日陰に立つアーティスト、ALFRDが音楽を作り続ける理由

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第70回目はALFRDが登場。

SSW・ALFRDがニュー・シングル「Mycotrophs」を12月19日にリリースした。

1996年生まれ、東京出身、インディ・レーベル〈makran〉に所属するALFRDは、トラップやダンス・ミュージック、エレクトロニカからアンビエントまでを横断する折衷的かつ独創性の高いサウンドと、ときにメロディアスに歌い、ときにはソリッドなラップ調のフロウまでを操る器用なアーティストだ。その多彩な表現方法と、それを体現するスキルは音楽だけに留まらず、執筆や映像演出など多岐にわたる。

2021年は年始に発表した2ndアルバム『47TB20』に始まり、3曲で構成されたEP『The Story Of A Youth』、そして2曲のシングル「in the deep end」「Mycotrophs」とコンスタントに作品を発表。寡黙ながらも発信し続けるALFRDに、その制作の裏側を訊いた。

自身とリンクした青春群像劇――『The Story Of A Youth』

―今年5月にリリースされた『The Story Of A Youth』は、一人の青年の青春、堕落、そして破滅までを3つの連作で描いた短編的作品集となっています。この作品の構想はどのようにして生まれたのでしょうか。

もともと僕の制作の方法として、架空の人物を頭で思い描いて、その人がどういうことを考え、どういう風に生きてるかなど、物語を考えていくことが多いんです。ただ、あくまでも僕の頭から出てくるものなので、どこか自分に近かったり、自分に通ずる部分はあるはずで。『The Story Of A Youth』では学生時代の体験――恋愛をしたり、ハメを外して遊んだりした記憶を投影した物語を、数曲にわたって描こうと思いました。

―そういったアイディアは2ndアルバム『47TB20』リリース以降に浮かんだのでしょうか。

曲自体ができたのは結構前で、特に「Blue」という曲は2年前くらいには出来上がっていました。当時はプロデューサーのRyuuta Takakiからトラックをもらって、そこにアプローチするという方法で楽曲を制作していたんですけど、思いつきで2つのトラックをDTM上に並べてみたらたまたまBPMが一緒だったんです。コードもキーも違うけど、途中でビート・スイッチして、1曲の中でガラッと曲調が変わったらおもしろいなと。そのときは連作の構想などはなかったのですが、しばらくしたら、ふと「Blue」の主人公のことをもっと描きたいなと思って。それで同じ物語の延長線上で書いたのが「Underworld」。そして、その2曲の物語を補強するようなイメージで、最後に「Beautiful」を作りました。ざっくりと説明すると、好きな女の子と付き合うことができて幸せいっぱいのところから、振られてしまい自暴自棄になって夜の街に繰り出す。そして彼女のために取った運転免許で車を駆って、高速道路を爆走する……。そんな構成になっています。

―2年前にできていた「Blue」を、さらに膨らませようと思ったのは何かきっかけなどがああったのでしょうか。

具体的なことは考えていませんでしたが、この1曲だけで終わらせるのはもったいないかもとは感じていました。彼のこれからと、それ以前のストーリーが個人的にも気になっていたというか。少し経ってから、久しぶりに彼の様子を覗いてみようかなっていう感じで、もう一度掘り起こしたっていう感じですね。

―それだけ思い入れのある作品だったと。

そうですね。この作品を作っているときに髪を短くしたんですけど、それもこの作品の影響で。僕はめんどくさがりで、美容院に頻繁に行かなくてもいい髪型ということでロン毛にしていたんですけど、この作品に着手しているときに「もうちょっと若くありたい」と思って。だったら髪型もめんどくさがらずに、昔やっていたようなスタイルに戻してみようと。収録曲には自分の過去の心情も投影されていますし、自分と強くリンクした作品に仕上がった感覚があります。

―サウンド面でいうと「Beautiful」では、初のバンド・サウンドを取り入れていますよね。

ここまで大胆にギターを取り入れたのは確かに初めてでした。プロデューサーとはよく「やったことないからやってみよう」という話になるんですけど、このアイディアに関してもそうで。あとは若さゆえの勢いを出したかったという狙いもあります。

得意とするコンセプト作品と『47TB』シリーズの違い

―ちなみに、ひとつのストーリーを数曲に分けて描くというのは、これまでにも行っていたことなのでしょうか。

はい。実は1stアルバム(『ALFRD』)も作品全体で一遍の物語を描いていて。アルバムの最後に位置する「孤独の星」という曲が一番最初にできて、この曲がエンドロールに流れる映画のような作品にしようと思い、膨らませていきました。そのときは安部公房の小説をたくさん読んでいたのと、同時期にスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』が50周年記念ということで映画館で上映されていて、それを観たときに宇宙を舞台にした物語をアルバム通して描くというアイディアが生まれました。

それまではどちらかというとヒューマン・ドラマなどに分類される映画が好きだったのですが、『2001年宇宙の旅』で価値観をガラッと塗り替えられて。宇宙を強く意識するようにもなりました。それからプラネタリウムにも足繁く通うようになって、そこで今のALFRDという名義の由来にもなった「孤独の星」と呼ばれる「アルファルド」という星を知って。

―なるほど。では、今年1月にリリースされた2ndアルバム『47TB20』はいかがでしょう?

『47TB20』は『ALFRD』とは違って、単発で作っていた曲を収録したコンピレーション的作品になります。今後も同様の作品をシリーズとして発表していきたいと思っていて、『47TB20』の“20”は2020年までの作品をまとめたという意味です。

―音楽に限らず、物語を自分の頭の中で創るということは昔から行っていたのでしょうか?

振り返ってみれば、小さい頃から好きなアニメや戦隊モノの世界観に自分が入り込むことを妄想していたように記憶しています。でも、自分でオリジナルの物語を書いたことはなくて、そういう意味では1stアルバムに添える形で発表した短編小説が初めてでした。ただ、昔から国語の成績はよくて、読書感想文や小論文なども得意でしたし、口喧嘩なども強くて(笑)。言葉を使ったり論理的な考え方が向いていたのかなって思います。

自分をさらけ出す、新たな制作方法

―制作方法が変化したことに際して、ご自身の作曲に対する意識は変わりましたか?

どちらにしても作曲という行為は、僕にとって逃避行動の一種だと思うんですけど、自分を出して書く方がより責任は感じます。自分をさらけ出すことに対しては、今でも恐れは感じているんですけど、僕が普段接する機会の多いラッパーの方々は、むしろ自分をさらけ出すことがスタンダートになっていますし、そういった作品の中には胸打たれるものも多くて。自分としても恐れずにチャレンジしてみようと。

―ラッパーのJuaさんを迎え入れた経緯というのは?

制作中から絶対にラッパーに参加してほしいと思っていて、プロデューサーと一緒に“セクシーなラッパー”を探していました。そこで共通の知り合いも多いJuaさんに辿り着いて。A.Y.Aさんや彼女の作品も手がけるKRICKなど、昔から親交のある面々とも繋がっていたんです。

―Juaさんにはフロウやリリックについて、どのようにお伝えしたのでしょうか。

Juaさんの曲の中で、テイストの近いものをお伝えして、あとはシンプルに「セクシーなラップをお願いします」と(笑)。最初はオファーに対してのお返事がくるのかと思いきや、いきなり素晴らしいラップを入れて送り返してくれました。

―リリックに関してはいかがでしょう。耽美的で、少し退廃的なムードも感じます。

トラックに引っ張れられた部分もあるんですけど、過去を振り返って実際の体験を元に描いています。

―12月19日にニュー・シングル「Mycotrophs」がリリースされました。こちらの楽曲に関しても、どのようにできた曲なのか教えてもらえますか?

プロデューサーからの助言で付けた「Mycotrophs」という曲名は、腐生植物(菌従属栄養植物)を意味する言葉で。そこに属する「ギンリョウソウ」という植物にシンパシーを感じたんです。日陰でしか生きられないし、緑の葉を持たず、茎も花も白く半透明で、「幽霊たけ」とも呼ばれているんです。僕も黒い服ばかりを着ていて、最近は常にマスクを付けているし、街を歩いていても誰からも認識されないんじゃないかっていう感覚になることがあって。そのときに、ふと恋人がいる人のことを好きになってしまった過去の記憶を思い出して、その2つがリンクしたんです。

―トラックに関してはいかがでしょうか。奥行きを感じさせる空間的な響きが印象的です。

最近はデモを自分で作って、それをプロデューサーに聴いてもらって、アレンジしてもらうという制作方法に変化してきていて。この曲は自分のデモ部分が結構多く採用されています。アンビエント的なトラックをより霞がかった感じにしてもらったというか。

「常に死を意識している」――作品を発表することの意味

―「孤独の星」から名付けたアーティスト名もそうですし、先ほどのギンリョウソウにシンパシーを感じた話だったり、孤独で日陰にいる感覚、存在を強く有していることがわかりました。そんなALFRDさんは今後、どのようなアーティストになりたいと考えていますか。

もちろんたくさんの人に自分の作品を聴いてほしいという気持ちはあるのですが、それ以上に過去の自分のように孤独であったり、疎外感を抱いているような人に届いて、同士だって思ってもらえるような存在になれたらなって思います。自分も暗闇にいるように感じていたときに、そういう仲間と思えるような存在にひとりでも多く出会えていたら、すごく救われただろうなって思うんです。……何か、そういう人がいたら会いに行きたいです。「わかるよ」って言ってあげたい(笑)。

―なるほど。では、創作ではなく自分の体験や感情を前面に出した作品を発表していくことについては、ご自身にとってどのような意味がある行為だと思いますか?

大学生のとき、入学して初めて喋ってくれた友人がバイクの事故で亡くなってしまって。それ以来、死がとても身近に感じられて、常に死を意識しているんです。自分もいつ終わりを迎えるかわからない。そして、本当の意味での死というのは、人々の記憶から忘れ去られてしまうときだと思うので、少なからず自分には音楽を作るスキルがあるのだから、できるだけ多く作品を生み出して、残しておきたい。日陰に隠れていたい性格ではあるけど、誰かの記憶には残っていたいのかもしませんね。……だから、大きい会場でライブしたいとか、有名な音楽番組に出たいとか、そういう野望は特にないんです。もちろん、機会があればやりたいですけど(笑)。

―最後に、今後予定していることなどがあれば教えて下さい。

今アルバムを制作中で、自分が作ったデモは全曲分できていて、これからプロデューサーと共にブラッシュアップする段階です。自分の生まれたところから、最期の日まで、ひとりの人間としての人生を書いていたら、10数曲できあがっていて。最後だけはフィクションなんですけど、登場人物は僕自身です。サウンド面ではこれまではある程度のリファレンスもあったし、クラブ鳴りのよさを意識したりもしていたんですけど、今はそういったことを全部取っ払って、ゼロからイチを作り出したいという気持ちが強くて。このアルバムにしかない音を作れたらなと思っています。

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