彗星の如く舞い降りたDUSTCELL。その美しさの源流を探る

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第33回目はDUSTCELLが登場。

コンポーザー/プロデューサー・Misumiとシンガー・EMAによるユニット、DUSTCELLが5月20日に1stアルバム『SUMMIT』をリリースした。

元ボカロPという経歴を持つMisumiによる、引き出しの多さを活かした変幻自在のトラック、そして繊細ながらも力強いEMAのボーカルはすでに多くのリスナーを虜にしている。また、時に退廃的であり、厭世的。誰もが感じたことのある、挫折や疎外感などを提示し、そっと肯定してくれるリリックやアートワークの世界観に惹かれる者も多いだろう。

7月には初のライブにして初ワンマン公演も控えるふたり。本稿では彼らの印象的なアートワークと共に、結成の経緯からバックグラウンドなど、ユニットの核となる部分を紐解く。

魂に届くような歌声に惹かれて

Misumiさんが〈KAMITSUBAKI STUDIO〉のプロデューサー・PIEDPIPERさんにEMAさんを紹介したことから、DUSTCELL結成に繋がったそうですね。そもそも、おふたりはどのようにして出会ったのでしょうか。

Misumi:

最初の出会いはTwitterですね。お互いフォローし合っていて、存在は認知していて。

EMA:

私はボカロP時代からMisumiさんの作る曲が大好きで。歌い手をやっていた頃からカバーさせてもらったりしていました。

Misumi:

僕の曲って、リアルな人間が歌うのは難しいと思っていたんですけど、そのカバーがとても合っているなと思っていて。あと、何ていうんでしょう……EMAの魂に届くような歌声に惹かれて、一緒にやりたいなと思うようになりました。

DUSTCELLというユニット名にはどのような意味が込められているのでしょうか。

EMA:

ユニット名は私が考えました。DUSTCELLは「DUST(ゴミ、埃)」と「CELL(細胞)」っていう言葉を合わせた造語で。私は基本的に自分に自信が持てない人間なんですけど、そんな私のような存在でも、音楽を通じてリスナーの細胞になれたらいいなと思って付けました。Misumiさんには巻き込んでしまい申し訳ないなという思いもありつつ(笑)。

Misumi:

でも、単純に語呂が良いなとも思っていて。僕も気に入っています。

結成時に音楽的なコンセプトや世界観などは話し合われましたか?

Misumi:

あまり細かく固めてはいないのですが、僕の中で最初に考えていたのは、「美と狂気」みたいなイメージ。とにかく美しい曲を作りたいなと思っていました。

EMA:

結成当時から個性的というか、独創的な作品を作りたいなとは思っています。

EMAさんの「自分に自信が持てない」という性格について、差し支えなければもう少し具体的にお聞きしたいです。何かきっかけなどはあったのでしょうか。

EMA:

何か特定のきっかけや出来事があったというわけではないんですけど、色々なことが積み重なってという感じです。今は多少マシになったんですけど、他人に嫌われることを極度に恐れていた時期があって。それが今もトラウマのように蘇ることもあって、自分の作品や歌を褒めてもらっても、嬉しい自分と素直に受け入れられない自分が同居していたりするんです。

EMAさんのそういった精神面は、リリックにも表れているように感じました。作詞をする際はどのような方法で行っているのでしょうか。

EMA:

作詞はまだ始めたばかりなのですが、あまり明るい感じのテイストよりも、ちょっと暗い世界観の方が書きやすくて。私は毎日日記を付けているんですけど、「これは覚えておいた方がいいな」と思った出来事や、自分の中で新しい感情を見つけたって思う時に、自分しか読めないような汚い字で殴り書きのように記憶しておくんです。作詞をする時は、その日記を見返したりして、当時の感情や記憶を違った言葉に変換して書くことが多いですね。

Misumi:

確かにEMAのリリックは自分の内面がすごく表れているなと思いますね。僕も日々の生活で湧き起こる感情を、言葉ではなく曲に昇華することが多いので、そういう意味ではEMAと作り方が似ているのかも知れません。

K-POP〜ボカロ、トラップまで、多岐に渡る影響源

DUSTCELL始動日に発表された「CULT」は、デビュー曲ながらとても大きな話題を呼びました。あの楽曲はどのようにして生まれたのでしょうか。

Misumi:

「CULT」は多重人格を題材としている映画『ファイト・クラブ』にインスパイアされて作った曲です。僕はボカロP時代から「オルターエゴ feat.初音ミク」や「狂う獣 feat.初音ミク」(アルバム『SUMMIT』にはDUSTCELLでのカバーVer.が収録)といった曲でも多重人格をテーマとした曲を作っているんですが、そういう部分って大なり小なり人間みんな持っていると思うんです。ひとつの人格を確立していくんじゃなくて、自分の中に複数の自分がいても良いんだって、肯定するような曲ですね。

トラックとしては跳ねるようなビート、途中でハーフ・テンポで刻むトラップ的展開が特徴的です。

Misumi:

EMAが「ムーンバートンをやりたい」って言い出して。トラックはそこからスタートしています。自分たちの最初の曲になるので、名刺代わりの作品になることも意識しつつ、飽きさせない構成にしたくて。

DUSTCELLの作品は曲毎に様々なジャンルを横断しているのが特徴のひとつとして挙げられると思います。制作において、毎回どのように方向性などを決めているのでしょうか。

Misumi:

その時々で自分たちの作りたいものを作る。興味のあるものに挑戦してみるっていう感じですね。

では、DUSTCELLとしての活動で、影響を受けているアーティストや作品はありますか?

Misumi:

僕の場合、長いことボカロ・シーンにいたので、その影響は切っても切り離せないと思います。あと、ここ2〜3年くらいはずっとK-POPにもハマっています。K-POPって、個人的には日本の音楽と欧米のポップスの良いとこ取りのような音楽だと思っていて。とにかく音が良いし、構成や展開からも刺激を受けることが多いですね。あと、ルーツ的な部分でいうと宇多田ヒカルさんです。すごくカッコいい、挑戦的な音楽をやっているのに、広く、多くの人に届く。DUSTCELLとしてもそんな作品を作りたいなと考えています。

EMA:

私も最近はK-POPを聴くことが多いです。BTS(防弾少年団)やBLACKPINKのような、サビでドロップを多用するような曲が好きで。そういった要素は積極的に取り入れていきたいねってMisumiさんとも話しています。日本のアーティストでいうと、私も宇多田ヒカルさんが大好きですし、amazarashiさんやAwichさんまで、バンド〜ラッパーまでジャンルなどにはこだわらず色々な音楽を聴いています。

Misumi:

僕もラップが大好きで。最近でいうとKOHHさんやTohjiさんなどから影響を受けているかもしれません。EMAとは好きな曲のテイストも似ているので、一緒に制作しやすいんですよね。

大胆な展開や転調の多さも、DUSTCELLの特徴として挙げられると思います。そういった部分もK-POPからの影響なのかなと思いました。

Misumi:

ボカロ・シーンの影響も大きいと思います。曲を作っている途中で、ガラッと変えたくなるんですよね。違和感を出したいというか、仕掛けを多く作りたくなってしまうんですよね。

DUSTCELLでは作詞作曲をMisumiさんが手がける作品から、作詞作曲でEMAさんと分業する作品もあります。普段はどのようなプロセスで楽曲を生み出していくのでしょうか。

Misumi:

「こういう曲を作りたい」っていう話からスタートすることが多いと思います。例えば「アネモネ」っていう曲の場合、EMAの「中国っぽい曲作りたい」っていう発言から始まって。ドラの音を入れたり、中国っぽいリフを考えて、そこから展開していきました。

EMA:

私は本当に気分屋で、ネット・サーフィンで色々な音楽を聴いてる時に「あ、こういう曲やりたい!」って思いついたらMisumiさんに連絡してみたり。とりあえず何か思いついたらチャットしますね。

Misumi:

基本的に直感をとても大事にしています。

では、DUSTCELLの制作において、ルールや制約のようなものは一切設けていないと。

Misumi:

全くないですね。ジャンルや型に縛られたくないですし、既存の立ち位置などを目指すというよりは、誰もいない、誰も知らない場所を目指したい気持ちが強いです。

頂点を目指すアルバム『SUMMIT』

この度リリースされた1stアルバム『SUMMIT』も多彩なサウンドを展開する作品になっています。本作のコンセプトなどはありますか?

Misumi:

特にコンセプトなどを煮詰めて作った作品ではないですね。僕らの初期衝動的な勢いも詰まった作品になっていると思います。

EMA:

バラードやボカロっぽい曲、ラップまで、様々な曲が収録されたアルバムになったなと思っていて、形や雰囲気の異なる椅子が並んでいるアートワークでも、そういったことが表現できたなと思っています。『SUMMIT』っていうタイトルには「頂点」とか「山頂」っていう意味があるんですけど、「ここから頂点を目指していこう」っていう強気な想いも込められています。

既出の曲もある一方で、初公開の楽曲も複数収録されています。「SOIREE」はラップ調のEMAさんのフロウが印象的な1曲です。

Misumi:

「SOIREE」はまさにトラップ以降のサウンドを取り入れているK-POPを意識して作りました。

EMA:

「SOIREE」は辛かった時の日記を読み返してできた曲です。ただ、そういうドロドロとした負の感情も、そのままの言葉でアウトプットするのではなく、音楽と調和させることでより多くの人に共感してもらえるんじゃないかと思っています。

同じくアルバムで初公開の「ONE」も、K-POPでも取り入れられるようなブロステップ的要素を感じさせます。

Misumi:

「ONE」は僕が作詞作曲を手がけているのですが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を一気観して、人間って、世界って何なんだろうっていうことを考えていた時にできた曲です。「ONE」っていう言葉には「孤独」や「かけがえのない最愛の人」、あとはそもそもこの世界が「ひとつ」なんじゃないかっていう3つの意味が込められていて。EMAが最後のサビでコーラスを付けてくれたおかげで、すごく壮大な世界観を描くことができたかなって思います。

EMA:

この曲を初めて渡された時、「あ、シンジとカヲルや」って思いました(笑)。

Misumi:

歌い手時代から感じていたことなのですが、EMAはコーラスを入れるのがすごく上手いんです。曲を活かすというか、魅力を引き立てるセンスが抜群なので、コーラスに関してはいつもEMAにお任せしています。

アルバムの最後に位置する「終点」は、エンディング感満載のピアノ・バラードです。

EMA:

だんだんアルバムの収録曲が固まってくるにつれて、「最後はバラードやりたいね」っていう話になって。「終点」は私が作詞を手がけているんですけど、これも日記が核になってできた曲です。私のこれまでの人生のことを振り返りつつ、これからの決意についても歌っています。この曲で、少しでも救われる人がいたら良いなと思いつつ歌詞を書きました。

リリックもトラックも感動的で、エモーショナルな楽曲ながら、終盤には違和感のある、ノイズ的な音色が入ってくるのも、DUSTCELLっぽさに繋がってくるのかなと思いました。

EMA:

めちゃくちゃわかります。

Misumi:

僕はあの音色もとても美しいものだと捉えているんです。ああいった音が入ることで、より楽曲が美しく仕上がったと思います。終盤には心臓の鼓動の音も入れているのですが、アルバムには生死をテーマとした曲も少なくないので、最後にそういった表現を入れることで、上手くまとめることができたと思っています。

誰も見たことのないところへ

アルバム・リリース以降の動きについては何か見えてきていますか?

EMA:

すでにアルバムとは別の新曲を作り始めています。引き続きダークというか、クールな感じの曲を作っています。

Misumi:

今、音サビを取り入れた曲も制作しています。自分から遠く離れたものにどんどん触れていきたいと思っていて。そうじゃないと手癖とかが出て、同じようなものばかりができてしまう気がしていて。自分をどんどん変えていきたい。そして、誰も見たことのないところへふたりで行きたいですね。

7月には初のライブも控えています。こちらへの意気込みのほどはいかがでしょうか?

EMA:

ネットを中心に活動していると、本当に存在しているのかどうか怪しく思えてきますよね。私も自分たちのリスナーさんたちと直接お会いしたことはないですし。なので、初ライブはお互いの存在を認識して、同じ空気を吸って、実感したい。

Misumi:

僕はバンドもやっていたことがあるんですけど、あまり上手くいかなくて。その後ボカロPを経て、再びライブハウスのステージに立てることを嬉しく思います。諦めずに音楽を続けていれば、報われるんだなと。大きな会場でライブをできることをすごく楽しみにしています。

■CD 1st Album「SUMMIT」

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