福岡のマルチクリエイター・YELIKKから探る、音楽と写真の関係性

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第47回目はYELIKKが登場。

福岡拠点の3人組ユニット、YOLHUのボーカルであり、また写真家としても活動するKENTOによるソロ・プロジェクト、YELLIKが2ndシングル「仮初」を12月16日にリリースした。

Made In HepburnやNew oil deals、GOiTO、虎太朗など、世代やスタイルも異なるアーティストたちが集うコレクティブ/レーベル、〈BOAT〉の一員としても知られるYELIKK。YOHLUの洒脱なネオソウル的なテイストは根底に持ちつつも、ソロ作品ではより親密的でパーソナルな響きを湛えたサウンドを展開している。

今回はそんな音楽家と写真家の2つの顔を持つYELIKKにインタビューを敢行。2つのアートの共通点、ソロ・アーティストとしての展望を訊いた。

核となるのは「ノスタルジックな要素」

―ソロ活動をスタートさせる経緯を教えて下さい。

僕にとってはYOHLUが初めての音楽活動で、ふたりのメンバーであるBOKEH、ZMIに色々と教えてもらう中で、自分が志向したい音楽性が見えてきて。もちろんYOHLUの活動も自分にとってやりたいことではあるんですけど、YOHLUではできないような音楽もアウトプットしていきたいし、色々な人ともコラボしてみたい。そういった気持ちが芽生えてきて、ソロ・プロジェクトの始動に至りました。

―YOHLU以前は音楽活動をしていなかったんですね。

元々歌うのは好きだったのですが、カラオケに遊びに行く程度で、楽器も何もやっていませんでした。

―YOHLUにはどのように経緯で参加したのでしょうか。

メンバーのBOKEHに誘われる形でスタートしました。彼は元々音楽をやっていて、個人的にも先輩に当たる関係性なんです。ZMIも彼が声を掛けて、参加することになりました。

―音楽活動はしていなかったとのことですが、個人的なリスナー遍歴を教えてもらえますか?

J-POPから洋楽まで、広く何でも聴くようなタイプだったのですが、中高の頃はバンドを聴くことが多かったと思います。当時聴いていたBUMP OF CHICKENやONE OK ROCKは今でも好きですね。
あと、洋楽になるのですがAlex GootやTyler Wardといった色々な人気曲をカバーするアーティストもすごく好きで、彼らを通して洋楽の知識を身に付けていきました。

―では、逆にYOHLU加入以降、自身に影響を与えたアーティストや作品は?

Jeff BernatやRaveena、韓国のoffonoffなどですね。僕の声質に合うという前提で考えてくれているからだと思うんですけど、2人がリファレンスとする音楽のテイストやイメージは個人的にもすごく好きで。色々な音楽を教えてもらって、自分の世界を広げることができました。

―YELIKKさんは音楽活動の他にフォトグラファーとしての顔もお持ちですが、写真はいつ頃から始めたのでしょうか。

調理の専門学校への進学を機に福岡に来たのですが、そこで写真を趣味にしている人との出会ったことをきっかけに、自分も一眼レフカメラを買って、18歳頃から始めました。音楽に限らず色々な分野で撮っています。

―写真と音楽に通ずる部分は感じますか?

今は主にフィルムで撮っているのですが、フィルムの質感やノスタルジックな雰囲気、空気感といった部分は、自分が志向する音楽ともリンクする部分なのかなと思います。音楽作品においても、ノスタルジックな要素というのは自分の個性として前面に出していきたいです。

―自身の作品において、ノスタルジックな雰囲気や質感を求めるのはなぜだと思いますか?

年齢を重ねるに連れて、音楽の聴き方が変わってきたことが大きいと思います。昔は自分にとって歌いやすいキーかどうかや、曲の雰囲気を重視していたのですが、より自分の感情に響くものを求めるようになった。自分の場合、それがノスタルジックな作品が多かったんだと思います。

情景が思い浮かぶような音楽を

―現在発表されている2曲は、UMA3SOUL(ウマミソウル)のプロデューサーであり、〈BOAT〉のメンバーでもあるOsamu Fukuzawaさんとの共作となっています。彼との出会いや、共作に至る経緯は?

YOHLUを始めてすぐに、勉強も兼ねて少しゴスペルをやっている時期がありまして。Osamuくんはそういったゴスペル界隈の演奏などもやっていたので、そこで繋がりました。そしたら同じタイミングくらいでBOKEHが「SoundCloudでいいトラックメイカー見つけた」と言って教えてくれたのもOsamuくんで。「僕、この人知り合いですよ」って言ってYOHLUと繋げて、サポートもやってもらうようになり自然と会う回数も増えていき。今回、自分のソロ活動を始動させるにあたって「一緒に曲を作ってみよう」という話に自然と繋がりました。

―ゴスペルをやられていたんですね。

はい。福岡は教会も多く、博多駅前では毎年<九州ゴスペルフェスティバル>が開催されたりと、ゴスペルのグループも多く活動しているんです。
自分の今のスタイルとゴスペルでは発声方法は全く異なるのですが、ハモり方やグルーヴに対するノリ方、動きなどは勉強になりましたね。今はちょっと離れてしまって、なかなか参加できていないのですが。

―1stシングル「unzari」の制作プロセスを教えて下さい。

Osamuくんが適当にピアノを弾いて、そこに僕が即興で歌メロを乗せていく、セッション的なスタイルで作っていきました。お互い好きな音楽のフィーリングが合っているからこそできる方法だと思います。2ndシングル「仮初」も同じスタイルで制作しました。

―YOHLUとソロ作品において、どのような意識の違いがありますか?

YOHLUの作品では自分の声もひとつの楽器や音色というイメージがあるのですが、ソロ・プロジェクトでは自分のボーカルによりフォーカスした作風を心がけています。
あと、ひとつ大きなテーマとして設けているのは、聴いていると情景が思い浮かぶような、“写真のような音楽”を作りたいということ。やっぱり僕はフォトグラファーでもあるし、どちらかといえば今後も写真に中心に活動していきたいので、そこは曲げたくないんです。

―作っている最中もどこかの情景を思い浮かべて制作していますか?

はい。制作中ももちろんですが、他のアーティストさんの音楽を聴いている時も情景が浮かんでくることが多いです。

―では、リリックはどういった物事からインスピレーションを受けて書くことが多いですか?

作詞に関してはまだまだ試行錯誤しているところではあるのですが、個人的にわかりにくいというか、抽象的なリリックに惹かれることが多くて。「unzari」も「仮初」もそういう部分を意識しています。
実は「unzari」は実体験を元にしてできた作品で。コロナ禍の前に、タイトル通り“うんざり”する出来事があって、その後自粛期間になり考える時間も増えたので、その時の感情を元にリリックを書きました。
「仮初」に関しては明確なきっかけや出来事はなくて。まだ作ったばかりで自分の中でも上手く説明できない部分があるのですが、夜に合うサウンドとリリックを意識していたので、ひとりで夜の街を散歩しながら書いた曲です。

―先程セッション的に曲作りを行っているとおっしゃっていましたが、アレンジやトラックメイクの部分はどのように進めていったのでしょうか。

Osamuくんが「こういう感じどう?」って言って提案してくれたものにフィードバックを返したり、悩んだ時はソフト内で色々な音色を鳴らしてもらって、僕が「それ!」って言って決めたり。一つひとつの作業を2人で進めていきました。
「unzari」は音色選びやトラックメイクの部分で詰める時間がかかってしまいましたが、「仮初」は最初の打ち合わせ時にいいメロディといいトラックが生まれて、すごくスピーディーにできましたね。

―2曲ともギターの音色が印象的です。こちらは〈BOAT〉のメンバーによるものでしょうか。

「unzari」はUMA3SOULのKengoに弾いてもらっていて、「仮初」はメインのリフをOsamuくんが、コードの部分は〈BOAT〉のメンバーであり、Made In HepburnのJeff The Beatsにお願いしました。ちなみに、ベースは同じくMade In Hepburnのgoeさんが弾いてくれました。その他のドラムやピアノは打ち込みです。

写真と音楽の相乗効果

―ソロ名義での作品をリリースしての感想はいかがですか?

正直、最初は聴いてくれる人いるのかなって不安に思うこともあったのですが、Spotifyなどで複数のプレイリストにピックアップしてもらえたり、いい意味で驚いた部分があります。YOHLUの時はどちらかというと高い声をメインにして歌っているのですがソロ名義の作品では地声に近いキーで歌っているので、「色気があるね」とか、「YOHLUとはまた違った良さがあるね」って周囲から言ってもらえたり、ポジティブな反応が多くて嬉しいです。

―今後発表予定の楽曲も作り溜めていますか?

Osamuくんだけでなく、〈BOAT〉のメンバーとも楽曲を作っていて。あとは僕が客演参加した他アーティストの作品もリリースを控えています。ソロでの作品以外に、こういった客演参加もどんどんやっていきたいなと考えています。

―〈BOAT〉のスタジオでは常に誰かしらが何かを制作しているようですね。

今も〈BOAT〉のスタジオにいるのですが、今も向こうでメンバーが制作しています。フラっとスタジオに来ると誰かが音を鳴らしてたりするので、「その曲いいね」っていう会話から自然とコラボが生まれたり、こういう環境だからこそ、どんどん新しい音楽が生まれるんだろうなと思います。

――YELIKKさんの今後の展望を教えて下さい。

来年の3月で25歳になるのですが、自分の人生のひとつの節目となる年にソロEPをリリースしたいなと計画しています。僕は楽器やトラックメイクができないし、誰かと一緒に作っていくのが好きなので、今後も色々な方たちと共に制作して、勉強していければなと思っています。大枠のテイストというか世界観は変えずに、その中でも色々なジャンルのサウンド、楽曲に挑戦していきたいですね。
あとは、YOHLUも僕も含め、それぞれが精力的に活動していくことで、〈BOAT〉全体の知名度や注目が大きくなれば嬉しいですね。メンバーと切磋琢磨しつつ、どんどん活動の規模を大きくしていきたいです。

―〈BOAT〉は最近映像コンテンツにも力を入れているようですが、YELIKKさんも参加されているのでしょうか。

luteさんのチャンネルで展開されている「SCENIC」という企画は今のところ2作品とも僕が撮影を担当しています。最近、動画の方も撮ることが増えてきて。〈BOAT〉とは別案件でMVなどの撮影も担当したりしています。

―最後に、音楽家として、もしくは写真家として、ご自身にとって理想のアーティスト像を思い描くとしたらどのようなものになるでしょうか。

音楽から僕のことを知って、写真にも辿り着く人。逆に写真から入って、音楽を聴いてくれる人。その割合が同じくらいなったら嬉しいですね。
音楽と写真って、僕にとっては一瞬の感情や情景を切り取るという面で同じアートだと思うんです。写真を撮ってフィルムを手にした時と、曲が完成した時の嬉しさ。満足のいく画角で収められた時と、自分なりに上手く歌えた時の喜びなど、共通する感覚がすごく多いんです。今後も2つのアートを掛け合わせることで、相乗効果を生み出していければなと思います。

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