良い音楽に必要なのは“人間力”と“思いやり”。Swagckyの楽曲が心を揺さぶる理由とは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第114回目はSwagckyが登場。

ブラックミュージックやポップスをはじめとした多彩なルーツを持つ湘南出身のシンガーソングライター、Swagcky(スワッキー)。TikTokでデモ音源「ふりだし」が音楽総再生回数460万回を突破し話題となった彼だが、今年は「Smiley」「愛夢」「Moonlight」とシングルの発表を積み重ね、野外フェスにも出演。さらに、2023年10月18日に2nd EP『Cherish』をリリースしワンマンライブの開催も控えるなど、注目を集めている存在だ。

音楽を始めたのは5年前。そこから急成長を遂げている彼の強みはバランスの取れた才能だ。心の奥にしまっていた感情を呼び起こすような共感力の高い楽曲を作るには、何気ない日常から大切な瞬間をすくい上げる力、それを言語化する力、心揺さぶるメロディを生み出す力、どれもが必要不可欠。彼はそれらをバランスよく備えているからこそ、音楽を始めてすぐに注目される楽曲を作り出すことができたのだろう。しかし、今回のインタビューで彼が答えた“良い曲を作るために必要なもの”は、これらの要素と似ているようで別のものだった。そこに彼の価値観や活動源の全てが詰め込まれているのだと、音楽ルーツや今作の制作過程の話を紐解くことで感じることができた。

ご飯を食べるのと同じくらい音楽に触れることが当たり前だった

ー音楽の原体験として、最初に思い浮かぶのはどんなことですか。

僕の家は朝から晩までステレオで音楽がかかっていたんです。朝起きたら、まず母親がステレオのスイッチを入れる。ご飯を食べるのと同じくらい音楽に触れることが当たり前でした。でも、僕は一匹狼で周りの人がどう過ごしてるかあまり気にしないタイプだったので、みんなこういう生活をしてると思ってたんですよ。

ーそれが普通じゃないと気づいたのはいつですか?

音楽を真剣にやろうと思ってギターを始めたとき、たまたま縁あって音楽プロデューサーの方と出会って。そこで「朝から晩までずっと音楽が流れてる家でした」って話したら「普通じゃないね(笑)」って言われて気づきました。生活を送っているあらゆる時間に音楽を聴いてきたので、26年間生きてて僕より音楽を聴いている人って多分いないと思いますよ。

ー「音楽を真剣にやろうと思ってギターを始めた」のは、どんなきっかけだったんですか。

ずっとサッカーをやっていたんですが怪我でできなくなって、やりたいことがなくなったんです。そこからやれることは勉強だと思って、勉強を頑張って大学の法学部法律学科に進学しました。でも大学2年生の終わりごろに就職をどうするか、これからどう生きていくかを考えたときに「やっぱやりたいことやったほうがいいよな」「得意なことをやったほうがいいな」と思ったんです。それで好きなことをよくよく考えたら音楽だった。それまでも音楽をやりたいなとは思いつつ、保守的な考え方の家だったからしてこなかったところがあって。自分に自信もなかったし、業界に飛び込む勇気もなかったし。でも、ここで1回音楽と真剣に向き合おうと思ったんです。

ーずっと当たり前のように触れていた音楽が、道を開いてくれたんですね。家のステレオ以外ではどのように音楽に触れていたんですか。

小学校から高校まではずっとYouTubeで曲をディグっていました。サウンドや曲調でイケてると思うものを聴いていたので、どのアーティストが好きだったとかは覚えていないんですけど…。あと小学校には音楽プレイヤーを持っていけなかったので、登下校中はずっと鼻歌を歌ってました。

ーどんな鼻歌を歌ってたんですか。

Stevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)とかMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)とか。登下校の景色にインスパイアされて、ブラックミュージックやポップスのキャッチーなリフを頭の中で流しながら鼻歌を作ったりもしていました。そのあたりが僕のルーツになってると思います。

ーStevie Wonderを知っていたのはおうちで流れていたからですか。

そうですね。でも「今誰の曲が流れているか」って教えてもらったことがなかったので、後々知りました。Stevieの曲はタイトルを知らないけどメロで覚えていて、僕にとっては空気みたいな(当たり前の)存在です。

ー他にもルーツになるアーティストとして、Ed Sheeran(エド・シーラン)やCharlie Puth(チャーリー・プース)を挙げられてますが、彼らはStevieよりも新しい世代のアーティストですよね。

その辺は学生時代、特にディグることに1番楽しみを覚えていたタイミングに出会いました。当時聴いて「すげえ!」と思ったアーティストです。ただ、わかりやすいから彼らの名前を挙げているんですけど、さっきも話したように、誰も知らないようなアーティストをたくさん聴いていたのでその影響もあると思ってて。でも、名前に興味がなかったから覚えてないんですよ。メロディやサウンドに興味があったので、本当に“曲で聴いていた”って感じで。最近の若い子がTikTokで誰が歌っているのかに興味を示していないのと同じ感覚だと思います。

ーでは、ご自身のルーツになるアーティストの共通点を挙げるとしたら?

グルーヴかな。ダンスを習ったことはなかったけど、小さい頃のホームビデオを見ると音楽に合わせて一人で踊っているんですよ。“リズムにノる”っていうことが楽しくて、ノりやすかったのがブラックミュージックやポップスだったんだと思います。
あとはメロディアスで聴いていて心地よいもの。だからメタルとかは聴いてこなくて。聴いていて疲れなかったものが多かったです。どっちかというとBGM音楽みたいなところなのかな。

名義のヒントはSIRUPやNulbarich。共感を生むトリガーになるために

ー幼い頃から鼻歌で曲を作っていたということですが、現在はどのように楽曲制作を進めていますか。

まず最初に僕が歌っているところを想像するんです。去年からライブを本格的に始めたので、最近はお客さんの顔まで想像して作るようになっていますね。そして記憶に残るようなメロディを探していきます。1回聴いただけで覚えられるか、鼻歌で歌ってあとで思い出せるか、そういうキャッチーさをすごく大切にしているんです。絶対に外せないポップなメロディのワンフレーズができたら、そこへドラムと仮のメロディをつけたデモを作って、その後に歌詞を書いていきます。

ーその時点ではメイン以外のメロディは仮なんですね。

最初に作ったポップなメロディにはハマるように歌詞を作って、それ以外のところは歌詞に合わせてメロディを付け直しています。そういう意味では歌詞優先ではあるんですけど、1箇所だけ譲れないメロディがあるという感じです。

ーもともと曲名もアーティスト名も拘らないくらいサウンド重視でしたよね。歌詞を大切にするようになったのはなぜですか。

僕が良いと思うものだけをやっていたらニッチになってしまうなって思ったんです。それは業界に入ってから気づきました。MASAZAYN(マサゼイン)名義でやっていたときにYouTubeに上げた曲が2曲あって、両方とも英詞で1曲はハネて1曲はハネなかった。そこで自分の感性で良いと思うものを作ったとしても、必ずしも需要があるわけじゃないってことを感じたんです。多くの人がいいなって思うものにするためには、どう考えても日本語で曲を作る必要があるよなと思って。
名義に関しても同じで、MASAZAYNとして活動を始めたときはどういうふうに人を巻き込んでいくかってところまで考えきれてなかったんですよね。それをもっと考えなきゃなと思ってSwagckyという名義に変えました。

ーSwagckyという名前にはどんな思いが込められているんですか。

Swagckyという名前を考えるのに1ヶ月くらい悩みましたね。最初に、自分の中で意味があってかっこいい響きのものを候補にあげていたら「ラッパーっぽいね」って言われて。イメージに合わない候補ばかりだったんです。でも、SIRUPさんは「sing」と「rap」で“SIRUP”、Nulbarichさんは反対の意味の言葉が繋がっている造語系、というところからヒントを得て「かっこいい」を意味する「swag」と「ダサい」を意味する「tacky」をくっつけてみました。そしたら響きも良くてしっくりきたんです。今はこの名前が僕にぴったりだなと思っています。
僕って超かっこいいところにいる人間じゃなかったんですよ。イケてる界隈じゃなく、野暮ったいというか…。でもずっとかっこいいことに憧れがあった。誰しもがきっと“かっこいい”に憧れる感情を抱いているだろうから、みんなにそういう感情を共有できるんじゃないかなって思ったんです。

ーそういった共感を大事にされているところは、楽曲の歌詞からも感じました。

僕は基本的に共感するもの、日常の中に溢れていることにインスピレーションを得ていて、その当たり前をいかに当たり前じゃなく見えるようにするかということを考えています。普通に流しちゃってるけど、本当は心に残っているようなこと。だけどそれってよく見たら大事でエモい。そこに自分が気づいて曲が書けたときにめちゃくちゃ影響力を放つと思うんです。そのトリガーになりたい。だから全部自分の経験からしか歌っていません。

ー例えばどんな経験ですか。

音楽を始める決断もそうですよ。みんな、挑戦したいと思っていても挑戦しないことってあるじゃないですか。しかも僕みたいに家が保守的であれば反対される障壁も高い。ずっと楽器をやってたわけじゃないし、曲作りを始めたのもちょっと遅いぐらい。それを自分でわかっていながら「そんなこと関係ねえ!」って一歩踏み出した。サッカーを辞めたときから生きることに意味を感じられなかったし、今も苦しいことはたくさんありますけど、音楽をやれていてめちゃめちゃ楽しいんです。

ー自分から一歩踏み出せば変われるという経験をしたからこそ、見えるものがあるんですね。

お節介かもしれないけど、変わって楽しくなることを知ってるから「楽しくなるよ!」って教えてあげたいんですよ。それは僕がずっとハッピーを生みたいって思ってるから。僕って、小学生のときは人を笑わせるのが好きで、バカみたいなことやくだらないことをするヤツで。人を楽しませることが根本的にすごく好きだったんですね。その頃からずっと、人がハッピーになると僕自身もハッピーになるんだっていう感覚なんです。だから、僕の音楽でハッピーになってくれる人を増やすために、Swagckyとしての生き方も全部含めて考えなきゃなって思ってます。

良い曲とは思いやりのある曲ーーライブの楽しさが変えた曲作り

ー「ライブするようになって、歌ってるところを想像して作るようになった」とおっしゃっていましたが、今回のEPはブラスセクションが入ったり、パワーのあるギターリフが入ったり、サウンドのスケールが大きくなりましたね。

実はライブをする前まで「ライブの何が面白んだろう?」って思ってたんです。俺はひたすらYouTubeでディグってる人間だったから。でも自分がライブを観に行くようになってライブが楽しいってことを知って、「こういうふうに楽しくしたらいいんだ!」っていうのが見えたんですよね。最初のEPはノり方が難しい曲が多かったけど、今は体を揺らしたくなるような体感できるものを意識して作るようになりました。

ーそういう変化は、今回の作品のテーマに繋がっていますか。

直接的にはないかもしれないけど、根本的には繋がっていますね。僕はSwagckyになってから1年半、いろんな人に助けられてきました。今回のEP『Cherish』には、僕の音楽を聴いてくれる人たちや支えてくれる人たちへの感謝を込めています。
ライブを面白くするっていうのも一つの感謝の表現方法だと思うんですよ。今まではライブにまで目がいってなかったけど、サブスクで聴いているだけじゃなくてライブで楽しむことが大事な人もいるんだって知って、そこに対する自分なりの感謝や思いやりが現れている作品だと思います。

ーでは感謝の思いを込めたという今作で、特に思い入れの強い曲はどの曲でしょう。

圧倒的に「ありがとう」ですね。感謝を伝えるっていう大きな意味のある曲だから。

ーその思いが強く伝わってきました。メロディも歌詞もどれも心に残ります。

僕、良い曲ってすごく思いやりのある曲だと思うんです。売れている曲もそうで、思いやり力のめちゃめちゃ高い曲が売れるんじゃないかなって。
そう思ったのはEd Sheeranのインタビュー記事を読んだのがきっかけでした。彼は「これから音楽を始めようとしている人は、まず何からやったらいいですか」という質問に対して「人間力を磨くことから始めろ」って言ったんです。ギターが上手くなることでも、歌が上手くなることもなく、人間性を磨けば勝手に良いメロディを作るようになるし、良い歌詞を書くようになる。きっとそういうものなんだって思って、音楽を始めてからの5年間、僕は人間力を上げようと思ってやってきました。曲を作るにしても、ライブを作るにしても一人じゃできないから、どれだけみんなのことを思えるかだと思うんです。きっと僕はまだそれが足りてなくて、これから成長していかなきゃいけないと思ってます。

ー先程の「人をハッピーにするには、生き方も含めて考えなければならない」という話に繋がりますね。今作に含まれる6曲は、全てライブをやるようになってからできた曲なんでしょうか。

「Once upon a time」はライブ活動をやる前、すごく初期からあった曲です。なんで今まで出ていなかったのかというと、逆にライブのことを考えてなかったからだと思います。ライブのことを考えた結果、「この曲をライブで演るのもいいじゃん」って思えたからこそ出せた曲です。歌詞も昔を思い出すノスタルジーな感じが表現されてるんですけど、それも今このタイミングで出したいなと感じるポイントでした。そのほかの曲はライブを意識して作った曲です。

ーHiplinさんと共作の曲もいくつかありますよね。

Swagckyを始めた当初は曲作りで壁にぶつかっていて、そのときにHiplinさんと一緒に考えて作ることが多かったんです。ただ最近は自分でデモを作るようになったので、今は編曲をメインに関わってもらっています。

ーデモ音源をTiktokに上げていますが、そこからHiplinさんの編集を経て、リリースされるという流れですか。

そうです。僕は音色に関しては得意だけど、音質を上げるっていうところは長けてる人たちにやってもらったほうがいいと思うので。でも、そこもいずれできるようになったほうがいいと思っています。より自分の思ってるものに近づけたいので。聴き心地が良い、聴きたくなる音楽にたどり着くために勉強中です。

音楽を地道に続けることが人生における永遠の挑戦

ー11月にはワンマンを控えてますが、どんなライブになりそうですか。

今回のワンマンには<nostalgia>というタイトルをつけました。僕は今生きていて、すごくいろんなことが消費されている世界だなと思っているんです。TikTokで流行ってる曲も3〜4ヶ月で聴かれなくなって、どんどん新しく流行る曲が変わっていきますよね。それってすごく忙しいし、疲れるから、たまにはゆっくりしたくね?っていう思いを込めてみました。昔のことでも思い返しながら、思いに浸る時間があってもいいよなって思って。のんびりしながら「あのときこうだったな」「あのときの気持ちを思い出してまた頑張ろう」って、ひと息つく時間、ライブにしたいなと思っています。

ー癒しの時間になりそうですね。

のんびりの中には本当にゆっくりするだけじゃなくて、楽しくライブをしてリフレッシュすることも含まれてますよ。とにかく、何かに急かされて生きるっていうことを1回忘れるライブにしたいと思っています。みなさん癒されに来てください!

ーでは最後に、今後挑戦してみたいことはありますか。

ずっと同じことに挑戦しているのでそれを続けるだけ、”Keep Going”です。僕はイチローさんが好きなんです。他にも自分の人間性を磨く上で、世の中の成功者の本を読んだりするんですけど、上に行く人たちって、やりたくない地道なことを反復しているだけ。ずっとやっていることは変わらないのに、世の中の評価が変わっていくんですよ。だから、僕は新しく何かをする必要性はそんなにないと思っていて。僕がやるべきことは、とにかく曲を作って歌って、その反復が僕の人生における永遠の挑戦だと思ってます。限度はない。曲を聴かれる回数は無限ですから。
昔は具体的な目標数値が大事だと思っていました。でも、思いやりって数字で測れないじゃないですか。数字はすごく大事なことだとは思うけど、最後のゴールにはならない。だから“死ぬまで音楽をする”っていうことが、僕のやりたいことですね。

Presented by.DIGLE MAGAZINE




【RELEASE INFORMATION】

2nd EP『Cherish』
2023年10月18日リリース

1. ありがとう
2. Once upon a time
3. 愛夢
4. Smiley
5. Moonlight
6. ふりだし

▼各種ストリーミングURL
https://swagcky.lnk.to/Cherish

外部リンク
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【EVENT INFORMATION】

Swagcky ONEMAN LIVE “nostalgia”

2023年11月12日 at 渋谷WWW
オールスタンディング:4,500円(1D代別)
open 17:00 / start 18:00

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