チャラン・ポ・ランタンが語る独立の背景。「やりたいことをやれるうちに」
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第76回目はチャラン・ポ・ランタンが登場。
2009年に姉の小春と妹のももにより結成されたチャラン・ポ・ランタンは、2019年に10周年を迎え、2021年には事務所からの独立を発表。2人が代表・副代表を務める合同会社・ゲシュタルト商会を立ち上げ、現在は完全インディペンデントな活動を展開している。
長年メジャー・レーベルで活動し、バルカン音楽やシャンソンなどをベースとした独自の音楽性、熱量の高いライブ・パフォーマンスで注目を集め、また2016年にはTBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のオープニング曲を担当したことでも話題を呼んだチャラン・ポ・ランタン。
3月16日には楽曲配信サービス『BIG UP!』を使用し、独立後初のシングル『リバイバル上映』を発表。今回のインタビューではそんなチャラン・ポ・ランタンのふたりに、独立の理由やそれ以降の活動について語ってもらった。
530人のアコーディオニスト爆誕
- 素敵な内装の事務所ですね。
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小春:
元々身内が所有していたギャラリー的なスペースだったんですけど、コロナ禍であまり使われなくなったので、私たちが使うことにしました。今日みたいな取材だったり、配信用の動画の撮影なども想定して作りました。
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もも:
色々な使い方ができる事務所がほしかったんです。独立したので、打ち合わせする場所もなくて。どうしようか? 家でする? みたいな(笑)。
- デザインもおふたりで考えて?
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小春:
ふたりで空間デザイナーさんに言いたい放題要望を投げまくって設計してもらいました。ただ、できる限りコストを抑えるために、木材部分の塗装など、できる部分は自分たちでやっています。
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もも:
スタッフと一緒にツナギ着て、脚立に乗って朝から作業したり。
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小春:
全国各地をツアーで飛び回るっていうのもすごく好きなことなんですけど、こうやってひとつ自分たちの場所を持つのもいいなって感じています。ゆくゆくはここで小規模のイベントも開催できたらいいなと考えています。
- チャラン・ポ・ランタンは昨年9月に独立し、合同会社ゲシュタルト商会を立ち上げました。こういった考えに至った理由や経緯を教えてもらえますか?
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小春:
2年前の春からコロナ禍になって暇な時間が増えたことで、改めて自分のこの先の人生について考えたんです。そこで感じたのは、やりたいことをやれるうちにやっておかないと絶対後悔するってこと。じゃないと先の未来はどうなるかわからないぞって。
それまでお世話になっていた事務所、レーベルには感謝しかないんです。ただ、どちらもとても大きい会社なので、自分たちが思いついたアイディアやプランを実現するときにすぐには動けなかったり、リスクがあることに対してはそもそも案が通らないこともあって。特にコロナ禍以降はそういったことを感じることが増えたんです。もちろん、大きい組織なので当然のことだとは思うんですけど。

- なるほど。
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小春:
あと、コロナ禍になってから『蛇腹談義』というYouTubeでの動画投稿を始めたんですけど、その企画を通してリスナーの方から「アコーディオンやってみたいけどどこで買ったらいいかわからない」とか「高過ぎて買えない」という声を多数頂きまして。
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もも:
今ってアコーディオン人口が減り続けていたり、工場もどんどんなくなっていて。アコーディオンという楽器を後世へと残していくためにはどうしたらいいんだろうっていうことは前から話していて。
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小春:
だったら自分たちで取り寄せて、販売してみようって思ったんです。実はこれは数年前から考えていたことでもあって。3年前には一度中国の工場にも下見に行っているんです。
ただ、やはり楽器を販売するということはすごくリスクのあることだし、事務所に所属している状態だと時間がかなり掛かってしまいそうだなと。Tシャツやタオルといったグッズとは違って在庫管理も大変だし、不良品があった場合の対応や責任の所在など、考えれば考えるほど動けなくなって。それなら、もう独立するしかないなと。
- 実際にオリジナル・アコーディオン「Bébé Medusa」を販売してみて、いかがでしたか?
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小春:
最初は50台くらい売れたらすごくない? って話してたんです。それが一晩で10倍以上の注文がきたので……どうですかと聞かれたらヤバいですとしか言えないです(笑)。
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もも:
それだけの注文をもらえたのはもちろん嬉しいんですけど、検品と発送作業がとにかく大変で。今もヒーヒー言いながらみんなでやっています。
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小春:
傷がないか確認して、磨いて、1音ずつ弾いてチェックして。何か問題があればリペアにも出します。あと、コストを抑えるために税関手続きからコンテナの手配まで自分たちでやっていて(笑)。工場の都合で4ヶ月に50台ほどしか生産できないので、この先1年半くらいは作業を続けることになりそうです。
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もも:
でも、未来のアコーディオニストが一晩で500人以上爆誕したって考えると、最高ですよね(笑)。

YouTube配信を通して広がった活動
- 今お話に出た『蛇腹談義』を始めとしたYouTubeでの配信企画もそうですし、宅録で制作したシングルの連続リリースなど、チャラン・ポ・ランタンはコロナ禍に入ってもアクティブに動いていた印象です。当時はどのような心境でしたか?
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もも:
それ以前は常に動いているのが当たり前で、毎日どこかしらの現場に行くような生活だったんです。それがパタッと止まって、1週間くらい家にいるのが続いたとき、「もう無理」「人前で歌いたい」って思いました。
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小春:
特にライブができないっていうことが、私たちにとってはすごく辛くて。
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もも:
そうそう。何かしら音楽活動をしていないとダメになると思って、色々なアイディアを前のマネージャーに伝えてみたんですけど、当時はコロナ禍になったばかりだったこともあり、なかなか動けず。だったら宅録で作品を作ってみようって。
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小春:
それまでは自分たちだけでレコーディングしたことがなかったんですけど、この機会に宅録環境を揃えて。
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もも:
小春ちゃんは行動力がすごいので、「宅録しよう」って言った翌日には機材を揃えて、めっちゃ勉強し始めて。
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小春:
それまでお世話になっていたエンジニアさんに教えてもらいながら、ミックスやマスタリングまである程度できるようになりました。
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もも:
大体いつもアイディアを言うのは私で、それを苦労しながら実現してくれるのが小春ちゃん。宅録のときもかなり大変そうでしたね。
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小春:
冷蔵庫のノイズを消すのに悪戦苦闘したり、ももから「もうちょっとボーカルをキラッとさせてほしい」とか言われて、「『キラッと』ってどういうことだよ」ってイライラしたり(笑)。
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もも:
宅録シングルをまとめた『こもりうた』というアルバムは制作した順番通りに曲が並んでるんですけど、1曲目と8曲目を聴き比べると、小春ちゃんの成長過程がよくわかると思います(笑)。
- それと並行して、YouTubeでの配信企画も自分たちでやられていたわけですよね。
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もも:
そうですね。私たちは動き続けていないとダメみたいで。結果、小春ちゃんがどんどんマルチ・クリエイターになっていくんです(笑)。
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小春:
映像編集も私なので(笑)。改めて振り返ってみると、『蛇腹談義』を始めたことは大きかったですね。アコーディオンを弾いたり解説したりする動画を上げていたら、色々な人が「YouTuberで小春ちゃんの話をしてる人がいる」って教えてくれて。それが瀬戸弘司さんだったんです。
- 著名なYouTuberさんですよね。
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小春:
失礼な話なんですけど、私はそれまで瀬戸さんのことを存じておらず…。でも、視聴者さんが盛り上がってくれたおかげもあってコラボ動画を撮影させてもらうことにもなり。瀬戸さんから私たちのことを知ってくれた方も多いと思います。
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もも:
小春ちゃんはいつもの調子で絡んでておもしろかったですね(笑)。
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小春:
あと、PCで宅録作業している様子も動画でUPしていたんですけど、そうしたらリスナーさんからアコーディオンの配列のMIDIキーボードがあることを教えてもらって。それを作った人と一緒にはんだごてをしに行く動画を撮ったり。
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もも:
チャラン・ポ・ランタンとは別に、蛇腹系YouTuberとしてどんどん羽ばたいていってるよね(笑)。
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小春:
ハハハ(笑)。他にも譜面を作成している様子を上げていたら、使ってた譜面ソフトを取り扱っている会社の方からコメントがきて、ソフトの便利な使い方を教えてもらったり。本当に、普通に活動していたらなかったような出会いがいくつもあって。
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もも:
2年前からは想像もできないような広がりを感じたよね。

独立後初のツアー、シングル配信
- 独立してからの苦労した点などを教えてもらえますか?
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もも:
苦労した点は……永遠に出てくるくらいありますね(笑)。独立して初めてのワンマンでは私が水を買って行ったんですけど、それも事前に注文しておくべきだったし、そもそも前の事務所は足元に転がらないように四角いペットボトルの水を用意してくれてて。そういう些細なことにひとつずつ気づいて、いかに素晴らしい環境に居たのかを改めて実感しました。
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小春:
初めて実家を出たときのような気持ちですね。最初はわからないことだらけで。ライブ後に残った物販の配送手配をしてなくて、車で会場と事務所を往復したり(笑)。
今でも前のスタッフさんとはよく連絡を取ったり、ご飯食べに行ったりして、色々なことを教えてもらっています
- ゲシュタルト商会における、おふたりの役割分担は?
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もも:
お金周りや事務関係は全部小春ちゃんが担当してくれてますね。
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小春:
ももは広報や営業みたいな感じです。こいつは本当に交友関係が広くて。ライブに向けてのリハスタを探すときも、「私、〇〇スタジオに知り合いいるよ」って言って、友人価格でスタジオを抑えてくれたり。私はそういう友人ネットワークは皆無に等しいので(笑)、すごく助かります。


- 3月16日には2曲入りのシングル『リバイバル上映』をリリースしました。今作の制作背景を教えて下さい。
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もも:
「リバイバル上映」はちょうど2年前に計画していた全国ツアーのタイトルで、そのツアーで初お披露目する予定の作品だったんです。でも、コロナで全公演流れてしまって。いつかちゃんとレコーディングして仕上げたいと考えていたので、<Re:リバイバル上映>と題した独立して初めてのツアーに向けて録音しました。
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小春:
正直な話、新たな門出を祝うような明るい曲ではないんです。歌詞を見て心配する方もいるかもしれないんですけど、もしこの作品に帯を付けることができるのなら、「いいえ大丈夫です。私は元気です」って書きたいです。これはあくまでも2年前に書いた曲なので(笑)。
- 差し支えなければ、この曲を書いたときの心境などを教えてもらえますか?
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小春:
全体的にそのままなんです。私、この曲のような状況になるとき、大体いつも同じような過ちを犯しているんです。毎回「今までの人生の中で一番悲惨だわ」って感じるんですけど、冷静に考えてみると「あれ、これ前にも見たことあるぞ」と。全員に同じようなことを言われるし、本当に再放送を観ているような感覚になるんですね。それは友人からも指摘されるんですけど。
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もも:
「また?」ってね(笑)。バンド・メンバーにこの曲を聴かせたとき、みんなクスって笑ってたよね。
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小春:
歌詞はストレートなんですけど、それをももがポップな曲調に乗せることで中和されるというか。私の思い出も報われる感じがするんですよね。これ、自分が弾き語りしたら「本当にあった怖い話」になっちゃうんで…。
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もも:
心配されたいわけじゃないもんね。
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小春:
そうそうおもしろい形で成仏させることができたらいいなって。
- サウンド面で意識したことは?
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もも:
踊れる感じにしたいって話してたよね。なんだかよくわからないけど楽しい、みたいな。
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小春:
ももからもいくつかリファレンスを投げてもらって、最終的にはエレクトロ・スウィングなテイストに仕上げました。こういったスタイルは元々私たちの得意分野でもあるので。
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もも:
この曲はボーカルとアコーディオンはスタジオでレコーディングして、それ以外の音は打ち込みなんですけど、宅録を経た小春ちゃんのスキルの上達が感じられるんじゃないかなと思います。
- カップリングの「隣の足元」は、タイトル通り他者のことが気になってしまう、羨んでしまうような気持ちが綴られたシンプルな1曲です。この主題はどのようにして生まれたのでしょうか?
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もも:
これまでの人生でもそうだし、SNSなどでも「こういう人、いるよね」って共感してもらえると思うんです。でも、この曲で描かれているような感情って、少なからず今の自分にもあると思うし、それを否定することもしたくなくて。そういった気持ちをバネに頑張ろうって気持ちが生まれることもありますし。
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小春:
こういった感情とは一生付き合っていくんだろうなって思うんですよね。この曲も起承転結がなくて、解決に導いたりはしない。ずっと平行線なんです。
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もも:
この曲は歌とアコーディオンだけのシンプルな構成なんですけど、この2人だけでできることを模索したというか。決してしっとり聴かせるだけの曲ではないです。
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小春:
アコーディオンもバリバリ弾いているんで、楽しみながら聴いてほしいですね。
- 今後の活動についても教えて下さい。まずは先ほどもお話に上がったツアーの開催が控えていますね。
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小春:
正直、自分たちでもよくやったなと思うくらいツアーを組むのが大変だったので、めちゃくちゃ気合いが入っています。
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もも:
衣装も2年前に用意していたものではなくて、新しいものを用意していますし、今までやったことのない仕掛けも計画しているので、絶対成功させたいです。
- 他にやってみたいこと、予定していることはありますか?
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もも:
個人的なことなんですけど、車の免許を取りたいです(笑)。私たち2人とも持ってなくて、仕事の面で結構不便を感じているので。
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小春:
これは昔から言っていることなんですけど、サーカス・テントでライブしたいんです。前までは自分たちでサーカス・テントを所有したいって考えていたんですけど、それは現実的ではないことがわかったので、日本各地のサーカス・テントを持っている人たちに、休演日に使用させてもらえないか交渉したいなと考えています。実はももが企画書を書けるようになったので、明るくプレゼンテーションしてもらおうかな!!
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もも:
あとはBébé Medusaを買ってくれた人たちを集めて、みんなで一斉に演奏してみたいよね。
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小春:
「イナバの物置」のCMみたいな写真撮りたい(笑)。
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もも:
こんな企画、誰もやったことないんじゃない? いつか武道館でのライブが実現したら、Bébé Medusaを持ってる人たちは全員持参してもらって、みんなで一緒に響かせたいね。
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小春:
無茶苦茶なこと言ってますけど、それを実現できるよう頑張ります!
