正体不明のYODAKEEに接触。泣きじゃくりながら踊り狂うポップソングを目指すワケとは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第12回目はYODAKEEが登場

YODAKEE(ヨダキー)が作るポップソングは痛快だ。EDM以降のメソッドも持ったハイになるサビがあり、フロアで輝くリズムとエナジーがあり、そして何より粘着質で狂気的な愛を綴った歌がある。本人はMIKAと岡村靖幸をフェイバリットに挙げているが、なるほど。これくらい曝け出してこそ「ラヴソング」であり、普段は人見せれないドロっとした内面をアートにできるからこそ、音楽は素晴らしい。

さて、簡単に紹介しておこう。YODAKEEはヴォーカルのチャダイを中⼼に結成されたプロジェクトであり、それ以外の詳細は一切”不明”。ヴィジュアル等も公開されていない匿名的な存在である。しかし、それでいて2017年にリリースした『#』には水カンのケンモチヒデフミやCharisma.comのMCいつかが参加し、昨年リリースした楽曲ではビッケブランカとコラボレートするなど、どこかイカサマ的な雰囲気を放っている音楽である。謎だらけの音楽家の表現欲求を聞いてきた。

ピアノはできない。でも、ピアノの曲を作りたい

ー「YODAKEE」というアーティスト名と、チャダイさんが中心になっているという情報だけを公開している、ヴィジュアルを含め匿名性の高いプロジェクトになっています。まず、どういう経緯でこの活動を始めたのかを聞かせていただけますか。

僕、MIKAが凄く好きなんですけど、全然ピアノが弾けなくて。

ーはい(笑)。

ピアノ以外の楽器はだいたい触ってきたので、他のものはなんとなくどれもできるんですけど。ピアノだけはちょっとできなくて…でも、ピアノが入っている楽曲を作りたかったんです。

ー何故?

ピアノのカッコいい踊れる音楽が日本にはあまりないなって思っていたから。去年コラボしたビッケブランカ(「Bachelor(feat.ビッケブランカ)」)くんのように、ピアノマンで且つダンサブルな音楽をやっている人も最近は少し出てきたけど、前は全然いないなぁって思っていて。それで自分で作りたいなって思いました。で、宅録だったら鍵盤を上手に弾けなくても、プロジェクトを組んでいけば自分が好きなフレーズを細かく作っていくことができると思ったんですね。

ーなるほど。

そうしてどんどん作り込んでいったら、宅録だと生の楽器じゃないものを入れざるを得なくなってきて。それでサンプリングや打ち込みの音を足していって、今の音楽になっていったというのがこの音楽が出来上がっていくプロセスです。

ー音に関してはEDM以降のメソッドをもったポップソングでもあると思いますし、モダンな感覚を持った音楽だと思ったんですけど。むしろ、チャダイさんがピアノが達者な人だったらこうはならなかったんですね?

そうですね。音を重ねたりもしなかったでしょうし、恐らくもっとクラシカルな方向というか、ここまで踊れるものにはならなかったかなと。もし僕に痺れるほどの楽器的技術があれば、ピアノと歌だけのもっとシンプルなものになっていたかもしれないです。

ー2年前にリリースされた『#』は、今よりも若干と今よりレトロな音作りをされている印象があって。今年配信でリリースされている楽曲は、少し音の質感が変わったように思いました。

『#』を作っている時は、湯浅篤さんっていうアレンジャーの人と一緒に作業をしていたので、その影響ですね。僕はデモの段階から作り込むので、最初からかなり出来上がった状態のものではあったんですけど、湯浅さんと作業をする中で打ち込みの音色が変わっていきました。

ー何か新しいイメージが生まれてきたっていうことですか?

いや、宅録っていうものを僕がまだ深く掘り下げていない頃だったので、打ち込みの音はほとんどが何も考えずに使っていたものだったんです。それを湯浅さんに伝統のアナログリズムマシーンの音に変えてもらったり、細かい音色選びのところで勉強させてもらった感じですね。ホーンとかストリングスに関して言っても、僕が感覚的に入れていたものを、もうちょっとソウルとかの引き出しから引っ張ってきたようなフレーズに変えてもらったりして。細かい部分で伝統に乗っ取った音作りをしてもらったところがあるかもしれないです。

チルアウトがわからない

ー音楽的になんとなくYODAKEEとしての形が見えてきたところで、何かこのプロジェクトにおける野心的なヴィジョンや、音楽的な青写真を持っていたりはしましたか?

『#』っていうミニアルバムを出した頃は、ちょうど世の中的にチルアウトが流行っていたんですけど、僕はチルアウトが分からないんですよ。

ーというのは?

これは僕自身の欠陥だと思っているんですが、「チルアウトする」っていう感覚が全然わからない。僕が音楽を聴く時の理由って、自分をトーンダウンさせるとか、そこにある風景をより綺麗に見せるとか、そういうことじゃなくて。感情が爆発している瞬間に巻き込まれるようなものを求めているから、音楽を聴く時は没入したいんですよ。

ーまさにチルとはかけ離れていますね。

だから僕の場合は、作る時にもそうならざるを得ないところがあって。オフビートやチルアウトするようなサウンドが凄く出回っていたけど、そこに感情移入できなかったから、そういうものはできなかった。で、それはなんでだろう?って考えてみると、僕は自分の中に隙間がないんですよね。怒りとか悲しみとか喜びとか、もしくは虚無みたいな感覚があることは凄く自覚しているんですけど、一方で曖昧なものがあんまりない気がしています。なので隙間を楽しむような感覚があんまりないし、それだったら隙間がないような音楽を自分が作って、凄く極端なことを歌えばいいんじゃないかと。そして、自分でその音楽を聴いて、泣きじゃくりながら踊り狂いたいみたいな感覚があります。

ーああ、それはこの音楽を凄く言い表していると思います。

僕にとってのポップスって割りとそうで、たぶん心底元気な人が作るポップスには今まで1回も感動したことがないんですよね。その音楽の中に仄暗い何かが垣間見えるからポップソングは美しいんだと思っていますし、であればそこには感情の爆発があるし、ドロッとした感情がどこかに垣間見えて、それがちゃんとポップアートとして表に出ているものに惹かれるんですよね。なので動機としては、友達には話しにくい自分のディープな部分を吐き出す場所が欲しくて曲を作っているところがあります。

ーそれで歌はちょっと変態的な内容になっているんですね?

そうですね(笑)。自分の性癖を嬉々として話す機会ってそんなにないけど、音楽という形で消化すれば、ある種ポップなものとしてパッケージできる気がしたんですよね。というか、自分の中にあるドロッとしたものを喋れる場所って、マジで美容院ぐらいじゃないですか。

ー(笑)。

だからそういうことを言えるタイミングがもっと欲しいっていうのがあって。もちろん、音楽的にハマっているものがあって、自分もこういうのを作りたい!っていうような思いから作るものもあるんですけど、そういう動機は少なくとも僕が曲を作る一番の理由ではないかなって思います。あくまでも言いたいことがあって、そこに自分の音楽的趣味が出てるっていうとこだと思いますね。

別世界に行くためのポップソング

ーこれは敢えてお聞きします。「泣きながら踊い狂う」ようなものを求めていたと言われていましたが、それって本来ひとまとめにする必要のない要素でもあるんじゃないかとも思うんですよね。

というのは?

ーダンスミュージックって歌詞や言葉のないものが多いのは、ある意味抒情的なものを必要としないところに魅力があるわけで。反復するリズムに快感があるし、だからこそ無機質なものが流行ったりもすると思うんですよね。

うん、なるほど。

ーでも、そうした踊れるリズムがあり、なおかつ「泣く」っていうひたすら感情的な行為も求めているってうのは、つまり凄くハイブリッドな音楽を作ろうとしているのかなって思いました。

確かに仰るように、踊れる音楽って歌ってることの中身はなくなりがちだし、考えさせないほうが踊れることもありますよね。実際僕も、音的なところを勉強していく中で、言語や意味から離れていったものが身体を揺さぶることも往々にしてあるっていうことは分かったんですけど。ただ、自分が最初に没入した音楽がそういうものじゃないかったっていうのがやっぱり大きいですね。スタートがそこじゃなかったから、自然と目指すものも違うものになったというか。僕、最初に言ったMIKAと、あとは岡村靖幸さんがめちゃくちゃ好きなんです。

ーああ、凄くこの音楽のバックグラウンドが見えました。なんと言うか、リリックには粘着質なところがありますよね?

バレました?(笑)。でも、「Be Your Lovely」とかは、当時付き合ってた人に「100%褒めてくれない?」って言われて書いた曲です。

ー(笑)。自分の性を表現せずにはいられないというような、そういう衝動を感じる音楽だと思います。

…うん、そうですね(笑)。僕は直接岡村さんとお話ししたことがないので、これは他の方から又聞きしたことなんですけど。あんなに曲だとお喋りなのに、彼はプライベートではあまり喋らない方のようなんです。じゃあ何故あんなに明け透けに歌えるのかっていうと、「海外のソウルとかR&Bって、愛のことやセックスのことを歌うのが昔から普通だから。当たり前じゃないですか」って彼は言っていて。本当にそれはそうだなって思ったんですよね。だから僕も普段そんなに明け透けに自分の話しはしないからこそ、言う場所がちゃんと必要だったというか。日常会話では言えないようなことを形にすることに意味があると思っているんでしょうね。

―僕はテイストとしては敢えて軽いものを作ってる印象を受けていて、そこに凄く惹かれているんですよね。消費されることを願っている音楽というか、誰かのパーソナリティに凄く結び付く音楽ではなく、一瞬で今だけパッと楽しむような享楽性があって、それは閉塞感のある時代に凄く必要なことなんじゃないかと思います。

時代に必要かはともかく、今言われてみて凄く「ああ、なるほど」と思ったことがあって。「敢えてテイストを軽くしているんじゃないか」って言われましたけど、確かに曲を噛みしめて味わって、たまに引き出しから出してまた味わうといった聴き方をしてもらうことは全く想定していないですね。。

ーうん。

『♯』っていうミニアルバムを2年前に出したんですけど、僕はそれを作ってからは、しばらくはその曲ばっかり聴いていたんですよ。それである程度自分の中で擦切れるくらい聴いたら、また新しい曲を作ってそれを聴いていくっていうサイクルで作っています。だからもしかしたら、聴く側にとってもそういう音楽になってしまうものを作っているのかなって思いました。聴いている間だけ没入して、パッと抜け出せるようなものを作っている感覚はありますね。

―ゆったりと楽しむよりも、今ブッ飛ぶっていう。

本当にそうですね。今見えているものを際立たせるものではなくて、聴いた瞬間に全く違う世界に行ってしまえるようなものを求めています。音楽が自分を救ってくれたというか、僕にとって音楽はどうしようもない時にあったものだから。ちょっとBGMとして音楽を聴けないんですよ。だから聴く人に一歩引いたところから歌っているものを作れたら、それはより聴いてくれる人が増えたり、ある種ファッショナブルな受け取られ方をするんだろうなっていうのも凄くわかるんですけど。僕がファッショナブルなものではなくエモーショナルなものとして音楽を捉えてきたし、それによって自分がここまで生きてこれたっていうがあるので…こういう音楽を欲してしまうんですよね。

―『♯』を出したのが2年前で、今配信で連続リリースをされています。最後に、今後どういうふうにこの活動を展開していこうと思っているのかを聞かせていただけますか。

どういう形になるかはわからないですけど、どこかでライヴがしたいですね。

―まだ1回もしていないんですよね?

していないですね。再現するのが凄く難しくて、いい見せ方が見つかったらライヴがしたいんですけど。最初に言った通り僕はそんなにピアノが弾けないから、弾き語りにするとグダグダになっちゃいそうなんですよ。

―(笑)。でも、全部打ち込みだと嫌なんですか?

うん、なんかそれもねぇ…よく8割方同期で流して、シンセっぽい人とパットのドラムの人と3人でやるみたいなスタイルがよくあるじゃないですか。僕はあのスタイルでやっているライヴを観て、凄くいい!って思ったことがなくて。僕らは作っている側の人間だから、「それほとんどやってないじゃん」っていうのがわかってしまうから、全然自分の心に迫ってくるものがないんですよね。言ってしまえば、テレビ番組で当て振りしているのを見ているのとあんまり変わらないんです。

―なるほど。

僕はJon Bellionっていうアーティストが凄く好きなんですけど、彼もMIKAも音源と全く違うアレンジを生でやっているんですよ。その方が見ていて感動するので、自分がライヴをやるのであればそういう形で披露するか、もしくはむちゃくちゃピアノを練習して弾き語りにするかのどっちかですかね。

―凄くフロアライクな楽曲があるのに、まだフロアに出ていってないんですね。

音数が多くて難しいんです…。できるのであればリアレンジしてもいいから生でやりたいっていう気持ちはあるので、何か上手い形が見つかればやりたいです。あとはやっぱり、フルアルバムを盤で出せたらいいなと思います。今は一聴して僕のキャラクターをわかってもらえるような曲をセレクトをして出しているので、愛や感情を表明をしているようなラヴソングが多いんですけど。自分のストックの中には結構色々なことを歌ってるものがあって、自分の政治的なスタンスを歌ったものもあるし、音楽的にもうちょっとトリッキーな曲もあるから。たぶん流れで聴いてもらえるようなものの方が適切になってくる気がしていて、それを上手く聴かせられるようなフルサイズの作品を作りたいです。ライヴも含めて、そこら辺も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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