sankaraが自然体で広げていく音楽とメッセージ

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第28回目はsankaraが登場。

音楽が自己表現という遊びの一つだった。だからこそ、成長と共にその音楽も自然と広がっていくのだろう。

ラッパーのTossとヴォーカルのRyoから成るユニット、sankara。高校時代に出会った彼らは、共に様々な音楽やカルチャーを吸収し、自分たちがかっこいいと思う音楽を信じてきた。年月を経た今も、自分たちがかっこいいと思うものに嘘はない。ずっと自然体で音楽を続けているからこそ、日本語と英語がスムースに繋がれた巧みなフロウも、心地よいメロディも、染み込むように耳に入ってくる。

そんな彼らの芯となる音楽体験から、新EP『SOP UP』でみせた開放感や彼らの目指すべき表現について話を聞いた。

自然に音楽を始めていた

お二人とも幼い頃は海外で生活していたそうですが、今の自分に影響している部分はどんなところにあると思いますか?
Ryo

Ryo:

僕は中学校1年生までハワイで育ったんですが、日本との大きな違いを感じたのは学校ですね。向こうでは音楽の授業で“バンド”っていう授業があって、そこで色んな楽器に触れられるんです。僕はその授業で初めてトロンボーンとテナーサックスを触りました。今は吹けないですけどね(笑)。

日本とは日常的な音楽の距離感が違いそうですね。
Ryo

Ryo:

今聴いてるような洋楽が日常的にラジオで流れてましたね。ハワイの人達はそんなにお金がないのでCDやMDは持ってないんですけど、絶対どこかしらにラジカセが置いてあるし、図書館でも音楽流れていたり、どこでも音楽が聴ける環境ではありました。“音楽を聴く”というか“常に楽しんでる”って感じですね。ハワイ特有の雰囲気だったと思います。

南国的なのんびりとしたイメージがありますよね。
Ryo

Ryo:

それで僕みたいな感じになっちゃうんでしょうね(笑)。

Tossさんはいかがですか?
Toss

Toss:

僕は小1から小5までロンドンで暮らしていました。その時はサッカーばっかりしてたので、音楽的素養は特にないんですよ。

当時よく耳にした音楽は覚えていますか?
Toss

Toss:

Spice Girlsやユーロビートのリミックスは耳に入ってきてましたけど、当時イギリスではほとんどヒップホップは聞かなかったので、音楽はあんまり直結してないかも。それよりもアイデンティティ的な部分が大きいですね。英語と思考はその時の影響が色濃く残ってると思います。

それはやはり色々な人種がいる環境というのが大きいのでしょうか。
Toss

Toss:

そうですね。ちょっと差別的なこともありましたし。バカにされたりもしたけど、今はそれがいい反骨心につながってると思います。この前ラッパーのSEEDAさんの映画『花と雨』を観に行ったんですけど、最初のシーンでサッカーしてたり幼少期のイギリスの感じは凄く共感できました。

なるほど。その後、お二人は高校で出会ったそうですが、当時はどんな高校生でしたか?
Ryo

Ryo:

とにかく学校が国際的でしたね。

Toss

Toss:

英語科だったので生徒もハーフの子がいたりして、教室では普通に海外のヒップホップがかかってました。

Ryo

Ryo:

誰かがラジカセを持ち込んで、昼休みに持ってきた今イケてるCDを流す…みたいな。

Toss

Toss:

結構爆音でね。

周りの友達も音楽が好きな人が多かったですか?
Ryo

Ryo:

そうですね。バンドとかダンサーとか、今でも続けている人が多いです。

当時から濃い音楽カルチャーに触れていたんですね。
Ryo

Ryo:

カラオケ行ったりプリクラ撮ったり、普通の高校生活してましたよ(笑)。服装とかはヒップホップっぽい格好してましたけど…。

Toss

Toss:

だぶだぶのXXXL着てね。

Ryo

Ryo:

真似っこはしてましたけど、特に「音楽にどっぷりつかろうぜ」って感じではなかったです。たまたまそういう環境にいれただけで。

Toss

Toss:

遊び場は多かったかもしれないです。そのころからクラブに行ってたし、なんなら遊びの延長でイベントやってたし。

Ryo

Ryo:

高校生でヒップホップのダンス・DJ・ライブをやるイベントを主催するなんてレアだし、すごくいい環境にいたと思います。リードしてくれる先輩や仲間がいたから、僕らも自然に引き込まれて音楽を始めてたし。

Toss

Toss:

それに、当時は二人ともヒップホップを特殊なものだと思ってなかったんです。すごくナチュラルにヒップホップでお茶の間にいこうとしてて、「うたばん出てぇ」ってずっと言ってたし、本当にいけると思ってた。「僕らの好きなジャンルは日本でマイノリティなんだ」って知る前は無敵だったんだろうだなって思います。そのマインドは戻さなきゃな。

アートとしてのリリック

高校の頃から二人で曲作りをしていたんですよね?
Toss

Toss:

今聴くと果てしなくダサいですけど(笑)。

Ryo

Ryo:

ちょうど昨日、当時の音源が出てきたんですよ。人に聴かせられるもんじゃないなと思いながら聴いてました(笑)。

Toss

Toss:

その頃は、パソコンの内臓マイクに向かって順番に歌ってましたからね。今聴くと全然よくないのに「いいね〜!」って盛り上がって、できた音源を色んな媒体に送って、無視されるっていう(笑)。でも送ったことで僕らは満足してたんですよね。

その当時使ってたトラックは?
Ryo

Ryo:

仲間のDJに、使えるインストをレコードからMDに入れてもらってました。

Toss

Toss:

僕ら世代はDJがアナログからPCに切り替わるギリギリのところだったんです。だから高校生の頃はみんなアナログでDJをやってて、DJの友達の家に行って使えそうな音源を漁るっていう。

Ryo

Ryo:

そういう意味では必死で音源作ってたな。今はパソコンがあれば編集も簡単に出来ちゃうけど。

そういう曲作りのモチベーションは何だったんでしょう?
Ryo

Ryo:

今もそうですけど、楽しかったのは間違いないです。今も楽しいですし。

Toss

Toss:

かっこいいものを作って仲間内でどや顔するっていうところかな。今もそうだと思います。

Ryo

Ryo:

結局は自己表現ですよね。当時はそういう事をするのがかっこいいと思ってたのもあるし、楽しいのもあるし。今はもっと表現の場という意識が強いかもしれないですね。

Toss

Toss:

今ほどシンガーとラッパーっていうスタイルも受け入れられなかったと思うし、逆に当時目的をもってやっていたら、今みたいにはならなかったんじゃないかな。

Tossさんの日本語と英語が繋がるようなラップスタイルは当時から変わってないですか?
Ryo

Ryo:

昨日聴いた感じ、日本語がちょっと多かったかも。でも変わらず混ざってはいましたね。

Toss

Toss:

自分では変化は分からないかも。もちろん色んなことを考えながら作ってるけど、僕は言葉遊びが好きなんですよ。だからラップの言葉選びを色々試しているうちにこうなったんだと思います。

最近は日本語と英語が混ざったスラングやトリリンガルラップなど、言語を混ぜる面白さは色々なところで生まれていますよね。
Toss

Toss:

バイリンガルでもトリリンガルでも、言葉の響きの上手な使い方が絶対あるんです。それには自分が使ってる言葉の意味がわかってないと上手に聴こえない。プラス、意味のあるものにすることが大切なのかなとは思います。

sankaraはMVにリリックそのものではなく、意訳を出していますよね。ラップ自体を違う新しい言葉として捉えてるのかなと思いました。これは最初からイメージしてたんですか。
Toss

Toss:

最初のMVでそうしたんだよね。

Ryo

Ryo:

一緒に音楽を作ってる仲間とMVについて話し合った時に、意訳をつければ僕らのメッセージが届くんじゃないかって話になって。それでやってみたら周りからの反応もよかったんで、僕らのMVでは絶対入れていこうってなりました。

Toss

Toss:

「アート的に伝えたいメッセージの形を変えたけど、ストレートに言いたいことはこっちなんだよ」っていう。こう言い換えたら面白いなっていう楽しさもあるし。

Ryo

Ryo:

意訳にしてるのがポイントですね。

Toss

Toss:

結局過程のことなんですよ。映像を思い浮かべながら曲を書くのと一緒で、リリックを書いてる時にイメージしてるのはそっち(意訳)なんで。最近は逆に意訳ありきでリリックを書くこともあるくらいなんです。

キャッチーが正解

sankaraが毎月更新しているプレイリストがありますよね。ジャンルレスにポップな楽曲がセレクトされていますが、これはどうやってセレクトしているんですか?
Ryo

Ryo:

それぞれで好きな曲をピックしてるんですけど、お互いジャンルレスに聴くんで色々入ってますね。

2月にセレクトしてたEve、ずっと真夜中でいいのに。や3月のChara, YUKI、Dragon Ashなどの国内アーティストは意外でした。でも、そこがsankaraのメロディのポップさとも繋がるのかなと思って。
Toss

Toss:

高校の時にJ-POPも一緒に聴いてたってのがデカい気がする。

Ryo

Ryo:

あまり言ってないんですけど、中学・高校の頃はゆずとか聴いてた人なんで(笑)。

Toss

Toss:

カラオケでは二人でEXILE歌ってましたからね。初期のSHUNがいた頃のEXILE。

Ryo

Ryo:

今でも普通にJ-POPも聴くし、ヒップホップでも耳に残るメロディが好きなんです。

Toss

Toss:

Ryoのそういう部分はハワイのお国柄じゃない?他のハワイの人たちもキャラクター込みでキャッチーな感じがするし。

Ryo

Ryo:

うん、キャッチーが好きですね。良いと思ってるし、正解だと思っている。ジャンルで分けられるより、キャッチーならなんでもいいじゃんって。あと大事なのは言葉ですね。

J-POPの歌詞や言葉使いも聴き込むポイントですか?
Ryo

Ryo:

そういう時期もありましたけど、今は逆にしないようにしてます。結局その人が選ぶ言葉が正解なんだなって思って。自分らしい、自分が普段使ってる言葉で書く事を意識してます。

英語と日本語のバランスはどうですか?
Ryo

Ryo:

昔は意識して日本語にしなきゃって思ってたんですけど、今は素直に英語のほうがいいなと思ったら英語のままにしてます。曲作りでは耳に残ることを意識してるので、このメロディには英語の方が入りやすいってことがあるんですよ。

お茶の間に届く音楽を

3月11日にはEP『SOP UP』がリリースされましたが、前作からはどんな変化を感じていますか?
Toss

Toss:

ちょっと前向きですね。

Ryo

Ryo:

自分たちの現状の変化と同じなんだと思います。

Toss

Toss:

前作はsankaraを始めて一年ちょっと経ってから出したものなので、その分過去の内容が多いんです。でも、今作は前回から今までの心境の変化や拾ってきた言葉を使ってるので、必然的に前向きになってるんだと思います。

Ryo

Ryo:

“スタートラインに立った僕たちの言葉を聴いてください”っていう作品になりましたね。

Toss

Toss:

前より外からいろんなものを素直に吸収しているので、タイトルも『吸収』という意味の『SOP UP』にしたんです。さらに、今後ももっと吸収していこうっていう自分たちの心境の変化もあったからこそ、「Elevator」みたいな今までとは少し違う楽曲ができたんだろうなって思ってます。

「Elevator」はポップとロックが混ざったような壮大なトラックで、すごく新しい一曲だと思いました。
Ryo

Ryo:

今までのsankaraにはない楽曲ですし、これまでだったら出来たとしてもリリースしてなかったかもしれないです。ひとつ規模の違う曲ができたなって感覚はありました。

Toss

Toss:

前作だったら時期的に自分たちにフィットしてなかっただろうね。でも、今なら不思議と違和感はないんですよ。

自分たちの環境や気持ちが常に曲に反映されているんですね。
Toss

Toss:

それは僕らにとって絶対条件かも。それがなくなったらむずかしいよね。

Ryo

Ryo:

sankaraは僕らがここまで生きてきた、そのままだから。

Toss

Toss:

自分たちが歌うなら自分たちのことを言うべき。それは最初にヒップホップが好きで音楽をはじめたからかなって思います。音で音楽を捉えている人の中には「リリックは要らない」って言いきっちゃう人もいると思うけど、意訳をしてまでこだわるくらい、僕らはリリックの優先順位が高いので。

では、この先の活動で目標にしていることなどありますか?
Ryo

Ryo:

ずっと「ワンマンやりたい」って言っていたのがやっと今年実現するので、次はツアーで全国各地に行くのが目標ですね。あと、Tossがよく言っている“お茶の間に届く音楽をやりたい”っていう思いは常にあります

Toss

Toss:

最初の高校生の時のマインドですよね。僕らは自分がやってる音楽をかっこいいと思ってるし、それが自然に世の中に出てくれたら嬉しいなって。元々、自分たちや仲間がかっこいいと思うものを作ろうって始めたので、その規模をもっといっぱい広げていきたい。そうすれば必然的に関わる人が増えていくから、色々な人にかっこいいって思わせないといけなくなる。そしたら今度は自分たちのキャパを広げていく。それが僕らの中では一番自然な音楽なんじゃないかなって思ってます。

Presented by.DIGLE MAGAZINE