誰にも頼まれてないのにやるのがアートの始まり――世界で活躍するSUGIURUMNのクリエイティブへの衝動
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第129回目はSUGIURUMNが登場。
ギターロックバンド、Electric Glass Balloonのフロントマンだった杉浦英治が同バンドの解散後に、ハウスのDJ/トラックメイカーとして1999年より活動を開始。そのキャリアはもはや25年を超えるSUGIURUMN。イビザ島やマンチェスターなど世界各国のクラブのメッカとなるような場所でのレジデンシーを経験し、これまでに10枚のアルバムを含む膨大な楽曲を発表と、ダンスカルチャーに名を刻む彼が、この名義としては7年ぶりとなるニューアルバム『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』を〈KiliKiliVilla〉から発表した。
SUGIURUMNにとって初の日本語詞によるアルバムとなった同作には、ANI(スチャダラパー)、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、吉村潤 (WINO)、黄倉未来、浅見北斗(Have a Nice Day!)、遊佐春菜、岸岡大暉 (Strip Joint)、mayu、Jimme Armstrong(ジミー・アームストロング)がゲストボーカルとして参加。さらに25年ぶりとなる、みずからボーカルをとったソウルフルな楽曲「Rebel Boy」も収録されている。SUGIURUMNならではのユーフォリックでメロディアスなハウス~テクノから、バレアリックなダウンテンポ、UKストリート・ソウル、サイケデリックまで、収録されている11曲は色鮮やか。ダンスミュージックの流儀に則しながらも、特定のジャンル一辺倒ではない、サウンド面でも作り手としての懐の深さを感じさせる作品だ。
なぜ、ここにきて杉浦は新しいことへと舵を切ったのか。フレッシュさを醸しながらも、どこまでもSUGIURUMNらしい魅力に溢れた『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』に迫った。
ボールが来ないところでバットを振ってる感覚になってしまった
ーSUGIURUMNとしての活動をスタートして以降、アルバムリリースが7年間空くことは初ですよね。
そうですね。でも、前作『AI am a boy.』(2017年)以降はTHE ALEXX(杉浦がElectric Glass Balloonのメンバーでもある筒井朋哉に声をかけ、2018年に結成したバンド)での活動を始めましたからね。THE ALEXXで2枚出しましたし。
ーじゃあTHE ALEXXに力を入れていたから、SUGIURUMNでのブランクはさほど意識していなかった?
そうですね。あと自分のレーベル〈BASS WORKS RECORDINGS〉からアルバムを2枚(2014年の『2OXX』と『AI am a boy.』)出してるんですけど、それとは別に2013年から3年間くらい、毎週シングルなりリミックスなりを発表していたんです。そこで、ちょっと燃え尽きたっていうか、途中でボールが来ないところでバットを振ってるような感じになっちゃって(笑)。そういうことをずっと1人でやってたからバンドがやりたくなったのかもしれない。
ーTHE ALEXXで活動されていた期間はSUGIURUMNとしてデモを作ることとかもなかったんですか?
基本的に「今日は暇だから曲を作ろう」ってことはなく、やろうと決めてやるタイプなんですよ。DJはやってましたけど曲は作ってなかったですね。
ーTHE ALEXXを経て、またSUGIURUMNモードに切り替わったきっかけは?
なんだろう。(〈KiliKiliVilla〉を運営する)与田さんと会ったからかな。昔、与田さんの事務所にいたときもあったし、30年以上の付き合いなんですけど、<Groovetube Fes>とかを通じて、最近また頻繁に飲んだりするようになったんです。与田さんから「日本語詞のアルバムを作ってみたらいいんじゃない?」と言われたことから、今回はスタートした気がします。
ー与田さんのアイデアが起点だったんですね。それもあって今回は〈KiliKiliVilla〉からのリリースになった。
さらに、与田さんから「ダンスミュージックっていう枠を外したところで作ってみない?」っていう提案があったんです。四つ打ちやハウスという前提なしの日本語詞の音楽を作ってみようってことで、2023年の6月くらいに制作がスタートしました。
ーそれから早くも9月には新作からの最初のシングル「All About Z feat. 遊佐春菜」をリリースしていましたね。
2023年に劇作家の川村毅さんによる舞台の音楽を3つぐらい手掛けたんですけど、もともと「All About Z」は同名の舞台のための音楽として作ったんです。それに遊佐ちゃんが歌詞と歌を付けてくれて。あと宮下さん(ファッションデザイナー宮下貴裕)のショーの音楽も3、4回担当したんです。それも踊らせる音楽じゃなかったので、作るのがすごく新鮮だった。20年ぐらい踊らせる音楽しかやってなかったですからね。誰かのために作るっていうこともなかったから、川村さんや宮下さんから「良い」と言われるものを作ろうとがんばったことで、逆にすごい引き出されちゃったんです。「俺、こんなこともできるんだ」って。
ー外から依頼された仕事で新しい引き出しを開けられたというか。
長く続けているとそうなりがちですけど、もう誰も何も言ってこない感じになってましたからね。〈BASS WORKS RECORDINGS〉の活動しかり、ほっといても大丈夫なキャラクターと思われていて(笑)。そう思われたかったってのもあるんですけど。なので、与田さんの「日本語で、ダンスミュージックではなくて」という言葉には「うおー。おもしろいですねー」と感じたんです。一通りのことをやった気もしていたし、やってないことをやりたいというのもありました。
曽我部恵一やANIなど。多彩な才能たちと完成させた最新アルバム
ー「All About Z」以降、「Juveniles feat. Daiki Kishioka」「Razor Sharp feat. Jimme Armstrong」「Midnight Club feat. mayu」と新作に収録されている楽曲をコンスタントにリリースしていますが、いずれもいわゆるダンス・オリエンテッドなハウスやテクノではなかったですよね。
そうですね。ただ制作の後半になるとまたダンスミュージックに取り掛かるようになったんですけど。
ー「Midnight Club」はグラウンドビートとか80年代終盤から90年代前半にかけてUKでストリートソウルと呼ばれている音楽に近いですよね。
Saint Etienne(セイント・エティエンヌ)の新しいアルバム(2021年の『I’ve Been Tryiing To Tell You』)がすごく良いという評判を聞いて、いざ聴いてみたらぜんぜん良さがわからなかったんです。たぶん、良いと言っている人はファーストの残像が残っているんだろうなと思って。そこで、その人たちはこういうふうに聴こえているんじゃないかな?と思って作ったのが「Midnight Club」かな(笑)。
ー今回のアルバムでコラボされた遊佐さん、Have a Nice Day!の浅見北斗さん、Strip Jointの岸岡大暉さんは〈KiliKiliVilla〉と縁の深い方たちですが、彼らとの出会いは与田さんを通じて?
そうですね。それでHave a Nice Day!のライブを観に行くようになったり。浅見くんとは制作初期の段階で「一緒にやろう」ってことになって、完成したトラックを送ったんですけど、それから半年ぐらい返事がなくて(笑)。浅見くんがちょっとしたスランプというか「全然歌詞ができない」と言っていたので、「じゃあ、とりあえずスタジオに来て一緒にやろうよ」と来てもらったら、その場で歌詞を書いてくれて。3、4時間でできあがったんですよ。特に「こういうことを歌ってほしい」とか伝えてないのにパーティについての歌で、トラックにマッチしていてびっくりしました。繰り返し書いて歌って、そのなかでだんだんと整っていく様がすごく良かった。
ー「Razor Sharp」のボーカリストであるJimme Armstrongさんはどういう方なんですか?
Jimmieは、オーストラリア人なんです。もともと彼はイビザ島のCafe MamboとかでLayo & Bushwacka!(ラヨ・アンド・ブシュワカ)のパーティをオーガナイズしていて、そこで仲良くなったんです。今はなぜか日本に住んでいるんですよ。「外国人に日本語の歌を歌わせるとおもしろいんじゃないか」っていうことでお願いしたら、すごく良いものが返ってきて。彼が歌えるかどうかはまったく知らなかったんですけど(笑)。
ー(笑)。
でも、基本的にお願いするときはそういう感じですね。1曲目「True Story」の未来くん(黄倉未来)だって、オファーした段階では未来くんの歌を聴いたことがなかったし。しかも、そんなに歌ってない人だってことも知らなかった(笑)。でも結果全部上手くいってますから。
ー杉浦さんなりの直感が働くんでしょうね。
未来くんも「え、歌?」って思ったらしいけど。頼んだ以上「やっぱりなしで」っていうことは、ないじゃないですか。歌は聴いたことがなくても、今回のJimmieとの曲も未来くんとの曲も彼らをイメージして作っていますしね。
ー黄倉さんとはどういう繋がりだったんですか?
よく電気グルーヴのライブで会ってたんですよね。<地獄温泉>っていう石野卓球さんの誕生日に毎年恵比寿LIQUIDROOMでやってるイベントで、去年たまたま未来くんとスチャダラパーのANIさんと3人で踊ってる瞬間があったんです。ちょうど作品を作ってる最中で「あと誰に歌ってもらおうかな」って思っていたから、「2人に頼んだらいいんじゃない」と思って、その場でお願いしたんですよね。で、未来くんもANIさんも2人きりで会ったことはなかったので、1人ずつちゃんと飲みに行って、いろいろ話しましたよ。
ー「こういう歌詞を書いてほしい」っていう話もするんですか?
それは結構しますね。でも、未来くんは<地獄温泉>のパーティが終わったときに「もう何を歌いたいか決めた」って言ってて。アツいですよね。ANIさんは2人で学芸大学駅の韓国居酒屋に飲みに行ったんです。ANIさんの一言目は「で、僕は何を歌えばいいのでしょうか」でした。
ー(笑)。
「じゃあ、それを一緒に考えましょうよ」と言って、3時間くらい飲んでたんですよ。お店でずっとK-POPのビデオが流れてたんですけど、ぼちぼち出ましょうかってときに、映像の字幕に「夜通しスローモーション」って出たんですよ(LE SSERAFIM「Perfect Night」の歌詞だと思われる)。それを見たANIさんが「杉浦くん、このテーマはどうかな」って(笑)。「それでお願いします!!」ということで方向性が決まりました。
ーダンスミュージックにこだわらないアルバムではありつつ、結果的にほとんどすべての楽曲でパーティやパーティ後の風景だったり空気感だったりが歌われていますよね。夜から朝についての作品だなと感じました。
確かに。このアルバムは全部夜のことを歌っていますね、それは自分でも気づかなかったな。Jimmieとの「Razor Sharp」は、子どもの頃に読んだ『かいじゅうたちのいるところ』と『おしいれのぼうけん』の絵本を思い出しながら書いたんですけど、そしたらANIさんの「Slow Motion Through The Night」で《押入れの冒険》と歌詞に出てきたり。
ー英語詞のときとテーマは変わっていないから、日本語になっても違和感がなかったです。これまでに日本語の楽曲を作ろうと思うことはなかったんですか?
なかったですね。昔はDJの現場、それこそYellow(西麻布に存在した伝説的クラブ・SPACE LAB YELLOWのこと。2008年に閉店)とかで日本語の曲がかかるともう誰もフロアからいなくなりましたからね。そういう時代だった。今はそんなことないじゃないですか。だからシーンも変わったってことでしょうね。
ーダンスミュージックを日本語の歌詞でやる難しさはもはやない?
全然ないですね。なんで今までやってなかったんだろうって思ったくらい。
ーアルバムの後半では曽我部恵一さんや吉村潤さんといったSUGIURUMN作品の常連が登場します。
「Into The Light feat. Jun Yoshimura」はもともと宮下さんのショー用に作った曲で、そのときも吉村くんが歌詞を書いて歌ってくれたんです。今回はそれを日本語にしてもらって。曽我部は本当にすごかったですよ。「Love Degrees」は高野くん(高野勲)と一緒にインストとして作っていたんですけど、今年の5月に千葉の<Groovetube Fes>で曽我部に会ったとき、「杉浦くん、今アルバム作ってんでしょ。俺にも歌わせてよ」って言ってくれたんです。「もう曲ないんだよ」と言いつつ、「あ、高野くんと作ってるインストの曲があるな」と伝えたら、「じゃあ、とりあえずそれを送って。歌入れて2日で返すから。良くなかったら使わなくていいから」って。そこで、とりあえず送ったら、本当に2日で返ってきたんですよ。
ーすごいですね。
送ると言われた日に、「曽我部は今何やってんだろう」と思って調べたらサニーデイ・サービスがロフトの周年イベントでライブをやってて(笑)。その何時間後かに届いたんで「あいつ、いつ寝てんだよ…」って感じ。歌詞もコーラスも全部入ってて。それで「びっくりしちゃった。めちゃくちゃ良かったよ。バッチリだよ」と戻したら、「じゃあ、これから本チャン録るね〜」と(笑)。「いやいや、やらなくていいよ!」って。凄まじいと思いました。本当に曽我部には感心しましたよ。
歳を重ねた結果、やらされるんじゃなくてやれるようになるときがある
ーキャリアの長い方と若い方たちとで一緒にやるおもしろさに違いはありますか?
若い人も年老いてる人も、みんな個性的ですからね。なので違いはあんまり感じないかも。しっかりした自分を持ってる人ばかりだから。
ー初の日本語詞以上にトピックと言えるのは、Electric Glass Balloon以来25年ぶりとなる杉浦さんご自身でボーカルを担った「Rebel Boy」を収録していることで。
それまで「絶対そんなことはやらねえぞ」と思っていたことを、時間が経って、歳を重ねた結果、やらされるんじゃなくてやれるようになるときがありますよね。「Rebel Boy」は、誰が歌ったらいいかのイメージも湧かなかったんですよ。僕の仮歌も悪くなかったし、これでいいんじゃないかみたいな感じだった。
ー他の人よりも自分がフィットした楽曲だったんですね。
与田さんからも「1曲ぐらい自分で歌ったらいいんじゃないの?」と言われて、この曲にしようと思ったんですね。
ー「Rebel Boy」の歌詞は、杉浦さんの生き様を表しているように思えます。
反逆の歌にしようと思ったんです。今は反逆が難しい時代じゃないですか。すぐ叩かれちゃうし。<フジロック>のKraftwerk(クラフトワーク)の炎上のやつとかもすごいですよね。
ー楽曲制作という点で、苦労された曲とかあります?
今回はないね。行き詰ったりすることはあんまりないんです。テーマや方向性が決まると早くて。特に今回はそうかも。先日、20年前に出した『Our history is made in the night』というアルバムがサブスク解禁になって、昨日の夜中にドン・キホーテに行くときに聴いたんですよ。やっぱり20年前のやつだからツッコミどころがたくさんあるんだけど、あの時期の作品は「作りたい」って気持ちがすごい強いから、勢いを感じて。意気込みと謎の自信がビシビシ伝わってきたんです。いろいろと詰めの甘いところがあるにも関わらず。そういう緩さはもうこの新作にはないですね。隅々まで細かいところまでビシッとできるようになったとは思う。無駄な音も入っていないし。
ーダンスミュージックとしての精度や快楽性の高さを感じられる作品になっていますよね。ハイハットが入ってきてうぉー!とアガるみたいな瞬間が作品中に何度もある。
大まかな形ができた時点で、何が足りなくて何が多いとかは、すぐ気が付くようになりましたね。前は、大事なのはそこだとわかっていなかったんだと思う。今はそれがよくわかっているし、この作品は完成度が高いと思います。
ーこのアルバムを経て、次にやりたいことは見えていますか?
何かやるんだろうね。でも、大きい夢みたいなのを持ったほうがいいなとは思っていますね。それが何なのかわかんないけど。音楽で「こういうことができたらいいな」は一通りやっちゃったんです。イビザでレギュラーも持ったし、マンチェスターのSankysでもDJしたし、The Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)やDeep Dish(ディープ・ディッシュ)と共演もして。
ー大体の夢は叶えられてますよね。
誰にも頼まれてないのに始める――そこがアートの始まりだなとは思うんです。与田さんとよく「俺たち、誰にも頼まれてないのによくこんなことをやり続けているよね」と話していて。そういう衝動はいくつになっても持っていたほうがいいのは間違いないから。
Presented by.DIGLE MAGAZINE
【RELEASE INFORMATION】
SUGIURUMN New Album『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』
2024年8月7日リリース
Label:KiliKiliVilla
1. True Story feat. Mirai Oukura
2. Midnight Club feat. mayu
3. Music Function feat. Hokuto Asami
4. All About Z feat. Haruna Yusa
5. Juveniles feat. Daiki Kishioka
6. Slowmotion Through The Night feat. ANI (スチャダラパー)
7. Razor Sharp feat. Jimme Armstrong
8. Love Degrees feat. Keiichi Sokabe
9. Rebel Boy
10. Into The Light feat. Jun Yoshimura
11. Butterfly Effect
▼各種ストリーミングURL
big-up.style/tGODtL7dAV
外部リンク
> official site > X(Twitter) > Instagram
【TOUR INFORMATION】
SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE TOUR 2024
2024年9月7日(土) at 島根・松江 NU
2024年9月13日(金)at 岡山・芽楼
2024年9月21日(土)at 大阪・club JOULE
2024年9月27日(金)at 静岡・dazzbar
2024年9月28日(土)at 群馬・高崎CANOES BAR TAKASAKI
2024年10月12日(土)at 愛知・名古屋about
2024年10月26日(土)at 愛媛・松山TBA
2024年11月1日(金)at 東京・新宿AiSOTOPE LOUNGE