UGAJINによるエロス漂う脱力アルバム『CRISING』。新作とキャリアを気さくに語らう初インタビュー

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第17回目はUGAJINが登場

UGAJINによるファーストアルバム『CRUISING』は、一言で言えばハンドメイド感のあるソウルである。彼は憧れたD’AngeloやPrinceのように、自身の最初のアルバムはひとりで作ると決めていたという。果たして、肩肘張らず音楽を楽しむスタイルも相まって、スウィートだがどこか気の抜けたなテイストでまとめた粒揃いの8曲が納められている。Stevie Wonderや尾崎豊を聴いていたというルーツから、ようやく生まれた初のアルバムのことまで、足早に彼のキャリアを辿ってみた。ユニークな人柄が垣間見える、シンガーソングライター・UGAJINの人生初インタビューである。

頑張んなくてもいいや

ーTwitterにはコーラス、作詞作曲、ドラム、プログラミング、シンセ、ギター、ベース、ピアノと凄まじいプロフィールが書かれていますね。

いや、それは、アピールするところがそれくらいしかなかったからです(笑)。

ー(笑)。その中で最初に手にした楽器は?

15歳くらいにギターを弾いて歌い始めました。

ー当時はどんな音楽を聴かれていたんですか。

最初はJ-POPだったと思います。Mr.Childrenとかスピッツとか、あと尾崎豊が好きでした。兄貴が持っていたアルバムを聴いてみたらハマったんですよね。

ーソロで活動されていますが、ギターを手にした頃からずっとひとりで歌ってきてるんですか?

はい、バンドを組んだことはないです。もちろんサポートで入ってもらうことはありますけど、活動としてはずっとソロでやってきました。

ーそれは尾崎豊の影響?

そうですね。弾き語りから始めたのはその影響だったと思います。

ーただ、音楽からは尾崎豊以上に、ブラック・ミュージックの要素が聴こえてきます。どこで自分の音楽が切り替わったんですか。

いや、小学校の頃からStevie Wonderを聴いていて、ブラック・ミュージックはずっと好きでした。切り替わったというよりかは、単に真似ができなかったっていうのが大きくて、尾崎豊さんの曲はギター1本でできるから真似やすかったんですよね。自分で曲を作るようになってからはブラック・ミュージックの要素が自然と出てくるようになって、Marvin Gayeからも影響は受けていました。

ー『CRUISING』からも、Marvin GayeやPrinceの匂いはしますね。

まさに、Princeは大好きです(笑)。D’AngeloとPrinceは本当に好きで、学生の頃からかなりハマっていました。D’Angeloのようなネオソウルは特に憧れていたと思います。

ーどういうところに惹かれましたか?

力が抜けているところが僕にとっては堪らなかったですね。頑張んなくていいやみたいな(笑)。メロウなものに惹かれていたし、自分自身、声を張り上げるような歌は僕のスタイルではなかったんですよね。

ーじゃあ、これまで影響を受けたフェイバリットのアルバムを3枚挙げるとしたら?

Marvin Gayeの『What’s Going on』とPrinceの『The Rainbow Children』。あとはD’Angeloの『Voodoo』かな。中でもマーヴィンだけは出会ったのが早くて、親父が好きで家で流れていたから小学校の頃から親しんでいました。

ーその耳でミスチル、スピッツ、尾崎豊も並列に聴けていたんですね。

もちろん。今でもスピッツを聴いていいなって思います。めちゃくちゃいい曲で、めちゃくちゃいい声で、誰にでもわかる素晴らしい曲を書いていて、どれも優しい曲ばかりだから。音楽って本当は人を楽しませるためにあるものだし、僕はそういう音楽こそが本当にいいものだと思います。だから自分には絶対にできないっていうことも含めて、素直に凄いバンドだと思います。

ーできないというは?

僕は曲がった考えを持っているから。自分で作ってもそういう(人を楽しませるような)曲にはならなかったんですよね。どっちかって言ったら、暗いものが出てきていると思います。

ポップに代わるエロス

ーどういう経緯でシンセやドラムも自分でこなすようになっていったんですか。

ギター1本でずっと弾き語りをやっていたんですけど、やっぱり自分の好きな音楽には、エレピが効いているものが多かったんですよね。あと、D’AngeloもPrinceも全部自分でこなしてアルバムを作ったっていうの話を聞いたので。それで俺もやってみようと思って鍵盤を始めました。

ーなるほど。それで今作はラップのフィーチャリングや女性コーラス以外、ひとりで作っているんですね。

はい。最初に発表する作品なので、自分だけでやってみようと決めていました。

ー制作期間は長く設けていたんですか。

1年未満ですかね。でも、ミックスとマスタリングに凄く時間がかかってしまって、たぶんそこに半年以上かかっています。

ーどうしてそんなに時間がかかったんですか?

よくなかったんです。

ー仕上がりが?(笑)。

そう(笑)。ミックス、マスタリングだけは自分ではできないので、プロの力っていうのを凄く期待してたんですよ。そしたら音のバランスとかヴォーカルの出方とか、僕が最初にミックスしたやつの方がいいんじゃないか?って思うくらいのものが返ってきて。まあ、ギリギリまでやってくれたので、ファーストアルバムだし今回はこれでいいかなと思って完成させたんですけど。

ー楽曲のテンションというか、アルバムとして統一したトーンでまとめた作品ではないのかなと思いました。

そうですね。作品性を綺麗にまとめるというよりかは、全曲シングルで出してもいいと思うくらいのものを作ろうと思っていました。とにかくやりたいことを全部やっちゃおうとしたアルバムです。

ーじゃあその中でも、自分の真ん中になるような曲は?

「snow」かな。8曲の中で一番最初に作った曲ですね。86くらいのテンポで、トラックも音数少なく、ほぼ一発で録った曲です。

ー全体として、アダルトで官能的な曲が多くなったのは何故だと思いますか?

エロスがあるから、かな。それが一番伝わりやすいものだと思ってます。

ー「エロス」はある意味ポップに代わるもの?

僕にとってはそうですね。Princeもそういう歌詞を書いていましたし、そういう音楽に親しんできたので、自分の音楽もそういうものになっていくんだと思います。でも、彼も後年は少し優しくなり聴きやすい音楽になっていって、僕はその時くらいの曲が好きなんですよね。初期のゴリゴリのエロティックな感じよりかは、亡くなる前くらいの作品のほうが好きで、その感じが出ているのかな。

ー色気があるんだけど、そこまで表に出すわけではないっていうのは、まさに今のUGAGINさんの音楽に重なりますね。

あんまり極端な表現が好きじゃないのかもしれないですね。比喩じゃないですけど、尖った歌詞は歌っていて恥ずかしくなっちゃうから、少しかぶせた言葉になっていきます。「snow」は特に力入れて歌う曲じゃないので、結構ドライだと思います。

音で楽しませるのが音楽

ーシンガーソングライターとして、自分の歌が変わってきたと思ったことはありますか?

そうだな…30になったくらいの頃、音楽で売れることは諦めようと思って。強いて変わったと言えば、その時くらいですかね。別にどうでもいいやって思ったというか(笑)。力抜いちゃおうと思って、一生懸命張り上げて歌うのをやめました。

ーそれまではまたちょっと違う音楽性だったんですか?

優しい音楽だったと思います。今よりもっと、わかりやすい曲を書いてましたね。

ー今はある意味、投げやり感がある?

そうですね(笑)。

ーじゃあ、自分で聴き直した時、逆に今作の中で投げやり感が出ていない曲はありますか。

8曲目の「Gift」かなあ。もの凄く前に作った曲で、ひとつくらいわかりやすい曲があってもいいんじゃない?って友達が言ってくれて最後に入れた曲です。一番優しい曲になっていて、自分でも柔らかい曲になっていると思います。

ー<魔法のような音楽が溢れているよ>、<たった一つのこのgiftを/遠く彼方へ君のもとへ>と歌われていますね。音楽にはそれだけ魔法のような力があるんだと歌っているんだと思ったですけど、それがUGAGINさんの音楽観だとも言えますか?

そうですね。拙いですけどね。小さい時から、音楽を楽しむことで救われたことがいっぱいあったので、そういうことは昔から思っていたことかもしれないです。僕、詞は全然重要なものとして捉えていなくて、あくまでも音楽なので、音として楽しませてくれるアーティストが好きなんです。たとえば山下達郎がそうで、もちろん彼は詞もいいですけど、達郎さんの曲は前奏がかかっただけでグッと聴き込んじゃうし、それが音楽の力なんじゃないかと思います。僕はそこから力をもらってきたので、自分もそういう音楽をできたらいいなって思っています。

ー確かに、「RIDE ON TIME」なんて最初の3秒でゾクっとしますよね。

そうですよね。だから曲を作る時のジャッジは気持ちいいかどうか、それだけですね。多少ズレていても自分がよしとするならOKで、楽しんで作っている音楽だから、聴いている人も楽しくなるんだろうなって思うので。トラックのクオリティとか楽器のクオリティとか、自分ができるところを伸ばしながらやりたいことをやっていくだけだと思っています。

ー音を出すのに、必ずしもメッセージ性は必要ない。

必要ないですね。どれだけ相手を楽しませられるか、きっと多くのミュージシャンが、それさえできたら最高の音楽になると思って作っているんだと僕は思います。James Brownも、詞も何もないところで16ビートを鳴らして、これ最高に気持ちいいな!って思ってファンクを作っちゃったんだと思うから。僕もそういうふうに制作をしたいですね。

ー最初に「自分の曲には暗さがある」って言われていましたよね。気持ちいい、楽しい、にフォーカスして作っていても、陰の部分が出てくるのは何故だと思いますか。

たぶん詞が陰湿なんじゃないですかね?(笑)。あんまり心の中がいいやつじゃないので、それが出てきてるのかなって思います。でも、そもそもいいやつだったらひとりで音楽は作らないですよ。音楽家なんて、クソばっかり。

ー(笑)。

少なくとも、物事を斜めに見ている人ばかりだと思います。

ーそれは、確かにそうかもしれないですね。ちなみに、このアルバムを出した後のことも、もう見えていますか?

今3曲くらい一気に作っていて、それも10月か11月には出したいと思っています。

ー音楽性は変わっていっているんですか。

1曲ニューディスコっぽいのが入るかもしれないです。最近ハマっていて、Tuxedoとかが好きです。彼らは分かりやすい曲で、思いっきりニューディスコな感じを流行らせてくれたのがよかったと思います。

ーポップな音楽として発表していますよね。

僕もなるべくリズムがあって、日本人が聴かないような音楽性で、わかりやすい曲を作れたらいいなって思います。ネオソウルもヒップホップも限られた人しか聴かないし、ソウルも今のメジャーに届いているとは言い難いけど、もっと多くの人に聴いてもらいたい気持ちがあるので。パッと聴いていい曲だなと思うものを作って、こういうジャンルいいなって思ってもらえたらいいですね。

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