自然派シティポップ・ユニット、KOMONO LAKE。異色のキャリアを持つシンガー、プロデューサーの化学反応を紐解く

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第56回目はKOMONO LAKEが登場。

ロンドン出身のプロデューサー・SKYTOPIAとシンガー・Kanbinによる新ユニット、KOMONO LAKEが1st EP『LAKE』を5月12日にリリースした。

小林泉美とHolger Hillerを両親に持つSKYTOPIAは、元Kero Kero Bonito(ケロ・ケロ・ボニト)のメンバーであり、SSW・Ken Kobayashiとしても活動。SKYTOPIA名義ではFrasco、篠田美月、Emi Satelliteらとコラボを果たすなど、異色の経歴の持ち主だ。

一方、Kanbinはイラストレーター/木工作家としての側面も持つ、こちらも一風変わったシンガー。

今回のインタビューではふたりのこれまでの道のりからKOMONO LAKE始動の経緯、1st EPの制作背景まで、じっくりと語ってもらった。

<シャンソン・コンクール>優勝を経ての再会

Ken Kobayashi名義の楽曲がおふたりの初めてのコラボだと思いますが、そもそもの出会いはいつ頃だったのでしょうか。
Kanbin

Kanbin:

中学生くらいの頃にベルリンに住んでいたのですが、そのときに向こうの日本人コミュニティを通じて知り合いました。年齢が少し離れているので、最初は知り合いのお兄さんという感じでした。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

(ドイツの)デュッセルドルフなどと比べて、ベルリンは日本人があまり多くない街なんです。日本人コミュニティも小さいので、必然的にみんな知り合いになるというか。僕はKanbinのお姉さんと仲が良くて、最初は友人の妹という感じでした。

Kanbin

Kanbin:

その後、私は日本に帰国したのですが、大学3年生のときに<シャンソン・コンクール>で優勝して。その優勝賞品がパリ行きの航空券で。パリに行くついでにロンドンにも寄って、そこで当時ロンドンに住んでいたKenくんと再会しました。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

ロンドンで再会したときに、コンクールで優勝したことを聞いたのと、Kanbinが当時の僕の作品を「好きだ」って言ってくれたことも嬉しくて、一緒に曲を作ってみない? って提案しました。それでできたのがKen Kobayashi x Kanade名義でリリースした「アカイソラ」と「ハグ」の2曲です。それぞれ「アカイソラ」は僕が、「ハグ」はKanbinがメイン・ボーカルを担当しているのですが、そのときに、Kanbinがメイン・ボーカルの曲をもっと作りたいって思いました。

Kanbinさんのルーツについて教えて下さい。シャンソン・コンクールに出場したのは、そういったフランスの音楽に触れていたからなのでしょうか。
Kanbin

Kanbin:

いえ、実は全然そんなことはなくて。ただ歌が好きだったからという理由で応募しただけなんです(笑)。<シャンソン・コンクール>と銘打ってはあるんですが、フランス語のポップスだったらOKみたいな感じのコンクールだったので。

なるほど。
Kanbin

Kanbin:

本格的に歌と向き合い始めたのはKenくんに会ってからなのですが、中学時代はミュージカルのクラブに入っていたり、高校でゴスペルを習ったり。小さい頃から音楽に触れる機会は多かったですね。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

一緒に曲を作ろうってなってから、少し音楽の話もしたよね。Dent May(デント・メイ)とか聴いてるって言ってたかな。僕もその当時ははっぴいえんどとか、少しアコースティック寄りの音楽をよく聴いていて。

Kanbin

Kanbin:

うん、覚えてる。

では、SKYTOPIAさんのルーツについても教えてもらえますか?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

昔からいろいろな音楽を聴いてきたのですが、なかでも大きかったのは、90年代のイギリスで流行っていたようなエレクトロニック・ミュージック。The Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)やThe Prodigy(プロディジー)といったビッグビートとも呼ばれるサウンドにすごく魅了されました。その後、ロンドンの知り合いに教えてもらった日本の音楽――NUMBER GIRLやくるりなどを通して、ギター中心の音楽にハマりました。あとはStereolab(ステレオラブ)やThe Apples in Stereo(アップルズ・イン・ステレオ)といった欧米のインディ・ミュージックに影響を受けて、Ken Kobayashiとしての活動をスタートさせました。

Ken Kobayashi名義での活動をスタートさせた経緯というのは?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

僕はロンドンで育ちながらも、日本人学校に通っていて。学校では日本語、外では英語で生活していたんです。なんというか、当時は自分の居場所を常に探しているような感覚があって。後から振り返ると、自分の音楽プロジェクトをスタートさせたのは、そういった居場所を見つけるためだったのかなって思いますね。

ちなみに、SKYTOPIAさんのご両親は共に音楽家ですよね。そこからの影響というのは?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

めちゃめちゃ大きいです。それこそ家にはレコードやCDがたくさんあったので、音楽好きになったのも親の影響だと思います。父はジャーマン・ニューウェーブのアーティストなんですけど、The Velvet Underground(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)が大好きで。当時、彼らがいかにオルタナティブな存在だったのかを散々聞かされました(笑)。
一方で母はEarth, Wind & Fire(アース・ウィンド・アンド・ファイアー)など、ソウルフルでグルービーな音楽が大好きで。「勉強できなくてもいいからリズム感だけは大事にして」と言われながら育ちました(笑)。

すごいご家庭ですね(笑)。Ken Kobayashi名義ではオーガニックな質感のインディ・ロックやインディ・ポップを展開していましたが、その後日本に拠点を移してから始動させたSKYTOPIAでは、エレクトロニックな方向性へと舵を切りました。このときの変化について教えてもらえますか。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

Kero Kero Bonitoとの出会いが大きいです。僕はシンガーのSarah(Midori Perry)と同じ時期に参加していたのですが、メンバーのGus(Lobban)のプロデューサーとしての才能に影響を受けました。楽曲や作品に対するコンセプトなどを緻密に構成していったり、自身はあまり前には出ないのですが、バンドやシンガーのことを考えて動く。
今でこそ「プロデューサー」という肩書きや立場が市民権を得ていると思うのですが、当時はまだ少し珍しかった。でも、「これだ!」って思ったので、SSWを辞めてエレクトロニック・ミュージックを作るプロデューサーになろうと思いました。

拠点を日本に移したのには何かきっかけが?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

その頃、音楽活動と掛け持ちしていた仕事が忙しくなってしまい、Kero Kero Bonitoも辞めることになりました。ただ、当時からSeihoさんやハレトキドキとして活動しているbrinqさんなど、日本のシーンに興味を持っていて。加えて、自分の年齢的にも大きな変化を起こすなら今だなと思って、決意しました。

自然派シティポップ・ユニット誕生

KanbinさんとはSKYTOPIA名義の作品でも数曲でコラボしています。そこからさらにKOMONO LAKEというプロジェクトを立ち上げることになったわけですが、“自然派シティポップ”というコンセプトが生まれてきた背景も含め、そこにはどのような考えがあったのでしょうか。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

SKYTOPIAとして作品に参加してもらったときはあくまでフィーチャリングという形で、Kanbinの魅力が出し切れていないように感じたんです。元々彼女のバックボーンにあったのはエレクトロニックな音楽ではなかったですし、もっと彼女自身の個性を反映した作品を作るためには、SKYTOPIAという枠組みを外した方がいいんじゃないかなと。

なるほど。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

それ以前にも雑談のなかで「バンド組もうよ」とか「ユニットやらない?」っていう話はしていたんです。それを実行に移したのは、SKYTOPIA名義の「House Party (feat. Kanade)」などがテレビで使われたり、ストリーミングでも好調だったことがきっかけですね。やっぱり僕とKanbinのタッグは相性が良いんじゃないかって思ったんです。

Kanbinさんのパーソナリティに寄り添うことで、KOMONO LAKEというユニットのコンセプトが見えてきたということですよね。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

はい。もっとオーガニックな世界観のサウンドにしようと。個人的にMura Masa(ムラ・マサ)というプロデューサーが大好きなのですが、彼はエレクトロニックなサウンドの中にも、生楽器のサンプルや歪な音を効果的に取り入れていて。テイストは違うかもしれませんが、そういった点は参考にしているつもりです。
あと、当時Kanbinは高知の山奥に住んでいて。僕も1回遊びに行ったのですが、そのときの自然の景色が印象的で。徐々にアイディアが固まっていきました。

Kanbin

Kanbin:

私は木工作家としても活動していて、そのときは高知の工房で制作しながら暮らしていたんです。

まさしく“自然派シティポップ”だと。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

ただ、最終的に“自然派シティポップ”という言葉を提案してくれたのはFrascoのシンヤさんなんです(笑)。今お話したような内容を伝えてみたら、「それはもう“自然派シティポップ”でしょ」って言ってくれて。2人ともすごくしっくりきたので、その言葉を使わせてもらうことにしました。

Kanbinさんはこれまでのフィーチャリングやコラボという形ではなく、ユニットとして活動していくにあたって、自身の心境や意識の変化を感じていますか?
Kanbin

Kanbin:

これまでと比べて、より自分の意見を言うようになりました。ただ、音楽面に関してはまだまだKenくんに引っ張ってもらっていますし、私が歌う場を創ってもらっているという感覚は今もあります。歌詞も最初は自分で書く気はなかったんですけど、「やってみれば?」って勧めてくれて。そうやって新しいことに挑戦する機会をもらえるのはありがたいですね。

では、SKYTOPIAさんはKanbinさんの歌詞やボーカルなどに対してどう感じていますか?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

とてもポジティブに受け取っています。特に歌詞に関しては、Kanbinの言葉遣いがすごく特徴的で。どういうところから影響を受けているのか、僕も聞きたいなって思ってたんですよね(笑)。
「MIRROR」の《ガラスの向こうの空》とか、「SEEDS」の《太陽の輪を求め/指を伸ばす》など、少し変わった表現をするなと。

Kanbin

Kanbin:

影響元なのかどうかはわからないんですけど、私は安部公房が大好きで。普段は使わない言葉の組み合わせだったり、現実味があるんだけど絶対にあり得ない世界だったり、そういうものに惹かれがちだということは自覚しています。「MIRROR」の《まっすぐに曲がって》といった一節とかは、まさにそういう影響が色濃く出ているんじゃないかなと。

曲や歌詞のテーマはどのように話し合っているのでしょうか。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

あまりじっくりと話し合うということはしてないですね。ただ、1st EPは“自然”をテーマにしようというのは最初から決めていました。

Kanbin

Kanbin:

私はトラックをもらって、それを聴いたときのイメージと、その時々の自分の状況だったり感情だったりを組み合わせていく感じです。あと、昔から付けている夢日記や、何か感じたり思ったときに書いているiPhoneのメモから言葉を持ってくることもあります。何しろ歌詞を書くのは初めてだったので、色々なところから引っ張ってきました。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

「MIRROR」の《おもわく霧の中》っていう部分もおもしろいなと思った。「おもわく」っていう言葉の使い方としては、少し変わってるよね。

Kanbin

Kanbin:

これは高知に住んでいたときに、毎日のように会っていたおじさんがいて。彼の「おもわく」という言葉の使い方が独特だったんです。方言なのかわからないんですけど、「おもわく上手くいったな」みたいな感じで使うんです。「案外」とか「意外に」って意味なんですかね。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

《黒い山の稜線》もすごく好きだな。

Kanbin

Kanbin:

高知の日が昇る頃の山を見たまま表しています。

「MOUNTAIN MAN」のみ英詞ですが、この楽曲はどのようにして生まれたのでしょうか。
Kanbin

Kanbin:

あの曲はKen Kobayashi時代の楽曲なんです。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

そう、実はカバーなんです。

Kanbin

Kanbin:

KOMONO LAKEをスタートさせるってなったときに、私から「あの曲をやりたい」って言ったんです。昔から大好きな1曲だったんです。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

『Maps & Gaps』(2013年)というアルバムの収録曲なのですが、作品の中でも少し浮いていた曲で。アルバム自体は、自分の中の地図には隙間があって、それを埋める、つまりは自分の居場所を探すようなことをテーマとした作品だったんです。それなのに、1曲だけ山に住む仙人みたいな人を題材にした曲を入れていた。おもしろいですよね、もしかしたらこのプロジェクトのために生まれてきた曲だったのかもしれない(笑)。

ハイブリッドなサウンド

サウンド面についても教えてください。KOMONO LAKEとして意識している、もしくは志向しているサウンドというのは?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

意識しているサウンドのひとつとして、グルービーなソウル/R&Bが挙げられます。世界ではもちろん、ここ日本でもSIRUPさんやiriさん、藤井風さんなどのアーティストが体現しているようなサウンド。そういうスタイルをずっとやりたいという気持ちはずっとあったのですが、SKYTOPIA名義でそれをやるのは何か違うかもなと考えていて。KOMONO LAKEの構想が浮かんできたときに、この機会にトライしてみようと思って。

なるほど。確かにサウンド面では今挙げてくれたアーティストさんたちとリンクする部分もありつつも、Kanbinさんのボーカルやメロディが入ることによって、ソウルやR&Bとは絶妙に距離を置いた作風になっているのがおもしろいなと。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

つまり、僕とKanbinのハイブリットなんですよね。なんとなく目指している方向性はありつつも、ふたりがこれまでに聴いてきた色々な音楽が出てしまうというか。それは今後も失いたくないポイントですね。

SKYTOPIA名義での作品に比べ、KOMONO LAKEのトラックは全体的にどこか重心が低い印象を受けます。「LIGHTS」のようにミニマムな構成も新鮮です。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

SKYTOPIA名義のときは、プロデューサーとして認められたいという思いがあって、そうすると自ずとトラックにこだわり過ぎてしまう。結果、音を足してしまうことが多くて。KOMONO LAKEではKanbinのボーカルという素晴らしい素材があるので、自分は一歩引いても成立する。そういう意識の違いが表れているんだと思います。

シングルの連続リリース、そして1st EP『LAKE』を発表しての手応えはいかがでしょうか。
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

SKYTOPIAのときよりも幅広い人に聴いてもらえたり、反応してもらえている印象です。SKYTOPIAの作品は主にエレクトロニック/クラブ・ミュージック好きな人に受け入れられていたと思うのですが、その幅が広がったというか。それはプロデューサーとしてというより、ソングライターとして嬉しいです。

Kanbin

Kanbin:

私はKenくんと違って音楽に詳しい人に囲まれているわけではないのですが、それでも身近な友達が聴いてくれて、「よかったよ」とか「声がいいね」って言ってくれるのがすごく嬉しいです。でも、だからこそもっと多くの人に聴いてもらいたいなって思うようになりました。

今後の展望は見えてきていますか?
SKYTOPIA

SKYTOPIA:

自然というテーマからの進化も見せつつ、そこから派生した新たな世界観を作っていけたらなと考えています。

Kanbin

Kanbin:

私も今は東京に戻ってきましたし、元々都会も自然も両方大好きなので、その両方を表現していきたいですね。1st EPは自然寄りだったけど、次はもうちょっとシティ寄りになるのかなと。それこそ“自然派シティポップ”を掲げているわけですし。

SKYTOPIA

SKYTOPIA:

今作っている新曲は、確かにちょっと都会感あるよね。今後の音楽性に関しては色々と考えているところで、この前もKanbinと音楽仲間たちでいろんな音楽を聴く会を開いたりして、色々とインプットしています。
あと、今年1月からのシングルの連続リリースを続けて、季節に沿った作品をリリースできたことが嬉しくて。僕らは放っとくと内に籠りがちなタイプなのですが、今後も意識的に外の世界とリンクした作品を発表していきたいです。

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