コロナ禍を経て、THREE1989に芽生えた変化。バンドが提示する新たな発信方法

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第25回目はTHREE1989が登場。

新型コロナウイルス感染拡大により、様々な分野において大きなパラダイムシフトが起こっている昨今。言わずもがな、それは音楽シーンにおいても顕著に現れている。

様々なアーティスト/バンド/レーベルがこの未曾有の事態を乗り越えるべく、限られた可能性を模索し続けている中、持ち前のフットワークの軽さを活かし、リスナーに新たな楽しみを発信し続けているバンドのひとつがTHREE1989だ。

4月より急遽スタートした連続リリース企画を経て、6月17日には台湾のアーティスト・Linionとのコラボ曲「Horoyoi Karasu」をリリース。これまでの軽快なポップスとは一線を画す、スモーキーな音像と濃厚なグルーヴが印象的な作品として話題を呼んだ。

さらに、夏へ向けて新たなクラウドファンディングも進行している。果たして、THREE1989はこのコロナ禍で起きた変化をどのように捉えてるのか。近況も踏まえつつ、その胸中に迫った。

ライブ配信やリモート制作で得た新たな知見

外出自粛期間、どのように過ごされていましたか。
Shimo

Shimo:

僕は自宅に結構広めの庭があって、これまで放置してしまってたのをこの機会に手入れしています。雑草を抜いて、花壇を作って、ウッドデッキを置いて、理想の庭を手に入れるべく、DIYでガーデニングをしています。

Shohey

Shohey:

何してたかなぁ……。筋トレはずっとしています。ただ、この前大きい会場で配信ライブをしたんですけど、久しぶりに動き回ったら次の日全身筋肉痛になっていて。2〜3ヶ月でこんなに体力が落ちてしまうのかって思いましたね。

Datch

Datch:

僕はふたりにオススメの映画を教えてもらって、ひたすらNetflixなどで観ていました。

このコロナ禍はTHREE1989の活動にどのような影響を及ぼしていますか。
Shimo

Shimo:

3月からいくつかライブがキャンセルになり、その中には自主企画も含まれているので、金銭的な損失も少なくなかったです。加えて、僕らは収入の大部分をライブに頼っていたので、そういった面も見つめ直すきっかけにもなりました。

Shohey

Shohey:

そこでまず考えたのが、作品のリリースです。とりあえず「4週間連続でリリースしてみよう」ということになり、『EWP in the Home』という企画を始動させました。あとは配信ライブに出演させてもらったり、自分たちでも実践してみて。徐々にファンの方々も配信ライブの楽しみ方がわかってきたんじゃないかなって思います。その集大成的な感じで先日、初の有料ライブ配信を行ったのですが、それもとても良い形で成功させることができました。この先、コロナ禍が終息した後も、配信と実際のライブ、どちらの形式でも展開できるようになったのは、バンドにとって大きなプラスだなと思いますね。

配信ライブならではの難しさなども感じますか。
Shohey

Shohey:

ボーカルとしては完全に自分との戦いですね。曲間での反応もないですし、お客さんを煽ったりもできない。

Datch

Datch:

自分たちのテンションの上げ方に関しては、まだまだ慣れない部分もありますね。

Shimo

Shimo:

ただ、配信ライブだからこそできる曲っていうのもあるなって思うようになって。3月の公演が中止になった時に、アコースティック編成での配信も行ったのですが、そういった新しい試みも、配信だからこそ試せたことですね。

Shohey

Shohey:

普通のライブでは勢いでごまかせる部分も、配信では些細なミスでもダイレクトに届いてしまうと思うので、より繊細な演奏を心がけないとダメだなって思いました。やはり生のライブと配信は別物で、セットもきちんと分けなければなと。

先日、『SNACK ROOM』というDJ配信企画も行っていましたよね。今おっしゃった制作風景の生配信もそうですが、これまでとは異なる形でのファンとの交流の中で、何か気づきや発見はありますか。
Datch

Datch:

DJ配信は5時間くらいやってましたね(笑)。

Shohey

Shohey:

意外と海外の方が観てくれて、気軽にコメントもしてくれるのは嬉しかったですね。もしかしたら今後、実際にライブをやりつつ、海外の方向けに配信を同時に行うのもいいかもしれないですね。

Shimo

Shimo:

配信の場合は再放送も簡単にできるので、例えば僕らメンバーもファンの方と一緒に、自分たちの配信ライブを観てコメントしたりとか。リアルタイムでチャットで交流したり、そういった新しい発信の仕方にも気づけました。あとは5Gがもっと普及すれば、VRで完全にライブハウスでの体験を再現できるんじゃないかなって思います。

Shohey

Shohey:

お客さんのマイクもオンにして、コールアンドレスポンスとかもできたらいいなとか、色々とアイディアが湧いてきます。

『EWP in the Home』でリリースされた作品については、リモートで制作を?
Shimo

Shimo:

完全にいちから遠隔で制作しました。1曲目の「Kiss of Life」については制作風景もSNSで生配信しながら作りました。「こんな感じにしようかな」「こんなコードはどうかな?」ってフィードバックをもらいつつ。

Shohey

Shohey:

完全にリモートで制作したのはバンドにとっても初のことだったんですけど、意外とスムーズでしたね。普段はスタジオでセッション的に制作することが多いんですけど、実際に顔を合わせていると無駄話もしてしまうので。

再び乾杯できる日を願って

6月17日にリリースされた新曲「Horoyoi Karasu」は、台湾のアーティスト・Linionさんとのセッションで制作した曲とのことなので、コロナ禍の前から温めていた作品ですよね?
Shimo

Shimo:

去年の春くらいに、僕らの台湾公演に来てくれて。そこで彼の音源を頂きました。それ以降、SNSで連絡を取り合うようになって。

Shohey

Shohey:

初対面の時にカセットテープをもらって、そのジャケで気づいたんですけど、元々ストリーミングで彼の作品を聴いていて、プレイリストにも選曲していたんです。すごく良い出会いでした。

Shimo

Shimo:

サマソニに出演した、同じく台湾のアーティスト・9m88のサポートで来日した時に一緒にセッションをして。基本的に1日で完成したよね?

Shohey

Shohey:

そうだね。トラックとサビまではスムーズに完成した。

このタイミングでのリリースになったのは、何か意図が?
Shohey

Shohey:

できれば早く出したかったんですけど、去年もリリースが続いて中々出せず。そうこうしている内にコロナウイルスでバタバタとなってしまい。それがようやく少し落ち着いてきたので、今回のリリースに至りました。あと、まだ実現できるかどうかわからないのですが、今年アジア・ツアーを企画したいなと思っているので、その前に発表しておきたいという考えもありました。

Linionさんのミュージシャンとしての印象を教えて下さい。
Shimo

Shimo:

彼はすごく多才だなと思いました。元々ギターから始めたみたいなんですけど、9m88のサポートではベースを担当したり、色々な楽器も弾ける。あと、メロディ・ラインの作り方も独特だなと思いましたね。おそらく感覚的な部分も我々と近くて、セッションもすごくやりやすかったです。

Datch

Datch:

ネオソウルやR&Bだったり、音楽的なルーツも僕らと近いと思いました。THREE1989としてはそういうルーツを持ちつつも、意識的にポップスとしてアウトプットするようにしているのですが、今回Linionが加わることでそういったコアな部分も引き出されたのかなと。

リリックはLinionさんの何気ない一言から発展させていったそうですね。
Shohey

Shohey:

せっかく日本に来てくれたんだから、僕らも歓迎しなくてはと思い、お寿司とかお酒を買って乾杯して。ほろ酔いの状態からセッションはスタートしたんです。そしたら休憩中にLinionが「うわ、あの鳥初めて見た!」って言って。どうやら台湾にはカラスがいないみたいで、すごく珍しがっていたんです。なので、「じゃあカラスを歌詞にしようか」となり、メロディをみんなで考え始めて。そしたら「ほろ酔い」っていう言葉も浮かんできたので、その2つをくっつけて「Horoyoi Karasu」というキーワードが生まれました。その後はお互い遠隔で歌詞や細かいところを詰めていって。お互いの国に初めて行った時の気持ちや、また再会して乾杯したいねっていう思いについて書いていきました。

Datch

Datch:

セッションならではの制作プロセスですよね。「Horoyoi Karasu」なんて言葉、絶対に僕らだけでは生まれなかった(笑)。

そこはリモートではなく、実際に集まってのセッションならではの利点ですよね。
Shohey

Shohey:

そうですね。僕らはお酒も大好きなので、色々な国に行って、乾杯して現地の方々と仲良くなるっていうことが多くて。「Horoyoi Karasu」には文化や言語が違くても、面と向かってお酒を酌み交わせば友達になれるよねっていうメッセージも込めています。

アジア・ツアーを計画しているとのことでしたが、バンドとして、アジアのマーケットはどのように見ていますか?
Shimo

Shimo:

最初に行った時、自分たちの想定していた3〜4倍くらいのお客さんが観に来てくれて。これだけ応援してくれる方がいるんだってビックリしました。

Shohey

Shohey:

Spotifyなどの聴取データを見ていても、リスナーの地域の3位くらいが台湾だったりすることもあって、やっぱりストリーミングでみんな見つけてくれているんだなって感じています。

改めて身にしみる「日常のありがたさ」

初のレコード、そして長編MVの制作へ向けたクラウドファンディング・プロジェクトも始動しました。このプロジェクトが始まった経緯を教えてもらえますか?
Shohey

Shohey:

3月以降、コロナ禍の中で色々な企画を行ってきたことの延長線上ではあります。『EWP in the Home』をもっと継続しようというアイディアもあったんですけど、一旦その期間を延ばしてみるのもいいんじゃないかと思ったんです。1週間に1度の楽しみから、もっと大きいスパンで、楽しみをお届けできる方法はないかって考えて。

Shimo

Shimo:

やっぱりMVを作りたいっていう自分たちの思いと、これまでもファンの方から「レコードが欲しい」という声が寄せられていたので、クラウドファンディングを通してみなさんと共に作ってみようと思いました。夏の1枚として、テーマを固めたEPを作ろうと。

Shohey

Shohey:

僕らも30歳になったので、「夏だ!」っていうはしゃぐ感じではなく、『The Sunset Project』という名の通り、「陽が落ちる時間帯」をテーマにしています。まだまだ色々な楽しみが制限されている中、この6月から8月くらいまでの期間を、作品が完成していくプロセスも含めて一緒に楽しんでもらえたらなっていう思いから、クラウドファンディングという方法を選びました。

Datch

Datch:

制作段階から実際に作品が手元に届いたり、MVを観てもらったりするまで、ファンのみなさんと時間を共有したいと思っています。

制作背景の生配信などもそうですが、そういったプロセスも含めて、ファンのみなさんに楽しんでもらうというのは、従来の活動の中では中々生まれてこないであろうアイディアですよね。
Shohey

Shohey:

本当にその通りですね。こういう状況下でも、日々楽しんでもらえる方法はないかっていうことを考え続けたからこそ思いついた企画だと思います。

長編MVについてはどのような構想を練っているのでしょうか。
Shohey

Shohey:

僕ら3人の、それぞれの夏の過ごし方を描ければなと考えています。EPとしてはインストも含め6曲くらいを収録する予定で、全曲のMVを作ろうと思っているのですが、3人それぞれが各曲のMVの主人公になりつつ、それぞれのMVもバラバラではなく、全体として繋がっているような作品にしたいなと。

Shimo

Shimo:

それぞれのMVに伏線を潜ませたりして、1回観終わった後も、新たな発見があるような作品にしたいですね。

最後に、まだ終息したわけではないですが、このコロナ禍を経て、それぞれの心境の変化についてお聞きしたいです。
Datch

Datch:

この期間でよく話していたのは、それぞれの生活拠点が東京じゃなくてもいいのかなっていうことで。制作もリモートでスムーズにできますし、もしかしたらライブもまだまだ再開に時間がかかるかもしれない。東京にあまり固執しなくてもいいのかなっていう意識の芽生えは、この期間での変化のひとつだと思います。

Shimo

Shimo:

この期間で、色々な物事のデジタル化がより一層進んだからこそ、リアルでしか体験できないことの価値も大きくなったんじゃないかなって思います。やっぱり、この文化は絶やしてはいけないなと。ライブでのあの景色をまた観たいなと、より強く思うようになりましたね。

Datch

Datch:

今までの環境がいかに恵まれていたのかも実感しましたね。当たり前にライブして、ライブ前の何気ない空き時間もすごく懐かしく思いますし。改めて音楽が好きだということを自覚しました。

Shohey

Shohey:

そうだね。本当に今までの日常のありがたさを感じた。それはこれからも忘れてはいけないものだと思いますね。

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