キューバ民謡から秩父のお祭りまで。CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINが異世界へ誘う音

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第108回目はCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINが登場。

小学校の幼馴染同士で結成され、都内の路上で夜な夜な曲を制作する不思議な動画がSNS上で話題のCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN(チョコパコチョコキンキン)。電子音楽に民族的な音楽要素を加えることによって生み出されるエキゾチックな世界観が、早耳のリスナーの間でじわじわと話題になっている3人組だ。

そんな彼らが、2023年7月19日に1st アルバム『tradition』をリリースした。今作は、以前よりSoundCloudやYouTubeにアップされていた楽曲をリマスタリングした作品集。彼らが抱く異郷への憧れや、音を楽しむ純粋な気持ちを映し出したような瑞々しい作品に仕上がっている。

今回はメンバー3人にインタビューを実施。中南米の音楽から秩父のお祭りまで、興味を惹かれる音楽的要素を柔軟に取り入れる制作スタイルから、アルバム制作時のエピソードまで存分に語ってもらった。

キューバの雰囲気は残しつつ、整っている音楽を作りたかった

まずは“CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN”というバンド名の由来をぜひお聞きしたいです。これは何か意味がある言葉の羅列なんですか?
Daido

Daido(作曲/映像):

キューバ民謡の基本的なリズムパターンの一つなんです。キューバのストリートで僕にコンガの叩き方を教えてくれたおじさんがいて。彼から最初に受けたレクチャーが、この“CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN”でした。

Daidoさんがキューバを訪れたのはどういった背景が?
Daido

Daido(作曲/映像):

映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』の影響ですね。サンテリアというキューバの宗教を研究したくて、大学の春休みを利用し、2021年の春に2ヶ月ほど滞在していました。帰国してからもしばらくはキューバの気分が残っていたタイミングでバンドが再結成した、と。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

バンド名としてはあまり深い意味もありません。でもバンドの音作りとして結成当初から意識しているのは、電子音楽と生音をミックスさせること。「電子音楽とパーカッションの生音が合わさったら面白いよね」という話はよくしています。

電子音楽とパーカッションの融合に惹かれる理由は?
Daido

Daido(作曲/映像):

電子音楽は好きなんですけど、どうしても「パソコン内部の世界の音」というイメージがあるんです。そこに生音のパーカッションを入れることで、外の世界と繋がれると考えました。それに、電子音って整頓されていて聴きやすい。キューバで触れてきた雰囲気は残しつつ、整っている音楽を作れないかな、と思いながら、バランスを追求しているところです。

先ほどDaidoさんからも“再結成”という言葉が出ましたが、そもそも3人が一緒に音楽をやるようになったきっかけを教えてください。
Daido

Daido(作曲/映像):

遡ると、現在チェコでバレエダンサーをやっている友達が起点にはなっています。その友達含め、4人とも小学校から一緒で。お互いの家も歩いて5分圏内だったんですよ。で、ダンサーのそいつがTHE BLUE HEARTSやTHE TIMERS、RCサクセションやMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)などを、小学校4年のときに僕らへ教えてくれたんです。
完成はしていないものの、その頃から曲は作っていました。ただ小学校5年生くらいのときに自然消滅して。しばらく時間が空き、2021年に再結成しました。

再結成に至った経緯は?
Yuta

Yuta(Ba):

2020年の8月頃、チェコのバレエ団に所属していたダンサーの彼が、コロナの影響で一時帰国したんです。それまではみんなバラバラのコミュニティで遊んでいたのですが、そいつが日本に戻ったことでまた遊ぶようになって。
そしてコロナが落ち着き、チェコのバレエ団に戻ることが決まった。フライトの前日に「最後に曲でも作ろう」と彼が言い出したことが全ての始まりでした。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

結局、その当人だけ来なかったんですけどね(笑)。せっかく集まったのに何もしないのももったいなくて、その日は3人だけで曲を作ったんです。ただ、それがすごく楽しくて。たまに真夜中に集合しては車の中で楽器を鳴らし、曲を作るようになりました。

その制作風景が、TikTok上でバズった「都内の路上にて曲を作る」動画なのですね。今でも車の中でレコーディングをしているんですか?
Daido

Daido(作曲/映像):

いや、僕だけ一時的に祖母の家に引っ越したことをきっかけにストップして。代わりに、誰かの家に集まってレコーディングや曲作りをするようになりました。

Yuta

Yuta(Ba):

制作環境もそうだけど、結成当初と比べると曲の作り方も全然変わったよね。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

最初に作った4〜5曲くらいまでは3人で集まって一斉に作業をし、解散する頃には1曲でき上がってる…みたいな制作スタイルでした。同時進行でズバズバやっていく感じでしたね。

寝て起きたら全く違う楽曲に。実験も含めた自由な音作り

現在はどのように曲を作っているんですか?
Daido

Daido(作曲/映像):

基本的にはデモが僕、展開のアレンジがYuta、ミックスがSoという役割分担があります。Yutaがアレンジを完成させたタイミングで、パーカッションの上手な友達やフルートの吹ける友達などに集まってもらい、デモの一部を生音に置き換えるんです。
そして、録音した音源を使ってSoがさらなるアレンジを加え、それぞれの音をパズルのように組み合わせていく…という流れが固定化しつつあります。

3人それぞれの手が加わることで曲が完成する、と。起点となるDaidoさんはどれくらいの完成度でYutaさんにバトンパスするんですか?
Daido

Daido(作曲/映像):

当初は余白を残していましたが、最近はかなりガッツリ作ってます。とにかく2人の審査を通したい一心で。

Yuta

Yuta(Ba):

全然厳しくないし、ゆるいけどね(笑)。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

ただDaidoは結構セオリー無視で、車の中で作業していたときもむちゃくちゃな構成を提案してくることがあります。面白い発想を持っているからこそ「複雑すぎて聴きにくい!」みたいな印象にはしたくなくて。Yutaがアレンジである程度整え、ミックスの段階でよりポップにしていく、という過程を経てリリースします。

異なる国の音楽をミックスさせた曲調がどのように生まれていくのかは興味深いです。例えば『tradition』に収録されている「秩父」などは、どうやってアイディアを膨らませていったのでしょうか。
Daido

Daido(作曲/映像):

秩父の有名なお祭りである『秩父夜祭』の動画を、ちょうどみんなで観ていたんですよ。「今年、行きたいね〜」って話をしているうちに、祭囃子のタッカタッカ跳ねている様子がブギウギっぽく聴こえてきて。
結果的にブギウギにはなっていないものの、実験を始めたら面白い曲になってきた、みたいな感じ。意識的にミックスさせるというよりも、興味や関心から派生することが多いです。

じゃあ、デモ制作時に聴いていた音楽を2人に共有することも?
Daido

Daido(作曲/映像):

あえて共有はせず、それぞれの解釈に委ねています。2人の想像に任せ、何が戻ってくるのかがすごく楽しみで。ちゃんと意図が伝わっていることもあれば、3人とも意味がわからないまま進むこともある。
想定していなかった新たな要素が混ざっていくこともあります。ただ、各々の解釈が違うせいで制作が難航する、といったことはあんまりないかもしれません。

Yuta

Yuta(Ba):

Daidoは結構「こういうことをやりたいんだ」がわかりやすいんですよね。楽しみながらやっているのがデモから伝わってくるし。だから、明らかに音同士がぶつかっているような箇所だけ修正するものの、大体はそのまま生かすことが多いです。

Daido

Daido(作曲/映像):

と言いながら、アレンジの段階で全く違う曲に生まれ変わっていることもある。音選びのセンスに驚きます。ただ、たまに忘れた頃にボールが返ってくることもあるという(笑)。自分が作ったデモとどこが違うのかもわからないまま「おー、良い感じになったなあ!」って。
ちなみに、リファレンスに関してはSoがときどき聞いてくることがあります。そういうときだけ「このときはこういう曲を聴いていたよ」と共有していますね。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

たしかに音色の理想や、考えの整合性を取りたいときだけ「どんな感じ?」って聞くかも。

整合性を取った結果、Soさんの予想はどれくらい的中するんですか?
So

So(サウンドエンジニア/DJ):

全然違うジャンルの音楽が好きだから、予想と違うことは結構多いです。例えば「Quarantine Mood」は最初に僕が戻したミックスと、Daidoのイメージがかなり乖離していたんですよ。ちょっとだけ揉めたよね。

Daido

Daido(作曲/映像):

「音が軽い」って伝えたら、逆に低音がビリビリ鳴ってるような強めのミックスになって返ってきたり(笑)。結果的に折衷案で、重くも軽くもない音に落ち着きました。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

2人の手が加わっているデモの時点で、7〜8割は完成されているんです。そのプロット通りに音を当てはめていくこともあれば、新たなエッセンスとして音を切り貼りすることもあります。俺の考えもあえて突っ込んでみたり。
生音と電子音をこうやって組み合わせていくことは、今まで俺自身がやってこなかったからこそ楽しいです。王道的なセオリーは一度無視して、楽しくミックスしています。

2人の斬新なアイディアを、最終的にポップへ引き上げようという思考に至った経緯は?
Yuta

Yuta(Ba):

自己満足の音楽で完結させたくないのは大きいと思います。おそらく3人に共通するのが、音楽を「人に聴かせたい」というよりも「エゴになるのが嫌」という気持ちなんですよね。

Daido

Daido(作曲/映像):

たしかに、自己満足な音楽で終わるのだけは避けたいなと常に思っていて。ちょっと恥ずかしさがあるんです。「15 Eunomia」は危なかったよね。15拍子で拍を取るのが難しいから、レコーディングも大変だったし。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

それで自己満足に陥りかけたぶん、一度は録るだけ録ってお蔵入りになったんです。でも俺が復活させたくなって(笑)。頑張って編曲し、聴きやすいラインまで到達したのが今の「15 Eunomia」です。

Yuta

Yuta(Ba):

一回寝かせた記憶はたしかにある。その一方で、デモのときまでは良い感じだったのに、アレンジやミックスでSoや僕が曲を殺しちゃうことも多いんですよ(笑)。深夜のテンションで作っているうちに「凶悪なキックとかを入れたら面白いんじゃないか」って迷走し始めたりして。

Daido

Daido(作曲/映像):

こっちが寝ているうちに、起きたらひどいハウスができ上がっていたりね(笑)。そういう実験も含めて、音作りを楽しんでいます。

“たまたま良い感じになった楽曲”を集めた最新アルバム

お三方はどうやって新しい音楽を知ることが多いのでしょうか。
Daido

Daido(作曲/映像):

僕は大学の友達から教わることが多いです。自分からディグるときは「秩父」のようにYouTubeなどから吸収しています。いろんな音楽を知りたいなと思ったのは大学に入学し、このバンドを結成してからかもしれません。

Yuta

Yuta(Ba):

僕も友達経由で知ることが多いです。音楽をやっている友達が多いので、良い音楽を教えてもらったときは「良いっすね〜」となる。Spotifyの自動再生で、好みにマッチする音楽がどんどん流れてくる機能も積極的に使っています。
あとは、母親が音楽好きなんですよね。電子音楽への興味・関心は母親から。Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)やDaft Punk(ダフト・パンク)のようにオーバーグラウンドなアーティストに限らず、幅広くさまざまなダンスミュージックを教えてもらっています。

So

So(サウンドエンジニア/DJ):

僕はSpotifyのプレイリストで、新しい音楽を探すことがほとんど。家の中でも移動中でも、ずっとイヤホンで聴いているんです。そしてJ-POPからアニソン、昔の曲やメタルまで、そのときの気分で「良い」と思ったものをどんどんプレイリストに追加して。そのプレイリストは2人にも共有しています。

Yuta

Yuta(Ba):

もうトータルで40時間分くらいの楽曲数になったよね。たまに「あ、これ前も聴いたな」っていうのもあるけど(笑)。

どうりで『tradition』にも本当にたくさんの音楽的な要素が凝縮されているなと感じました。以前からSoundCloudにアップしていた曲なども収録されていますよね。
Daido

Daido(作曲/映像):

「秩父」と「tradition」だけ書き下ろしで、他の曲はもともと作っていたやつです。なんとなく僕が「こんな感じのアルバムにしたい」という楽曲のリストを作り、3人で話し合いながら抜いたり足したり…という感じで決めました。

どのような基準で収録曲を選んだのでしょうか。
So

So(サウンドエンジニア/DJ):

要素と要素がぶつかり合って“たまたま良い感じになった”曲を集めました。自分たちが計算しながら意図して要素同士をぶつけ合っているわけじゃないからこそ、本当に“良い感じ”になるのって偶然なんですよ。
しかも、正直どの要素同士がぶつかって作用しているかもわからない(笑)。そういった化学反応を楽しめた曲が、今回は集まったと思います。あとは「Moon Dance」のように「この先でこういった曲は作らないかも」という曲も。収録するなら今のうちだと思ったんです。

Daido

Daido(作曲/映像):

最初は「ちょっとクオリティが低いかも?」と思って収録しない予定でした。入れないつもりだったので、「琉球Boogie Woogie」に歌詞だけ転用していたんです。

なるほど、それで「琉球 Boogie Woogie」と「Moon Dance」は歌詞が一緒なんですね。ではアルバムの中で一番“化学反応”を起こした手応えのある曲を挙げるなら?
Daido

Daido(作曲/映像):

「ガンダーラ」は完成したときに「すげえ」って思いました。僕がコードと歌詞だけを持ってきて、Yutaが作曲をした曲。そしてパーカッションの友達も呼んで「この楽器が合いそうじゃない?」と実験的に音を重ねて録りました。作り込むほどに面白くなっていった曲なんです。

Yuta

Yuta(Ba):

レコーディングのときにミスっちゃった音とかも採用したりしてね。しかも完成したとき、予想以上に面白い曲になった。

今後もどういった化学反応が生まれるかが楽しみです。今、次の作品のリファレンスとして興味がある音楽はありますか?
Daido

Daido(作曲/映像):

すでにもう準備はしています。最近、南アフリカ発祥のダンスミュージックであるアマピアノにはまっていて。リアルタイムで進化している音楽ジャンルだからこそ、日本のバンドがそれを取り入れたら面白そうだなって思っています。でも作っているうちにどんどんアマピアノじゃなくなっている(笑)。次作以降でリトライするかもしれません。
あとはMilton Nascimento(ミルトン・ナシメント)のような60〜70年代のブラジル音楽や、2020年代に登場したSessa(セッサ)のようなサウンドも好きで。中南米音楽の深みにどんどんはまっていきたいです。

SoさんとYutaさんが、制作面でチャレンジしたいことは?
So

So(サウンドエンジニア/DJ):

逆に僕はDaidoとは違うジャンルからリファレンスを引っ張ってきて、彼の感性も大事にしながらミックスしていきたいなと思いました。『tradition』は、ミックスの方向性が2人が作ったものにポップな要素を加えるという一方向だけだったんです。だからこそ、一貫性を保ちつつ異なる方向からのアプローチにもトライしたい。

Yuta

Yuta(Ba):

あとはジャンルではないものの、もっと楽器を上手く鳴らせるようになったら、音全体のトーンにも変化が生まれそうな気がする。特定の楽器がめちゃくちゃ上手い人に入ってもらって、今までの感じをやってみるのも面白そうです。

Daido

Daido(作曲/映像):

実は今も、スチールギターを演奏できるギタリストの方にお願いできないかな、と考えているところなんです。
あとはありがたいことに、屋外で開催されるイベントやフェスなどの機会が多くなりそうで。僕らの音は野外向きだからこそ、素晴らしい機会をいただけてありがたい。その土地ごとの音楽なども取り入れられると良いですよね。めちゃくちゃ楽しみにしてます。

Presented by.DIGLE MAGAZINE





【RELEASE INFORMATION】

1st Album『tradition』
2023年7月19日リリース

▼各種ストリーミングURL
big-up.style/ZStwT98YZ0

外部リンク
> Official Site > Twitter > Instagram > YouTube > TikTok


【EVENT INFORMATION】

『晴れたら空に豆まいて17周年特別企画』cho co pa co cho co quin quin One Man show

2023年8月17日(木)at 代官山晴れたら空に豆まいて

【時間】
open 19:00 / start 20:00

【出演】
cho co pa co cho co quin quin
special guest-サムットのべ(DJ)

▼外部リンク
> 予約フォーム > 詳細