シーンの未来を見据えるCARTOON。彼の心を掴んだレジェンドDJの言葉とは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第50回目はCARTOONが登場。

2019年よりDJ DARUMA(PKCZ®) & JOMMYにより始動した東京・渋谷SOUND MUSEUM VISION(以下、VISION)の人気ギュラー・パーティ<EDGE HOUSE>にてレジデントを務めるDJ、CARTOONが新曲「This + Is + Mad」を2月10日(水)にリリースした。

DJとしての活動のほかに、「東京と世界のカルチャーを繋ぐ」をコンセプトにしたInterFM897のキュレーション・プログラム『sensor』のMCを担当、さらにストリート・ブランド『MESS THE MAN.』をプロデュースするなど、多様な発信を行うCARTOON。

今回のインタビューではコロナ禍で大きな影響を受けたであろうDJとしての活動を始め、ジャンルにとらわれず国内の新鋭アーティストを次々とフックアップし、DJとはまた違った側面をみせる『sensor』での取り組み、そしてまだまだ先行きが見えづらい今後の動きについて話を訊いた。

「ダンスフロアとの断絶」を経て芽生えた意識の変化

―昨年から続いているコロナ禍の影響についてお聞きしたいです。様々な活動を展開するCARTOONさんにとって、やはり一番大きいのはDJの面だと思うのですが、いかがでしょうか。

間違いないですね。日本だけじゃなく、毎月のように海外でもDJしていたのですが、それも全部できなくなって。昨年3月には自分がレジデントを務めているパーティ<WORLD-MARKETZ>にイタリアのDJ、Love Legend(fka Black Legend)を呼ぶ予定だったのですが、それも流れてしまいました。

そもそも、実は自分の拠点を海外に移そうという計画も立てていたんです。毎年のようにアムステルダムに行って、〈CR2 Records〉や〈Suara〉などの人たちと連携しながら話を進めていて。オランダ人のエージェントとも契約し、ヨーロッパ・ツアーもやろうと考えていたのですが、その計画も全てダメになってしまいました。新型コロナウイルスが流行り始めた当時の段階で、向こうでは「2022年くらいまでイベントやフェスは難しいかもしれない」という話が出ていたらしいです。僕はまだ日本にいたので、「そんなことないでしょ」って思ってたんですけど、日に日にそれが現実味を帯びてきて。

―確かに。

そういった海外の大変な状況を身近で体感していた自分にとっては、改めて環境の違いを見つめ直す機会にもなりましたし、日本での活動についてより考えるようになりました。ラジオのお話を受けられたのも、言ってしまえばコロナ禍で予定がなくなったからなんです。毎月のように海外に行っているようなスケジュール感ではレギュラーの番組は難しいですから。

ラジオをレギュラーで担当するようになってからは、日本の音楽もたくさん聴くようになったのですが、今の国内には海外にもアプローチできるポテンシャルのミュージシャンがたくさんいるんだということを知って。自分もそういったアーティストさんたちと一緒に何か仕事がしたいと思うようになりました。

―コロナ禍を経て、改めて日本国内のシーンにも目が向いたと。

はい。自分の楽曲をもっと国内のリスナーに届けたいと思うようになりました。今まではBeatportやTraxsourceといったDJ向けの配信プラットフォームでしかリリースしないことも多かったのですが、今後はもっとSpotifyやApple Musicなど、より広い層へ届けられるようなプラットフォームでも発表していきたいなと。

あと、今日渋谷で撮影していた時、静かな街並みを見ていた時も感じたのですが、後続のシーンのためにもっと前に出て、発信していかなければとも思いました。DJが活動できる場はクラブだけじゃないことを見せていかないといけない。そうしないと、いつまでもバイト生活から抜け出せない若手DJが減っていかないんです。もちろんDJだけにこだわるスタンスも素晴らしいと思うのですが、その可能性自体は狭めたくないんです。

―そういった心境の変化は、今後発表する作品にも影響がありそうですね。

そうですね。ただ、最初の頃はダンスフロアとの断絶が辛かったです。僕らがプレイしたり作っている音楽はボディ・ミュージックなので、ある程度広い空間、ダンス・ミュージックを想定したサウンドシステムで鳴らすことを想定している。それがなかなか体感できない状態というのは、なかなかに堪えるものがありましたね。でも、Black Coffee(※)がPharrell Williamsとの曲をリリースしたりと、海外でも活動スタイルが変化するアーティストもいて、ダンス・ミュージックだけにこだわらなくてもいいんじゃないかと思うようになりました。自分の生活の変化と共にアウトプットも変わっていく、それはとても自然なことだなと。

※南アフリカ出身のディープ・ハウスDJ

今回リリースする「This + Is + Mad」はダンス・トラックなのですが、今後は例えばBIG UP!を使っているアーティストさんなどとコラボさせてもらって、ボーカルやラップを乗せた作品も作っていきたいなと考えています。今、福岡拠点のラッパー・toddy君と曲の制作のやり取りをしていて。彼はバンド、DJ、トラックメイカーが参加するコレクティブ・BOATに所属しているのですが、彼らとの出会いもラジオでした。

ただ、自分はやっぱり現場が大好きな人間で、今でも状況が好転すればすぐにでもクラブに行きたい。なので、例え歌モノを作ったとしても、現場感というものはちゃんと出せるようにしたいです。キックの質感だったり低音の処理だったり、細かい部分でDJとしての個性を表現できればなと。

―配信でのDJも行っていますよね。実際の現場との差異はどのように感じていますか。

LotusTVというメディアでやらせてもらうことが多いのですが、ありがたいことにコメントもたくさん送ってもらえるので、そういったところからフィードバックを得るようにしています。フロアをがっちりと掴むような感覚とは少し違いますが、MCを多く入れて飽きさせないように工夫したり。そこはラジオをやっている経験がすごく役立っていると思います。

―当然、選曲にも違いは表れますよね。

実際のクラブで早い時間にやるような、ジワジワと積み上げていくようなセットは中々難しいですね。どちらかというと即効性の高いセットになっていると思います。

アーティストをアーティストたらしめる要素

―昨年、『sensor』ではタワーレコードとタッグを組み、MÖSHIの限定ダブ・プレート『#13G』を企画、リリースしました。『sensor』としてのレーベル・プロジェクトをスタートさせた狙いや意図を教えて下さい。

〈Cocoon Recordings〉のSven Väth(※)も言っていたんですけど、すでに有名になったようなDJばかりがステージに立ち続けるのではダメなんですよね。新たなライジング・スターを輩出していかないと、カルチャーとしての裾野が広がっていかいないじゃないですか。

※ドイツ出身のリヴィング・レジェンド的DJ

すでに人気のあるアーティストを呼ぶだけじゃなくて、番組サイドからもこれから花を咲かせるようなアーティストにいち早く声を掛けて、シーンを引っ張っていく。そういう番組があってもいいんじゃないかなと思うんです。『sensor』を通して、僕と同じように「日本国内にもこんなに才能に溢れたミュージシャンがいるんだ」ってことに気付いてもらえたら嬉しいです。そういったリスナーの意識の変化も、シーンの未来に繋がると思いますし。

―素晴らしい取り組みだと思います。ただ、そういった先を見据えた行動、取り組みには、短期的なメリットが少なく、それをリスクと捉える人も多いと思います。そういった部分で、苦労などはありましたか。

確かにめちゃくちゃリスクがありますよね。でも、振り返ってみたら昔の人はそういったリスクのあることをたくさんやっていたと思うんです。SNSやネットの普及ですぐに数字やリアクションを得られるようになって、みんな臆病になってしまっただけなんじゃないかなって。そもそも音楽は商業的なリスクとは切り離して考えたい。それで難しいと言われるのであれば、ラジオからYouTubeやポッドキャストなど、オンラインに移ってもいいと思います。

―なるほど。

あと、『sensor』に出てくれるアーティストには、より自分のアイデンティティを強く持つようになってほしいという狙いもあります。『sensor』でのインタビューでも、ありきたりな質問じゃなく変わった内容を聞くことも多くて。そうやって自分を見つめ直したりするのってとても大事だと思うんです。

先程のMÖSHIくんの話だと、実際にレコードの製作工程にも立ち会ってもらって。枚数は多くなくても、やっぱりフィジカルでリリースすると目が変わるんですよね。盤を手にしたリスナーから反応をもらったり、そういう細かいことがアーティストをアーティストたらしめる要素になる。その最初の一手を『sensor』で担っていければ良いなと思います。

―アーティストをアーティストたらしめるのは作品が全てではなく、人間性も大事な要素だと。

はい。そういった考えに至ったのも、Sven Väthの言葉が大きくて。以前、彼と話した時「いい曲なんて世界中からたくさん送られてくるから、それだけではとてもじゃないけど判断できない」って言っていたのが印象的で。直接コミュニケーションして、どういう性格で、どういう服や食べ物が好きなのか、なぜそれが好きなのか。ひとりの人間対人間で交流して、そういう部分が伝わってこないと一緒に仕事しようという判断には至らないって言っていたんです。当たり前のことではあるんですけど、的確に指摘された気がして。それはずっと心に残っていますね。

「正しい音楽を正しい人にだけ届ける」

―〈sensor label〉第1弾作となる「This + Is + Mad」は、資料にもあるようにご自身のルーツであるという70’sパンクへの憧憬も感じられます。70年代をリアルタイムで体験していないであろうCARTOONさんはどのようにしてパンクと出会われたのでしょうか。

両親が元々バンドをやっていて、音楽好きの家系だったんです。その中でも、母はUSロック、父はUKロックがそれぞれ大好きで。小さい頃からどちらもよく聴いていたのですが、自分としてはUKの方がしっくりきました。それからThe ClashやSex Pistolsなどのライナーノートを書いている大貫憲章さんから、DJという職業を知りました。

―なるほど。先程、より広い層へと届けることを意識するようになったとおっしゃっていましたが、そういった点も踏まえて、この作品がどのようにして生まれてきたのかを教えてもらえますか。

この曲自体は以前からDJでプレイしていて。コロナ禍でも遊びに来てくれる方たちへ向けて、「こんな状況でも来てくれるお前らも、ここでDJしてるおれも、みんなマッドだよね」っていう気持ちを投影しています。リスクがあることを承知で来てくれているみんなに向けてプレイしたくて作りました。

もちろん、今回は『BIG UP!』経由でのリリースとなるので、フロアユース過ぎないように作り変えてあります。キックの強さは残しつつ、声ネタを聞きやすくしたり。

―ディストーションがかかったシンセなどからは、エレクトロクラッシュ期のサウンドも想起します。そういった2000年代後半のサウンドについて、リヴァイバルの機運は感じていますか。

感じますね。それに加えて、VISIONのメイン・フロアのサウンドシステムって、こういう粗暴な音が合うと思っていて。カチッとしたテクノというよりは、少し生感のある音の方がしっくりくるんですよね。あとは元々バンドをやっていた経歴もあるので、DTM上だけで完結している作品にはしたくなくて、自分で鍵盤なども弾いているんです。そういう要素も、エレクトロっぽさに繋がった理由なのかもしれません。

「This + Is + Mad」の次にリリースを予定している「We Work It」、そしてその次のリリースまでは<EDGE HOUSE>をVISIONでやっていく中で生まれたトラックで。その後は最初に話したように、これまでとは違った方向性の作品を発表していければと思います。

―元々予定していた計画がコロナ禍で瓦解し、当時想定していなかった活動を行うようになったCARTOONさんですが、今後の動きについてはどのように見据えていますか。

〈sensor label〉や『BIG UP!』で繋がったアーティストたちと絡んで、一昔前の〈Kitsuné〉のような動きができたらなと考えています。多角的な発信ができればなと。

パーティに関しては500人規模のものをやりたいなと考えています。大きくし過ぎないように、かつアンダーグラウンドにも振り切らない。そのちょうどいい規模のパーティをコンスタントに続けていきたいです。

―その規模感というのは、新鋭アーティストにも声を掛けやすいし、自分たちでしっかり手綱を握れるサイズという意味でしょうか。

はい。難しいことだとは思うんですけど、強い意思を持っていれば可能だと考えています。またSven Väthの話になってしまうんですけど、彼が仲間たちと開催しているロングラン・パーティ<Cocoon>が場所を敢えて固定しないのも、自分たちがやりたいようにやるためなんです。毎回同じ会場でやっている方が運営は楽ですよね。でも、そうすると同じヴェンダー/プロモーターに気を遣わないといけないし、彼らの意向をある程度聞く必要が出てくる。それは自分たちのやりたいこととは違ってくる。

1万人規模のパーティを10万人規模にするとお金は儲かるけど、例えば「有名な曲をかけない」っていうだけで怒る人がいたり、関係者の間でも揉めたりする。だったら、理解してくれる1万人の前でだけやろうと。

彼の言葉で今でも強く覚えていることがあって。「僕たちの音楽はなくてもいいものなんだけど、なくてはならないものだと考えている人もいる。だから、自分は正しい音楽を正しい人にだけ届ける」って言っていたんです。正しくないところに届けると、自分たちの音楽が失われてしまうと。それは自分の活動においても重要な指針になっています。

―なるほど。

それは自分のファッション・ブランド『MESS THE MAN.』にも言えることで。これも元々は自分が着たい服を作るために立ち上げたんですけど、最近だと少し大きくなり過ぎたと感じることがあって。ダンスフロアに集まる人に届くように、高すぎない金額感で提供したい。そこがブレないように、自分たちでコントロールしながら続けていくべきだなと考えています。

―パーティと同じ感覚ですね。

今の時代、ブレないでいることってすごく大変だと思うんです。SNSを見ると、やっぱり隣の芝生が青く見える。規模をどんどん大きくしていくことが正義だと思われる。でも、そうしているといつの間にか自分自身のモチベーションがなくなってしまうんですよね。だからこそ、『sensor』ではそうじゃない、正しい場を作れたらいいなと考えています。あとは、早くリアルな場が戻ってきてくれたら嬉しいですね。

衣装協力
MESS THE MAN.
Jacket// MESS THE MAN.
Hoodie// MESS THE MAN.

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