マルチクリエイター・Hannah Warmが語る、DIYな活動スタイル。

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第52回目はHannah Warmが登場。

作詞作曲だけでなく、トラックメイクからミュージック・ビデオ、アートワークに至るまで自身で手がけるSSW、Hannah Warmが3月10日に2nd EP『NEAR』をリリースした。

2019年より活動開始し、シングルをコンスタントにリリース。その全てがSpotify公式プレイリストや海外のプレイリスト、ブログなどにピックアップされるなど、主にストリーミング・プラットフォーム上で認知を拡大させてきたHannah Warm。今回はそんな彼女にインタビューを敢行。音楽との出会いからDIYな活動スタイルについて語ってもらった。

「詩」を届ける手段としての音楽

―Hannah Warmさんの音楽との出会いについて教えて下さい。

小さい頃から本や言葉が好きで。中学生くらいから詩を書き溜めるようになりました。親や親戚が音楽好きというのもあって、学生時代はぼんやりと自分の詩にメロディが付いたらいいなと考えていました。音楽を意識しはじめたのはそれくらいからですかね。

―詩が先だったんですね。

はい。実は母も詩を書いていて、詩集を自費出版もしていて。そういう姿を間近に見ていたり、普段から言葉遣いについて指摘されることも多くて。家には英語の本や百科事典なども多くあって、暇なときに眺めていたり。そういった環境のせいか、自然と言葉や詩に興味を持つようになったんだと思います。

―家ではどのような音楽がかかっていましたか?

父母は山下達郎さんや竹内まりやさんといった、近年世界的に再評価されている、シティ・ポップと呼ばれるような音楽をよく流していました。叔母さんも音楽好きで、松任谷由実さんなどのニューミュージックや、久保田利伸さんなどをよく聴いていましたね。

―ご自身ではどのような音楽を聴いていたのでしょうか。

小さい頃に聴いたCharaさんに衝撃を受けて。ポップというよりか、個人的には彼女の音楽にファンクを感じたんです。それからファンクをはじめ、Leon Ware(リオン・ウェア)やMinnie Riperton(ミニー・リパートン)といったソウルやR&Bなどのブラック・ミュージックを掘るようになりました。なかでも大きかったのはPatrice Rushen(パトリース・ラッシェン)との出会いで。彼女の作品を聴いたときに「これだ……!」って感じました。決してソウルフルに歌い上げるわけではない、その奥ゆかしさ。ダンス・ミュージックとソウルの要素を併せ持ちつつ、クラシカルな雰囲気もある、絶妙なバランス感覚。こういう音楽を私もやりたいと思いました。

―小さい頃のHannah Warmさんは、どのような意識で詩を書いていましたか?

趣味や楽しみというよりは、自分の考えや感情を整理する感覚というか。言葉として書き出して、それを自分で読み、再認識する。特に思春期の頃とか、頭の中だけで考えていても中々すっきりしないことがありますよね。そういったときに頭の中をすっきりさせるための行為だったと言えるかもしれません。
詩を書いていると、より多くの言い回しや語彙力を身に付けたくなるので、たくさん本を読み、また詩を書いて……ということを繰り返していました。そのときに書き溜めていた詩は誰にも見せられなかったのですが、どこかで自分の詩を誰かに見てほしい、届けたいという思いもあって。ただ、詩だけの形だと、なかなか他の人には届きにくい。そこで音楽と合わせようと思ったんです。音楽に乗せれば、自分の言葉をより多くの人に、そして柔らかい表現として伝えられるなと。

―では、Hannah Warmという名前で音楽活動をはじめた経緯は?

20歳くらいの時に、バンドマンやトラックメイカーの方たちと繋がるようになって、その方たちの作品に歌や歌詞を乗せるようになったんです。スタジオに一緒に入ってレコーディングしたり。そういった活動をしているうちに、自然と自分のオリジナル作品を作りたいなと思うようになり、スタートさせたのがHannah Warmです。

―ご自身でトラックを作りはじめたのはいつ頃からなのでしょうか。

2019年くらいから、独学でDTMを勉強しはじめました。人の作品のお手伝いだとどうしても自分のカラーを出しきれなかったり、作業が止まってしまうことも結構あって。だったら自分でやろうと。最初のうちは本当に手探りだったのですが、その年の夏には1stシングル「The Future Is There」を配信リリースしました。

―制作は現在もDTMがメインですか?

そうですね。最初はリズムから組み立てていき、鍵盤でフレーズなどを乗せ、ある程度の段階で歌を乗せる。最近ではギタリストのROB(※)さんにお渡しして、アレンジしてもらったりしています。

※Willow records代表。ギタリスト/音楽プロデューサー。

―ROBさんとはどのようにして出会ったのでしょうか。

バンド界隈で知り合った音楽仲間という感じでした。最初は「トラックにギターを入れてほしい」という感じでお願いしていたのですが、徐々にその他の部分も手伝ってもらうようになって。最近だとある程度ベーシックな部分を私が作って、その後ROBさんにアレンジしてもらうというパターンが多いです。

「曲を出したい」という気持ちが先行

―Hannah Warmさんは音楽以外にも映像、アートワークのデザインなどもご自身で手がけています。そういったスキルはどのようにして身に付けたのでしょうか。

それも音楽と同じく独学ですね。さっきの詩を届けるために音楽を選択したという話と一緒で、音楽を届けるためには映像やジャケットがあった方がいい。今の時代、YouTubeなどで曲と映像を一緒にUPすることがプロモーションとして有効とされていますよね。でも、映像やアートワークなどを他の人にお願いするとコストがかかる。だったら自分でやってしまおうと(笑)。
今のiPhoneは性能もすごいので、近くを散歩しながら撮った映像を加工して繋げたりしてっていうところから始まり、最近ではPCで映像編集やアートワーク制作も行っています。Hannah Warmとして活動をスタートさせた当初から、楽曲をどんどん配信していきたいと考えていたので、全部人に頼むとそのスピードも遅くなってしまうと思って。

―2019年8月に1stシングルをリリースして以降、ほぼ毎月のように新たな作品を発表していますよね。

はい。ストックがあったわけではないんですけど、とにかく「曲を出したい」っていう気持ちが先行していました。あと、自分の作品を発表する上で、ストリーミング・サービス上では曲をコンスタントに出した方がリスナーに届く可能性が高くなるんじゃないかなっていう考えもありました。

―非常に今日的な視点ですね。

元々リスナーとしてSpotifyを愛用しているのですが、そのレコメンド精度の高さに感銘を受けて。今でも毎日新しい音楽を探して聴いていますし、そのうちにアルゴリズムみたいな部分にも興味を持つようになりました。そういった背景から生まれた考えかもしれませんね。

―ご自身の活動の中で、ブレイクスルー・ポイントを挙げるとするならば?

去年の10月にインドネシア出身のRevo Marty(レヴォ・マーティー)というミュージシャンと「I’LL BE BY YOUR SIDE」というコラボ・シングルをリリースしたのですが、敢えて挙げるとするならばそのタイミングかもしれません。私は毎週『Alter Soul』というプレイリストを更新しているんですけど、Revo Martyの曲を選曲したら、それに気付いてInstagramでDMをくれて。そこから交流が始まり、コラボ曲を作るに至りました。リリース後に知ったんですけど、彼はインドネシアでは有名なアーティストだったらしく、向こうの公式プレイリストにも選曲されて。こういう方法で海外にも届けることができるんだ、と思いました。

―なるほど。

あと、昨年12月に〈Tokimeki Records〉の楽曲にも参加させてもらったのですが、〈Tokimeki Records〉が今年に入ってから『RADAR: Early Noise 2021』(※)にも選ばれたこともあって、それ以降より多くの人に聴いてもらえるようになったなと感じています。

※Spotifyが毎年発表する、その年に飛躍を期待する注目アーティスト10組

ポップな曲でも耳に残る違和感を

―3月10日には2nd EP『NEAR』がリリースされました。今作の「メロウでグルーヴィー、チルとドリーミー」というテーマ、方向性が見えてきたのはいつ頃なのでしょうか。

徐々に変化してきたという感じです。1stアルバム『Warm’s』のときはもうちょっとエレクトロニックでダンサブルな要素が強かったと思うのですが、リリースを重ねていくうちにジャズっぽい要素やR&B的なサウンドも取り入れていくようになってきて。ただ、メロウでポップな聴きやすい曲を意識しつつも、その中でもどこか耳に残る、少し違和感を感じさせるような曲を目指しました。ファッションでいえば差し色みたいなイメージですね。あと、これまでは英詞が多かったのですが、今作では日本語詞メインの曲にも挑戦しています。

―なぜ日本語詞メインの曲にトライしてみようと思ったのでしょうか。

自分の作品は海外のリスナーの方にも多く聴いてもらっているので、せっかくなら母国語をもっと使ってみたいなと思ったんです。さっき話に出たRevo Martyも日本語の響きが好きだと言ってくれましたし、他の国の人にとっては日本語の方がおもしろい作品になるのかなと。

―作詞や歌唱において、日本語と英語の違いについてはどのように感じていますか?

昔から日本語って難しいなと思っていて。英語の方がメロディに乗せやすいし、聴いていてのっぺりしないというか。ただ、今回の制作を経て、スムーズに聴こえる単語やワードを意識的にセレクトしていけば、日本語でもカッコいい曲が作れるんだっていうことがわかりました。
あと、日本語の方が単語数や文字数が少なくてもメロディとして成立しやすい気がしました。なので、英詞の場合は結構具体的というか説明的になりがちで、日本語詞の方が抽象的な内容になるなと思いました。聴き手が自由に解釈できる、余白のような部分が多くなっていると思います。

―今作ではメロウな側面も目立つ一方で、「LIKE THE SUN」や「MEME」など、BPMはあまり早くはないものの、これまで以上にビートが強調された楽曲も印象的でした。誤解を恐れずにいえばどこかニューディスコ的というか。

コロナ禍になってからはあまり行けてませんが、私もROBさんもDJイベントが好きでよく遊びに行っていて。日常でのリスニングだけでなく、ダンス・フロアで鳴っても耐えうるクオリティというか、踊れるような感覚というのは自然と根付いているのかもしれません。

―近年ではアルバム単位で作品を聴くリスナーが減っているとの情報も耳にします。Hannah Warmさんにとって、アルバムやEPなど、まとまった作品を制作する、発表する意味というのは、どのように考えていますか。

自分の思い描いた世界観をより濃密に、そして明確に表現できるのがEPやアルバムといった作品形態だと考えています。聴き手とよりコミュニケーションが取れるというか。シングルで偶然知って、興味をもってくれたリスナーさんに、その次のステップとしてEPやアルバムを用意しておきたい。そうしたらより私のことがわかってもらえるんじゃないかなって。

―では、アルバム・リリース後の動きについてはどのように考えていますか?

シングルをコンスタントにリリースするというのは変わらずに続けていきたいです。その一方で、フィジカル・リリースにも興味はあって。例えばレコードなど、形として取っておきたくなるような形態での作品を発表してみたいですね。
あとは今のこの状況だからこそできることも探っていきたいです。例えば配信ならではのアイディアを詰め込んだライブだったり。Revo Martyとの第2弾コラボも計画していて、国内外問わず、他アーティストさんとのコラボレーションも、今後はもっと積極的にやっていきたいです。

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