macicoが辿り着いた柔軟なスタイル。洒脱なポップネスはどのようにして生まれるのか
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第45回目はmacicoが登場。
3人組ユニット、macicoがジワジワと注目を集めている。9月、10月と2ヶ月連続リリースとなったシングル曲ではアーバンかつ流麗なサウンドを展開。彼らの作品から感じられる2000年代初頭のR&Bやクラブ・ジャズ、ラウンジ・ミュージックなどの要素は、近年の渋谷系再評価の流れともリンクし、2020年の今にとてもフレッシュな響きとして鳴っている。
そんな中、昨日11月25日には早くも新曲「hanataba」をリリース。本作はタメの効いたビートに華やかなシンセにシルキーなボーカルを乗せたウェルメイドなポップ・ナンバーで、彼らの懐の広さを強く感じさせる1曲だ。
今回はそんなmacicoのこれまでの変遷を追うと同時に、そのポップ・センスの核を紐解くべくメンバーの3人に話を訊いた。
「主軸はJ-POP」
- macico結成の経緯を教えて下さい。
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小林斗夢:
元々は僕と女性シンガーとのアコースティック・デュオとして2015年にスタートしたのですが、その2年後に彼女が脱退して。元々バンドをやりたいという気持ちもあったので、名前はそのままで5人編成のバンドとしてリスタートしました。これがmacico2期です(笑)。そこからさらに2年後に、ベースとドラムが脱退しまして、今の3人編成になりました。
- 編成と共に、志向する音楽性はどのように変わっていったのでしょうか。
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小林斗夢:
デュオのときはミニマルな編成だったので、エヴァーグリーンなサウンドでボーカルをしっかりと聴かせる、ということを意識していました。ただ、活動していくにつれて、作曲の段階でより多くの音や楽器を取り入れたいと思うようになって。そのタイミングと相方の脱退が重なって、バンドに移行したという形ですね。5人編成になった当初から、今と同様に踊れるサウンドをバンドで鳴らすことを意識していました。
- 5人編成から3人になった時の変化についても伺いたいです。
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小林斗夢:
5人のときは生演奏を活かしたサウンドを考えていたのですが、そこからベースとドラムが抜けたので、自然と打ち込み要素の強いバンドへとシフトしていきました。僕もギター・ボーカルからピン・ボーカルになり、そういった変化も多少なりサウンドに反映されているとは思います。
- 大枠として、「踊れるサウンドをバンドで鳴らす」という部分はブレずに、テイストや質感が変化していったと。
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小林斗夢:
そうですね。主軸はJ-POPであること。全員ポップな音楽をルーツに持っているので、そこはブレずに。それをダンサブルなサウンドに乗せるということを意識しています
- 編成もサウンドも大きく変化しつつも、macicoという名前を貫いています。この名前には何か特別な思いが?
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小林斗夢:
macicoの前にギターロック・バンドに在籍していたのですが、そこを自分の意思で脱退してmacicoをスタートさせたんです。その時、何があってもmacicoは続けていきたいという気持ちが芽生えて。形やメンバーは変われど、僕を中心としたプロジェクトとしてmacicoは続いていくというか。
- なるほど。では、現在のメンバーであるyukinoさん、堀田さんとはどのような関係性だったのでしょうか。
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小林斗夢:
yukinoとは10代限定のオーディションで知り合って、それ以来対バンなどで共演するような間柄になりました。女性の声が欲しかったので、キーボードも弾けて歌える存在ということで真っ先に浮かび、それでお声がけしました。
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yukino:
(小林は)私の前のバンドの他のメンバーとはとても仲が良くて。ただ、私とはそこまでたくさん話したりするような関係ではなかったんですけど(笑)。
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小林斗夢:
ギターの堀田も元々彼がギター・ボーカルを務めていたバンドでの共演を経て知り合って。ギターのセンスもピカイチだなと思っていたので、すぐに声を掛けました。当時、勝手にライバル視というか、僕はすごく意識していた存在だったんです。
- では、おふたりに声を掛けられた当時の小林さんの印象などをお聞きしたいです。
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yukino:
最初は驚いたんですけど、2人組だった時代のmacicoがすごく好きで、作品もよく聴いていたんです。なので、声を掛けられたときはすごく嬉しかったですね。ただ、当時はバンド活動から時間が空いていたタイミングで、自分の中で音楽との向き合い方について考えているときだったので少し悩みましたが、彼の「バンドでこういう音楽をやりたい」という話を聞いて、おもしろそうだしやってみようと。その時の会話ではフレンチ・ポップだったり、大橋トリオさんの名前が挙がっていたように記憶しています。
- 堀田さんはいかがですか?
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堀田コウキ:
バンドで対バンしてたのは結構前の話で、斗夢とはそれから3年くらい会っていなかったんです。ただ、SNSでは繋がっていたので、お互いの近況は何となく知っている、という状態で声を掛けてもらいました。元々彼の作る曲が好きなのと、僕は人の曲をアレンジすることも得意なので、絶好の機会だなと。あと、僕もyukinoと同じく、その時バンドをやっていなかったので、タイミング的にもよかったんです。
フレンチ・ポップ、チルウェーブ、クラブ・ミュージック――今のmacicoを形成する要素
- みなさんそれぞれの音楽的なルーツについてもお伺いしたいです。音楽や楽器に興味を持ったきっかけなども含めて。
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小林斗夢:
音楽を始めようって思ったきっかけはスピッツです。中3の夏休みに行った初めてのライブで「僕もバンドやりたい」って強く思ったのを覚えています。高校生活はずっとバンドに明け暮れて、当時は周囲の影響もあってギター・ロック、BUMP OF CHICKENやELLEGARDEN、RADWIMPSなど、僕ら世代の人気バンドのカバーなどをしていました。
その後、ゲームの『ウイニングイレブン』がきっかけで洋楽に興味を持ち、色々と聴いていく中で特に惹かれたのがNirvanaやSonic Youth、Pixiesなど、90年代のグランジ〜オルタナでした。でも、当時一番衝撃だったのがPavementで。全体的に気怠い雰囲気で、いわゆる“ヘタウマ”な感じのフレーズも多い。妙に癖があるのに、ポップスとして成立している。そんなPavementをきっかけに自分の中でのポップスの概念が変わって、それ以降色々な音楽を聴くようになりました。
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堀田コウキ:
僕の場合、昔から車で倉木麻衣さんや宇多田ヒカルさん、ユーミン(松任谷由実)など、色々な音楽がかかっていたので、自然と音楽に興味を持つようになりました。自分からもっと聴きたいって思ったのは、兄の影響で知ったBUMP OF CHICKENです。それからギターを始めて、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやくるりなどのコピー・バンドもやっていました。中高生になるにつれて洋楽も聴くようになったのですが、特にハマったのはRadioheadです。そこから派生して様々な音楽を聴くようになりました。
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yukino:
私は3歳くらいからクラシック・ピアノを習っていて。中学3年生で自分の進路を考えた時に、私はテレビっ子だったので、何かしらでテレビに出たいと思ったんです。その時、自分の中で長く続いていたことがピアノしかなかったので、「これだ!」と思い、高校になってからはバンドをやるようになって、今に至るという感じです。元々はアイドルが好きで、モーニング娘。などハロプロ系を始め幅広く聴いていました。あとは大塚愛さんとかYUIさんなどのJ-POPや、バンドだとJUDY AND MARYなどが大好きでした。
- みなさんのルーツにポップスや歌心の強いバンドがあることがわかりました。では、今のmacicoのクラブ・ジャズやラウンジ・テイストも感じさせる音楽性はどのように生まれてきたのでしょうか。
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堀田コウキ:
さっき斗夢が言っていたように、3人編成に変わった時にこのメンバーでどういうサウンドがハマるだろうかを考えていたんです。色々なテイストの曲を作ってみたのですが、一番しっくりきたのが9月にリリースした「aloe」で。影響を受けたアーティストを挙げると、Toro Y MoiやWashed Outなどのチルウェーブ系のアーティストですね。底抜けにポップというのではなく、少しクールな質感の、クラブ・ミュージックの要素も持ったアーティストを参考にしています。そこに、J-POP的な要素を乗せた結果、今おっしゃったような印象になっているのかなと。
- また、先程話に出てきたフレンチ・ポップ、特にTAHITI 80やPhoenix、もしくはフランスではありませんがThe Whitest Boy Aliveなどを想起させる部分もありますよね。これは5人組だった時に志向していた方向性でしょうか。
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小林斗夢:
そうですね。TAHITI 80は個人的にも大好きで、オケに対するボーカルの乗せ方など、影響を受けている部分も多いと思います。
- 「aloe」はコロナ禍の影響を受けた楽曲とのことですが、曲のテーマも含め、どのように生まれてきたのか教えてもらえますか。
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小林斗夢:
アロエの花言葉が「苦痛と悲嘆」なんですけど、今まで当たり前にあったものや時間がなくなってしまったり、もしくは大事な存在との別れなど、そういった苦痛とどのように向き合っていくかをコンセプトに書いた曲です。
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堀田コウキ:
ただ、歌詞はちょっと暗いというかシリアスなんですけど、サウンドは明るめに仕上げています。macicoはこういった構成が結構多いですね。
- 「アロエ」という花に辿り着いたのは、花言葉から?
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yukino:
花をめっちゃ調べてたよね。
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小林斗夢:
堀田にこの曲はどんなイメージなのか聞かれた時に、「植物」「トロピカル」っていうワードが出てきて。そこから辿り着いたんだと思います。
- 続いて10月にはダンサブルでスムースな「coin laundry」、軽快で少しバンド感もある「alcohol」の2曲をリリースしています。
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堀田コウキ:
「coin laundry」も「aloe」と同時期にできた曲で、どちらかというとアンニュイな世界観のある作品です。「coin laundry」は僕が作曲した曲なのですが、最初はもっとダウナーでしたね。
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yukino:
私が「暗すぎるからもっと明るくしたい」って言った記憶がある(笑)。
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小林斗夢:
結構yukinoの視点は大事で。そこでバランス感覚を保っているのかなと。
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堀田コウキ:
確固たるひとつのテーマがあるというわけではなく、いくつかの意図やイメージを結びつけている感覚なのですが、コロナ禍でげんなりしていた自分の精神状況も表出したのかなと思っています。
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小林斗夢:
「coin laundry」は少し特殊で、歌詞に関しては3人で作っていきました。みんなで言葉を出し合って。
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堀田コウキ:
でも、作詞は大体3人でやることが多いよね。
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yukino:
大本になる歌詞を(小林、堀田の)どちらかが作ってくれて、それに対して全員で意見を出し合うという形が多いですね。
- 「alcohol」は前編成時からできていた曲だそうですね。
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小林斗夢:
5人編成の時に、僕が弾き語りで作ったデモを、堀田にアレンジしてもらってできた曲です。今回改めて作り直した理由したとしては、SoundCloudにUPしていたデモver.が多く再生されていたというのと、ライブと音源は別物という意識が芽生えてきたからですね。元々はドラムとベースがいる状態を意識して作った曲だけど、ライブでの再現は意識せずに、この3人でもう一回作り直してもいいのかなと。
自分たちに正直に音楽を作り続ける
- 11月25日に新曲「hanataba」がリリースされました。この曲は少し落ち着いたテンポ感と、ネオソウルのような質感、リズムが印象的です。
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小林斗夢:
「hanataba」は僕が簡単なデモを作って、SNSにもUPしていたんですけど、最初はなんとなく「この曲はmacicoではできない」だろうなと思っていたんです。でも、ある時思いつきで堀田にアレンジをお願いしてみたらすごくしっくりきて。曲のテーマとしては、花を贈る時に西洋では満開の花を選ぶのが良しとされているのに対して、日本では七分咲きであったりまだ蕾の花を贈って、大切な人と共に咲き誇る瞬間を楽しむ、という文化があったらしくて。それがすごく素敵だなと思って、曲にしてみました。
- 「『この曲はmacicoではできない』と思った」という点について、もう少し具体的にお聞きしたいです
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小林斗夢:
僕が作る曲って、可愛くなってしまうことがあって。フレンチ・ポップもそうですけど、スウェディッシュ・ポップや渋谷系などの影響が曲に反映されがちで。一方、堀田の曲はクールな作品が多いので、それらとの整合性が取れないかなと思ったんです。ただ、アレンジをお願いしてみたらすごくいい感じに仕上げてくれたので、これならmacicoとして出せるなと。
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堀田コウキ:
確かに最初はだいぶポップな感じだったよね。コードを変えてみたりしたけど微妙な感じだったので、低音をもっと目立たせたらいいのかなと思って、先程おっしゃったようにネオソウルのようなイメージで仕上げていきました。
- シングルの連続リリースが続きますが、今後の動きについても教えてもらえますか。
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小林斗夢:
シングルを連続でリリースし、ありがたいことに色々なプレイリストにもピックアップしてもらえたおかげで、聴いてくれる人が広がったという感覚があります。なので、今後もフットワーク軽く作品をコンスタントに発表していきたいですね。
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堀田コウキ:
シングルを出しつつ、行く行くはアルバムもリリースできればいいなと。ただ、ライブ活動が全然できていないので、これからはそこにも力を入れていきたいですね。色々なイベントやフェスなど、大きい目標でいえば<フジロック>に出たいですね。
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小林斗夢:
<フジロック>は出たいねぇ。
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堀田コウキ:
作品では引き続き、ダンサブルな作品を作っていけたらなと思います。ライブはまだ決まっていませんが、ライブでも盛り上がるような景色をイメージして作っています。
- では、macicoとしての大きい目標やゴールのようなものを設定するとしたら?
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堀田コウキ:
日本国内ではもちろん、アジアだったり世界中に聴いてもらえるようになったらいいなと。ただ、「こうやったら海外の人にも注目してもらえるよね」とかは意識せず、自分たちの好きなことを突き詰めていった結果でそうなるのが理想ですね。トレンドは常にチェックしているつもりですが、それを無理に取り入れることはしたくないというか。
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小林斗夢:
音楽を作っていく上で、自分たちがやりたいことをやり続けるということが最大の目的で。それをより多くの人に届けられるようにできたらいいなって思います。今後も自分たちに正直に音楽を作り続けたいですね。
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