沖野俊太郎&小山田圭吾を擁する幻のバンド・Velludo。結成37年目の1stアルバムと色褪せない楽曲の魅力

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第132回目はVelludo(ビロード)が登場。

渋谷系前夜の’80年代後半、新しい洋楽、特にイギリスの音楽を熱心に聴いていた音楽オタクの視線は、ネオサイケデリックと呼ばれるジャンルに注がれていた。文字通り’70年代のサイケデリックロックの酩酊感や浮世離れしたニュアンスと、パンク/ニューウェーブを通過してきたビートやサウンド感の更新を備えたバンドサウンドである。日本では目立った存在はいなかったが、のちにフリッパーズ・ギターとして活躍する小山田圭吾(Gt. / Cho.)と、Venus Peterに加入することとなる沖野俊太郎(Vo. / Gt.)が中心となって結成された4人組バンド・Velludoは自らネオサイケバンドを名乗っていたのだ。

昨年、約35年ぶりに開催したライブが大きな話題を呼び、動向に注目が集まっていた中、なんと1987〜1988年に書かれたオリジナル楽曲を37年の時を経て新規レコーディングを行い、この度アルバム『Between The Lines』としてまとめ上げた。そこでここではソングライターである沖野に改めてバンド結成の経緯、再始動、そしてアルバム制作についてインタビューを敢行。普遍的な曲の良さはありつつも、40年近い空白期間は何を持って埋められたのか。まず、このバンドの始まりから振り返る。

フリッパーズ・ギターのメンバーからのスカウトがバンドの始まり

ー今更ではありますが、改めてVelludo結成の経緯を伺えますか。

僕は19歳ぐらいで文化服装学院の生徒だったんですが、若気の至りでスカートを履いたり、派手な格好して原宿を歩いていて。そうしたら、今は編集者(ex.フリッパーズ・ギター/現・雑誌『nero』編集長)をやっている井上由紀子さんに「バンドをやってるんだけど、ボーカルをやってくれないか」っていきなり道端で話しかけられて。その場で少し喋った後、井上さんの家に遊びに行く機会があって、行ってみたら他にも何人かメンバー候補がいたんですね。ただ、井上さんが志向してた音楽が当時のニューウェーヴ/テクノで、僕はどっちかっていうとモッズだったんで、それもあって「ボーカルは嫌だけどギターならいいですよ」と答えてたんです。で、井上さんが『POPEYE』の路上スナップで小山田君を見つけて、「私この子がいい」と(笑)。そうしたら遊びに来てた太田君って子が小山田君を知っていて、きっかけはそういう感じですね。

ーその後、小山田さんと井上さんはロリポップ・ソニック(註:フリッパーズ・ギターの改名前の名義)を?

ロリポップ・ソニックの前にPee Wee 60’sって名前があって、それで活動する感じだったんですけど、僕はあんまり興味がなくて。そっちは抜けつつ小山田君とは話が合ったんで「別にバンドやらないか」と始めたのがVelludoですね。

ー非常に印象的なバンド名です

〈クリエイション・レコーズ〉のFelt(フェルト)ってバンドが当時すごい好きで。じゃあ生地の名前にしようって思ったけど、ヴェルベットだとThe Velvet Underground(ヴェルベット・アンダーグラウンド)がいるから、日本だったらまあビロードとも言うよねみたいな感じで、もうそれだけですね(笑)。特に意味はないです。

ー小山田さんと意気投合したのは、音楽の趣味が似ていたから?

そうですね。どっちかっていうと僕がモッズというかロックの人で、かつR&Bも好きだったんです。ニューウェーブは普通に流行りだったんで聴いてたぐらいで、あんまりUKのインディーズとかは知らなくて。知っててEcho & the Bunnymen(エコー&ザ・バニーメン)とか有名なバンドぐらいだったんで、小山田君と仲良くなって彼の家に遊びに行くようになってから〈クリエイション〉のバンドとかを教えてもらって。結構’60年代のものが下敷きになっているようなバンドも多かったので、僕もハマり出したんですよね。それがフェルトだったりThe Jesus and Mary Chain(ジーザス&メリー・チェイン)だったりでした。あと僕としてはオタクの人があんまり周りにいなくて、初めて音楽オタクに会ったみたいなとこはありましたね。

当時の楽曲と現在の手法を掛け合わせたハイブリッドな楽曲群

ー35年ものスパンがありつつ再結成した経緯は、どういうところが大きいですか。

小山田君とはここ10年ほど、何かのイベントで偶然会うぐらいしか付き合いはなかったんですけど、東京五輪のことがあったときに心配だったので連絡を取りだしました。話は前後しますが、その頃、僕が中学生ぐらいから録りためたデモテープを全部まとめて作品にしたんです(2022年『Lonely Souls (18cds 3Box Set)』)。その(制作の)ときにVelludoのカセットもいっぱい見つかって、今Velludeの音楽をやったらカッコいいんじゃないかと思い浮かんだので、それも連絡するきっかけとしてありましたね。彼が活動休止状態のとき、Velludoから始めるのはそんなにリスクもないからいいんじゃないかなと個人的には思って。それで「やってみない?」って言ったのが始まりですね。

ー去年開催したライブが非常に話題になったわけですが(2023年7月に東京・新代田FEVERにて約35年ぶりにライブを実施)、手応えとしてはいかがでしたか。

もちろん全部自分の曲なんですけど、正直に言うとどこかで客観的に見てるというか。説明が難しいんですが、去年はまだまだ小山田君が元気なところを見たい人たちが多かったんで、騒がれることに対して冷静だったというか。

ーライブが終わってすぐに何かしようっていう感じではなかったってことですね。

そうですね、全然。その後何ヶ月か経って、また小山田君と会って今後どうするかっていう話を…まあご飯に行っただけなんですけど、したんですね。最初は去年のライブでもう終わりという話だったんですけど、実際にやってみたら(感触が)よかったので、ライブの動画を販売か配信をしようっていう話をしたんです。でも、小山田君は音源を出さないかって言ってくれて。「けじめじゃないけど、しっかり形にして終わろうか」みたいな話に最終的になりました。

ーそもそも沖野さんがテープを掘り起こしたとき、Velludoの良さは何だと思われたんですか?

なんだろうな…今の時代に聴くとすごい新鮮に感じたというか。いわゆるネオサイケというジャンルを今やってるバンドって、世界的には昔から続いてるバンドが多い印象で。あとは、当時はすごい稚拙な部分があったから、今の2人がVelludoをやったらどうなるんだろうっていう想いがありました。

ー今回、ミックスやマスタリングはもちろん現在の手法じゃないですか。仕上げるときに留意されたことってありますか?

今回、ミックスはSALON MUSICの吉田仁さんで、仁さんの力はすごく大きいと思います。フリッパーズやVenus Peterはもちろん、他のアーティストのミックスやプロデューサーもやられてますけど、小山田君とご飯に行ったときに仁さんとやることは決めてました。

ー例えばギターのフレーズは当時を彷彿させるんですが、サウンド自体はフレッシュなんですよね。

小山田君のギターは今の彼のモードにアップデートされてるから。結構オーソドックスな曲もあったりするけど、それに小山田君のちょっと現代的なフレーズとか奏法が今の音像で入ってるんで、これは面白いなと思いましたね。

ー歌詞は全部沖野さんが書かれたんですか?

そうですね。

ー当時のUKのネオサイケのバンドにもあった、現実逃避的でおとぎ話っぽい感じもあるのかなと。

はい。でも正直言うと、当時は歌詞はなかったんですよ。ないというか毎回テキトーに歌ってたみたいな。今回の再始動の1枚目のシングル「Speak Like」は当時はデタラメな英語で歌ってて勢いで出しちゃったんですけど(笑)、さすがに今回はまずいってことで全部書き直したんですよね。だけど今の自分じゃなくて、当時の目線を意識して書いたっていうか。

ーあんまり現実にコミットしてる感じではない内容ですね。

すごい耽美的っていうか、当時はすごいナルシストでしたし(笑)。

若い人が新鮮に思ってくれたら嬉しい――世代を越えて愛されるタイムレスな魅力

ーアルバムタイトルの『Between the Lines』は去年のライブのタイトルと同じで“行間”という意味だと思うんですけど、その意図というと?

去年のライブのタイトルを決めるときに何かで“Between the Lines”っていうフレーズを見て。“行間を読む”という意味なので…とはいえ35年は行間的には長すぎますけど(笑)、35年ぶりにライブをやるという中でお客さんはどうやってその行間を読むんだろう? という問いかけというか、そういう意味合いでつけたんです。で、アルバムのタイトルもそれ以外思いつかなかったので。

ー実際バンドで演奏していていかがですか。

演奏してるときは結構入り込んでますけど、音源に関してはあんまりやりすぎないようにしたところもありますね。何度も聴きたくなるような感じを意識したので。昔の音源を聴いてもらうとわかると思うんですけど、Velludoって昔はすごいねちっこい歌い方だったんですよ。その辺は一応今の感じにアップデートしたというか、あんまりしつこくないぐらいにしました。

ー11曲の中でも特に思い入れの深い曲はありますか?

難しいですね、1曲というと。ま、全曲思い入れあるっちゃあるし、ないっちゃないっていうか。変な言い方ですけど(笑)。

ー今の心情ではなかったりするからですか?

うん。そうですね。だからすごく客観的っていうか、入り込んでないしあえて距離をとってるというか。

ー少し距離を置いて音楽として聴かせるっていう作り方だったわけですか。

うん。特に意図的に進めていったわけじゃないんですけど、それぞれがそれぞれのスタンスでアプローチした感じじゃないですかね。

ーでは、時代関係なく沖野さんの好きなバンドと今回のアルバムを同じ枠組みで捉えるとしたら、どんなアーティストや作品にシンパシーを感じますか?

なんだろうな…さすがにそこまで客観的には見れてないというか、自分としてはいいものができたという感想はあるんですけど、でもこれが一体、この時代にどう響くのかっていうのは全然自分でもイメージができてないですね。

ー当時から知っているリスナーは沖野さんや小山田さんの音楽と一緒にアーカイブしたい気がするし、若いリスナーは今のインディポップと並べたい人もいるかもしれないなと。

若い人たちが新鮮に思って聴いてくれたら嬉しいですけどね。そういえば今思い出したんですけど、レコーディングの後半あたりに小山田君が息子の米呂君に聴かせたら、「これは売れそう」みたいなこと言ったらしいんですよ。それが僕はすごく嬉しかった記憶があります。まあ、同世代の人たちに喜んでもらうのももちろん嬉しいんですけど。

ーそしてライブも開催されますが、クアトロのほうはVelludoとVenus Peterということで、沖野さんはダブルヘッダーです。

はい。これはVelludoの対バンをどうしようかって話になったときにベースの西森(均)君が、「Venus Peterがいいんじゃない?」ってポロっと言ったんですよ。それでやることになっちゃったというか、それがお客さんも一番喜ぶんじゃないかみたいなところですね。体力的には心配ですけど、イベントとしてはそこに瀧見(憲司)さんを挟むっていうのが楽しみというか、面白そうですよね。

ーVelludoのリリースパーティであるだけでなく、広くネオサイケやその辺りの音楽の魅力がわかるようなライブになりそうですね。

本当にそういうイベントですね。若い子が来ても絶対楽しいと思います。

ー改めて、ネオサイケという音楽の魅力を沖野さんはどう捉えてますか

あー、何ですかね? 暗くてヒリついてるんだけど、光が見えてるっていうか。ギターとかはキラキラしてるけど、でもネオアコみたいに青春!とかでもなくて。そういうところだと思う。

ーそう考えると、時代に関係なく若い時期に刺さる音楽ではあるのかなと。

そう思います。まあそれを還暦近いおじさんたちが今やって、ネオサイケ的な説得力があるかちょっとわかんないですけど。

ーこのアルバムを聴く限り、説得力はありますよ?

ありがとうございます。ただ一番心配してたのは、すごく残念なものができちゃったらどうしようっていうね。さすがに小山田圭吾と沖野俊太郎が一緒にやって仁さんも関わってると言ったって、いいものができるかっていうのはやってみないとわかんないんで。でも、それが自分たちでも「お! いいね」みたいな感じのものができたので。「最高だ!」とか言ってるわけじゃないですよ? だけど「いいもんできたね」ってみんなで正直に言い合える感じだったんで、それは本当に良かったなあっていう。世間がどう思うかはわからないですけどね(笑)。

Presented by.DIGLE MAGAZINE




【RELEASE INFORMATION】

Velludo 1stアルバム『Between The Lines』
2024年11月6日リリース
Label:felicity

Track List:
1. My Picture’s Blue
2. Speak Like
3. Shut In Shell
4. Go Real Slow
5. No One Ever Understands Me
6. The Holy Clone
7. Over You
8. Marie On The Hill
9. Candy Rain
10. Velvet Sun
11. Mighty Mystic Eyes

▼各種ストリーミングURL
big-up.style/DNZ063NFwM

外部リンク
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【LIVE INFORMATION】

VELLUDO Presents “Between The Lines”1

2024年12月5日(木)at 東京・新代田FEVER ※SOLD OUT
Live: Velludo / Penny Arcade
Ticket:¥5,500
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2024年12月7日(土)at 東京・渋谷CLUB QUATTRO ※SOLD OUT
Live: Velludo / Venus Peter
DJ:Kenji Takimi(Special Set)
Ticket: ¥6,500
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