求めるのはプリミティブな快感。東京インディ・シーンのダークホース、NEHANNが語るバンドのスタンス

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第57回目はNEHANNが登場。

2019年結成の5人組バンド、NEHANNが1stアルバム『NEW METROPOLIS』を5月26日にリリースした。

ソリッドなギター、タイトなリズム、耽美なボーカルといった80年代ポストパンクの意匠を纏いつつも、そこにロック的なダイナミズムを注入したかのようなスタイルは、オリジナルなポストパンクというよりも2000年代後半に注目を集めたリバイバル勢の方が近いかもしれない。新曲に加え、再録/リアレンジを施した既発シングルで構成される今作では、表現の幅がより拡張され、ボーカル・クワヤマのカリスマティックな魅力にも圧倒される傑作だ。

今回はそんなNEHANNの中心を担うクワヤマとオダにインタビューを敢行。バンドのこれまでを振り返りつつも、その活動の核に迫ることに。

グランジ、インディ・ロック、ポストパンク――バンドを形成するルーツ

おふたりのルーツから教えて下さい。なんでも、クワヤマさんはご両親がビートルズ・オタクだったとか。
クワヤマ

クワヤマ:

そうですね。ただ、The Beatles(ビートルズ)は幼少時に親しんでいたというだけで、自分が今やっている音楽に直接的に結びついている感覚はあまりなくて。バンドをやるきっかけになったのは、中学生くらいで出会った90年代のグランジ――ニルヴァーナNirvana(ニルヴァーナ)、Pearl Jam(パール・ジャム)、Alice in Chains(アリス・イン・チェインズ)、Soundgarden(サウンドガーデン)など、当時人気だったシアトルのバンドの影響が大きいですね。

グランジにはどのようにして辿り着いたのでしょうか?
クワヤマ

クワヤマ:

それも親の影響です。小学生くらいのときに父と車で出掛けたんですけど、その車内で聴いたPearl Jamの「Spin The Black Circle」という曲が印象的で。それから少し経ってから、ふと「あのとき聴いた曲ってなんだったんだろう」って思って、家にあるCDを漁って見つけました。グランジにハマったのはそれからですね。

Pearl Jamを始めとした90’sのグランジが当時のクワヤマさんにはしっくりきたと。
クワヤマ

クワヤマ:

あまりはっきりとは覚えてないんですけど、その当時自分が聴きたいと思っていた音楽のイメージと合致したというか。スッと入ってきたような感覚があったんだと思います。

そういった音楽を共有できる友人などはいましたか?
クワヤマ

クワヤマ:

いなかったですね。オダとは地元が一緒なんですけど、中学のときはあまり繋がりがなかったんです。

オダ

オダ:

グランジを聴いてた人はいなかったよね。クワヤマは僕の後輩なんですけど、生徒会長をやったり、真面目で優等生っていう感じでした。なので、グランジとか激しい音楽を聴いているようにはあまり見えなかったですね(笑)。

クワヤマ

クワヤマ:

まぁ、今も真面目だけどね(笑)。

オダ

オダ:

その一方、僕は問題を起こして部活動停止を喰らったり、不真面目なやつだったのであまり接点もなくて。

なるほど。では、オダさんの音楽的なルーツについても伺ってもいいですか?
オダ

オダ:

中学のときは先輩の影響で知った邦ロック――THE NOVEMBERSなどのちょっと暗めの音楽が好きで。そういうバンドの影響源を調べたりするうちにRadiohead(レディオヘッド)やNirvanaなど、海外の音楽も聴くようになりました。高校生になってからはクワヤマとも音楽の話をするようになって。

クワヤマ

クワヤマ:

The Strokes(ザ・ストロークス)とかArctic Monkeys(アークティック・モンキーズ)とか、共通で好きなバンドも増えて。

今のNEHANNで鳴らしているような――乱暴に言ってしまえばポストパンク的なスタイルに辿り着いたのはいつ頃なのでしょうか。
クワヤマ

クワヤマ:

いつだかはっきり覚えてませんが、Savages(サヴェージズ)の「The Answer」のMVを観て。当時の海外インディ・シーンのトレンドとは違う、野太いサウンドに惹かれて。やっぱり自分はこういうサウンドがやりたいんだと思うようになりました。同じ頃から聴くようになったIceage(アイスエイジ)などからも影響を受けたと思います。

ちなみに、NEHANN以前にもおふたりはバンド活動を?
クワヤマ

クワヤマ:

いくつかのバンドを組んだことはあるんですけど、どれも長くは続かなったです。そのときは方向性も考えず、自分自身もビジョンが定まってなくて。何がしたいのかもわからず、何回かスタジオ入っただけで終わったり。

NEHANNの結成時には、ある程度の方向性やスタイルは見えていたのでしょうか。
クワヤマ

クワヤマ:

というより、やりたい方向性、世界観がある程度見えてきたからこそNEHANNを結成したという感じですね。

絶対的な魅力を放つフロントマンと、それを支えるバンマス

そこから一気に時間を進めて、この度リリースされた1stアルバム『NEW METROPOLIS』を〈KiliKiliVilla〉よりリリースするに至りました。ここまで2年間ほどの足取りを振り返って、どう感じますか?
クワヤマ

クワヤマ:

そうですね……。これ以前にちゃんとしたバンド活動歴がないので、比較対象がないんですけど、イベントにも声を掛けてもらえたり、自分たちのイベントも多くの人が遊びに来てくれたり。……いい感じだったと思います(笑)。

オダ

オダ:

ただ、昨年はコロナ禍でほぼ何もできていない感じで。そこは停滞感がありました。

クワヤマ

クワヤマ:

楽しみにしてたイベントも飛んだりして、確かに昨年は大変だったとも言えますね。

この2年でバンド、もしくは自身の変化について何か感じる部分はありますか?
クワヤマ

クワヤマ:

バンドはそんなに変わってないかもしれません。もともと僕とオダが始めたバンドなので、主に舵を切るのはこのふたりで。個人的な面でいうと、自分が作りたいものがより明確に、はっきりと見えてくるようになりました。単純に慣れてきたっていう部分もあると思うんですけど、デモを作る際に迷うことが減ったというか。曲だけでなく、アートワークだったり自分たちの世界観をみせる部分についても同様のことが言えると思います。

制作は主にどのようなスタイルで行っているのでしょうか。
クワヤマ

クワヤマ:

「Logic Pro」というソフトを使っていて、アルバムにも入れている「Ending Song」や「Under the Sun」など、以前はギターのリフから作る曲もあったのですが、最近ではドラムから組んでいくことが多いですね。ドラム、ベースでリズムを作ってから、ギター乗せて、メロディ、歌詞を考えていく、といった感じで。

曲を作る際のインスピレーションもリズムからが多い?
クワヤマ

クワヤマ:

リズムから考えるというよりは、ライブでのノリ方などを考えています。2019年の2月に結成して、夏頃から本格的にライブをするようになって。段々と多くのオーディエンスが自分たちの演奏で盛り上がってくれるようになった。作曲における変化はそれが大きいと思います。
例えば「Nylon」という曲は<MAX SPEED>(※)というイベントへ向けて作った曲なんですけど、そこに遊びに来てくれるオーディエンスだったり、仲間のバンドたちがどういう風にノッてくれるか、ということを考えて作りました。もちろん、曲自体をイベントに捧げたわけではなく、その曲には独自の物語や世界観があるのですが、着想を得るきっかけになったのが<MAX SPEED>というイベントだった。
※Ken truths率いるUs、NEHANNのワタナベ(Ba.)も在籍するバンド・Waaterを中心としたコレクティブ〈SPEED〉主催イベント。

主におふたりでバンドの舵を切っているとのことでしたが、制作面はクワヤマさん、活動面はオダさんが引っ張っているのでしょうか。
オダ

オダ:

そうですね。うちのメンバーはあまりSNSとかも使ってなくて。何なら最近まで携帯を持ってないやつもいたので、足並みを揃えるのが大変なときもあります(笑)。でも、僕らの考えをいつも受け入れてくれるので、あまり揉めたりはしないです。

クワヤマ

クワヤマ:

うちはオダがいるからバンドとして成り立っています。オダがいなかったら、僕はひとりで家に籠もって、曲を作り続けていただけだったかもしれない。

ただ、バンドとして上手くまとまっているのは、やはりクワヤマさんの作る曲だったり、世界観に魅了されているからなのでは?
オダ

オダ:

はい。僕も含めてクワヤマには絶対的な信頼を寄せているので、今の形で上手く回っているんだなと思います。

ルーツから今のムードも詰め込んだ集大成的アルバム

アルバム『NEW METROPOLIS』にはこれまでのシングルも全て収録されており、ありきたりな表現ですが、まさにバンドのこれまでの集大成的作品になったのかなと思いました。
クワヤマ

クワヤマ:

NEHANNというバンドの名刺的な作品というか、わかりやすい形で自分たちを示せる作品になったと思います。シングルだけではなかなか自分たちの世界観や色を伝え切れないなと感じていたので、アルバムを作ろうという話になりました。2019年の終わり頃から、少しずつレーベルからお誘いの話も頂くようになって。本当は2020年中に出したかったのですが、コロナで諸々後ろ倒しになってしまい、このタイミングになりました。

新録曲について、どのように生まれた楽曲なのか教えてもらえますか? 2曲目の「Hollowed Hearts」は少し変わった音色のメイン・リフや、終盤16ビートになったりと、アグレッシブな展開が印象的です。
クワヤマ

クワヤマ:

「Hollowed Hearts」はコロナ禍で生まれた曲で、リズムはポストパンク的なタイトさを意識しているんですけど、そこにグランジっぽくもある太いパワー・コードのギターを乗せる。個人的に自分のルーツ的な部分と、最近のムードを融合することができた楽曲だと思います。自分のボーカルも、サビでは結構激しく歌ったりしていて。

7曲目の「Curse」は少しブルージーで、個人的にはNick Caveを想起させる部分もあるなと。
クワヤマ

クワヤマ:

実はギターを始めた頃に、ブルース・ギターを少し練習していたときもあって。この曲ではそういう泥臭いロックの要素も取り入れました。アルバム全体のバランスを考えて作ったわけではないんですけど、こういったインダストリアルな雰囲気とは違う曲も入れておきたくて。歌詞は仏教チックな内容になっていて、NEHANNの「涅槃」(仏教における概念。繰り返す再生の輪廻から解放された状態)についての曲というか(笑)。

そうなんですね。歌詞の内容や楽曲のコンセプトなどは、メンバーのみなさんと話し合ったり、共有していますか?
クワヤマ

クワヤマ:

あまりしないですね。メンバーもみんな聞いてこない(笑)。ただ、個人的にロック・バンドにおいて一番大事なことって、ステージ上で発散するエネルギーだったり、大きい音を鳴らして叫ぶプリミティブな快感とか、そういう部分だと思うんです。だから、あまりメンバー内で語り合って、論理的に解釈したりするのも違うかなと。メンバーそれぞれが好きに感じて、演奏してくれればいいのかなって考えています。

それはリスナーにも同じことが言えそうですね。
クワヤマ

クワヤマ:

はい。正直な話、僕もステージ上では歌詞の意味まで考えて歌っていないので。

既発曲では「TEC」が一番印象が変わったなと感じました。この曲はどのようにリアレンジしていったのでしょうか。
クワヤマ

クワヤマ:

「TEC」は何も考えずに「めちゃくちゃな曲をやろう」って考えて作った曲なんです。元々のギター・リフもチープな電子音というか、信号音みたいな音色をイメージしていて。再録するにあたって、せっかくならもっと振り切ってみようと思って、よりエレクトロニックな質感にしました。〈KiliKiliVilla〉の与田(太郎)さんのアイディアなども取り入れています。

アルバム全体として、ドラムの質感が生っぽい楽曲と、深いリバーブやエフェクトがかかった、80’sのような雰囲気を感じさせる楽曲の2つに分かれているように感じました。
クワヤマ

クワヤマ:

NEHANNというバンドの世界観として、“サイバー・パンク”や“ネオ・トーキョー”というキーワードがあって。そういった世界観を表現するエフェクティブな音と、先ほどもお話した自分のルーツ的な部分、ラウドな音楽性が表れているんだと思います。

“サイバー・パンク”、“ネオ・トーキョー”というキーワードは、『NEW METROPOLIS』というアルバムのタイトルにも直結していますね。このタイトルはどのようにして生まれてきたのでしょうか?
クワヤマ

クワヤマ:

「Nylon」の歌詞の1節から取っています。元々は「NEW METROPOLIS」を曲のタイトルにしようという考えもあったのですが、最終的には「Nylon」に着地して。ただ、それでもこのワードはすごく気に入っていたので、今回アルバムのタイトルに冠しました。

バンドのピュアな原動力

アルバム・リリース後の動き、展望についてはいかがでしょうか?
オダ

オダ:

7月には渋谷のWWWでリリース・ライブの開催を予定しています。

クワヤマ

クワヤマ:

社会情勢的に、まだあまり能動的に動ける状況ではないと思うので、それ以外の動きについては少々考えあぐねています。

では、長期的な視野での目標だったり、目指すところは?
クワヤマ

クワヤマ:

バンドを始めた当初は大きなフェスに出たいとか、海外のレーベルから作品をリリースしたいという思いもあったのですが、段々とそういうことを考えながら活動するのってダサいなって思うようになってきて。今はより自分たちが気持ちよくなれる曲を作っていくこと、それをライブで披露すること、これに尽きますね。

それってすごくピュアな考えだし、実際にそういったスタンスで活動できているのって、バンドとしてとても理想的な在り方だなと思います。
クワヤマ

クワヤマ:

自己満足でよければ、ひとりで曲作ってスタジオで演奏するだけでもいいじゃんって思うんですけど、人前で演奏することの楽しさ、気持ちよさって何ものにも代え難い魅力があるんですよね。オーディエンスからもエネルギーをもらいますし、1回それを知ってしまったらやめられない。なので、今後も今のスタンスで上手くやっていければなと思います。


EVENT INFORMATION

NEHANN 1st Full Album Release Show『New Metropolis』
2021年7月15日(木)
open 18:30 start 19:00
渋谷WWW
スタンディング 前売り 3,500円(税込・ドリンク別)

NEHANN
ゲスト:To Be Announced

▼5月26日よりオフィシャル先行予約受付開始
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