SEVENTEEN AGAiNが“世界は君たちを変えることは出来ない”と歌う理由。君が君であり続けるために

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第63回目はSEVENTEEN AGAiNが登場。

SEVENTEEN AGAiNが6thアルバム『世界は君たちを変えることは出来ない』を9月8日にリリースした。

パンクのアティテュードはそのままに、メンバー・チェンジを経たアルバム『スズキ』(2017年)辺りを機に、より表現の幅を広げてきたSEVENTEEN AGAiN。今作はネオアコやポストパンク、パワー・ポップといったスタイルを中心としながらも、より音響的な深化を遂げ、普遍的な魅力を湛えたロック・アルバムだ。そして、ここで歌われているのは今日の混沌を極める社会の様相と、そんな状況下でも自分を見失わず、自分らしくいるためのひとつの方法。そして、全世界の人々と“あなた”へ向けたアンサー。

今回はバンドのフロントマンでありソングライター、ヤブソンへの単独インタビューを敢行。印象的なタイトルに込められた意味、長年考えていたという“答え”について語ってもらった。

“個人に問う”言葉を選び続けてきたヤブソンの答え

―今作は2020年に夏に完成する予定だったそうですね。

はい。日本でコロナ禍と言わるようになったのが2020年の3月くらいだったと思うんですけど、その時点ですでにアルバムとして成立する曲数は揃っていました。ただ、せっかくアルバムをリリースしてもライブもツアーもできそうにない。だったらちょっと待った方がいいんじゃないかって思って。

―今作には明らかにコロナ禍を経た上での曲も収録されていますよね。実際に2020年を経て、当初制作していた作品はどのように変化していったのでしょうか。

前からできていた曲とコロナ禍以降に作った曲が半々くらいといった感じですね。歌詞に関してもスタンス的にはこれまでと一緒ですが、その時々に自分が思っていること、考えていることが自然と反映されるので、コロナ禍の影響は当然受けていると思います。

―なるほど。

コロナ禍以降、それ以前にもあったオンライン上の違和感や負の側面がより可視化された気がしていて。去年の1月くらい、中国で新型コロナウイルスが発生したというニュースを知ったとき、近いうちに世界中で分断が起きるのではと思いました。去年の3月に自分たちの自主企画が中止になったときにSNSにも「分断が起こらなければいいな」と書いたのですが、結局ますますそこから加速するような状態になってしまって。今作に収録されている「全然気にしない」とか「タイムライン」はコロナ禍以前に書いた曲なんですけど、今聞く方が多くの人にとって身近に感じる題材なのかもしれないです。

―結果として分断と対立がますます進む状況になっています。こういった今日の世情を、ヤブソさんはどのようにみていますか?

アルバムのタイトル『世界は君たちを変えることは出来ない』がそういった状況に対する回答でもあって。この言葉は、大多数の人たちにとっては確実に間違いだって言われると思うんですけど、SEVENTEEN AGAiNのバンドとしての姿勢としては、以前からずっと“個人に問う”形での言葉の選び方をしていて、その結果このタイトルに辿り着きました。この言葉自体はコロナ禍以前から考えていたものなんですけど、この状況になって自分自身に対してもより響くようになったというか、「やっぱりそうだよな」って思い返したりもします。

―アルバムに添えられた文章には、この言葉を思いついたのは2014年だったと記してあります。当時のことを教えてもらえますか?

僕たちの作品をリリースしている〈KiliKiliVilla〉のオーナーであり、元銀杏BOYZの安孫子さんから当時「バンドを抜けることになるんだよね」っていう連絡を頂いて。その後お会いしたときにアルバム『光のなかに立っていてね』の音源を頂いたんです。すごい情熱と労力をかけて制作してきたことを近くにいながら見ていたので、とても感慨深い作品だなって思いながら聴いたんです。その作品の最後の曲が「僕たちは世界を変えることができない」というタイトルで。その曲を聴いて、その言葉について考えたときに、すごく違和感を覚えたんですね。僕がロックなりパンクなり音楽を聴いて感じてきたことって、そうじゃないんだよなぁと感じて。その違和感を紐解いていくうちに自分が世界に変えられてしまわないために、音楽をやりたいんだ」っていうことに気づきました。
別に音楽じゃなくてもいいんですけど、こういった自分自身で行う表現活動、創作活動っていうのは、自分がまともでいられるための、自分が自分でいるための手段でしかないと思っていて。そういったものを、誰しもが何かひとつ持っているといいのになって思います。

―同じ文章には「このタイトルは聞く人によっては希望かもしれないし、願望かもしれないし、絶望なのかもしれない」とありますが、ヤブソンさんにとっても色々な意味を含んだ言葉なのでしょうか。

僕にとってはひとつの答えでしかないんですよね。自分がやりたいことをやることでしか、生きている意味は見い出せないよねっていう。実際にこの言葉を聞いて「絶望した」って言われたこともあって。逆に「すごく希望になります」って言われることもあって、受け手にとって大きく意味が変わるんだなと思いました。
先ほども話したことなんですけど、晩飯を自分で作る、とか本当に何でもいいんですけど自分が主体的に動く、作るという行為が、自分自身がまともでいられる唯一の方法なんじゃないかなと考えていて、そういう意思は肯定されるべきだっていう意味が、この言葉には込められていると思います。

―『世界は君たちを変えることは出来ない』という言葉をアルバムのタイトルにしようと決めたのが2019年だったそうですが、このタイミングで使おうと思った理由やきっかけなどはありますか?

言葉が曲に乗っかったタイミングがたまたま2019年だったんです。それが今作の表題曲「世界は君たちを変えることは出来ない」になり、今作のアルバム・タイトルになりました。この曲や言葉をテーマにしたアルバムを作ろうとその時思いました。

社会的なことも個人的なことも表裏一体

―コロナ禍以降、バンドの活動やヤブソンさんの生活にはどのような変化が起きましたか?

それがあまりないんですよね。ライブができなくなったっていうのは当然あったんですけど、練習自体はめちゃくちゃしてましたし、曲作りの時間も増えて。元々僕個人としては、バンド活動の中では作品を作る工程が特に好きなタイプなので、そこにじっくりと時間を割けたのは凄い嬉しかったですね。

―リモートを軸とした制作スタイルに移行したりだとか、そういったこともなく?

うちのメンバーは結構アナログなタイプの人たちなので(笑)、いつも通りのスタイルで作っていましたね。2曲ずつ、2~3ヶ月くらいのペースで少しずつレコーディングしていきました。

―制作時期に特に聴いていた作品などはありましたか?

なんでしょう……。だいぶ前のことになっちゃうのであまり覚えていないのですが、最近はMen I Trust(メン・アイ・トラスト)の新しいアルバムがすごくよかったですかね…。

―個人的には「全然気にしない」のダンサブルなビートや、「このままじゃいけない気がして」のThe 1975を想起させるニューウェーブ感、80’sテイストが新鮮だなと。

「全然気にしない」にはFrancis Lungというアーティストがめちゃくちゃ好きで。彼の「A Selfish Man」というシングルのサウンドに影響を受けて作った曲です。The 1975に関しては、確かに昨年発表されたアルバム(『Notes on a Conditional Form』)にめちゃくちゃ喰らいました。アルバム単位で言えば、これまでの人生の中でもベスト3に入るんじゃないかってくらい。

―具体的に、どういったポイントに惹かれましたか?

大きなテーマを取り扱いながらも、最終的にはものすごく個人的な部分に帰結するアルバムだったと思うんです。それは僕がずっとやりたいと思っていたことのひとつで。それをこんなわかりやすい形で、このサウンドで表現されたら「これは敵わないな……」と思いました。完璧だな、と。ただ、「このままじゃいけない気がして」のサウンドに取り入れている要素はどちらかというとThe 1975の初期の頃に通ずる部分かなとは思うのですが。

―では、今作において難産だった曲はありますか?

うーん……特にないですね。これは前からなんですけど、あまり作り込まないことを意識していて、難航しそうだなって思ったらその曲はやめちゃうんですよ。今作に関しては特にパッとできて、「これはいいかも」って直感的に感じたものを形にしたという部分が大きいです。大体2〜3回スタジオに入ったらほぼ仕上がる、みたいな曲ばっかですね。

―歌詞に関しても同様ですか?

僕はいつもレコーディング直前までちゃんと書かないで、いざ録るぞってなってから集中して詰めるんですけど、それで書けなかったことも今までなくて。だから、特に苦戦したものもないですね。

―表題曲「世界は君たちを変えることは出来ない」に加え、アルバムの最後には「世界は君を変えることは出来ない」という曲も収録されています。この2曲の関係性についてお聞きしてもいいですか?

先ほどの話にも繋がるのですが、「世界は君たちを変えることは出来ない」は不特定多数に投げかけてるような曲で、それとは逆に、「世界は君を変えることは出来ない」は個人に向けて書いている曲です。規模が大きい問題だったり現象も、当たり前ですけど一人ひとりの人間の問題へ帰結していくよなっていう思い。最後に「世界は君を変えることは出来ない」を入れることにしました。どちらも表裏一体だよなって思ったりします。

基本的に人と人はわかり合えるものではない

―改めてになりますが、ますます混沌した今日の状況についての答えが、今作のタイトル『世界は君たちを変えることは出来ない』だということでした。これは、それぞれが世界に変えられることなく、自主的に動く、思考することが、そういった状況の糸口になるという考え方なのでしょうか。

昨今の分断とか対立っていう構造は元々人間が持っていたものだったと思うんです。ただその性質がより可視化されるようになった。可視化されてきたからこそ、翻弄されやすくなったという側面も大きいと思うのですが。なので、基本的に前提として人と人はわかり合えるものではないと考えています。その中でじゃあどうやって生きていくべきかってことを考えると、最終的には個人個人が、今めちゃくちゃ楽しいな!って思える瞬間を増やしていくことしかないのかなと思ったりもします。
もちろん不当な暴力や差別は絶対にダメだっていうこと前提で、自分がやりたいことをやる。自分自身が納得のいくことをやるしかない。最後の曲ではすごく遠回しながらも、そういうことを歌っているんです。

―最後の「世界は君を変えることは出来ない」には、《それでも君となら分かち合いたい》というラインもありますよね。

はい。基本的に人と人はわかり合えないという前提がありながらも、それでもわかり合いたいと思える人だって必ず誰もがいる。じゃあ、どうしようかっていう歌詞なんです。どんなに身近で、どんなに波長の合う人でも、全てをわかり合うことは絶対に無理だと思うので、そこはわかり合えないまま、分かり合えないところはあんまり“気にしない”で接していくしかないと思うんですね。

―なるほど。

わかり合うためにわかり合えない事を突き詰めていくことって、乱暴かもしれないですけど争いに繋がっていく可能性が非常に高いと思っていて。わかり合えないけども一緒にいたいならば、気にしないしかないのかなと。

―例えば、SEVENTEEN AGAiNの音源を愛聴していたり、ライブに来るようなリスナー、ファンであっても、お互いが完全にわかり合うことはできない。それでもいいんだということですよね。

もちろんです。例えばSEVENTEEN AGAiNのことが好きでも、僕の個人の事を1〜10まで知ったら、気に食わないなって思う人もめちゃくちゃ沢山いると思うんです。それは当たり前のことだから、わかり合える部分だけで共感や連帯出来ればいいんじゃないかなとも思います。

―ちなみに、ヤブソンが“人と人はわかり合えない”という考えに至るには、どのような経緯があったか覚えていますか?

若い頃は他人に対してめちゃくちゃ深入りするタイプだったんです。それによって上手くいかなくなってしまった関係もあったりして、意図的にあんまり第三者に干渉しないようにしようと思うようになりました。
その人のためを真剣に考えて、「こうするべきじゃない?」って言ってみたり、もしくはその人のためを思って何か行動してみたりしても、その結果、そういった自分の行動や言動がポジティブに相手に対して結果を残すことがあまり出来なかった気もしていて。全ての人がその人はその人なりの答えをすでに持っていて、それを自分以外の誰かにも肯定して欲しいだけなんだよなって。それは今作のタイトルにも繋がる話なんですけど。その人の意見、答え、在り方を肯定することでしか、寄り添うことはできないんじゃないかって思うようになりました。

―それは“諦める”ということではなく?

諦めるのとは全然違うと思います。深入りすることが果たして必ずしも距離を縮めることになるのかというとそうじゃない。 その相手によって適切な関係性や距離がお互いを尊重して結果的に距離が縮まることでもあるんじゃないかと思ったりもします。

―個人的には、全ての人間が答えを持っていたり、自主性を持って何か目的や生きがいをもって生活しているわけではないと思います。他人の言葉にすがったり、他人の言動を気にしないと生きていけない人も多いのではないかなと。そういった人たちが、自分らしくあるためには何が必要だと思いますか?

自分も何一つ崇高なことなんてやっていないですし、誰かに提言出来る立場ではないですが、でも本当に何でもいいから自分で何かやった事ないことやってみればいいんじゃないかなって思うんですよね。もしくは誰かにやってもらってたことを自分でやってみたり。 最近ならYouTuberだったり、ポッドキャストやブログも簡単に始められますし。晩御飯の米炊いてみる、とかでも炊いた事ない人にとってはめちゃくちゃ新鮮だし発見あると思いますし。本のページを捲って少しでも読んでみないと、その本が嫌いかどうかもわからないじゃないですか。勉強もペンを持って、少しでも書き始めてみないとそれが自分に興味があることかどうかもわからない。
僕は元々はバンドがやりたくて始めたわけではなく、友人に誘われるがままに気がついたらバンドやっていたので、バンドや音楽に対しての志は限りなくゼロから始めて、気がついたら今があるので。だから、とりあえず何かをやってみることが大事なんじゃないかなって。そこで一つでもハマるものが見つかれば、解決するんじゃないかなと。

―最初に今作を聴いたときは、今の世界や社会に対するフラストレーションだったり、怒りといった感情がトリガーになっているのかなと思ったのですが、こうやってお話を聞いているうちに、そうではないということがわかりました。どちらかというと、ありのままを肯定するというか。

少なくとも「このアルバムを聴いてくれた人達を肯定したい」という気持ちが強いです。コロナ禍になって、音楽を始めたいのにできない人もいるだろうし、僕の周りでも実際に「もう続けられない」という人もいました。もしそういう人たちへ向けてがいるなら、どんな状況でも自分のが好きな、自分がやるべきだと思ったことはやった方がいいし、その方が絶対きっと楽しいよ。どんなことでも。 ってただ言いたかっただけなような気もします。


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SEVENTEEN AGAiN『世界は君たちを変えることは出来ない』発売記念単独公演決定、同時LIVE配信もあり!

下北沢LIVE HAUS
9月12日(土)
open 12:30 / start 13:00
Opening Guest : Pale Fruit

ライブハウスでの観覧方法
新アルバム「世界は君たちを変えることは出来ない」をご購入頂いた方は、チケット代金無料でご入場頂けます。
(ドリンク代は別途受付でお支払をお願い致します)

入場方法
開催当日、午前11時よりライブハウス受付にて整理券をお配りします。
整理券は下記3点の方法にてアルバムを購入されたことをご提示下さい。
当日ライブハウス受付でもCDはその場で購入する事も可能です。

1.新アルバムのジャケットを持参し当日受付で提示する。
2.新アルバムのジャケットを携帯、スマートフォンで撮影した写真を当日受付で提示する。
3.当日ライブハウスの受付でCDを購入する。

■オフィシャルHP先行
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