あたらよ初インタビュー。1曲のMVで頭角を表したバンドの背景に迫る

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第55回目はあたらよが登場。

前触れもなく現れ、たった1曲のMVでバズを起こした新星、今回初取材を行った4ピースバンド・あたらよである。メンバーはひとみ(Vo&G)、まーしー(G)、たけお(B)、たなぱい(Dr)の4人。専門学校で出会い結成した彼らは、学内オーディションのために1曲の音源を育てあげ、昨年の11月にMVを公開。すると瞬く間にTikTokで火が着き、今やその再生回数は900万回超え。じきに1,000万回に届こうという勢いである。そう、現在唯一発表されているあたらよの楽曲、「10月無口な君を忘れる」である。

曲の世界へと引き摺り込む冒頭の語りと、未だ消えない別れの痛みを綴った歌詞。それを歌う胸を締め付けるような声色と、歌の景色を再現するように奏でられる情動的なバンドサウンド…曲のストーリーがありありと浮かんでくるあたらよの歌は、10代のリスナーを中心に急速に広がっている。今後多くの話題を集めていくであろうニューカマーに接触し、結成の経緯や楽曲の制作背景を語ってもらった。

歌で自分を表現する

バンドの経緯や現在リリースしている楽曲、「10月無口な君を忘れる」について伺う前に、それぞれのルーツをお聞きできればと思います。皆さんが最も影響受けた音楽はなんですか。

まーしー(G):

僕はELLEGARDENです。ギタリスト(生形真一)が凄すぎて、音に感動するとかそんな次元じゃなかったというか…それまで遊びでギターをやっていたんですけど、ELLEGARDENの曲を聴いて俺もこれをやろうって思いました。

今の自分の表現にどう影響していると思いますか?

まーしー(G):

ひとみの曲は歌ものなんですけど、そこに悪いエッセンスを入れていますね(笑)。自分の弾くソロは粗い感じで、あまり綺麗に弾くことはない。そこに影響が出てると思います。

たけお(B):

僕は高校の時に聴いたUNISON SQUARE GARDENです。軽音楽部に入って音楽を始めたんですけど、その時に観たアニメのエンディングで、「シュガーソングとビターステップ」という曲が流れていて。それを聴いて衝撃を受けました。田淵智也さんのベースラインは凄く動きますけど、曲として成立しているのが凄いと思いました。

ご自身のプレイに通ずるところはありますか。

たけお(B):

そうですね。僕も動くところは動くんですけど、歌を聴かせようと思ってベースラインを考えています。

ひとみさんは?

ひとみ(Vo&G):

ドリカム(DREAMS COME TRUE)にも影響を受けているんですけど、音楽をやるきっかけになったのは、のぐちさんというシンガーソングライターです。元々PAになろうと思って、音響照明学科のオープンキャンパスに行ったんです。その時のぐちさんがバンド編成でいらしていて、彼女達のPAをさせてもらう体験があったんですけど、卓をいじりながらもノグチさんの演奏ばかり気になっちゃって。そのライブが終わった後、一緒に行った友達に「私、あっち側に行きたい」って言いました。

何故そんなに見入ったんですか?

ひとみ(Vo&G):

のぐちさんは自分のことを、歌で表現していたんです。MCは尖ってる感じがするのに、歌を歌い始めると本当に空気が変わるというか。歌を聴くだけでのぐちさんの全てがわかるような表現をされていて、それが凄くカッコ良いいと思いました。私は自分の思ったこと素直に言うタイプじゃないけど、歌にすれば言い訳にできるというか、本当はこう思っているんだよって言えるのが、自分にとっての歌だと思います。

ちなみにドリカムからはどんな影響を受けていますか。

ひとみ(Vo&G):

母がドリカムを好きでよく流れていて、幼い頃から聴いていました。特に「大阪LOVER」が好きで、子供の頃は良い曲だな、くらいにしか思わなかったんですけど。大人なって聴くと、あれだけリアルな言葉でみんなが共感できる歌詞を書けるのは、本当に凄いなって思いました。歌詞ってリアルにすればするほど、共感できる人は減っていくじゃないですか。

抽象的な方が、多くの人が自分を重ねることができますよね。

ひとみ(Vo&G):

そうなんです。でも、ドリカムの「大阪LOVER」はリアルなのに共感できる歌になっていて、私もそういう歌詞を書きたいと思っています。

たなぱいさんはどうですか?

たなぱい(Dr):

影響を受けた音楽は歌ものとインストでそれぞれひとつずつあり、歌で影響を受けたのがRADWIMPSです。バンドサウンドに出会うきっかけをくれたのがRADWIMPSで、初めて聴いた時は凄く衝撃的でした。野田洋次郎さんが書く、直接は言わないけど匂わせてくる歌詞が凄いと思います。あたらよでもひとみの書く歌詞が好きで、ドラムを叩いてる時に一番意識しているのがボーカルですね。そういうところに影響があるのかなって思います。

もうひとつは?

たなぱい(Dr):

スナーキー・パピー(Snarky Puppy)っていう海外のアーティスト集団みたいなバンドがいて、彼らの曲を聴いてアレンジの面でインスパイアされました。スナーキー・パピーはジャズもポップもレゲエもやるし、いろんな音楽性を持っていて、それをひとつの曲に凝縮するようなバンドなんですよね。それを聴いた時、何やってもいいんだって思えて、僕にとって新しい切り替えのタイミングになりました。

丁寧に作り上げた1曲

皆さんはどのようにして出会ったんですか?

たなぱい(Dr):

同じ専門学校に通っていました。

なるほど。バンドを結成した理由は?

たなぱい(Dr):

あたらよを組む前はそれぞれの活動をしていたんですけど、俺とまーしーが居酒屋で飲んでいる時に、ひとみがSNSに「10月無口な君を忘れる」の弾き語りを載せたんです。それ聴いた時に、これをバンドアレンジしたら凄く良くなるって確信したんですよね。切なさの塊のような、こんなに熱い恋愛の曲をバンドで固めたらどうなるだろうって、その場でまーしーに話して。やるしかなくね?ってなり、お代だけ払ってすぐお店を出てひとみに連絡しました。

まーしーさんにも響くものがあったんですね?

まーしー(G):

自分が隣でやるのが見える音楽っていうか、これをやりたいって思いました。それですぐ電話繋げた感じですね。

たなぱい(Dr):

この女をひとりにしておくのはもったいない、みたいな。

(笑)。でも、急にかかってきたらびっくりしますね。

ひとみ(Vo&G):

その時別の用事で出掛けてて、花火を見てたんですよ。で、急に電話かかってきたんですけど、酔っ払ってるから何言っているかもわからなかったんですけど(笑)。そこで超良いからバンドやろうよって言われました。

すぐに快諾したんですか?

ひとみ(Vo&G):

その頃私はいくつかのバンドを組んでいたんですけど、どれも自分の理想としているものとは違くて。自分はバンドじゃないのかなって思い、ちょうどひとりで活動し始めようとしていた頃だったんですよね。なので誘われた時には、正直否定的な気持ちはありました。でも、ふたりの熱意が凄くて、絶対良いものになるって言ってくれたから。こんなに言ってくれるんだったらやってみようかなって思い、このメンバーでバンドを組みました。

ベースにたけおさんを誘ったのはどんな理由からですか?

まーしー(G):

なんと言うか、癖が強い人が多かったんですよ。ベーシストに関しては、ひとみの歌に対してどんなアプローチをしてくるのか見ていったんですけど、これは違うなって思うことが結構あって。たけおはシンプルだけど出るところ出るタイプなので、それがハマった感じですね。何回かお試しでやってもらった後、バンドに入ってもらいました。

弾き語りの曲をバンドにする時、どんな風にアレンジを決めていきましたか。

まーしー(G):

言い方は悪いかもしれないですけど、邪魔をしたくないって思いました。まずは歌を目立たせることを一番に考えて、その中でどう自分達の音を出すかっていう発想でアレンジしました。

ひとみさんは自分の曲がバンドになることで、どんなことを感じました?

ひとみ(Vo&G):

まーしーは元々うるさい音楽をやってたので、最初に誘われた時は「まーしーが私の曲のギターを弾く?」って思ったんですけど。実際合わせてみたらギャップが面白いなって思いました。普通の人だったら、私に寄せるじゃないですか?

そうですね。

ひとみ(Vo&G):

そういう音作りをしてくると思ったら、まーしーは良い意味でうるさいギターのままで(笑)。歌とのギャップが良いアクセントになりますし、私の学年では歌えるギタリストが珍しかったので、曲に幅が生まれるのを感じました。

居酒屋から電話して、結成したのはいつ頃のことですか?

ひとみ(Vo&G):

一昨年の夏前ですね。

じゃあ、リリースまで1年以上空いたんですね。

たなぱい(Dr):

「10月無口な君を忘れる」って曲は、学内オーディションのために作った曲なんです。

ああ、なるほど。

まーしー(G):

オーディションの時は最後くらい名前残すかって感じで、かなり本気でしたね。

たなぱい(Dr):

なのでその1曲を丁寧に作っていって、それをオーディションに出したらある程度点数いただけたんですけど。その後コロナの期間に入ってしまい、しばらく会えない時間ができてしまって。このまま流すのももったいないし、何かやろうよって言ってMVを撮って今に至ります。

良くも悪くも、一旦ストップする期間があったということですね。

たなぱい(Dr):

空白の期間は長かったです。一瞬コロナで消えちゃった感がありました。

ひとみ(Vo&G):

コロナもあったし、私は卒業してから一回就職したんです。その仕事の関係で神奈川に住んでいたので、なかなかスタジオにも行けないし、仕事が忙しくて曲も作れなくなっていて。バンドも動いてない時期がありました。

どこでもう1回火が着いたんですか?

ひとみ(Vo&G):

夜お酒を飲みながらTikTokをスクロールしていた時、「10月無口な君を忘れる」のMVを撮ってくれた監督さん(サカグチヤマト)のアカウントを見て。その瞬間に自分の曲とリンクするのを感じたというか、この人にMVを撮ってもらったら良い感じになるだろうなって思ったんですよね。それでMV撮らない?ってみんなにいきなりLINEしました。

たなぱい(Dr):

きたー!って思いましたね。

まーしー(G):

でも、あの時ひとみ酔っ払ってたよね。

酔っ払わないと動けない人達なんですか?(笑)。

ひとみ(Vo&G):

(笑)。

たなぱい(Dr):

酒の力を借りたところはありますね(笑)。

嘘と真実を折り混ぜた歌

そのMVが11月末に発表されて、結果的には凄い反響を呼んでいます。

たなぱい(Dr):

最初は1万回くらいで喜んでいたのに。

まーしー(G):

今はその700倍(4月前半、取材時点)だもんね?

実感として、どこら辺から広まっていった感覚がありますか。

まーしー(G):

ひとみがTikTokをやっていて、そのおかげで広まりやすかったのかなって思います。元々ひとみのファンが結構いたんですよ。

ひとみ(Vo&G):

バンドで曲を出しますって告知をしたら、待っててくれるリスナーさんがいてくれて。動画を上げた瞬間に視聴数が上がると、おすすめとかに乗りやすいみたいでそこから広まっていきました。

@tommy_0124

そろそろ皆さんに良いお知らせができる日が近づいてます。たくさん聴いてあげてください#オリジナル楽曲 #あたらよ #10月無口な君を忘れる #おすすめにのりたい

♬ 10月無口な君を忘れる – Tommy(あたらよ)

冒頭の《おはよ。朝だよ》という言葉から始まる語りが、曲の風景を知らせる導入のような役割になっていて、それが人を惹きつけたところもあるのかなと思います。

ひとみ(Vo&G):

コードを鳴らしながら歌っている内に詞とメロディが出てくるので、そこで出てきた良いものを組み合わせて作っていくんですけど。「10月無口な君を忘れる」を作った時は、たまたまコードを弾きながら喋ってたんですよ。端から見ると様子のおかしい人ですけど(笑)、喋っている内にこれは意外と面白いかもって思って。歌詞もセリフみたいにしているので、敢えてメロディを乗せずにそのままセリフ調でいこうと思いました。

ちょっとしたアイデアが、曲をより良いものにしていますね。

まーしー(G):

僕も新しさを感じました。

ひとみ(Vo&G):

専門学校のようにみんなが音楽を発信している環境にいると、違うことをしたくなるんですよね。

なるほど。

ひとみ(Vo&G):

ちなみに最初のセリフの部分は、その後1回録り直しています。私が気分屋なもので、一言増えましたね。

まーしー(G):

でも、それも相まってMVと音源の両方を聴いてくれる人が増えたのかなって思います。

歌詞はセリフ調でもあり、聴いていると曲の登場人物や物語が浮かんでくる構成になっていますね。リアリティもあるんだけど、物語調の曲でもあるという。

ひとみ(Vo&G):

嘘をつく時って、若干真実を混ぜた方が現実味が帯びてきて、バレなくなるじゃないですか。それと同じ要領で、全部架空のことを書くのではなく、多少自分の実体験や見てきた風景、言われた言葉を少しづつ入れています。そうやってリアルを混ぜることで曲が活きるのかなと思って書いていますね。

どっちの塩梅が多いんですか?

ひとみ(Vo&G):

それは曲によりますが…「10月無口な君を忘れる」は、リアルが多いと思います(笑)。激病みしてた時の曲で、病むと曲がいっぱいできるんですよね。

まーしー(G):

そうなると本当に嬉しいです。

ひとみ(Vo&G):

この人達、人が病んでいるところをニヤニヤして見ているんですよ。

(笑)。そういう体験を曲にしたい性があるんですかね?

ひとみ(Vo&G):

たぶん、自分の中だけで抱えていても行き場がないからですね。私は何かを考えてるのが好きで、あんまりボケっとしてることがないんですよ。いつも何かを考えていて、私にはその考えていることを吐き出す方法があったので、それを歌にしているのかな。歌の方が言いたいことを言えるし、ストレス発散みたいなものです。

それで成仏している感じがあるんですかね?

ひとみ(Vo&G):

そうですね(笑)。成仏されてます。だから共感してほしいって気持ちは全然ないです。大体誰かひとりを思い浮かべながら作るんですけど、その人が聴いて、お?ってなってくれればいいかなってくらいの気持ちで作っています。聴いてくれた人みんなにお?って思ってほしいのではなく、誰かひとりに向けて作っている感覚がありますね。

それが結果的に沢山の人の共感を呼んでいますね。

たなぱい(Dr):

誰かのためではなく、自分のために歌っている方が、聴いてる人も自分に照らし合わせやすいんじゃないかなと思います。

もう次の曲は作っているんですか?

ひとみ(Vo&G):

作っています。まーしーが作曲した曲もいくつかあって、彼が作るデモと私が作るデモにはギャップがあるので、自然と歌詞の雰囲気も変わっています。

バリエーションが出てきているんですね。まーしーさんは今音楽面で意識していることはありますか?

まーしー(G):

これからライブをやっていくことを考えると、ノレる曲が1、2曲欲しいかなって思います。

なるほど。

たなぱい(Dr):

僕はとにかく生のライブをやりたいです。あたらよはオーディションをやってからまだ一度もライブをやってないんですよ。

え?

ひとみ(Vo&G):

そう言えばそうだね。学外の人は私達の生演奏を聴いたことがないです(笑)。

夢があるというか、それでバズが起きるっていうのも凄いですね。あたらよでどんな活動をしていきたいですか?

たなぱい(Dr):

僕はとにかく大きいステージに立てることを夢見てます。それは特定の場所を考えているわけではなく、全国を回りたいですね。あたらよはメンバーの仲も良いので、全国を回って美味しいのを食べて、良い音楽やっていきたいと思います。

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