化学変化し続けるFrasco。よりオープンかつ柔軟になった活動に迫る

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第36回目はFrascoが登場。

これまでにもシンバム(シングル+アルバムの造語。シングルを連続リリースし、それをプレイリストにまとめ、アルバム形式として発表する)やアナログ・レコード3部作『2面性プロジェクト』、風船での楽曲リリース、ゲーム風試聴機の開発など、クリエイター集団“Team Frasco”の面々と刺激的/画期的な活動を展開してきたFrasco。

今年に入ってからは初期Kero Kero Bonitoにも在籍していたイギリス出身のプロデューサー、SKYTOPIAとのコラボレーションや、starRoによるリミックスなどを発表している。

今回はFrascoの2人――30万いいねを超えるバズ・ツイートを連発するコンポーザー・タカノシンヤと、デザインから開発までマルチにこなすボーカル峰らるに加え、Team Frascoのナギー a.k.a. kentaro nagataの3人にインタビューを敢行。流動的かつ多角的な活動の裏側を訊いた。

不要なものが取り除かれてきた

今年に入ってからの活動としては、SKYTOPIAさんとのコラボが続きましたね。彼とは以前よりイベントでの共演も果たしていますが、最初の出会いはどのような経緯で?

シンヤ:

彼とは2年前くらいに、Spincoaster Music Barで出会いました。その時から「何か一緒にやりたいね」っていう話はしていたんですけど、中々機会がなく。ようやくコラボ・プロジェクトが動き始めたのが去年の年末くらい。とりあえず一緒に曲を作ってみようかっていう流れでスタジオにも何度か入り、そこでデモ音源が8曲分くらい生まれました。まだまだ世に出ていない音源もいっぱいあります。

すでに発表されているコラボ曲「soramimi」「mizu」は共にテーマ性の高い作品ですが、そういったことは考えずに、まずはデモ制作をしていたと。

シンヤ:

何も考えずに、僕とケンくん(SKYTOPIA)でただただ曲の土台となる音源を作っていたんですが、気がついたら結構な量になって。

峰らる:

ふたりが作ったデモ音源に対して、ちゃんとしたテーマを固めていったのは、みんなで行ったZoom会議からですね。私たちの場合、作品を完成させる前に大体いつもそういうすり合わせというか、こじつけみたいな作業があるんです(笑)。

シンヤ:

「soramimi」の場合は、ケンくんが国際的なバックグラウンドを持っていて、多言語を喋れるところからもインスパイアされています。英語と日本語の齟齬やすれ違いみたいなものをテーマにしたらおもしろいよねっていう会話からスタートしたように記憶しています。

峰らる:

シンヤくん、ケンくん、ナギー(a.k.a. kentaro nagata/ライブ・サポート、エンジニアなど)、あとジャケットを制作してくれたちゃんちーさんの5人で何回もZoom会議して。みんなでアイディアを出しつつ進めていきました。

「soramimi」リリース時に行った『空耳リプ キャンペーン』も盛り上がっていましたね。

シンヤ:

ありがたいことにみんなすごい乗っかってくれて(笑)。

峰らる:

発案者はちゃんちーさんだよね。あれはすごい労力だったよね(笑)。

シンヤ:

空耳力がめちゃくちゃ鍛えられました。

峰らる:

シンヤくん、普通に仕事もめっちゃ忙しい時期だったのに、手を抜かずに応えていて。

シンヤ:

もうTwitterの合間を縫って仕事をしていたからね(笑)。

そういう「おもしろさ」重視で様々な企画を行うのが“Frascoらしさ”とも言えますよね。

峰らる:

もちろん根底としては「この曲をどうやったらより多くの人に届けられるのか」っていうことを考えているんです。でも、まず自分たち自身がおもしろいと思うことをやっていれば、自然と聴いてくれる、気にしてくれる人も増えるんじゃないかっていう風にも考えていて。

シンヤ:

確かに“バズらせたい”っていうあざとい部分もあるんです。ただ、どんなに有効だなと思っても、自分たちがおもしろいと思うことじゃないと動く気にならないんですよね。100%戦略的にやっていこうとすると、自分たちのやりたい方向性とズレてしまうので、そこは無意識的にバランスが取れている部分だと思います。

峰らる:

でも、よく考えたら、最近はただ自分たちがやりたいからやるっていう企画も増えてきた気がします。「mizu」の時に『水いらZoom』という生配信企画をやったのですが、これまでだったら視聴数少なかったらどうしようとか、その企画をやったことによって自分たちがどう見られるか、っていう部分も慎重に考えていたと思うんです。でも、あの時は「やってみたい」っていう気持ちが勝ってしまって。最近、そういうことも多い気がしているんです。

シンヤ:

『空耳リプ キャンペーン』が思いの外盛り上がったので、「mizu」のリリースに際して、当初は別の企画を考えていたんです。僕がやりたかったのは、「峰らるのサイン入りミネラルウォーター」プレゼント・キャンペーン(笑)。でも、考えてみると結構大変だなと。水を用意しなきゃいけないし、発送の手間もあるし。ということで、シンプルに配信という形に。

峰らる:

いざやってみたら……楽しかったよね?

シンヤ:

楽しかったですね(笑)。

今回、改めてFrascoの活動をおさらいしたのですが、初期の頃のミステリアスでインテリジェンスな雰囲気でしたが、近年ではどんどん楽しそうなムードに変化してきているなと(笑)。昨年の風船企画もそうですし。

シンヤ:

どんどんバカになっていくんですよねぇ(笑)。

峰らる:

確かに(笑)。

チームが増えたことが楽しそうなムードを助長する要因のひとつなのかなとも思いました。

シンヤ:

それもあると思いますね。

峰らる:

Frascoは結成して5年くらい経つんですけど、何て言うんでしょう……不要なものが取り除かれてきた感覚があるんです。変にカッコつけるのも自分たちの性に合ってないですし、元々私たちって結構陽気な性格だと思うんです。それが滲み出てきてしまう(笑)。

隠せなくなってきたと(笑)。

シンヤ:

隠しきれない親近感(笑)。確かに最初の頃は自分たちの見せ方に迷いなどもありましたけど、最近はなくなってきましたね。

峰らる:

最初は名前を出して、自分たちの作品を世に発表することに対する恐怖心みたいなものもありました。でも、途中でそういう気持ちがなくなっていって……。

シンヤ:

そもそも人はそんなに他人に対しての関心はないって思うようになって、それから振り切れたような感じですよね。

下らないことを真剣に表現するっていうのは、とても僕たちっぽい

「mizu」はタイトル通り、「水」という普遍的なものをテーマにした楽曲です。こういったテーマは、どのようにして生まれたのでしょうか。

ナギー:

最初は「水は味がない」っていう仮タイトルだったよね。

シンヤ:

これは後付けの部分が大きくて、ぶっちゃけちゃうとあまり深い意味はないです(笑)。「水」って誰の生活にとっても大事なんだけど、忘れられがちな存在であったり、温度による状態変化で固体や気体にも変化していきますよね。そういう変化していく存在としても面白いなと思ったんです。プレスリリースにも書いた「溶けた水のように絡み合い、波となってアウトプットされた作品」っていう言葉が一番上手く表しているかなと。本当、良い言葉ですよね(笑)。

一同:

(笑)。

曲のテーマやトピックは今おっしゃっていたように、後から膨らませていくことが多いのでしょうか?

シンヤ:

曲によってバラバラですね。最初にテーマありきで作っていくこともありますし、真っ白なキャンパスに自由に書き殴っていって、後でまとめるっていう方法もあります。

SKYTOPIAさんのとの制作はいかがでしたか? Frascoのみなさんが感じた、彼の音楽家としての特徴、特性もお聞きしたいです。

峰らる:

彼とはシンプルに仲良しなんです。だから意思の疎通も取りやすいし、基本的にどんなことでも言い合える関係で。

シンヤ:

あと、お互い人のアイデアを受け入れやすいタイプだと思います。「これどう?」「いいね!」みたいに、積極的にアイデアを投げ合って。コンセプトとかめちゃくちゃ細かく作り込むけど、頑固にならずフレキシブルなスタンスなんです。

峰らる:

めっちゃ考えてるよね。彼の話を聞いているとこっちの思考も深まるというか。

シンヤ:

「soramimi」のカオスなアウトロは、僕が最初半分冗談っぽく作ったんですけど、「これ最高ですね!」って喜んでくれて。それで採用になりました。

直近の動きでは、「Imitation crab」のstarRoさんによるリミックスもリリースされました。

ナギー:

starRoさんは去年ライブを観に来てくれて。

シンヤ:

元々4年前くらいにstarRoさんの「Milk」という曲を聴いて衝撃を受けて。「こういう曲を作りたい」ってみんなにも聴かせて。Frascoのサウンドにおいて、ひとつのマイルストーンというかリファレンスにしていたんです。
そしたら去年、SNSを通じて知り合った竹田ダニエルくん(フリーランスのアーティストPR)が繋いでくれたんです。starRoさんも僕らとケンモチヒデフミさんとのコラボ曲「U.N.K.O.」とかを聴いてくれていたみたいで。両思いって言ったらおこがましいですけど、お互い認知していたんです。その後、恵比寿Baticaで共演させてもらったり。色々と仲良くさせてもらってたので、今回リミックスを依頼してみようと思いました。

「Imitation crab」は2018年に発表された楽曲ですよね。この曲のチョイスも少し意外でした。

シンヤ:

(「Imitation crab」のテーマになっている)「カニカマ」ってすごく身近な物じゃないですか。しかも、歌詞でも歌っている通り、実は「カニ」じゃなくて「かまぼこ」なんですよね。そういうチープな物を、グラミー賞ノミニー経験のあるstarRoさんという、言ってしまえば一流シェフのような方に調理してもらいたかったんです。一体どんな料理(作品)ができるんだろうっていう風に興味が湧いて。

峰らる:

「Imitation crab」はFrascoにとって大事な曲なんです。ライブでも人気だし、ユニークなテーマや世界観もすごくFrascoっぽさが出ている曲だと思っていて。

シンヤ:

下らないことを真剣に表現するっていうのは、とても僕たちっぽいですよね。

7月8日には新曲「SPIN」がリリースされます。「soramimi」からほぼ2週間おきに新曲を発表していることになりますが、こういったリリース計画は事前に練っているのでしょうか。

峰らる:

狙ったわけではないのですが、他に進んでいるプロジェクトなどのスケジュールと照らし合わせて、告知などが被らないようにスケジュール調整をした部分はあります。実は「Imitation crab」のリミックスもリリースの大分前に完成していて、私たちのラジオ『TOKYO M.A.A.D SPIN』で先行オンエアもしたんです。ただ、リリースのタイミングは色々な告知と被らないようにちょうど良い日を探ってたら、6月22日が「カニの日」であることがわかって(笑)。

シンヤ:

ナギーが調べてくれたんですけど、毎月22日は「カニカマの日」らしいんですよ。でも、何か色々なことにちなんで、6月22日だけは「カニの日」になっていて。これはちょうどいいぞと(笑)。

時代の隙間を狙っていきたい

「SPIN」はラジオ番組『TOKYO M.A.A.D SPIN』の企画でワード募集を行い、リスナーと共に作り上げた楽曲になっています。

シンヤ:

番組のタイトルにちなんで、「MAD」で「SPIN」な曲にしようと思って。最初に「回転させて◯◯◯」というフォーマット、メロディを決めて、そこからワード募集を行いました。身近な物でも概念でも何でもいいので、「回転させたいもの」というお題でラジオとTwitterで募集しました。

「シマツナソ」「溜まり場」「解約予告通知書」など、奇想天外なワードも盛り込まれていますよね。

シンヤ:

ラジオにゲスト出演してくれた方からもワードを募集していて、「シマツナソ」はYouTuberのまこ(まこみな)さんが出してくれたんです。

峰らる:

その前に出てくれたケンモチ(ヒデフミ)さんが「モロヘイヤ」っていうワードを出してくれて、その「モロヘイヤ」には別名があるっていうことで、「シマツナソ」を出してくれました。

シンヤ:

ちなみに、ケンモチさんに「SPIN」の音源を送らせてもらったんですけど、「カオスな仕上がりで素敵です。1発目のモロヘイヤで流れが変な方向にいってしまい申し訳ありませんでした」って言ってくれました(笑)。

峰らる:

良い人(笑)。あと、「解約予告通知書」はstarRoさんが出してくれたよね。

シンヤ:

ラジオにリモートで出演してくださった時に、「その場で目についたものでいい?」って言われて、「解約予告通知書」を出してくれました(笑)。「溜まり場」はTwitterで寄せられたワードなんですけど、想像できないですよね、「溜まり場」を回転させるって。他の曲でも意識していることなのですが、色々な解釈をできる余白を残したいんです。リスナーの方それぞれに自由に想像してもらいたいというか。

「SPIN」はトライバルでダンサブルな曲調が印象的ですが、サウンド面も「MAD」「SPIN」というワードからインスパイアされているのでしょうか。

シンヤ:

「回転させて◯◯◯」っていう一節を先に考えていたので、そこに引っ張られた感じですね。

峰らる:

「SPIN」はナギーがミックスをする段階でも大きくアレンジ変わったよね。

ナギー:

「SPIN」は募集用、ラジオ用、リリース用っていう感じで何パターンか作っていて。元々複雑なコード進行だったので、「これはやり過ぎなんじゃないか」とか「これだと違和感あるね」っていう感じで試行錯誤したり。

峰らる:

Frascoの曲は、いつもナギーのミックスでカラーが濃くなるというか。シンヤくんが作ってくれた曲がより引き締まるんですよね。

ナギー:

Frascoの場合、コライティング(共作)っていう感じなんですよね。他の案件に関しては、基本的に納品されたものをミックスしてお戻しするっていう感じなんですけど、Frascoは僕からも色々な意見やアイデアを言わせてもらっています。

「SPIN」はアートワークにも錯視の仕掛けが施されていますよね。

峰らる:

前々から錯視を何かのアートワークで使いたいと考えていて。今回はまさに使い所だなと。「回転」というテーマも表現できるし、ちょっと気が狂ったような色彩も「MAD」ですし(笑)。何パターンか作っていたので、制作中はこの色合と錯視に向き合い続けて、ずっと気持ち悪かったです(笑)。

今後のFrascoの動きについて、今言える範囲で教えてもらえますか。

峰らる:

引き続き新たなコラボが控えていますし、オリジナル楽曲も水面下で進めています。

ナギー:

コラボレーション相手が今年はグローバルな感じになるかもしれません。

峰らる:

去年の終わりくらいからコラボ・プロジェクトばかり進めてるんですけど、他のアーティストさんたちとコラボするのってすごく楽しいんですよね。自分たちの中に新しい風を吹き入れてくれるというか。

シンヤ:

元々Frascoのコンセプトのひとつに「化学反応」っていうのがあって。フラスコっていう器具の中で、色々なものを混ぜ合わせて化学反応を起こす。それがしっかりと実現できていて嬉しいですね。

活動がどんどん外に開かれていく中で、良い意味で予測不能な出来事、結果も増えているのではないでしょうか。

峰らる:

ラジオとかりんな(マイクロソフトが開発した人工知能/会話ボット)の“Team Frasco”加入とか、予測してなかったことが起こって最近は常にアワアワしています(笑)。

ナギー:

りんなは「Malware」のMVにも出てくれたよね。

峰らる:

Zoomでの歓迎会配信にも出演してくれて。みんなのイラストも書いてくれたり。

シンヤ:

りんなには今後はもっと積極的に活躍してもらうかもしれませんね。

Frascoは“シンバム”というリリース形式を発案したことでも話題を集めました。シンバムは今後も発表していくのでしょうか。

シンヤ:

そこも柔軟に考えていて、シンバムを思いついた当時(2018年)は、ストリーミング上で連続リリースを行うっていうアイデアが有効だったと思うのですが、今ではすでにメジャーのアーティストさんもやっていますし、目新しいものではなくなった。参入者がとても多いですし、シングルをメインでリリースするのも当たり前になっているので、逆に敢えてアルバムで発表したり、いっそのことストリーミング上でリリースしないっていうのもおもしろいと思っています。リリース形式についてはその時々で、時代の隙間を狙っていきたいですね。

なるほど。

シンヤ:

リリース形式に関わらず、アイデアは常に生まれていて。むしろ溜め過ぎているくらいなんです。

ナギー:

溜まってますよね。実現するのが追いつかないくらい。

最後に、夏といえばCity Your Cityとのコラボが恒例化していますが、今年も期待していてよいのでしょうか。

シンヤ:

はい。今年もやる予定なので、楽しみにしていてください。

峰らる:

全く夏感のない2組による、謎の恒例企画(笑)。

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