LEARNERSは肯定する。変革真っ只中のバンドの音と言葉を紐解く
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第27回目はLEARNERSが登場。
鮮やかなイエローを背景に、ウェスタン・ファッションを着こなし凛々しく映るSaraとChie、ジャケット写真を見ただけで撃ちぬかれた。LEARNERSの新作が素晴らしい。彼らの代名詞と言えるカバーでは、「ALWAYS ON MY MIND」や「STRONG ENOUGH」ら大名曲を料理。そこにバンド初となるヴォーカルSaraによる作詞・作曲の楽曲が収められることで、これまでのどの作品とも違うエネルギーが注がれることとなった。Chabe自身「これがなかったらやめてた」と語るほど、彼女のクリエイティヴが発揮されたことで、バンドの細胞は活性化されたのだ。ロカビリー、カントリーを基調にしながら、古今東西の音楽を丸飲みにしていくLEARNERSは今作で次のステージに向かうだろう。綴られているのは、Saraによる「みんなもっと褒められていいんだよ」というメッセージ、『HELLO STRANGER』は境界のない、すべてを肯定する音楽である。
バンドが意味を持ってしまった
- 『HELLO STRANGER』めちゃくちゃ素晴らしいです。今日はバンドのキャリアを辿りながら、新作が生まれるまでの背景や、このバンドの変化についてじっくりと伺いたいと思います。
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Chabe:
よろしくお願いします。
- まず、おふたりが結成した頃、LEARNERSの音楽に関してどんなヴィジョンを持っていましたか。
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Chabe:
僕の解釈で言うと、アメリカンポップス。あとはSaraちゃんの歌がいいので、ちょっとジャジーなものをやりたいなとは思っていました。そしたら僕らが大好きなBlack Lipsの来日公演の時に、オープニングアクトとして、バンドバージョンでやってみなよって提案があって。それでメンバーを集めたのが始まりです。
- Saraさんはその時点で何か音楽的なイメージを持っていましたか?
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Sara:
正直なところ、全く何も考えてなかったです。
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Chabe:
ふふふ。
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Sara:
始まった時は、私はちょうど妊娠した頃だったんですよね。仕事もセーブしてるし、家にいるのもつまらないなって思っていた時、Chabeさんが“ラーナー”っていう小さいハコで弾き語りイベントを始めて。暇だから歌いに行っていいですか?って感じで行くようになったんです。だからBlack Lips用に5人になったのも、考えてなくして起こったアクシデントでした。
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Chabe:
そしたらそれが良くて。長く続けるバンドになるとは思ってなかったので、記念に一枚作ろうか、くらいの感じでしたね。
- それが続いていったのは、何か強い動機が生まれていったから?
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Sara:
いや、それもよくわからなかったんですよね。
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Chabe:
そうだね(笑)。やっぱり初期衝動っていうものはなくなるもので、なんとなく(続ける動機が)先延ばしになってたところで出したのが2枚目(『MORE LEARNERS』)辺りで。次の『LEARNERS HIGH』の頃から「どうするこの先?」みたいなことも、色々意識し始めたのかな。あの作品に「CASSIS OOLONG」っていうオリジナルと、「ALLELUJAH」のカバーが入ってるんですけど、割とそのふたつは「これからは少し突っ込んだことやんなきゃいけないのかな」っていう、方向性の始まりだったような気がします。
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Sara:
LEARNERSは元々パーティバンドだったんですよ。簡単に例えるなら、温泉地に呼ばれて宴会場で音楽やってギャラもらって帰るみたいな、そういうバンドだったんです。そしたら「ALLELUJAH」が割と化け物になっていって、あの曲が一人歩きし始めたんですよね。そうなった時にお客さんもモチベーションが変わるというか、バンドの見方が変わっていくから。このバンドが意味を持ってしまったんです。
- なるほど。
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Sara:
それまではパーティバンドとしてやってきて、責任は持ちません、その場限りのやり逃げですっていうスタンスだったけど、このバンドが意味を持ってしまったのならば、それはそういう作品を作らなきゃいけないんじゃないかって。そういうところで出来上がったのが今回のアルバムです。
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Chabe:
そう。だからもう屈託なくカバーやってるわけにはいかないなっていうね。
- それでSaraさんの書くリリックにも、メッセージが含まれていったと。
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Sara:
そうですね。まあこんな世の中だし、考えるよねっていう。時代の流れだったり、ニュースを見ていると、恐ろしいこともいっぱい起きているので。そこで無意味に音楽をやるっていうのは私には理解できなかった。それでちょっとずつではありますけど、意味を持ったことをやれたらいいなってなりましたね。
- では、そうした無責任ではいられなくなった作品を作る上で、制作中に意識していたことはなんですか。
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Chabe:
僕はとにかく、やったことないことをやろうと思っていました。たとえば、Saraが自分からメロディと歌詞を出してきたので、それが完成したらいいなっていうのはありましたね。
- 実際Saraさん作詞作曲の「シャンブルの恋」から始まりますね。
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Sara:
まず3曲くらいできたものをChabeさんに送ったんですけど、その内の1曲が「シャンブルの恋」で。シャッフルやスウィングが入っていてLEARNERSらしい感じだったんですね。
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Chabe:
アカペラで送られてくるんですけど、それが凄いんですよ。普通アカペラに楽器を当てると、ピッチが上下しているものなんですけど、それがないんですよね。オケを聴きながら録ったとしか思えないような精度で、そんな曲が年末くらいに3つ送られてきたから、これは面白いなって思った。で、Taichiという人間は、ある種LEARNERSに一つ線を引いていたと思うんです。でも、彼も黙ってられなくなったんでしょうね。Saraから送られてきた曲をTaichiがパズルのように解読して、家でピアノでコードをつけてくれて。それをみんなで1回合わせて出来上がっていった。彼がそういう風に乗っかってきたのも、ひとつの発見でした。
- Saraさんから送られてきた曲を聴いて、みんなが本腰になったんですね。
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Chabe:
まさに。もう曲にすべてのことが書いてあったんですよ。完成図が見えたとうか、「おお、これはついに来たな」っていう感覚でした。それは彼女の中から表現者として溢れ出るものが生まれてきたっていうことだから、歌詞も僕が書いた仮の言葉を、Saraが歌いたい内容にリライトしてもらいました。もう、僕の歌詞をSaraが歌うのは似合わないんですよね。そうした分業ができたのも凄く良かったです。
- 「つきかけ」はSaraさんとChabeさんのおふたりのクレジットですね。メロも言葉も本当に強い1曲だと思います。
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Chabe:
「つきかけ」は去年ずっとOLEDICKFOGGYと回っていた影響をストレートに出してみようと思って書きました。せっかく沢山やってきたから、何か自分達の曲に影響が出てきたら面白いと思ったし、ライヴでこういう曲をやってみたかったんですよね。この前弾き語りでやってみたら、友達からは「凄いですね。これは歌い継がれていくような曲です」って言ってもらえて、いい曲ができたなと思います。
- <ここから君を連れ出すよ>、<僕が闘った勲章は君が流した美しい涙です。僕達の明日を生きろ>っていう、力強く前に進んでいく意志が綴られていると思います。いわばこれが今のSaraさんやLEARNERSの真ん中にあるものでしょうか。ト
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Sara:
うん、基本私は「日本人って頑張りすぎでしょ」っていうのが頭にあるので。なんでこんなに頑張ってるのに、誰も褒めてくれないんだろって思うんですよ。もっと褒められるということが当たり前にあってほしい。
- もっと肯定されるべきと。
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Sara:
そう、みんなが平等にそうあるべきだと思う。私は『はじめてのおつかい』って番組が大好きで、CMだけで泣けるんですけど(笑)。「つきかけ」はあの大人版っていうイメージで作ってます。子供も大人も、おじいちゃんも先生も、誰もが褒められなきゃいけないんです。でもそういう世の中じゃないからさ、「じゃあ私が褒めまーす」って感じです。
- 素晴らしいカバーもこのバンドの魅力です。50年代や60年代、70年代辺りのロックンロールやロカビリー、カントリーに惹かれる理由はなんですか?
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Chabe:
90年代、2000年代は、僕はその時の世界の音楽に反応しながら、バンドやソロでずっと1、2年に1枚のペースでアルバムを出してたんですけど。40歳を超えたあたりから、やったことないことやりたくなって弾き語りを始めて。僕が子供の頃に聴いてた音楽に気持ちがあったというか、たまたま10代前半ばに聴いていた音楽をやってみたくなっただけかなって思います。
- Saraさんも音楽的にシンパシーを感じてますか?
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Sara:
私はアメリカの真似をしたヨーロッパのバンドが好き。
- イギリス的なバンドの発想ですね。
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Chabe:
うん、それと英語圏じゃない国も含めてね。
- なんでアメリカの真似をしているバンドが好きなんですか?
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Sara:
抜け感。完成されたものにはあんまり興味はないんです。アメリカを真似したっていう時点でそれにはなれてないわけで、どこか違うエッセンスがあるわけじゃないですか。遊びの部分もあったりと、色々なエッセンスが加えられてちょっとへなちょこになるところが私は好きです。
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Chabe:
ふたりで始めた時はアメリカンポップスをやりたいとか言ってたんですけど、結局選んでる曲はイギリスとかヨーロッパの人が、80年代にニューウェイヴの中でカバーしてるものが多かったんです。僕はそうしたものに凄く興味があって、結果僕らの音楽も80年代のロンドンみたいなことになってたっていう感じです。
- ああ、なるほど。だからこのバンドでは古今東西色んな音がミックスされているんですね。
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Chabe:
うん。ニューウェイヴって言うとしっくりくるかもしれない。その中にロカビリーのテイストがあったり、ジャジーなテイストがあったり、ちょっとソウルっぽいものやカントリー調のものもあるっていうね。たとえばThe Smithにしても、モータウンビートがあったり、80年代のロンドンの人って凄く音楽を掘ってるじゃないですか。DJがいて、古い音楽を教える人がいて、聴いていると知らない間に影響を受けてるというか、後になって気づくことが沢山ある。その感じが好きなんです。
- 『HELLO STRANGER』に収録されているカバーの中では、「Riding High」だけはChabeさんが歌われていますね。
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Chabe:
去年僕が見た日本人のアーティストで、よしだよしこさんっていう方がいるんですけど。その方は65歳のフォークシンガーで、ずっと歌われているその彼女の歌に力強さを感じたんですね。「Riding High」はよしださんのご友人が亡くなられた時の歌詞だと思うんですけど、生きているとそういう経験をしていくじゃないですか。その歌詞に僕がくらって、今回歌わせてもらいました。
- ご自身の体験に重なるものがあった?
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Chabe:
僕、去年友達3人亡くなっていて、そういう歳なんだなって思いました。まあ、当たり前なんですけどね。
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Sara:
それを(曲に)書いたらいいじゃないですか。私はChabeさんを「下北沢のティンカーベル」って呼んでるんですけど。
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Chabe:
ははは。
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Sara:
Chabeさんの脳内から出てる音楽って、凄くポップで魔法がかかるんです。でも、そうじゃないChabeさんも見てみたいなって思ってる。音楽とは別に使ってる脳は割と文学的な考え方をする人なので、そっちの脳でも曲を書いてほしいなって思います。CUBISMO GRAFICOとかChabeさん名義で使っていた頭とは別のところで生まれてくる、友達3人が死んだってところから生まれるChabeさんの曲を聴いてみたい。
- ダイナミックに変わっていくバンドを、何よりおふたりが楽しんでいるのかなって思いました。
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Chabe:
みんなのマインドが変わったので、とにかく次の段階にきたことは間違いないですね。Saraちゃんの表現が出てきたことが今回の一番大きな変化で、それがなかったらもうやめてたと思うんですよ。それぐらい大きなことが起ってしまった。
- Saraさんは自分が変わったと思いますか?
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Sara:
変わったなあとは思わないですけど、かといって初めの段階のなんでもいいや~って感じではないので、まあ変わってるのかな。今までもLEARNERSとしてやってきたけど、やっとバンドになった感じはする。ちゃんと全員でセッションできたし、私が頭の中に溜め続けていたものを、ちょっとずつアウトプットできるようになってきた。
- 元々はそれができなかった?
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Sara:
私、自分の言葉を歌詞に残すのがほんとに怖かったんですよ。
- 何故?
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Sara:
人それぞれ言葉のチョイスがあるじゃないですか。”あったかい”と言うだけでも、人によって言い方が違ったり、そこから先に繋げる言葉はそれぞれ違っていて、同じ言葉づかいの人なんていないから。私から出てきた言葉を曲にした時に、それがあまりにも恐ろしかった。それはもう割と遺書に近いというかさ。だから小っちゃい頃から日記とかも大嫌いで、死が近づく気がして怖かったんですけど。私もこれをやらなかったら本当にやめてたと思うし、続けたいからぽんと足を出してみたら、別に死ななくていいんじゃんってなった。
- ある意味開き直れたんですね。
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Sara:
そう。そこからはアウトプットの作業だから、みんなで作っていけたら楽しいなって思います。
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Chabe:
だからもう、僕からすると見過ごせないですよね。彼女の中から表現が溢れ出して、出てくるものを抑えられない瞬間だから。それで僕、今まではプロデューサーの立ち位置にいたんですけど、今回はいい意味で引きでみんなを見てたんですよね。
- メンバーの中から出てくるものを純粋に見ていたかった?
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Chabe:
そう。僕は単純に、これはえらい事になっちまったなって興奮状態で見ていました。最終的にはまとめなきゃいけないから整理はしていくんですけど、(プロデューサー的なことを)やらない事こそが今一番良い事で、「prodused by LEARNERS」でいいじゃんっていう感覚になれたんですよね。
- Saraさんのオリジナル曲以外に、どんなサプライズがありましたか?
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Chabe:
最後にChieちゃんがギターを入れるんですけど、今回はびっくりしましたね。彼女はずーっと部屋に引きこもって、ギターアレンジを考えてるんですよ。女性らしいことを一切捨てて、メイクもせず、お腹が空いたらなんか食べて、ギターのアレンジを考えてる。今回のジャケットは作る前に撮影していたんですけど、結果としてまさにこういう内容になったなって思います。男連中はとにかくしっかり支えてくれる頼りになるふたりで、Saraちゃんの溢れ出していく表現の瞬間と、Chieちゃんの積み重ねてやってきたことのプライドと意地みたいなのが、『HELLO STRANGER』の中にズバンと詰めこまれることになった。
- キャラクターも曲の良さも際立っている、本当に凄いバンドですね。
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Chabe:
普通のバンドとはちょっと違うんですよね。メンバーの半分は女性で、年齢も仕事もバラバラで、まともな人間が一人もいないっていうおかしな5人組なんですよ。この先みんなの中から何が出てくるんだろうって楽しみにしてる。その第一回目が今回のアルバムです。
じゃあ私が褒めまーす
下北沢のティンカーベル
やっとバンドになった
Presented by.DIGLE MAGAZINE