「ハッピーを世の中に増やす」――パーソナルな音楽表現に到達したgbが語る、創作活動の意味
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第51回目はgbが登場。
Kool &The Gang(クール・アンド・ザ・ギャング)のGeorge Brown(ジョージ・ブラウン)を父としながらも、主に日本で育ったSSW/ラッパーのgbが1stアルバム『24/7』を2月24日にリリースした。
コンセプチュアルな作品の連続リリースでも話題を集めたgb。オーセンティックなR&Bやヒップホップを軸に、日本語を軸にポジティブなメッセージを発する彼のサウンドは、実際に対峙して感じた彼の実直な人間性がそのまま作品に反映されているかのようだ。
今回のインタビューではグループでメジャー・デビューも経験した彼がソロ・アーティストへと転向した経緯、そして自身の活動を通して気付いた“音楽を発信する意味”まで、様々なことを語ってもらった。
メジャー・デビュー、グループの解散、そしてソロに
―資料に「高名な父からの誘いを幾度となく断って、日本での『暮らし』と『表現活動』にこだわる」とありましたが、幼少期は日本で過ごされていたのでしょうか。
日本で生まれて、学校に入るまではアメリカと行き来していました。日本のインターナショナル・スクールに入ってからは、長期休暇の時だけアメリカに行くっていう感じでした。
―日本とアメリカを行き来する中で、日本での暮らしにこだわるようになったのはなぜなのでしょうか。
お父さんはツアーなどで家にいないことが多くて。しかも、お父さんが住んでいたのはLAなんですけど、実家はニュージャージーだったので、親族とも年に数回会う程度だったんです。それに比べて、日本では母の実家に住んでいたので、常に多くの家族に囲まれていて。たぶん、その時の頃から「日本の方がいいな」ってなったんだと思います。
―幼い頃のgbさんはどのように音楽に触れていましたか?
お父さんの家では常に音楽が流れていましたし、ツアーにも連れて行ってもらったりもしました。日本では流行りの音楽について友達と話したり、通学中に聴いたりっていう感じですね。
音楽を聴くのは好きでも、自分がプレイしたりっていうのは全く考えていなかったのですが、中学卒業のタイミングで友だちからラップ・グループに誘われて。そこで初めて自分でラップをするようになりました。
―お父さんが在籍していたKool &The Gangのような、ソウル、ファンクにはいかなかったと。
楽器を習ったこともあったんですけど、全く続かなくて。そこからはあまり興味を持てず、どちらかというと小さい頃は音楽よりスポーツに熱中していました。バスケ選手になりたいと思っていたこともありますし。でも、バスケと音楽はカルチャーとしての結び付きも強いので、自然と音楽も吸収していたんだと思います。
―gbさんの現在の作品は、ヒップホップやR&B的なサウンドの中にも、日本語のポップスにも通ずるフィーリングが強く感じられます。
日本のアーティストだと槇原敬之さんがとても好きで。自分がやっているブラック・ミュージックに、日本の音楽の詩的な要素を上手く融合させたいと考えています。
―友人とグループを始めて、音楽に対する意識はどのように変化していきましたか?
最初は友だちを呼んでのイベントだったのですが、人前でパフォーマンスする楽しさ、嬉しさを覚えて。毎日のようにスタジオに入ったり、月イチでイベントに出たり“やるならいけるところまでいきたい”と思うようになりました。
―そのグループは長く続いたのでしょうか。
大学生になるくらいの時期に、それぞれ進路が分かれてしまって。残ったメンバーと一緒に3人組として活動していくことになり。紆余曲折を経てThe New Classicsとしてメジャー・デビューもさせてもらいました。The New Classics解散後も2人組ユニット・0TU1として活動しています。
―そこからソロでの活動を始めた経緯というのは?
元々、ひとりでイチから音楽を作るということには興味はあったんですけど、音楽活動の始まりがグループだったこともあって、怖くてなかなか踏み出せなかったんです。でも、このままではダメだと思って、自分を変えるためにソロ作品を作り始めました。それが2018年にリリースした「HOME」と「SUNDAY」です。
―特に活動初期の頃に感じたことですが、意識的に前グループの名前などを出していないように感じました。それは何か考えがあってのことだったのでしょうか。
確かにそれは意識していました。やっている音楽がガラッと変わってしまったということもあるのですが、前グループでの知名度などに頼らず、ゼロからやってみたかったんです。
ただ、そういった過去の活動は全て僕の大事な歴史なので、決してなかったことにしたいわけではないです。これは僕の夢のひとつなんですけど、gbとしてもっと大きな影響力を持つことができたら、グループとしてもう一度ステージに立ちたいとも考えています。
「一旦リセットしてみよう」――空白の1年
―「SUNDAY」のリリース後は1年ほどの空白期間が空きますよね。
ちょうどその時期に、レコード会社からのお誘いをもらって。それと同時に、所属するなら0TU1を活動休止か解散するべきという話が出てきて。色々と悩んだ結果、そのお話は流れてしまったのですが、それを機に一度立ち止まってみてもいいんじゃないかなって思ったんです。それまでずっと音楽をやり続けてきたので、一旦リセットしてみようと。
―そのお休みの期間はどのように過ごしていたのでしょうか。
ほとんど何もしていなかったです。家でテレビを観たり、散歩してスーパー銭湯でボーッとしたり、みたいな(笑)。
学生時代も含めて、何もやるべきことがない期間っていうのは初めてで。そうやってゆっくりと日々を過ごしていても、やっぱりいい日もあれば悪い日もあって。そこでより一日一日にフォーカスして考えるようになりました。「SUNDAY」に続く“DAYシリーズ”を作ろうと思ったのはその時ですね。「金曜日ってこういう日だよな」「木曜日はこういう日だな」っていう感じで。
―お休み期間中の“悪い日”というのは?
ふとした時に我に返るときがあるんですよね。SNSなどで音楽仲間たちが活躍している姿を目にすると、嬉しい反面、「自分はこのままでいいのか」って思い悩んじゃったりして。どちらかというと、そういう日の方が多かったかもしれませんね。
―2019年7月発表の「FRIDAY」以降は、現在に至るまで毎月欠かさずに新曲をリリースしていますよね。
グループにいた時は10曲くらい作って、CDにして会場で売って、という流れが多かったのですが、gbとしてはもっと頻繁に作品を発表してみようと思って。さっき何もやっていなかったって言っていた期間でも、実はビートを探して、曲の原型は作り溜めていたんです。
コロナ禍以降は、色々なエンタメが止まってしまった中、曲を発表し続けるっていう行為はとても意味のあることなんじゃないかって考えるようになって、それもあって今まで続けてこれてます。
―毎月リリースするというのは大変ではないですか?
自分の場合、全然苦じゃないです。毎日暇さえあれば曲作ろうって思うので、自然とストックは増えていきますね。
「明日はこないかもしれないから、今日を大事にしよう」
―連続リリースの中から、“DAYシリーズ”をまとめたアルバム『24/7』の構想はどのようにして出てきたのでしょうか。
本当は今まで発表してきた楽曲を全部収録して、さらに新曲も加えたいって思っていたのですが、とんでもない曲数になってしまうなと(笑)。
最初の“曜日シリーズ”もいいんですけど、その後に発表した、「BAD DAY」以降の“DAYシリーズ”にフォーカスしたほうが、より自分らしさを出せるなと思ったんです。
―『24/7』では“生きる意味”を模索するようなリリックも印象的です。こういった観点は、難病である「潰瘍性大腸炎」を発症したことも大きいそうですね。
2019年末くらいにお腹の痛みを感じ始めたんですけど、病院嫌いだったので放置していて。年明けてどんどん痛みが増してきて、2月くらいにようやく病院に行って発覚しました。病院に行く前に、ネットで自分の症状を調べたら思考がどんどんネガティブな方向にいってしまって。「もう死ぬかもしれない……」みたいな。「明日はこないかもしれないから、今日を大事にしよう」と考えるようになりました。どんなに悪い日でも、最後には少し笑えるような1日にしないと、絶対後悔してしまうなって。
―そういった体験は、作品にも変化を及ぼしていると思いますか?
そうですね。より自分自身に向けて書くことが増えたと思います。以前は人へ向けてリリックを書いていたんです。それこそグループに所属していたときは、作品に自分が出すぎないように意識していました。自分の気持ちを他のメンバーに歌わせるのは違うなと。「SUNDAY」以降はせっかくソロになったので、自分の気持ちを書いてみようと意識していたのですが、より自分のリアルな声が出ているのは「BAD DAY」以降だと思います。
―gbさんの書く歌詞は綺麗な言葉使いも印象的です。これは最初の方におっしゃっていた槇原敬之さんなどにも通ずる部分なのかなと思うのですが、ご自身では意識していますか?
僕がやっているようなブラック・ミュージックって、マッチョなイメージと結びつくことも多いと思うんです。だからこそ綺麗な言葉で、ポジティブな空気感を出していきたいと考えています。それはリリックだけでなく、gbというアーティストの在り方としてそうありたい。
僕はWill Smith(ウィル・スミス)がすごく好きなんですけど、彼はあまり攻撃的な言葉を使わず、ポジティブなヴァイブスに溢れている気がしていて。そういうところにとても憧れますね。
―アルバムは全部タイプ・ビートを使用して作っていますよね。ビートを選ぶ基準などを教えてもらえますか?
全部ヴァイブスですね(笑)。トレンドなどは意識せずに、イントロを聴いて「これだ!」って、自分がアガるものを選んでいます。購入したビートに新しくギターを乗せたり、自分なりのアレンジも加えています。
―アルバムのアートワークは三猿(見猿、言わ猿、聞か猿)をモチーフとしていますが、これはどういう意味が込められているのでしょうか。
自分にとって不都合なことは見聞きしないし言わない。それって悪く言えばわがまま、よく言えば無邪気というか、すごく人間味があるなって思ったんです。それで最初のアーティスト写真も“言わ猿”のポーズにしたんです。三猿全部のポーズで撮ったんですが、「人は顔の下半分を隠しているとカッコよく見える」って聞いたので、言わ猿のポーズを使っています(笑)
「自分を自分らしく保つために必要な行為」
―アルバムを作り終えた今の率直な感想を教えて下さい。
早く次のアルバムを作りたいと思いました。アルバムを作ってみて初めて見えてくることもあるし、挑戦してみたいことが次々と出てきて。自分がギターの音色を好きなんだっていうことにも気付いたので、もっと生感のあるバンド・サウンドにもトライしてみたいです。そういう部分では、父からの影響もあるのかもしれません。
あと、これまではgbだけの世界っていう感じだったので、他のアーティストさんとのコラボレーションももっと積極的にやっていきたいなと。
――今後の話についてもお聞きしたいです。毎月リリースは続ける予定でしょうか。
いけるところまではやりたいなと思っています。アルバムに新曲を7曲収録したので、ストックが減って少し焦ったのですが、また徐々に新曲が溜まってきていますし、誰かに止められるまでは続けてみようかなと(笑)。
―コンスタントに作品を発表することは、ストリーミング・プラットフォーム上においてリスナーを獲得する有効な方法として語られることも多いです。そういった部分で手応えは感じていますか?
ありがたいことに、リリースする度に毎回リスナーが増えていることは実感できています。新曲で僕のことを知ってくれたら、すぐに過去の曲にもアクセスできますし、そういったいい連鎖が生まれているんじゃないかなって。
ストリーミング・サービスがいっぱいあって、BIG UP!さんみたいなディストリビューション・サービスもある。こういう環境は音楽を始めたばかりのアーティストにとってはとても心強いですよね。
―それこそ、メジャーでの活動経験があるgbさんにとっては、時代の変化をより感じるのではないでしょうか。
自分が発表したいと思ったタイミングで、すぐに作品を出せるっていうのは昔だったら考えられないことですよね。あと、今みたいにシングルを何枚もリリースし続けるっていうのも、難しかったと思います。シングルとして細かくリリースすることで、リスナーの方からも1曲1曲ちゃんと愛してもらえるような気がしていて。
―ライブなどは考えていますか?
やりたいですね。これまでは配信リリースや配信ライブなど、オンライン上での繋がりばかりだったので、リアルな場でパフォーマンスしてみたいなと思います。さっきの話にも繋がるのですが、バンドの演奏に乗せて歌ったりできたら、よりgbっぽさが出せるんじゃないかなと考えています。
―最後に、様々な音楽活動を経て、パーソナルな音楽表現へと辿り着いたgbさんにとっての音楽を作る意味、意義を教えて下さい。
ストレス発散であり、救いでもあります。僕は口下手なので、あまり人に相談したり愚痴ったりすることができなくて。なので、音楽を作って、歌詞を書く。自分を自分らしく保つために必要な行為というか。
パーソナルな作品をリリースするのは、最初はとても恥ずかしかったんです。「この人、病んでるな」って思われたら嫌だなって(笑)。でも、作品をリリースしていくにつれて、「辛い時に聴いて元気が出ました」とか「受験で病んでたけど、曲を聴いて救われました」っていうようなメッセージが多く届くようになって。これを続けることができれば、ただのエンタメではなく、ハッピーを世の中に増やすことができるんじゃないかって思うんです。それが今、僕が音楽を作る上での目標、意義ですね。
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