五感に紐づく音楽。映像や色彩を喚起させる黒子首の特殊性
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第44回目は黒子首が登場。
東京を拠点とする3人組バンド、黒子首(ほくろっくび)がニュー・シングル「時間を溶かしてお願いダーリン」をリリースした。
妖艶に、時に叙情的に歌い上げる堀胃あげはのボーカル、そして瑞々しいアコースティック・ギターの音色をタイトなリズム隊が支える。黒子首の音楽性はとてもシンプルなものだが、それが故に作品では作詞作曲を手がける堀胃あげはの作家性――受けての想像力を刺激するようなストーリーテリング的なリリック、そして独特の言語感覚などがダイレクトに表出する。
今回はそんな一風変わった名前を持つ3人組にインタビューを敢行。結成の経緯からルーツを紐解いていくうちに、黒子首の特殊性が浮かび上がってきた。
「ある意味では座禅に近い」、堀胃あげはの原点
- 結成の経緯からお聞きしたいですのですが、堀胃さんは黒子首を結成する前に弾き語りユニットを組んでいたそうですね。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
はい。以前は2人組のアコースティック・ユニットとして活動していました。ただ、活動していくうちに私の作りたい曲はアコースティック・ギターだけでは表現しきれないなと思うようになって。それでバンドを組みました。
- それが黒子首なのでしょうか。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
いえ、その前にもうひとつバンドを組んでいて。ただ、その当時は集まったメンバーの影響もあり、コミック・バンドとして活動していました。ライブ中にメロンパンを投げたり(笑)。
- (笑)。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
もちろんその当時は楽しんでやっていたのですが、それもしばらくしたら私のやりたいこととは違うなと思うようになって。それで新たにメンバーを組み直したのが黒子首です。
- みとさん、田中そい光さんとの出会いというのは?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
元々みんな同じ音楽の専門学校に通っていて。ただ、学生時代はお互いの存在を認識はしつつも、あまりじっくり話すような間柄ではなかったんです。この3人になる前に、もうひとり前任のドラマーがいて、みとは彼女に紹介してもらいました。ドラマーは色々な人と試しにスタジオに入ったんですけど、そこで一番フィーリングが合ったのが彼(田中そい光)だったんです。
- では、この個性的なバンド名の由来は?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
海外での活動を視野に入れた上で決めました。私たちが通っていた専門学校がグローバルな交流プログラムも行っていて、そこで色々な国の方々とお話すると、みんな日本独自のカルチャーに興味を持っていて。なので、日本の妖怪にちなんだ名前にしようと。ろくろっ首と、結成当時のメンバーは全員首にホクロがあったので、黒子首に。
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田中そい光(Dr):
ちなみに、私は(首にホクロが)ないです(笑)。
- メンバーみなさんの音楽的なルーツについても教えてもらえますか?
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田中そい光(Dr):
私は幼稚園くらいから合唱を習っていて、小学生になってからは吹奏楽団に入りました。その入部テストで上手くリコーダーを吹けなかったので、打楽器担当になったんです。バンド音楽を意識したのは、Aqua Timezが担当していた『BLEACH』のアニメ主題歌が最初ですね。聴いた瞬間「カッコいい!」ってなって、すぐにCDを借りに行きました。あとはミスチル(Mr.Children)が大好きだった兄と、椎名林檎さんのファンだった姉、洋楽の好きな父など、家族の影響で洋邦問わず色々な音楽を聴くようになりました。
- 専門学校に入る前には当然バンド活動も?
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田中そい光(Dr):
はい。高校は軽音楽部でしたし、専門時代も色々なバンドを組んだり、サポートで入ったりしていました。シューゲイザーだったりマスロックだったり、結構男クサいバンドが多かったですね。
- では、みとさんはいかがですか?
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みと(Ba):
楽器を始めたきっかけは、中学生の時に入った吹奏楽部でした。最初に担当楽器を決める際、他の楽器の前にまずコントラバスを決めないとダメって言われて、それが誰もやりたがらなくて、3日間くらい決まらなかったんです。私も最初は軽くて簡単そうな楽器がいいなと思ってたんですけど、こんなに決まらないんだったらもういいやと思って、手を挙げました(笑)。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
優しい(笑)。
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みと(Ba):
その半年後くらいに、野外のお祭りで演奏する機会があって。コントラバスだと日焼けなどで傷んでしまうので、エレキベースを弾いてって言われて。そこで初めてベースを触りました。
- 小さい頃、何か夢中になった音楽などはありましたか?
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みと(Ba):
小学校〜中学校半ばくらいまではヒップホップ・ダンスを習っていたので、その時の影響などはあるかもしれないです。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
まだ信じてないけどね(笑)。
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田中そい光(Dr):
ウソだって思ってる(笑)。
- (笑)。
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みと(Ba):
で、中2の時に学校のベースを壊してしまって。ヤバって思って自分でベースを買って、「私、自分のベース買ったんでもう学校のは使わないです」って言って返却して(笑)。自分で買ったら愛着が湧いてしまい、そこから部活以外でもベースを習うようになりました。そこで教えてくれていた人の紹介で地元のバンドに加入して、中3くらいからライブなどもやっていました。
- ベースのレッスンやバンドを始めて、聴く音楽は変わりましたか?
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みと(Ba):
高校生の時はめちゃくちゃ東京事変にハマって、コピー・パンドもしていました。
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田中そい光(Dr):
専門で最初に話した時も椎名林檎さんや東京事変の話で盛り上がりました。
- では、最後に堀胃さんにもお伺いしたいです。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
「あげは」って本名なんですけど、由来が岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』の主人公の名前で。物心付く前からその映画は何度も観ていたみたいです。たぶん、音楽が好きになったのもそれが影響していると思います。中3か高1くらいの時に、母が昔買ったけど一度も使わなかったギターをもらって。その時は弦の交換の方法もわからなかったので、結局もらったはいいけど、しばらくの間はアンティークと化していて。それに見かねたのか、姉のはからいで私の誕生日にそのギターがピカピカにメンテされた状態になって置かれていたんです。それからギターを弾き始めました。
- それ以前にも何か音楽をやられていたのでしょうか?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
私が通っていた幼稚園が音楽に力を入れていたところで、選抜の合唱メンバーに選ばれて、でかいホールで歌う機会もあったんです。でも、練習は厳しいし、風邪引いているのに強制されたりして、その時は音楽を嫌いになりました。でも、中学生くらいでやっぱり歌うことが好きなんだと気づいて、ボイトレにも通うようになって。それを見て、母がギターをくれたみたいです。
- なるほど。具体的にはどのような音楽を聴いていましたか?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
『スワロウテイル』に出ていたCharaさん、YEN TOWN BANDは当然聴いていましたし、おばあちゃん家でよく流れていたBeatlesも自然と耳にしていました。あと、高校生の時に観たぼくのりりっくのぼうよみさんのMVにはすごく衝撃を受けました。私は音楽を聴くと、色や映像が紐付いて頭に残ることが多いので、そういう点でぼくりりさんにはとても影響されたと思っています。
- アコースティック・ユニットの時はどのような音楽を志向していたのでしょうか。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
私にとってはそのユニットが初めて人前に立つような音楽活動だったんですけど、誰かみたくなりたいっていう思いではなく、自分の感情の整理だったり、自分と向き合うような形で作曲をしていました。ある意味では座禅に近い感じ。
- それこそ、まさにフォーク・ミュージックというか。でも、そこからコミック・バンドへと転身するわけですよね。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
はい。エンターテインメント性の高い音楽というか、パフォーマンスをやっていました。でも、当時から並行して自分だけの曲作りもしていて。だんだんとその曲をちゃんと表現したいと思って、新しくバンドを組むことにしました。
- 黒子首結成当時、音楽性についてどのように話し合っていたのでしょうか。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
当時の曲は、本当にひとりきりで、自分自身と向き合って作っていたので、他の人に聴いてもらうことは想定していなくて。もっとキャッチーにしないと、伝わるものも伝わらないよなって考えていた時に、そい(光)が「このバンドはポップスに振り切った方がいい」って言ってくれて。それから2人が聴いている色々な音楽の要素を取り入れてみたりしつつ、上手く自分たちなりのオリジナリティを出そうという方向性になりました。
- 田中さんとみとさんに、堀胃さんがひとりで作り溜めていた楽曲を聴いた時の印象をお聞きしたいです。
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田中そい光(Dr):
(堀胃は)専門学校時代から有名で。一緒に音楽やってみたいなとは思いつつも、ちょっと恐れ多いというか。そういう存在だったんです。みとから連絡をもらって、初めてスタジオに入るってなった時に、デモ音源をもらって。「おぉ、堀胃あげはだ……!」って感じでした(笑)。ちょっと暗くて、それこそ岩井俊二的というか、くすんだ色のイメージ。すごくいい曲だからもっと多くの人に届けたいって思いました。私は元々ミスチルなどのポップスも好きだったので、そういう要素を混ぜたらいいんじゃないかなって。
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みと(Ba):
私も学生の時からあげはちゃんのことは知ってて。でも、最初に音源を聴かせてもらったのがコミック・バンド時代の曲で、「これはちょっと私にはできないかも……」って思ったのですが(笑)、いざスタジオ入ってみたら当たり前ですけど全然テイストの違う曲で。「これは……好きかも」って思いました。
- バンドを組んで、ポップスに振り切ろうという意見も出た。そこから堀胃さんは作曲において変化したことはありますか?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
作り方自体はアコギで作るっていう昔ながらのスタイルなんですけど、意識は変わったと思います。キャッチーにする、多くの人に聴いてもらいたいっていう気持ちで作るようになりました。
- 普段はどのようなプロセスで楽曲制作を行っているのでしょうか。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
私が作ったデモをふたりに投げて、そいがある程度アレンジを固めて送り直してくれるので、それを元にスタジオに入って詰めていくっていう感じですね。
- ちなみに、制作プロセスにおいて作詞はどのタイミングで?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
作曲と作詞はほぼ同時で。人と話している時や移動中などに思いついた言葉などをメモしておいて、それに目を通しながら作ることが多いです。
- 曲を作り始めた時は自分と向き合って曲を作っていたとのことですが、バンドになったことで作詞にも変化は起きましたか?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
昔は自分の脳内には自分しかいなかったんですけど、多くの人と関わるようになってから、色々な人が現れるようになりました。今は自分の脳内にいる人たち目線での歌詞も書いています。
- おふたりは堀胃さんの歌詞についてどのような印象を持っていますか?
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田中そい光(Dr):
正直、スタジオで合わせている時は「何言ってるんだろう」って思うこともあるんですけど、レコーディングとかでじっくり歌詞と向き合うと、「あぁ、めっちゃいいこと言ってる」ってなることが多くて。最近は反省して、アレンジとかを組む段階でしっかり歌詞を噛み砕こうと思っています。自分の気持とリンクすることも多いし、時々ドキッとするようなワードが飛び出してきたりする。そういう部分が特徴になっていると思います。
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みと(Ba):
私は語彙力がないので、上手く表現できないんですけど。やっぱり……すげぇなって思わされることが多いです。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
最近はたまにそいに相談することもあって。「この言葉、もっといい言い方ないかな?」とか。
- 今年6月にリリースした2nd EP『旋回』は、前作『夢を諦めたい』とは異なるレコーディング方法で制作したそうですね。具体的な変化について教えてもらえますか。
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田中そい光(Dr):
『旋回』は前作とは違うスタジオでレコーディングしていて。前作の時は、スタジオのエンジニアさんにかなり手伝ってもらっていて、ある意味ディレクションみたいな部分も担当してもらった形だったんです。でも、『旋回』では自分たちだけの判断で作業を進めていきました。
前作はこの3人の音、アコギとベース、ドラムにボーカル、コーラスしか入れていなかったんですけど、2ndではパーカッションも入れたし、サポートでエレキ・ギターも入れてもらって。縛りは設けず、とにかくいい曲を作ろうっていう意識が強かったですね。
- 田中さんのアレンジで曲がブラッシュアップされる、ある意味生まれ変わることについて、堀胃さんはどのように感じていますか?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
すごくいいことだなと思っています。作曲段階で、頭の中で色々な楽器の音が鳴ることも多くて。それを表現してくれるのは嬉しいですね。でも、本当はまだ足りないくらいなんです。
- アレンジについて、堀井さんと田中さんの間ではどのようにアイディアや思いを共有しているのでしょうか。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
漠然としたイメージだけ毎回伝えています。こういう設定、こういう気持ちの曲って。とか言って、そいが作ってくれたものに対して「それは違う」って言っちゃったりすることもあって。いつも申し訳ないなって思ってます(笑)。
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田中そい光(Dr):
最近は僕から聞くことも多いですね。最初の方であげはちゃんが「音楽と映像が紐づく」って言ってたと思うんですけど、それが最近すごく理解できてきて。「ここで主人公がカメラで抜かれて、桜の木が映って〜」みたいに、事細かに映像的な要素で伝えると「そう、それそれ!」って感じになることが多いんですよね。
- 11月にリリースされた新曲「時間を溶かしてお願いダーリン」では、1st EPの頃と同様に、再び3人の音だけで構成されていながらも、これまで以上に明るく、ポップな印象も受けました。
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田中そい光(Dr):
再び3人だけの音になったっていうのも、この曲を一番いい状態で聴かせることを練った結果で、すごく自然な流れでした。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
この曲は……公園で作った記憶があります。カップルがいて、女性の方は付き合っている相手に対して疑問がある。曲調は明るいんですけど、歌詞の内容自体はとても暗い曲になっています。ジャケ写では「お願い」の「お」が反転しているデザインになっているんですけど、タイトルでもあり、サビで繰り返す<時間を溶かしてお願いダーリン>という言葉が本心なのかどうか……っていうことを表現しています。
- どのようなプロセスを経て、明るい曲調、アレンジになったのでしょうか。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
よくある話しだと思うんですけど、自分が暗い気持ちの時、雨が降っているよりも快晴の方がより辛い。残酷に思えてくる。そういうイメージで作った曲です。
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田中そい光(Dr):
明るい曲調なのに、歌詞がネガティブっていう構図は、ミスチルの曲でも結構あって。なので、僕としては結構自然な流れでアレンジしていきました。ただ、制作段階では結構揉めましたね。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
方向性は合ってたんだけど、ここまで明るくしていいのか、っていう部分で結構悩みました。それもあって、数ヶ月寝かしていた曲なんです。
- リリース日には無観客無料配信ワンマン・ライブ『おてもと』を行いますが、今後の黒子首の動きについても現時点で見えている範囲で教えてもらいたいです。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
ライブもまだ制限があるので、今後はしばらくシングルを中心にリリースしていこうと考えています。もちろん、出すからには「これぞシングル」っていう力の入った作品で、一回一回勝負のつもりでリリースできればなと。
あとは、ずっとフルアルバムを作りたいって思ってたので、シングルを何作かリリースした後に発表できればなと。内容なども結構考え始めていて。今は現実的において、どれくらいことが実現可能かを探っている段階です。
- アルバムというフォーマットに対する思い入れは強いですか?
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
はい。私がアルバムを通して聴くことが多くて。やっぱり1曲ずつじゃ見えてこない、伝わらないものはたくさんあると思うので、そういうこだわりを詰め込んだ作品を作れたらなと思います。
- なるほど。
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田中そい光(Dr):
今後の動きという点では、やっぱりライブをもっとやりたいですね。「Champon」のMVが公開されたのがちょうど東京都に緊急事態宣言が出ていたタイミングで。ありがたいことにMVは多くの人に拡散してもらえて、今までより広い層に届いたと思うんですけど、それからライブもできなくなって。実際にはあまり実感できていない部分もあるんです。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
人に自分たちの音楽を共有できているっていうことが一番実感できるのがライブなので、このコロナ禍は結構メンタルにきましたね。ただ、逆に今までは一本一本のライブを本当に大切にできていたかって見つめ直す機会にもなりましたし、今後に関しての姿勢も変わりました。
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田中そい光(Dr):
練習で泣きそうになるもんね(笑)。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
そうそう(笑)。
- では、最後にバンドとしての長期的な目標であったり、目指すゴールなどを教えて下さい。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
このバンドでスタジオに入ると、色や画がすごい浮かんでくるんです。でも、現状のライブや作品では全てを再現できていないと思っていて。自分の頭の中の景色を完璧に表現できていければなと思っています。主にライブ面なんですけど、例えば視覚的な表現だったり、もしくは嗅覚を刺激するアイディアだったり、曲によって色々な演出などを加えてみたいです。あとは、単純にこのバンドで大きいところで演奏する画も目に浮かぶので、それも実現できたらいいなと。
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田中そい光(Dr):
私は……大きいところで言うとやっぱりグラミー賞を取りたいです。海外でも活動したいですし、だったら目指さない理由はないだろうと。
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みと(Ba):
どこに辿り着きたいとかは特にないけど、いけるところまでいきたいよね。
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堀胃あげは(Vo/Gt ):
うん。上限はないですね。
Presented by.DIGLE MAGAZINE