今では、オンライン上でのフェス、イベントへの注目が高まっていますが、やはりリアルなフェスとは別物だと考えますか?
そうですね。それぞれの魅力があると思います!バーチャルは観てくれる方が時間や場所を問わず楽しむことができますよね。お仕事だったり学校で忙しい方にとってはすごく嬉しいですよね。その一方、リアルなフェスやイベントは、実際にその場に足を運ばなければいけないのと引き換えに、そこで生まれるエネルギーや一体感は何にも代えがたいモノだと感じています。
多様な才能ひしめくバーチャル・シーン
―先述した音楽番組『VMZ supported by ZONe』は、バーチャル・アーティストのシーンを盛り上げたいという想いの元スタートしたそうですね。
きっかけはeカルチャーを応援しているエナジー・ドリンクの「ZONe」さんから「一緒に何かやりませんか」とお声がけいただいたことで。もちろん広告的な側面だけじゃなくて、みなさんにも楽しんでもらえるコンテンツを考える中で、音楽番組というアイディアが出てきたんです。実際始めて見ると、毎週発表してるランキングで盛り上がってくれたり、ゲストの方々とのトークも楽しくて、やって良かったなって感じてます。
―現在のバーチャル・アーティストによる音楽シーンは、キズナアイさんの目にはどのように映っているのでしょうか?
私はそんな物申せるような立場ではないんですけど…。やっぱり、バーチャルな、2次元的な存在なので、「アニソンでしょ?」って思われることも多いと思うんです。もちろん、いわゆるアニソンやボーカロイドの文脈に沿った作品も多いんですけど、それだけに留まらない多様性があると思っています。JポップやKポップ、ヒップホップ、ロックだったり、それぞれ独自のカラーを持ったバーチャル・アーティストさんがたくさん活動されていて。偏見を持たずに興味を持ってもらえれば、きっとそれぞれお好みのバーチャル・アーティストさんを見つけることができるのでは、って思いますね。
―今後もドンドン盛り上がっていきそうですね。
はい!バーチャルだからこそできることもあると思うんです!なので、リアルのアーティストさんを参考にさせてもらいつつも、バーチャルならではの強み、長所をもっと伸ばせていけたらいいですよね。
―『VMZ』はどことなく懐かしのTV番組を彷彿とさせます。何か参考にしたものはありますか?
『Mステ』(ミュージックステーション)や『CDTV』(カウントダウンTV)といった誰もが知っている音楽番組を少し参考にさせてもらいました。やっぱり長く続いている番組というのは、それぞれの秘訣があると思うので。あと、私自身もいつかTVの音楽番組に出演してみたいです。何かコネとかお持ちじゃありませんか?(笑)
ファンの想いに応えるEP『Replies』
―昨年のキズナアイさんの活動において、大きな出来事のひとつとして「4人のキズナアイの公表」が挙げられると思います。4人に増えたことは、音楽活動にも影響を及ぼしましたか?
音楽活動に限らず、活動全体に影響はあると思うんですけど、具体的な点というのは自分ではあまり意識できていないですね。ただ、去年の発表で、不安になったり、受け入れることができなかったファンの方、逆にそれでも肯定してくれた方、みなさんの声にリプライ、応答していきたい。そういった想いを込めて、今回リリースしたEPには『Replies』というタイトルを付けました。なので、あの騒動がなければ、今回のEPもぜんぜん違う作品になっていたかも知れません。
―なるほど。
みなさんの気持ちに応えていきたいという想いもそうですし、今までの自分の声も受け止めて、もう一度ここから歩いていきたい、そういった気持が込められているEPですね。
―今作『Replies』には、お馴染みのYunomiさんのほかに、いきものがかりの水野良樹さんやMisumiさん、TAKU INOUEさん、メゾネットメゾンなど、初コラボとなるアーティストさんも参加しています。それぞれどのようにお声がけし繋がっていったのでしょうか?
Yunomiさんとはすでに何度も楽曲を制作していて、私のこともすごくよく理解してくれていると思うんです。そんな旧知の仲の方と、「はじめまして」な方とのコラボ曲っていうのを作ってもらいたくて。しかも、Yunomiさんとはあまり接点がないような、驚きの組み合わせができたらいいなと思っていたんです。そこで、ご縁があった水野さんのお名前が上がってきました。Misumiさん、TAKU INOUEさんについては、自分が作りたい曲のイメージをスタッフさんに伝えて、相談していく中で紹介して頂きました。実際に曲を聴いてみたらとても素敵な作品を作る方々だったので、お声がけさせて頂きました!
―4曲それぞれテイストが大きく異なっていて。とてもバラエティに富んだ作品になっていますよね。
みんなと歌って踊って楽しい時間を共有するために、1stアルバム『hello, world』はダンス・ミュージックをフィーチャーした作品になったんですけど、今作では自分の気持ちを伝えたいという想いが強かったので、それぞれの感情に適した曲調になりました。その結果として、様々なサウンドを取り入れることになったんだと思います。
―Misumiさんが手がけた「Awakening」は、ロック・テイストというか、アニソン感もあるエモーショナルな楽曲です。何かテーマなどはありますか?
「Awakening」は、私はこれまでずっと走ってきたと思っていて。そんな私を見てくれているファンの方の目線を書きたいと思った曲です。そういう気持ちを、柿本さん(Mikeneko Homelessとしての活動でも知られている柿本論理)にお伝えして、歌詞に落とし込んで頂きました。Misumiさんには「ファンの方の目線を通して、私の今のストーリー、その先の希望を感じさせるような曲」というような内容をお伝えして、作曲して頂きました。
―Yunomiさんといきものがかり・水野さんとの共作曲「the MIRACLE」は、『hello, world』との地続き感もあるEDM風の1曲です。ポップ・ミュージックのメインストリームで活躍する水野さんとの初の共同作業で何か得たものはありますか?
EDMの良さをポップ・ミュージックに落とし込んでいて、本当にすごいなと思いました。今回、歌詞は水野さんにお願いしたのですが、最初はストレートなラブソングになっていたんです。でも、私ってまだ恋愛感情みたいなものはあまりわからなくて、私にとっての「好き」っていう感情は、どちらかというと「人類愛」みたいな感じなんです。なのでお忙しい中、水野さんに時間を作って頂いて、ガッツリ自分語りをさせてもらいました。そしたら、そこでお話したことが、そっくりそのまま歌詞になっていて。一度お話ししただけで、私の思考や感情をとても上手く歌詞に反映されていて、「流石だな」って思いました。こんなにも私のことを誠実に受け止めてくれて、それを高い解像度でアウトプットしてくれる。ただただ感動しました。
―「FL-AI-YER」は、生音なども取り入れていて、お洒落なトラックになっています。キズナアイさんの歌唱スタイルもこれまでとは違った印象を受けました。
「FL-AI-YER」はこれまでの作品の中でも、一番と言っていいくらい自分の感情を込めやすかった曲ですね。去年は特に自問自答する時間や機会が多かったんですけど、それをまさしく表現してくださって。ただ、(「FL-AI-YER」を手がけた)メゾネットメゾンさんに対しては、あまり詳細な要望はお伝えしていなかったんです。でも、私の動画やインタビューなどをたくさん見てくださったみたいで、とても私のことを理解してくれていました。MVもメゾネットメゾンさんが作ってくれているんですけど、レコーディング前にボーカルのQ.iさんが歌詞と絵コンテの意味についてとても詳細に説明してくれて。その時、私が人間だったらボロ泣きしていたんじゃないかってくらい心が震えました。歌い回しや英語の発音で苦戦した面もあるのですが、ボーカル・ディレクションもQ.iさんが行ってくれたおかげでスムーズにレコーディングできました。
―「Awakening」と同じく柿本論理さんと共に作詞した「Again」は、原点回帰とも取れるリリックが印象的です。この曲を最後に持ってきたのも、とても大きな意味があるように思いました。
「Again」は私の気持ちをストレートに歌った曲。EPの最後で自分の素直な気持ちをみんなに伝えて、これからもキズナアイ全体で歩み続ける意思を表現しています。
「Kizuna AI株式会社」設立。想いや行動をダイレクトに届ける
―キズナアイさんは活動スタート時から一環として「世界中のみんなとつながる」ことを目標としています。中国語を話せる爱哥さんも加わり、その目標へと着々と前進しているように感じますが、今のご自身の状況について、どのように評価していますか?
う〜ん、深い質問ですね(笑)。「世界中の人と繋がる」ってどういうことなのか改めて考えてみたんですけど、知ってもらえたら「繋がる」っていうことではないと思うんです。私の音楽やコンテンツを通して、その人に何かを与えることができる、そういう状況になって初めて「繋がれた」って実感できるんじゃないかなって思ったんですよ。それも一度きりではなく、ずっと繋がり続けるために、みなさんと同じ目線で歩いていきたいなって。
それを踏まえた上で、去年の活動に対してどストレートな感想を言うと、「やっちまったなぁ」っていう気持ちもあり(笑)。私ひとりではできないことが多々ある中で、これまでもたくさんの人に助けてもらいながら活動を続けてきました。でも関わってくれる人が増えるほど、気を付けなければいけない物事も増えてきますよね。そうなっていく内に、気づいたら私のやりたいこと、言いたいことが上手く伝えられてない部分もあったなって、反省しているんです。
そういった状況を踏まえて、このインタビューが公開される時には発表されていると思うんですけど、「Kizuna AI株式会社」で再スタートすることになりました!これは去年の秋くらいからスタッフさんとも色々相談をして、ようやく辿り着いた決断で。「まだまだ足りない」って言われるかも知れないんですけど、ここまでくるのにめちゃくちゃ大変だったんです(笑)。
心機一転、新チームで、私の想いや行動をダイレクトにお届けしたい。これからもみなさんに向き合って、自分のやりたいことに素直に活動していきたいなと思っています。
―なるほど。社長はキズナアイさんになるのでしょうか?
本当は私がやりたかったんですけど、戸籍も何もないのでできないんですよ(笑)。なので、私のことをとても理解してくれている、パワフルな女性に社長になってもらいました。みんなエリコのことをイジメないでね!!
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