遊ぶように音を鳴らす。何にも縛られない自由なバンド、asobiの哲学
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第48回目はasobiが登場。
東京を拠点とするミクスチャー・バンド、asobiが新曲「Empty Room for Two」をリリースした。
asobiは昨年6月に1st EP『asobi』をリリースし、<りんご音楽祭>によるオーディション企画『RINGOOO A GO-GO』最終審査へ進出するなど、ジワジワと早耳リスナーの注目を集めている新鋭だ。
6人組の大所帯ながら、ルールや制限を設けることなく自由な姿勢を貫く彼らは、まさに「名は体を表す」を地で行くかのよう。
本インタビューでは彼らのバックグラウンドから、自由で柔軟な音楽活動の秘訣を訊いた。
※Comassan(Gt)は都合により今回のインタビューには不参加となります。
モラトリアム時代を思い返して
- asobiの結成の経緯から教えてもらえますか。
-
ショウジイサミ(MC):
このメンバーは大学の軽音サークルで一緒だった面々で。在学時からバンドを組んだりして遊んでいたんですけど、社会人になってからレイニーさんがDTMを始めて、「トラックを作ったから、ラップやボーカルを乗せてほしい」って連絡してきて。それが結成のきっかけですね。
- サークルではどのようなバンドを組んでいたのでしょうか?
-
レイニー(DJ ):
みんなそれぞれバラバラでしたね。このメンバーで組んだ時はDef TechやORANGE RANGEをカバーしたり。
-
アラハタユウキ(MC):
ほとんど記憶に残ってないくらい、基本的にちゃんとした活動はやってなかったよね。
-
ショウジイサミ(MC):
そうそう。遊びで音楽をやっていたっていう感じですね。
- レイニーさんが大学卒業後、改めて今のメンバーに連絡した理由というのは?
-
レイニー(DJ ):
サークル時代にこのメンバーで適当にセッションしながら、フリースタイルでラップを乗せたりしていて。大学を卒業して社会の波に揉まれたことで、ふとモラトリアム時代が懐かしくなって、その当時の音源を聴き返してみたんです。そしたら意外とおもしろいことやってたんだなって思って。
-
ショウジイサミ(MC):
当時は「エロス」と「ハピネス」っていう酷いタイトルの曲をほぼ即興で作ったりして(笑)。すごく楽しかった記憶として残っています。
-
レイニー(DJ ):
そうそう。ちょうどDTMに凝り始めたタイミングでもあったので、今だったらもっと洗練された形で、作品として残せるんじゃないかって思ったんです。
- なるほど。
-
レイニー(DJ ):
最初に投げたトラックは「Self pleasure」という曲で、去年リリースした1st EP『asobi』にも収録されています。もちろん当時はリリースするつもりもなく、とりあえずスタジオで合わせてみようかっていう感じでしたけど。
- レイニーさんが大学卒業後にDTMを始めたきっかけというのは?
-
レイニー(DJ ):
大学時代はメタル/ラウド系のバンドを組んだりもしていたのですが、元々音楽を好きになったきっかけがm-floだったこともあり、打ち込みの音楽がずっと好きだったんです。大学時代も少しだけDTMに手を出したこともあったのですが、社会人になって、休日やることがなく暇になったので、本格的に勉強してみようと思いました。
-
ショウジイサミ(MC):
大学時代はメタルの印象が強かったので、あんなオシャレなトラックを作って送ってきた時はびっくりしました。
- せっかくなので、みなさんそれぞれの音楽的なバックグラウンドを教えてもらえますか?
-
ショウジイサミ(MC):
僕は父親の影響で、小さい頃からヒップホップを耳にすることが多かったです。Eminemや日本だとKICK THE CAN CREWなど。あと、m-floは僕も聴いてましたね。
最近はDTMもやっているのですが、トラックメイクの面ではkeshiっていうアーティストに強く影響を受けています。トラップ的なハイハットの打ち方やコーラスの広がりなどを参考にしています。
- asobiではフックを担当することが多いですが、ボーカルや楽器の経験というのは?
-
ショウジイサミ(MC):
歌はずっと好きで。カラオケで歌ったり、コピー・バンドでボーカルをやったり。そのうちに楽器もやってみたいと思って、大学時代はドラムやギターもプレイしていましたね。
- では、次はサイグサさんのルーツ、バックグラウンドを教えてもらえますか?
-
サイグサユウスケ(Ba):
中学生の時にメロコアを聴き始めて、それがきっかけで楽器にも興味を持ちました。大学に入ってからは聴く音楽の幅も広がって、マスロック〜ポストロック的なバンドを組んでいたり、他にはaikoさんのようなJ-POPや、大貫妙子さんのようなシティポップ〜昭和歌謡などをカバーしたりしていました。
- 後藤さんはSSW(シンガーソングライター)としても活躍していますが、そのルーツは?
-
後藤スパイシー(MC):
中学の時にDef Techが好きになって、彼らに憧れてギターを始めました。Def Techはギター弾かないんですけど(笑)。
- (笑)。
-
後藤スパイシー(MC):
そこから弾き語りをやりつつ、大学へ進学する頃には高田渡さんなど、60〜70年代のフォークに傾倒するようになりました。自身の生活についてだったり、政治的、社会的なメッセージを隠喩的、風刺的に取り入れたりしてる作品に惹かれて。最近では前野健太さんもよく聴いています。asobiと自分のソロではかなりテイストの異なる音楽をやっています。
- asobiのMVは後藤さんのYouTubeチャンネルにUPされていますよね。
-
ショウジイサミ(MC):
彼はYouTuber・後藤スパイシーとしても活動していて、登録者数2000人を超えている彼のチャンネルを利用させてもらってます(笑)。
-
後藤スパイシー(MC):
現時点で一番聴かれている「Moonlight in the Backseat」という曲には僕は参加してないんですけど、MVは僕のチャンネルに上がっているという(笑)。
-
ショウジイサミ(MC):
最初は後藤さんも歌うことになってたんだよね。
-
後藤スパイシー(MC):
レコーディング当日に引っ越し作業があって、満身創痍だったので欠席させてもらいました。ライブでもこの曲の時は踊ってます(笑)。
- (笑)。最後に、アラハタさんの音楽遍歴について教えてもらえますか。
-
アラハタユウキ(MC):
物心付く頃から音楽は好きだった記憶があって。初めて買ったCDは『デスノート』の映画主題歌に起用されていたRed Hot Chili Peppersの「Snow」です。そこから海外のオルタナ、ハードコア、ラウド系の音楽にハマって。「Slipknotのように音が重くて人数が重いほど強い音楽だ」っていう厨二病をこじらせた感じになって(笑)。
高校に入ってからはさらにメタルなども聴きつつ、日本のSSWの曲も聴くようになって。宇多田ヒカルさんや鬼束ちひろさんと、SlipknotやKoRnを交互に聴くような生活でした(笑)。
- みなさん、バックグラウンドはバラバラですね。
-
ショウジイサミ(MC):
今話を聞いていて、改めてめちゃくちゃなやつらが集まったバンドなんだなと思いました。
「おもろい」って思えることが大事
- 昨年リリースの1st EP『asobi』の制作プロセスについて教えて下さい。
-
レイニー(DJ ):
先程話した通り、「Self pleasure」はいわゆる(Grover Washington Jr.の)「Just the Two of Us」進行のコードをループさせる本当にシンプルなトラックを僕が作って、大雑把な割り振りは指示しつつも、細かい部分はそれぞれが考えてきたものをそのまま採用しています。
-
ショウジイサミ(MC):
僕の場合、スタジオに入る当日の電車でリリックを考えました(笑)。リリースすることとかも意識せずに作ったので、シモネタになってしまい。昔作った「エロス」と「ハピネス」から進歩してない(笑)。
-
レイニー(DJ ):
SNSで若い子が「めっちゃいい曲〜」ってポストしてくれているのを見ると、申し訳ない気持ちになったりもします(笑)。
- (笑)。残り2曲に関してはどうでしょう?
-
レイニー(DJ ):
「Moonlight in the Backseat」はショウジが作ったボーカル入りのデモ・トラックをベースに、僕が編曲する形で完成させた曲です。
-
ショウジイサミ(MC):
元々はasobiのためではなく、僕がひとりで作っていた曲で。レイニーさんに聴かせたら「編曲したい」って言ってくれて。
-
レイニー(DJ ):
コードもほぼ元のまま、間奏のバイオリンのフレーズもショウジのギター・ソロから音色を差し替えただけで。原曲が良かったので大枠は敢えてイジらないようにアレンジしました。「Busy Busy and Sober」は僕が作り溜めていたトラックの中から、アラハタが「これラップ乗せてみたい」って言ってくれたものをベースに膨らませています。
-
アラハタユウキ(MC):
根暗なので、ちょっと暗いトラックの方がやりやすい気がして。他の曲ではポージング的にラッパー然と振舞ったりもしてるんですけど、この曲では背伸びせずに身の丈に合ったリリックを書けたと思います。
- 1月6日には新曲「Empty Room for Two」がリリースされました。この曲はメロウなトラックからアグレッシブな展開へと変わる構成や、ボイス・サンプルの使い方が印象的です。
-
ショウジイサミ(MC):
この曲も僕が作った曲で。倍速になる展開は僕の発案なんですけど、個人的にアラハタの高速ラップが好きで。それを活かすためにレイニーさんにブレイクビーツっぽい展開にしてもらいました。
-
アラハタユウキ(MC):
ライブでも何度もやっていた曲だったんですけど、レコーディングではガラッとリリックも変えて。最初は動物の名前を連呼するわけわからない内容でした(笑)。
-
ショウジイサミ(MC):
あの意味わからないリリックもよかったけどね(笑)。どちらにせよ、僕が書いた君と話していると他の物事や人が見えなくなるよっていうリリックのテーマは無視され、彼が書いてきたリリックは……。
-
アラハタユウキ(MC):
過密都市・東京に対する批判です。
-
レイニー(DJ ):
出だしから《真空パック詰めされた/human運ぶexpress》って満員電車についてラップしてるという(笑)。
-
ショウジイサミ(MC):
ふたりだけの部屋とは真逆の世界観ですよね(笑)。
-
アラハタユウキ(MC):
そういうロマンチックな経験がないので、自分の等身大なリリックになっちゃいました。
-
レイニー(DJ ):
でも、こういう齟齬に対して誰も何も言わないのがいいなって思うんですよね。
-
ショウジイサミ(MC):
こういうバグみたいな出来事を「おもろい」って思えることが大事だと思います。
-
レイニー(DJ ):
あと、ボイス・サンプルは元々入れるつもりはなかったんです。ライブで披露する時、ギターのComassanが左手を痛めてしまって「弾けないかも」となり、「ヤバいこのままでは上音が薄くなる」ということで、急遽作ったんです。それがしっくりきたし、DÉ DÉ MOUSEさんやFKJのような今っぽいエレクトロニック・ミュージックともリンクするなと。
- asobiというバンド像が見えてきたのはどのくらいのタイミングだったのでしょうか。
-
レイニー(DJ ):
「Self pleasure」が出来上がった頃、みんなの声も個性的だし、サウンド的にも今のトレンドと遠くはないなと思って。ちゃんとパッケージングしたら多くの人に聴いてもらえるんじゃないかなという思いが芽生えました。その後、後藤以外のメンバーにはすぐに話して。後藤はSSWとしての活動を邪魔してはいけないと思い、敢えて声を掛けなかったのですが、そしたら「僕も入れてよ」って自ら言ってきて(笑)。
-
後藤スパイシー(MC):
仲の良い友だちがバンド組むってなってたので、そりゃ仲間に入れてほしいですよね(笑)。asobiではより好き勝手できる感じがあって、ソロでの活動とはまた違った楽しさがあります。
- asobiという名前はどのように決まったのでしょうか。
-
レイニー(DJ ):
ストリーミング・サイトや自分のライブラリで、アーティスト順でソートした時に一番上に来るように、「A」か「ア」から始まるバンド名にしたいっていうのは最初から考えていました。
-
ショウジイサミ(MC):
元々遊びの延長線上で始まったようなものだし、自分たちの雰囲気にもマッチしているなと思って、asobiに決まりました。
-
レイニー(DJ ):
当時、ストリーミングで検索かけたら他にいなかったので、SEO的にもいいなと思ったのですが、その後まさかYOASOBIがこんなに人気になるとは……(笑)
その時々でそれぞれが好きなことをやる
- asobiというバンドの特性や方向性が固まってきたという感覚はありますか?
-
ショウジイサミ(MC):
EPの3曲や、これからリリースされる新曲も含めて、ジャンル感やサウンドを固定しないのが僕ららしさなのかなって考えています。次にリリースを予定している「TOKYO CULTURE」は後藤さんが作った曲で、これまでの曲とはまた異なる、アッパーなナンバーになっていますし。メンバー各々が好きなことをやる、それが僕ららしいのかなと。
-
レイニー(DJ ):
そもそもバックグラウンドがみんな違うし、聴いている音楽、ハマっていうジャンルも日々変わっていくので、その時々で一番楽しいと思うことをやれればいいのかなと。僕自身も含めて、「こういう方向性でいくぞ!」って言って「はい、わかりました!」って大人しく従うような面々でもないですし(笑)。
-
ショウジイサミ(MC):
レイニーさんは吸収力が高いので、「こういう感じの曲やりたい」って参考音源を投げると、すぐに咀嚼してトラックを作ってくるんです。だからこそ、色々なスタイルの楽曲に挑戦できる。
-
レイニー(DJ ):
常日頃、勉強として色々なジャンルの音楽を聴くのが好きなので、シングルやEP、もしくはアルバムを出す度にコロコロとサウンド・スタイルを変えていくのがいいのかなと思っています。
- バンドとして、2021年の展望を教えてもらえますか?
-
レイニー(DJ ):
あまり具体的な目標は掲げてないんです。僕らは元々社会に抑圧された人間の集まりで、それぞれ「会社行きたくない」とか「仕事辛い」といったストレスを発散できる場でもあるので。いっぱい曲を作って、多くの人に聴いてもらいたい。やっぱりそれに尽きますね。
-
ショウジイサミ(MC):
作品はどんどんリリースしていきたいよね。去年はコロナ禍の影響もあって、思うように曲が作れなかったので。
-
レイニー(DJ ):
うん。ライブでも色々な曲があった方が僕ら自身も楽しいし。トレンドとかにもあまり縛られずに、その時々で自分たちの好きな音楽を作れればいいですね。
-
ショウジイサミ(MC):
さらに言えば、売れて仕事辞められたら理想ですけどね(笑)。
-
レイニー(DJ ):
僕個人的には長く続けたいです。例えば一発屋みたいにどこかで跳ねて、その後失速して空中分解してしまうのではなく、年をとっても続けられたら最高ですね。
Presented by.DIGLE MAGAZINE