元キマグレン・クレイ勇輝が語る、不定形プロジェクト・クレイユーキーズの今

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第37回目はクレイユーキーズが登場。

元キマグレンのクレイ勇輝を筆頭に、豪華ミュージシャンが集結するプロジェクト、クレイユーキーズが本格始動。5月より3ヶ月連続でオリジナル楽曲を発表している。

スーパー・バンドとして平昌オリンピックに出演してからはや幾年月。オリジナル楽曲にはFLOWER FLOWERのyui、俳優・歌手の伊原六花らをボーカルに迎えながらも、その異色の作風でも注目を集めている。今回は流動的かつ柔軟な活動を展開するプロジェクトの首謀者、クレイ勇輝にインタビューを敢行。これまでの軌跡と、そこから見えてきたクレイユーキーズの核に迫る。

フロントマンではなく、指揮者

―クレイユーキーズ立ち上げの経緯について教えて下さい。2018年の平昌オリンピック冬季競技大会のパブリック・ビューイング・イベントへの出演が最初でしょうか。

キマグレンを解散して5年くらい経つんですけど、僕個人的にはもう音楽活動は止めようと思っていたんです。ある意味やり切ったという想いもありましたし、元々20代の頃からやっていた裏方の仕事にシフトしていこうと考えていたんです。でも、周りのミュージシャンたちが「カバーでも何でもいいから一緒にやろうよ」って言ってくれて、集まってきてくれたんです。それこそMartin(OAU)とか、去年のNHK紅白歌合戦のAI美空ひばりの作曲を担当したKafu Satoとか、FLOWER FLOWERのカツヒロ・マフネ、元Aqua TimezのOKPなどなど。彼らと趣味でセッションみたいなことをしていたんです。

ーなるほど。

そこから平昌オリンピックっていうオフィシャルの場で、ちゃんとしたライブをやることになった時、Martinがこのプロジェクトの名前について「クレイユーキーズでいいんじゃない?」って言ってくれて。それが結成の経緯ですね。その時はドラマーがHYのShunくんで、キーボードはSpecial Othersのセリちゃん(芹澤”REMI”優真)。さらにyuiやOKPもいて、キマグレンやAqua Timez、YUIの曲をカバーしました。趣味の延長線上みたいな感じで、そのままカバーだけを演奏する活動が2~3年続いていたんですけど、そろそろこのプロジェクトでちゃんと作品を作って、リリースしていった方がいいんじゃないかって思い、今年からオリジナル作品のリリースをはじめました。

―スタジオでのセッションといった遊びの延長線上のような活動が続いていたと。

いや、どちらかというとライブのみ、みたいな感じでしたね。リハーサルもあまりやらなくて、なんなら当日会場で合わせるだけとか、会場で初めて顔合わせするメンバーもいましたし。「LIFE」(キマグレン)から「虹」(Aqua Timez)、「CHE.R.RY」(YUI)まで、ヒット曲をカバーするお祭りバンドみたいな感じなので、色々なところにお呼ばれしました。音楽フェスからお祭り、カラー・ランみたいなイベントまで、年に50~60本はライブやっていたと思います。シークレット・ゲストで出させてもらったオクトーバーフェストでは3万人くらいの酔っぱらった方々に向けて演奏したりして。めちゃくちゃ楽しかったですね(笑)。

―それこそ音楽活動を始めたばかりの、ピュアな気持ちが蘇りそうな活動スタイルですね。

やっぱり音楽活動をしていく中で、程度に差はあれど、ミュージシャンって傷ついていくと思うんです。自分の身を削って曲を書かなければいけない。ライブのために人前に立ち続けなければいけない。そういう部分で疲れてしまうんです。だから、クレイユーキーズの活動はそういった傷やストレスをお互いが癒やし合っていたというか。そういう作用はあったと思います。元々、みんな友達同士なんで。

―総勢30名以上にも及ぶメンバーを取りまとめるのもとても大変そうですね。

はい、大変です(笑)。嘉風くん(Kafu Sato)がバンマスなので、基本的には彼と僕がミニマムで。そこからLINEのグループで連絡して、誰がスケジュールが空いてるかによって、そのライブの編成が決まります。僕と嘉風くんとタップ・ダンスっていう編成もありましたし(笑)。

―そんな編成もあるんですね。その柔軟性に驚かされます。

あと、ライブを観てもらえばわかるんですけど、決して僕が主役というわけでもないんです。yuiと一緒に作った曲を、井上苑子ちゃんが歌ったりもするし、楽器の編成もバラバラ。僕はいうなればプロデューサーでありディレクター。もしくはオーケストラの指揮者が近いもしれません。個人的に、今のこの活動スタイルはすごくしっくりきているんです。

―オリジナル作品の制作にあたって、何かトリガーとなる出来事などはあったのでしょうか。

誰というわけではないんですけど、メンバーの中から「そろそろちゃんと活動した方がよくない?」っていう声が上がってきたんです。僕も確かにそうだなって思いましたし。

絵はすごく理にかなっている

―5月にリリースされた1stシングル「世界から音が消えた日」には主にYouTubeなどで活動する韓国拠点の“歌い手”、DAZBEEさんを迎えた楽曲です。そもそも彼女とはどのようにして繋がったのでしょうか。

「世界から音が消えた日」は、コロナ禍の影響を受けて、急遽制作した曲なんです。街から車の音もなくなったし、カフェでお喋りする声も聞こえない。もちろんライブもできない。文字通り世界から音が消えているなって。こういう状況で感じた想いを曲にしなくちゃなと思って制作しました。ボーカルに関しては、誰にお願いするか最初は結構迷っていました。ちょうどコロナの影響で色々な物事がリモート化されていく状況だったので、ボーカルもネットで活躍している方がいいんじゃないかと思って、自分で探してお声がけしました。
彼女とはまだ一回も会ったことないし、喋り声も聞いたことがありません。全てリモートで行っています。あとは縦読みもできるリリックに挑戦してみたくて。それもこの曲の核となるアイディアですね。リリック・ビデオやアートワークを手がけてくれたbanishmentという絵師さんも自分で見つけてきて、一緒に作品を作り上げていきました。

―作曲はどのように行っているのでしょうか。

基本的には嘉風くんと僕のふたりで行っています。最近はそこにWEAVERのスギ(杉本雄治)やMartinも必ずいる。で、たまにyuiがスタジオに遊びに来たり。制作はそんな感じですね(笑)。

―6月に2作目となるシングル「RUNWAY」をリリースしました。この楽曲はすこしヒップホップやファンク色の強い、アッパーな1曲ですよね。

そうですね。「RUNWAY」はたぶん「世界から音が消えた日」より前にできていた曲で、ローファイ・ヒップホップっぽい曲作ってみたいっていうところからスタートして。音もわざと汚くしています。ただ、制作中に「踊れる曲も欲しい」っていう意見も出てきて、それこそファレルの「Happy」を目指しつつ、結果的にはMaroon5みたいな曲に仕上がっちゃいました(笑)。

―ボーカルにはバブリーダンスで話題となった伊原六花さんを迎えています。

「踊れる曲」を目指していたので、やっぱりダンスができる人がいいなと思ってお声がけしました。彼女は今作が初のレコーディングだったみたいなんですけど、ミュージカルの経験もあるからかすごく上手くいって。ただ、「世界から音が消えた日」の次の曲がこれだと、全くの別アーティストだと思われてもしょうがないですよね(笑)。

―リリックは言葉遊びのようなテイストも感じさせつつ、フックではSNSのネガティブな側面を歌っていますよね。こういったテーマはどのようにして生まれたのでしょう。

ただただ耳馴染みがいいだけじゃなく、やっぱり何かしら時代性を伴うメッセージが入ってないと嫌だなとは思っていて。単純にその時に思っていたことをリリックにしました。

―「RUNWAY」はクレイさんが手がけたTikTok24時間配信企画の映像を使用したMVも話題となりました。あの企画は元々楽曲とリンクさせることを想定されていたのでしょうか。

はい。あの企画は24時間通して芸人さん、タレントさん、モデルさんなど様々な方に出演してもらったのですが、コロナ禍の今、みんな直接会わないまま企画は行って。でも、せっかくなので、みなさんを同じ画面上に映したいという思いから、MVに繋がっていきました。みなさんが歩いていれば、そこはどこでもランウェイになるよねっていう思いから、曲のテーマも生まれてきて。そういう意味では24時間配信企画が「RUNWAY」という曲の一番のきっかけになったと言えますね。

―7月15日にはyuiさんを迎えた3rdシングル「道」がリリースされます。これは「世界から音が消えた日」に近いポエトリー・ラップ調の楽曲で、リリックもシンプルで、誰かへ宛てた手紙のような印象を受けました。

これは一番最初の頃にできた曲なんです。僕とyuiは10年くらい前から友人なんですけど、そういった旧知の間柄の曲を作りたいなと。僕とyui、ふたりの声で共に楽曲を作ることの意味を考えながら制作しました。地元に残った人と地元から離れた人、ふたりのやり取りをなるべくシンプルに、でもしっかりとキャッチボールができた状態にしたいなと思って。たぶん、何回か聴いていくうちに、「なるほど」ってなると思います。「世界から音が消えた日」と同じく、アートワークやリリック・ビデオもbanishmentにお願いしています。
リリック・ビデオは基本的に1枚絵なんですけど、雲を動かしたり、太陽が沈んでいったりと時間も表現していて。アニメーションにも近い作品になっています。荒廃した世界で、壊れた江ノ電が線路上にある。多くは語らないけど、世界が終わりに近づいていっているような雰囲気を湛えている。yuiの声はこういった世界観に絶対合うと思って作っていきました。FLOWER FLOWERのyuiではなく、以前のYUIに近い感じなのかなと。

―そういった少しディストピア的な世界観というのは、やはりコロナ禍を経たからこそ生まれてきたものだと思いますか。

どちらかというと、絵師さんにお願いする意味みたいなことを突き詰めていった結果だと思っています。ただキレイな景色が必要なら、実写の方が良いと思いますし。せっかく絵師さんにお願いするなら、絵でしか表現できない作品をお願いしたいなと。
たぶん、この先もbanishmentと何作か一緒に作ると思うんですけど、そういった世界観は引き継いでいくと思います。リアリティとノスタルジーの共存というか。

―近年、存在感が増しているローファイ・ビーツやチル・ヒップホップ系のYouTubeチャンネルとの親和性も感じられます。

むしろそれがきっかけです(笑)。ああいったチャンネルは短い動画、GIFが多いと思うのですがそれを1枚絵に落とし込む。あとは曲とどうリンクさせるか、そこに注力しています。僕らはアラフォー中心のバンドなので、自分たちがグイグイ前に行くよりは、作品を前面に出したほうがいいのかなって思って(笑)。そういう意味でも、絵っていうのはすごく理にかなっていると考えています。

「リリースを重ねていく中で実態が固まっていけばいい」

―今後の展望についてもお聞きしたいです。今言える範囲で、予定している動きなどを教えてもらえますか。

元々夏くらいにはアルバムを出す予定で10曲ほど準備していたんです。ただ、コロナ禍が起こってしまったので、世の中の空気などを見ながら、今後もしばらくはシングルのリリースを続けると思います。それぞれ、色々なボーカリストが参加しているので、楽しみにしていてください。きっと驚かれると思います。
あとはリリースを重ねていく中で、クレイユーキーズというプロジェクト、コレクティブの実態が固まっていけばいいなと。もしくは聴いてくれている方たちの中で、「クレイユーキーズはこういう存在」っていう認知が確立していけば嬉しいですね。

―ライブ活動についてはいかがでしょうか。まだまだ厳しい状況だとは思いますが。

引き続きライブ活動も並行していく予定だったんですけど、最後のライブからすでに7ヶ月経ち、僕個人としてはこの状況に少し慣れてしまっています(笑)。曲作って、リリック・ビデオ作ってというのも楽しいなと。元々僕、モノ作りが大好きな人間なので。ずっとこれを続けていたいという気持ちもあります。

―「RUNWAY」以外の2曲に関しては、最初におっしゃっていたクレイユーキーズのライブのお祭り感という感じではなく、しっとりと聴かせるようなナンバーになっていますよね。ライブでどのように表現するかなど考えていらっしゃいますか。

考えなきゃいけないなとは思っています(笑)。さっきも言った通り、僕らはすでにいい歳なので、今発表している曲の方が間違いなく等身大なんですよね。ただ、音楽的にはめちゃくちゃ難しいことをやっているんです。「道」なんてBメロからサビに展開するところのドラムはかなりトリッキーですし。ライブで再現するのはめちゃくちゃ難易度が高いと思う。

―そういった難解なパートも、自然と生まれてくるのでしょうか。

そうですね。ただ、昔と違うのは、素晴らしいキャリアと腕の持ち主が集まっているので、難しいアイディアを思いついたら、それを実現できちゃうんです。これまでだったら「これは無理だ。やめよう」ってなるようなアイディアも、「ここをこうすればできるよね」っていう答えを導き出しちゃう。結果、楽曲がすごいテクニカルな作品になるという(笑)。

―なるほど(笑)。

僕の語り調のラップも結構難しいと思います。ただ語っているのではなく、拍の頭を合わせつつ、語り調のトーンでラップしているので、これもカバーするのは難しいんじゃないかなって。

―今は先行きが見えない状況ですが、もしこのコロナ禍が終息したと仮定して、クレイユーキーズの目標やひとつのゴールみたいなものを設定するとしたら?

やっぱり音楽番組に出たいです。クレイユーキーズには『紅白』出演者もいっぱいいるので、もう一度このメンバーで大きな舞台に立ちたい。もちろん演者もそうだし、活動を支えてくれているスタッフも含めて、みんなで喜びを分かち合えたら最高ですよね。

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