ミリオンストリームを達成したDIYアーティストが目指す、「自給自足」とは #1

コラム

皆さんこんにちは。作曲家で音楽プロデューサーの齊藤耕太郎です。普段、Kotaro Saito名義で自らの楽曲をリリースしています。詳しくは僕のnoteをご覧ください。

Kotaro Saito note
https://note.com/kotarosaito

さて今回、僕自身もSpotifyで150万回以上再生してもらえている「Poem, Poetry Or Not」を配信しているBIG UP!の皆さんからオファーいただき、4回に渡り連載の場をいただきました。テーマも文字数も自由という、ものすごく信頼してもらってのこの企画。何書こう・・・って1ヶ月くらい思案しました。

で、本題に入る前に。前提を。

現代の音楽産業を取り巻く状況は、大袈裟に言えば毎分毎秒、低く見積もっても週ごとに動きが大きく変わります。急に大きなサービスが立ち上がったり、ゲリラ的に大物アーティストが新作を解禁したり(テイラー・スウィフトの「Folklore」が記憶に新しい)、世界的にライブ産業に新たな基軸を求められていたり、もはやCD売ろうって大声で言いにくくなっていたり、「模範的正解が存在しない」世界だなってすごく思う。

最初に答えを言ってしまいますが、
これからの時代の音楽で生きるために大事なのは

①強力な”仮説”を立てられること
②”仮説”が違うと判断したら、有無を言わさず方向変換できること

この2点だと僕は強く思っています。僕は少なくとも、それをこの2年間、毎分毎秒考えて今に至っています。全てが順調だったわけではなく、むしろ自分の思うようにいかないことの方が多かった。その都度、どうやって自分の思考を軌道修正し、今何を思い、未来に対して何を目指しているのかを、今日は書きたいと思っています。忖度なし、全て本音です。どうか皆さん、最後までお付き合いください。

なお、この記事は日々音楽作品をリリースしているアーティストの皆さん、レーベルA&Rやマネジメントの皆さん、そしてリスナーとして音楽がどう世の中に流布していくかに深く興味がある皆さん向けに書きます。わざわざこのような記事を読まれる皆さんはきっと、僕同様に自分たちの音楽を世界中の方々に届けたい!と本気で考えている方々かと思いますので、既に僕が世に出している記事などでフォローできる部分はそちらに任せ、クリティカルなことだけを書いていきますね。

アーティスト自身が、自分のあり方を本気で考えないといけない時代が来た

これは、音楽業界だけでなく、日本のエンタテインメント産業全般に言えることじゃないかと僕は思います。メジャーとインディの区別がどんどんなくなり、SpotifyやApple Musicの新譜プレイリストを見ても、誰がメジャーレーベル所属なのか正直もう分かりません。僕自身はメジャー、インディーどちらにも良し悪しはあると思っていますが、大事なのはどちらの立場で音楽をやるかではなく、どちらの立場においても「アーティスト自身にビジョン、夢、成し遂げたいこと」が強くないと続けていけないということだと感じます。

「私はこういうアーティストで、こういう世界を作って、聴いてくれるみんなにこうなってほしいんです」そう、力強く訴えるアーティストの方の言葉は、たとえその方が全くの無名だったとしても、たった1人がその情報を見つけ出した瞬間から横にどんどん拡がりはじめます。

たとえば僕のnoteでは、サブミッション企画というものを去年の秋頃から行っています。

【note】Spotifyリスナー10万人突破記念!サブミッションnoteを始めます。

僕のnoteの要項に沿ってご自身の楽曲を送ってくださった方で、僕がとっても好きな方がいた場合直接連絡を取らせていただいて、既に今年に入ってから2曲、その縁で作品をリリースしました。

広瀬大地、Kotaro Saito「Nightmare」

Spotify

Apple Music

【note】広瀬大地くんについて

Kotaro Saito, ORIVA「Not Found 404」

Spotify

Apple Music

【note】ORIVAくんとのコラボについて

2人とも僕より10つ程歳下の音楽仲間ですが、心の底から彼らのことをリスペクトしています。彼らの音楽には、音楽的な仕上がりとスキルはさることながら、自分自身でアーティストとしての佇まい・在り方をしっかり考え抜いた上で、僕がアップしてきた音楽マーケティングに関する記事を一言一句しっかり読んでくれていた。自分自身がこれから何をすべきか、「課題設定」が明確にできていた2人との会話は出会った瞬間からとても盛り上がり、その後程なくして彼らはデジタルディストリビューションを通じて大きく飛躍していきました。

音楽作品のリリースは継続性でしか発展しない

何事も、課題が明確だと実行に移せばいいだけなので簡単に結果が出ます。逆に、アーティスト自身が自分のメッセージを明確に持っていない場合、1曲は何となくリリースできても次につながらない。情報過多の現代において、特に無名の音楽家が突如一晩にして音楽の歴史を大きく変えることってほぼないと僕は思います。「香水」みたいな超人的な現象は極めて稀でしょうし、きっとあの曲も、バズを狙ってああいう曲にしたわけではないはず。

音楽作品単体のメッセージが心に響くものでなければならないのは勿論のこと、それらが連なったとき、「そのアーティストらしさ」がどのように構築されていくのか。1曲1曲の評価を気にしなければならない現代にとって難しい局面ではあるけれど、連なることで生まれる「アーティストのストーリー」がその表現者の生き様になり、将来的に大きな財産になると僕は信じています。

その継続性を産む原動力は、アーティスト本人の胆力が大前提だと僕は感じます。メジャー、インディ問わず、少なくとも本人が一番、もしくは同じ熱量を誰かと共有して進めなければ、ただでさえ初期段階に大きく投資が難しくなっている音楽産業のなかでリリース活動、アーティストプロモーションを続けていけない。でも逆に、やる気さえあれば、楽曲制作もSNSでのプロモーションも、何ならMVの制作でさえも本人の工夫だけで突破できてしまう可能性があるのが現代の音楽シーンの本当に面白いところ。

組織の規模が小さい、または本人1人で進めなければいけない予算事情の時期こそ、自分1人で一度全てのフローを経験しておくことで、チームを編成して誰かにお仕事として制作を依頼するときにより深いコミュニケーションができるはずです。本当、現代のアーティストって、自立しててタフじゃないと務まりませんね。すごい時代だけど、やってて面白いなって思います。

「ファンの方」と「まだファンでない方」へのコミュニケーション

僕が本格的に、「聴いてくださる”ファン”の方たち」を強く意識できたのって、実は今年の8月に内山肇さんとリリースしたアルバム「VOYAGER」の時が初めてだったように思います。

Kotaro Saito, Hajime Uchiyama – VOYAGER

それまでは、必死で書き続けてきたnoteも、誰かに自分たちの音楽を知ってもらうための方法論が「機能的」というか、「便益を提供して聴いてもらう」スタイルだったように今は思います。

【note】noteとSpotifyの組み合わせで活躍の場を切り拓く。音楽家・齊藤耕太郎さんの「noteでのファンの巻き込み方」

これはnote編集部の皆さんにインタビューしてもらった時のもの。ここでも答えていますが、僕の文章の書き方自体がより口語的になっていったというか、文体一つとっても誰に、何を伝えたいのかが変化したことを自分で感じます。SNSやウェブを通じたコミュニケーションにおける最も大事なことって、「言ってる内容」より「言い方」だと僕は思っています。この情報過多な時代、人が世の中に言いたいことの本質軸なんてあんまり多くない。でも、人によって説得力が違うのは、言ってる人が誰かってこともあるだろうけど、それと同じくらい「どう伝えてるか」って大きいと僕は思うんです。

血肉、体温が伝わること

noteを書き始めた頃の僕の文章って、ビジネス文書っぽくて、冷たかった。きっと、僕の人間味、そんな伝わってなかったんだろうな、って今振り返ると思います。

人が人のことを本当の意味で好きになるのって、その人の人間味の部分に触れた瞬間だと僕は思うんです。アーティストによってその体温の高さは当然違うから、出し方もきっと人それぞれ。でもみんな一様に、そのアーティストの「生の言葉、声」を期待してるはず。他の誰でもなく、本人が今何を感じていて、何を産み出そうとしていて、どんな感情で生きているのか。それが伝わる方が、曲を愛してもらう大きなきっかけにもなると僕は信じてる。

方法は何でもいいと思うんです。YouTubeが自分に合うならYouTubeをやればいいと思うし、noteを用いて文章で語る人もいれば、もしかしたらTikTokで踊る人もいるかもしれない。1~2年くらいの中期的な視点で見た時、音楽を作りリリースしていくこととは別に、何らかのウェブコミュニケーションを地道に行うことって必ず大きな意味をもたらすと思うから。

現に僕は、noteをやっていなければこうして執筆の場をいただくことはできなかった。この記事を読んで、皆さんが僕のファンになってくれるかどうかは分からないけど、僕は僕なりに、いつもの自分の言葉で、喋るように自分が今信じることを書きます。

1年前くらいまでは、僕自身ちょっと短絡的というか身勝手な部分があって。noteで便益を書いた時は沢山読まれて、僕自身の楽曲の話を書いても読まれないって何となく思ってたんです。でもそれ、違ったんですよね。僕自身の表現が、自分の曲を語るに留まっていて、聴いてもらいたい気持ちが文章に表現できていなかったんです。今はとーーーーーっても嬉しいことに、僕のセルフライナーノーツ(自分の楽曲を自分で紹介するもの)が、マイ閲覧ランキングの上位を占めています。

Twitterとかもそう。別に僕のTwitterは一般的にはたくさんの人が見てリアクションくださっているわけでもないんだけど、それでもアルバム「VOYAGER」をリリースして、明らかにコミュニケーションが楽しくなったんです!以前は「リリースされました!聴いてください!」しか僕は発してなかった。最近は、リリースされたこと以上に、そのリリースに対してその時率直に感じることをつけるようになった。そしたら、段々少しずつ、ファンの皆さんがリアクションしてくれるようになったんです。

もしかしたら、僕より読者の中のアーティストの皆さんは遥かに良く分かっているかもしれない。ここで僕が言いたいのは、「誰にでも、初めてってある」ってことなんです。自分で探して、自分で掴んでようやく理解できるものだったんです。ファンになってもらうって本当に難しくて、へりくだるのは絶対に違うし、かと言って僕的には突き放す存在でも絶対にない。距離感って本当にアーティストの皆さんそれぞれ違うと思うのだけど、それも含め、やって初めて分かることばかり。そしてそれをやり始めれば、本当に徐々にだけど、僕らの曲を能動的に聴いてくれるファンの方々と出会えるはずなんです!

僕は、ファンの皆さんが僕らを見つけてくれたことをリスペクトしています。そしてそんな皆さんは、僕の音楽愛や生き方を理解してくださろうとしている。たとえ顔や名前が分からなくても、そういう関係性でちゃんと心が通じ合えるって何だか嬉しいです。この喜びを一度知ってしまったら、今後のリリースに関しても最初に思い浮かぶのは「このサウンドでファンの皆さんが驚き、喜んでくれたらいいなぁ」ということばかり。もちろん、変に寄せたりしないですよ。僕のファンの皆さんはそんなこと期待してないはずだから。更に、そのまた更に先の次元のサウンドを、僕や僕の仲間たちは追求します。


Kotaro Saito / 齊藤耕太郎

Spotify
Apple Music

僕の日々の執筆記事はnoteにて。より具体的な考えや手法を書いています。
https://note.com/kotarosaito