アーティストデュオ・MisiiNが放つ“革命歌”ーーどんな自分も肯定するための強く優しいメッセージ
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第112回目はMisiiNが登場。
MisiiNの音楽は美しい。陰影に富んだ声と抒情的な音像、柔らかくも情熱的で、内側で燃えている意志の強さを感じる曲である。活動を始めたのは2022年の5月。ボーカルとソングライティングを行うMisiiと、トラックメイクやコーラスを手がけるn a g o h oによって結成されたデュオだ。
生活を共にし、表参道にあるアートギャラリー・NOSE ART GARAGEを根城に活動するふたりは、“be the you”(=自分であれ)をテーマに掲げ、自身らの歌を“革命歌”と謳い、エレクトロやアンビエントをミックスしたオルタナティブ・ミュージックを届ける。それは誰もが生きづらさを感じずにはいられないこの世界に対する格闘であり、彼女たちなりの誠実な希望の見出し方なのだと思う。
2023年9月20日に配信された「BABABADCYCLE」は、《愛し合うことよりも、虚しさ募る孤独の夜で/僕ら今、何、思う、問う、求む》というラインが印象的な、ダンサブルな楽曲である。ラップ調のボーカルも新鮮で、MisiiNの表現を広げた楽曲と言えるだろう。Misiiとn a g o h oの原点からふたりの出会い、「BABABADCYCLE」を含む完成間近のアルバム『LoVe cOmpLEx』(ラブコンプレックス)について話を聞いた。
自分を受け入れて進んで行くための“革命歌”
- 音楽に興味を持ったきっかけはなんですか。
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Misii:
私はスポーツ一家でずっと運動をやっていたので、テレビも観てこなかったんですけど、小5のときにディズニー・チャンネルで『キャンプ・ロック』という映画を観て。それは音楽サマー・キャンプに参加して競争していくというストーリーで、その作品の音楽が持つパワーにすごく惹かれたんです。それを観て私も音楽がやりたいと思って始めました。
- それがMisiiさんの原点なんですね。
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Misii:
あと、『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』というTVシリーズも自分の始まりというか、大きく影響を受けたものです。主演のMiley Cyrus(マイリー・サイラス)が話している言葉を私も話したいと思って英語を勉強し始めたり、歌も真似てみたりしました。
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n a g o h o:
私は演劇や写真で表現活動をやってきたんですけど…自分自身の表現というよりは、自己表現しているつもりで結局自分を見ることができてなくて、嘘をついているような感覚だなとずっと思っていたんですよね。でも、初めて歌ったときに音楽では嘘をつけない、自分を裸にさせられる表現だと思って衝撃を受けて。二十数年間嘘をつき続けるような人生だったから、一度ちゃんと裸の声を届けたいと思って音楽を始めました。
- ふたりのルーツで重なるものはありますか?
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Misii:
いや、あんまり重ならないかもしれないです(笑)。
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n a g o h o:
本当に真逆な人生を送ってきていて。
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Misii:
趣味もあんまり重ならないし、食べるものも和と洋で全然違うよね?
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n a g o h o:
うん。ルーツは重ならないけど、MisiiNとして生み出す音楽自体がふたりの重なり合ってる部分だと思います。
- なるほど。
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n a g o h o:
でも、ふたりとも必死で生きている人は好きですね。生き様がかっこいい人に惚れやすいところは、共通しているかもしれないです。
- では、ふたりが今ハマっているカルチャーは?
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n a g o h o:
私だけかもしれないけど『ONE PIECE』(笑)。普段から作業中には、何かしらのアニメを音声だけでずっと流しているんですけど、それが『ONE PIECE』だった時期があって、漫画もずっと読んでいます。それが実写版を観てまた再燃している感じがありますね。
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Misii:
私もアニメは好きで、いろんなものを観ています。
- 特にハマっているものは?
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Misii:
『クレヨンしんちゃん』。
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n a g o h o:
(笑)。
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Misii:
日常が好き。『クレヨンしんちゃん』ってハッピーエンドじゃないんですよ。うまくいかないこともあるよね、みたいなところがすごく好きです。
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n a g o h o:
本質的なアニメだよね。
- おふたりはどういうふうに出会ったんですか?
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n a g o h o:
表参道にNOSE ART GARAGEというアートギャラリーがあって、自分が写真をやっていたときに、MisiiNの現プロデューサーでありギャラリーのオーナーに出会ったんです。そこで活動をするようになってから、ギャラリーでイベントを企画するときに友達に紹介してもらったのがMisiiでした。
- それから一緒に音楽を始めようと思った理由は?
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n a g o h o:
たぶん私が最初にMisiiから影響を受けたというか、“アーティストだ”って思ったんですよね。それからMisiiがソロで出していたEP『Moviusic』に収録されている「君にふれて、」という曲を電車で聴いてたとき、情景が浮かんできて泣いてしまって。歌詞は英語でわからなかったので、純粋に声に感動したんだと思うんですけど、電車を降りたら夕日が綺麗でまた泣いてしまうという経験をしました。
- Misiiさんはその当時どんな活動をしていたんですか?
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Misii:
自分が全然成長できていなくて、MisiiNが始まる前までの音楽はいい言葉を並べていたというか、一般的に“こうしたほうがいい”というようなことを自分なりに書いていたんです。けど、ある出来事をきっかけに自分をちゃんと届けようと思って書き始めた曲があって、それがn a g oちゃんが聴いてくれた作品だったと思います。
- それでn a g o h oさんに誘われて活動が始まったと。Misiiさんはすぐに一緒に音楽をやっていけるという確信を持ったんでしょうか。
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Misii:
n a g oちゃんのことは友達としてはすごく好きだったんですけど、アーティストとしては透明すぎる存在だったというか、人間味があんまり感じられなくて一緒にやることを想像できなかったです。自分はどちらかと言うとメラメラしているタイプだけど、n a g oちゃんは反対のタイプで、一緒にやるの?という感じでしたね。
- どこで手応えを掴んだんですか?
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Misii:
ライブを重ねていくうちに音楽の中で混じり合ったというか、ふたりとも感情がむき出しになってきて。はじめn a g oちゃんは全然泣いたり怒ったりしなかったんですけど、一緒にいる時間が増えていく中で、初めて「わー!」とか「うえーん!」ってなったときに、うまく言えないけど何かが重なった感覚がありました。
- MisiiNは“be the you -自分であれ- ”というメッセージを掲げて活動しています。なぜその言葉がこのユニットの軸になったんでしょうか。
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Misii:
“be the you”自体は、私がソロで歌うときに作っていたZINEのタイトルにしていた言葉で、「自分を愛して、自分の使命を信じて生きていく」という意味を込めていました。人として成長していく中で、その言葉を届けていきたいと思うようになって、そこでn a g oちゃんに出会ったんですよね。それから何を伝えたいか、何を届けたいか、自分が目指している世界や夢についていっぱい話をしていくうちに、MisiiNのテーマが“be the you”になっていきました。
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n a g o h o:
私はMisiiのソロを手伝っていた期間もあって、そのときは“self love”をテーマに歌っていると言っていたんです。でも、“self love”という言葉は受け取られ方によっては、自分を甘やかすような方向に行ってしまうことがあるなと思っていて。それも必要なことなんですけど、その時間を経て前に進む力が絶対に必要というか、そこからどういう人生にしていくかは自分次第だと思っているので、もうちょっとパワーのある言葉にしたいと思ったんですよね。それで曲を聴いた人が何かに踏み出す直前のところまでちゃんと背中を押し切りたいと思い、“self love”から“be the you”に変えました。私たちはMisiiNの曲を“革命歌”とあえて言っているんですけど、それは前へのパワーを意識しているからです。
- おふたりにとって革命とはどういうものだと思いますか?
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n a g o h o:
世界を動かすパワーですね。自分は小さいときから、世界中の子供たちと一緒に笑いたいという、すごく漠然としているけど大きな夢があって。それって究極にハッピーな状態だと思っているんですけど、そこに行くにはどうしたらいいんだろうって考えたときに、ネガティブな要素を1個1個潰していかなきゃいけないと思ったんですよね。
- なるほど。
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n a g o h o:
そのネガティブな要素っていうのは、たとえば誰かと比べてしまうことだったり、それぞれにコンプレックスがあることだったり。でも、そこで自分と向き合って、それを受け入れて自分として生きていくっていう、そうやって前に進むことができたら、きっと周りのことも受け入れていけるようになる。その連鎖が最終的にハッピーになるために必要なことなのかなって思っていて。自分であることを受け入れてあげることが、私にとっては戦いというか。自分革命という意味で、“革命歌”と呼んでいます。
メッセージを持ちつつ、人が聴きたいと思える作品にーー新曲に込める想い
- 普段の曲作りはどんなふうに行っていますか。
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Misii:
私が曲のベースとなる部分、歌メロを作ってn a g o h oに渡します。
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n a g o h o:
それから私がアレンジをしますね。
- Misiiさんからはどのくらい作られたものが届くんですか?
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n a g o h o:
ボイスメモみたいな状態のときもあれば、鍵盤のコードだけを弾いているときもあります。
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Misii:
でも、最近は歌詞まで書いて渡してます。
- そこにリズムをつけるとき、何を一番意識していますか。
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n a g o h o:
楽しいかどうか、ですね。純粋にいいなって思えるかどうか、聴いていて身体が動くかどうかを大事にしています。あとは曲調によって包まれるような音色にしたり、リスナーの方が一緒に歌えるような曲にするために、声の置き方にこだわっていますね。メッセージも強いので、そのメッセージがストレートに届くための音選びはすごく大事にしています。
- Misiiさんの人生観がそのまま歌になっているような歌詞は印象的ですよね。
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n a g o h o:
最近これがMisiiNらしさなのかもしれないと思って大事にしているのは、Misiiの声が高いほうで綺麗に聴こえてくるので、それに対して楽曲がどれだけ重たくあれるかというバランス感です。(お腹あたりを指して)ここで聴いてほしいんですよね。
- 爽やかに抜けていくんじゃなくて、ズシンと響くように?
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n a g o h o:
そうですね。聴いている人の内側にちゃんと届けられる重量感みたいなものを意識しています。なのでMisiiNは低音を大事にしていかなきゃいけないなって最近考えていますね。で、あとは1曲が映画みたいになればいいな、と思いながら作っています。
- 新曲の「BABABADCYCLE」は、どのように制作が進んでいきましたか。
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n a g o h o:
Aメロもサビもかなり書き直したので、メロディ自体は原型を留めていないんです。語弊があるかもしれないんですけど、売れる曲を作りたいと思って。やりたいことだけをやるんじゃなくて、メッセージを持ったまま、ちゃんと人が聴きたいと思える曲にしたかった。その両立のために、みんなで議論しながら作っていった曲です。
- 歌詞はどういうふうに書いていったんですか?
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Misii:
歌詞はふたりで(作っていて)。n a g oが思いついてくれたんですけど、サビに日本語を入れています。
- ラップ調のボーカルも新鮮ですね。
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Misii:
自分ができることはまだまだあるので、表現を広げようと思って挑戦しました。今作っているアルバムでも、これまでやってこなかったところに足を踏み入れていて、新しいものを取り入れて可能性を広げられた作品になっていると思います。
- 歌詞が象徴的ですが、メッセージは変わらないまま、より直接的な表現になったように思います。
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Misii:
たしかに今回は曝け出していると思う。
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n a g o h o:
最初は社会に対する悪口を書いていたんですけど(笑)、それだと悪口のままで終わっちゃうと思ったんですよね。結局社会や自分の環境を変えるには自分自身が変わっていく必要がある、そのことを私自身がちゃんと受け止めなきゃと思って、自分に矢印を向けて、それをポップに出したいなっていう。
“be the you”を日常に浸透させられるくらい、力のあるアーティストになりたい
- アルバム『LoVe cOmpLEx』の制作中に共通言語になるような音楽はありましたか?
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n a g o h o:
…。
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Misii:
本当にないかもしれない(笑)。
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n a g o h o:
リファレンスの楽曲を聴くことはあるんですけど、いっぱい聴きすぎてパッと出てこない…。MURA MASA(ムラ・マサ)しか思い出せないですね。
- MisiiNのエレクトロニックなサウンドや、アンビエンスはどういうものからの影響が出ていると思いますか。
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n a g o h o:
音の趣味はどっちかと言うと私で、パワフルさみたいなところがMisiiの持っている要素だと思います。Misiiは元々は完全にロックが好きで。自分はUKのサウンド、たとえばSuperorganism(スーパーオーガニズム)がすごく好きなんですけど、あのバンドのちょっと遊びがある感じとか、変な音を使うところに影響を受けているんです。そういったふたりのルーツを混ぜ合わせた結果、今の音になっている気がします。
- アルバムはよりパワフルになった印象があります。
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n a g o h o:
熱量はかなり高いですね。
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Misii:
作る曲が激しいですよね。前のめりになりながら作っているというか、そういうものが純粋に好きなんだと思います。
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n a g o h o:
あと、アルバムをこの後のツアーに持っていきたいと思っていたので、そのツアーでの景色をイメージして作っていました。ライブでこういう曲をやりたい、と思っていた曲たちが今回のアルバムには詰め込まれているかもしれないです。
- 現場の熱量を想像して作っていたと。
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n a g o h o:
それはすごくありますね。たとえば「How do you know」は、ライブではONE OK ROCKの「Wherever you are」のポジションで歌いたいとか、この曲では合唱したいとか、セトリのどの場所で歌うかを考えていたと思います。
- それもあってか、ダンサブルな要素が増えたように思います。
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n a g o h o:
ダンスミュージック的な意識はすごくありました。ツーステップみたいなものが純粋に気持ちよく感じますし、感覚的にめっちゃいい!って思えるようなものをやりたい。意味とかの前に、音楽で楽しんでもらうっていうことを考えていました。
- ふたりは普段踊ったりするんですか?
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Misii:
n a g oは家で曲を作りながらずっと踊ってる。私はそんなに…。
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n a g o h o:
でも、「BABABADCYCLE」のミックスが届いたときは、Misiiも踊って大号泣していました(笑)。
- アルバムには『LoVe cOmpLEx』というタイトルがついていますね。
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Misii:
“be the you”できない理由のひとつにコンプレックスがあると思っているので、今回のアルバムでは自己愛とか他者愛、家族愛を歌う表現を通して、コンプレックスについて書いてみました。
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n a g o h o:
この作品は1個の宣言だとも思っています。聴いてくださる方に対して、私たちは何があっても人の可能性を信じているよって。どんな人にも愛はあって、その愛を信じているよっていう宣言のもと、一つひとつ越えていくためのショーを一緒に見せるようなイメージです。
- 音がアグレッシブになったということも含めて、戦う姿勢を見せている感じがします。
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n a g o h o:
もがくこと自体はすごく良いことだと思っています。ライブ体験を通じて感じていることでもあるんですけど、同じ場所で一緒に歌って過ごしても、私たちはその会場でバイバイしちゃう。だけどそれぞれの明日が続いていくし、生活の中でその人が前に進んでいくためのものでありたいなって思います。
- まさにアルバムが出た後には、ツアーが控えていますね。
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n a g o h o:
私たちの活動の特徴として、圧倒的にワンマンのほうが多いんです。私はライブを1個の作品として捉えているので、お客さんも交えて1個のユートピアを作りたいです。
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Misii:
“be the you”を全国の行く先々でできる限り伝えられるように、私自身も“どんな自分も認めて成長していく”という人間革命を起こして臨みたいなって毎日思っています。
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n a g o h o:
それをいろんな人にとっての日常にしたいですね。これはツアーに向けてというより、MisiiNとしての目標になってしまうんですけど、“be the you”を当たり前のように日常に浸透させられるくらい、力のあるアーティストになりたいです。
- 他にデュオとしての理想があるとしたら?
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Misii:
世界に行く。
Presented by.DIGLE MAGAZINE
【RELEASE INFORMATION】
New Single「BABABADCYCLE」
2023年9月20日リリース
Label : NOSE RECORDS
Format:デジタル配信
▼各種ストリーミングURL
https://misiin.lnk.to/BABABADCYCLE
▼リリックビデオ
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外部リンク
> Official Site > X(Twitter) > Instagram > YouTube
【EVENT INFORMATION】
MisiiN EXHIBITION LIVE JAPAN TOUR 2023 “be the you -LoVe cOmpLEx-“
◾️愛知公演
2023年11月4日(土)at 名古屋・Live DOXY
◾️大阪公演
2023年11月11日(土)at 大阪・雲州堂
◾️石川公演
2023年11月18日(土)at 金沢・もっきりや
◾️富山公演
2023年11月19日(日)at 富山・ほとり座
◾️東京公演
2023年11月21日(火)at 渋谷WWW
(以下、全公演共通)
時間:open 18:30 / start 19:00
料金:4,500円(+1D)
▼外部リンク
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