溢れる感情を音に。SSW・KEISUKEが音楽を奏でる理由

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第66回目はKEISUKEが登場。

広島出身のシンガーソングライター、KEISUKEが新曲「じゃあね。」を10月27日にリリースした。

SNSやオンライン上をスタート地点とするKEISUKEは、非常に今日的なアーティストと言えるかもしれない。しかしその音楽はどこまでも人間臭く、オーセンティックな魅力に溢れている。ドラマチックなストーリーテリングで生々しく感情の機微を描き出す歌詞、優しくも芯の通った歌声、ウェルメイドなサウンド・プロダクションとアレンジを武器に、奇を衒うこともなくエヴァーグリーンな輝きを放つ楽曲で人気を獲得してきた。

今回はそんなKEISUKEのルーツやこれまでの足取りを紐解くべくインタビューを敢行。その実直な音楽と同様、寡黙ながらもこちらの質問に一つひとつ誠実に答える姿が印象的であった。

ギターを弾いて歌っているときだけは、嫌な現実も忘れることができた

―KEISUKEさんが音楽に興味を持ったのはいつ頃、どのようなタイミングだったのでしょうか。

一番最初に音楽に魅了されたのは、小学生のときにたまたまTVから流れてきたスキマスイッチさんの「ボクノート」という曲で。その曲を聴きたいがためにドラえもんの映画を観に行ったり、一番最初に買ったCDもスキマスイッチさんの『夕風ブレンド』です。

それ以降もコブクロさんなど、アコースティック・ユニットや弾き語り系のシンガーソングライター、アーティストさんに惹かれることが多かったので、中学生になってからギターを買ってもらいました。最初はちょっと躓いていたんですけど、その少し後にプライベートで色々悩んでいた時期があって。その鬱憤じゃないですけど、ネガティブな感情のはけ口としてギターに熱中するようになりました。ギターを弾いているときだけは嫌な現実も忘れることができたんです。

―なるほど。では、そこから人前で演奏するようになるまでの流れというのは?

友人から勧めてもらったのですが、TikTokを始めたのも大きなターニング・ポイントだったと思います。それまでは若い子たちの間で流行っているアプリという印象だったのですが、いざ投稿してみたらすごく楽しいし、聴いてくれる人も一気に増えましたね。

―最初はカバーを中心に?

はい。そのうちに観てくれる人も少しずつ増えてきて。その後、同じようにニコニコ生放送で弾き語りをやっている方たちがリアルのライブ・イベントを行うようになって、僕もそこにお呼ばれするようになりました。それこそ最初のライブは東京でしたね。フランクなイベントだったんですけど、それまで人前で歌う機会なんてカラオケくらいしかなかったので、すごく緊張して。譜面を落として演奏を中断してしまったり、悔しかったですね。

―ニコニコ生放送でのリアクションで、印象的だったコメントなどはありますか?

声を褒めてもらえることが多くて。それまで、どちらかと言うと自分の声は嫌いだったので、意外な反応でしたね。

―オリジナル楽曲はいつ頃から作り始めたのでしょうか。

一番最初に作ったのは高校1年生のときです。当時好きだった子に振られて。感情の行きどころがなくて。そのぐちゃぐちゃな状態でギターを弾いてたらメロディと歌詞が浮かんできたんです。でも、そこからずっと曲を作り続けていたわけでもなくて。その次に作ったのは大学生になってから、実家で飼っていた犬が亡くなってしまったときで。悲しみがどうしようもなく溢れてきて、それを曲にしました。

―ギターにのめり込んだときもそうですが、感情が大きく触れたとき、それを自然と音楽に昇華していたんですね。

そうですね。それ以降も何か自分にとって大きな出来事があると、音楽としてアウトプットするようになりました。

―高校、大学時代、バンドを組んだりはしなかったのでしょうか。

僕の通っていた高校は軽音部がなかったので、バンドを組もうっていう発想がなかったですね。大学に入ってからはすでに弾き語りのスタイルが身についていましたし。

―では、シンガーソングライターとして本格的に活動開始したのはいつ頃から?

大学時代は音楽は趣味レベルでずっと続けつつも、4年間東京で好きなように過ごして。卒業後、広島に帰ったタイミングで、自分が本当にやりたいことって何だろうって考えたとき、ネットで知らない人から自分の歌や声を「いいね」って言ってもらえたという経験が自分の中では大きくて。改めて音楽の道に進みたいなと思いました。
そこからInstagramに動画をUPしたり、オリジナル楽曲を作ったり、本格的に音楽活動をスタートさせました。

―自身の活動が加速したと思うタイミングはありましたか?

顔を出すようになってから反応がよくなった気がします。あとはまた友人からの勧めてもらったのですが、TikTokを始めたのも大きなターニング・ポイントだったと思います。それまでは若い子たちの間で流行っているアプリという印象だったのですが、いざ投稿してみたらすごく楽しいし、聴いてくれる人も一気に増えましたね。

ヴァイラル・ヒットを記録した「君想い」

―2019年に初のオリジナル作品『My voice』をリリースします。本格的にシンガーソングライターとして活動するようになり、楽曲制作や音楽との向き合い方も変わりましたか?

変わりましたね。それまでは自分のためという側面が強かったんですけど、より人に聴いてもらうことを意識するようになりました。多くの人に聴いて、共感してもらうためにメロディや歌い方、歌詞など細部にまでこだわるようになりました。

―リリックはどのように膨らませることが多いですか?

今でも実体験を元にすることがほとんどです。散歩しながら考えることが多いのですが、過去を振り返りつつ、その記憶や感情に当てはまる言葉を探して。わかりやすいけど、どこか引っかかりがあるような言葉を選ぶことを意識しています。

―『My voice』に続いて同年にリリースされた「君想い」は、TikTokやYouTubeを中心にヴァイラル・ヒットを起こしたことでも注目を集めました。

驚きましたね。最初に気づいたのは路上ライブをしていたときで。「君想い」を歌っていたら、「この曲知ってる」って言ってくれた方がいて。本人だとは気づかれず、カバーしてるって思われて(笑)。曲やMVが一人歩きしているような感覚でしたね。

―「君想い」のヴァイラル・ヒットには何か特定のきっかけなどがあったのでしょうか?

それが自分でもよくわからないんですよね。コメントなどを見ていると、YouTubeのレコメンドで出てきて知ってくれた方が多いようなのですが、別に広告などを打ったわけでもないんです。
MVも12月に公開して、翌年1月くらいにようやく1万回再生超えるくらいのペースで。そこから徐々に加速して、コロナ禍以降に一気に増えた印象です。

―純粋に曲の持つ力で広がっていったというか。

そう言って頂けると嬉しいです(笑)。

―「君想い」のリリース以降の活動はいかがでしょうか。次の作品まで少し間が空きますよね。

「君想い」が自分にとっての代表曲と言えるような作品になって、色々なイベントにもお声掛け頂けるようになったのですが、そのうちにコロナ禍になってしまい。決まっていたイベントもかなりキャンセルになってしまいました。9月に発表した「輪になって」という曲は、コロナ禍になってから感じたことを綴った曲なんです。
僕自身が落ち込んだというより、世間がネガティブに、マイナス思考が溢れたことに影響を受けたというか。当たり前だったことが失われて、みんな余裕がなくなって。SNSも荒んだ言葉が飛び交うようになった。僕はそれがすごく嫌で。そんな状況で、シンガーソングライターの僕ができることは、自分の曲を聴いてくれた人をポジティブにすることだなと。その前向きな考えが連鎖して、輪になっていくようなイメージで書き上げました。

―なるほど。「輪になって」以降はコンスタントに発表しつつ、今年6月には光永亮太さんとのコラボ曲もリリースされました。あのコラボレーションはどのようにして実現したのでしょうか。

光永亮太さんのラジオ番組に出させてもらって。番組で生歌も披露させてもらったんですけど、それをすごく褒めてもらえて、光永さんから「一緒に何かやりませんか」と言ってくれたので、「えー! いいんですか?」という感じでした(笑)。
誰かとコラボすること自体初めてでしたし、昔から作品を聴いている大先輩だったので、最初はかなり緊張したのですが、光永さんがたくさんフォローしてくれたというか。自分の思いや表現したいものを汲み取ってくれて、とても楽しく制作することができました。

―実際の制作プロセスはどのような感じだったのでしょうか。

お互い住んでいるところが広島と東京だったので、基本は遠隔で、オンラインで打ち合わせするところから始めました。曲の概要、方向性を話し合って、僕と光永さんのような少し年の離れた関係性に焦点を当てて、若者が抱いている悩みやモヤモヤとした感情に対して、先輩が優しくアンサーしていくという内容になりました。
実際に歌詞では僕が書いたことに、光永さんが回答してくれてるんですけど、《悩み抜いたその先に/答えがあったりして》という風に、悩むことをネガティブに捉えずに、肯定してくれるような歌詞は今の時代にすごく響く内容だなと思いますし、僕自身も救われました。

―今年8月にリリースした「RPG」はブラスやストリングスの音色が印象的で、これまでのKEISUKEさんの作品と比べると少し新鮮な1曲です。

「RPG」は実はかなり前に書いた曲なんです。大学卒業後、広島に帰ってきて、音楽活動をしながら派遣社員で働いていたときに作りました。夢を追いかけるなかで挫折や困難もあって。そんな自分に対する応援歌でもあるんですけど、同じような立場の人へ向けた曲でもあります。あと、コロナ禍になってしまったことで、挑戦することを躊躇する人も増えたと思うんです。そんな人たちの背中を少しでも押すことができればなと。

―トラックやアレンジも自身で手がけているのでしょうか。

いえ、この曲に限らず、これまでのオリジナル楽曲は全て河野圭さんという方にアレンジをお願いしていて。「RPG」はそのタイトル通り、壮大なサウンドにしたいという風にイメージをお伝えしたら、生のブラスやストリングスを入れてくれて。素晴らしいアレンジを施してくれました。

誰かの声を代弁するような曲

―「RPG」から一転、新曲「じゃあね。」はシンプルな歌い出しから徐々に熱を帯びていくような1曲です。この曲はどのように生まれてきたのでしょうか。

僕が失恋したときって、悲しい曲を聴いて感傷に浸ることが多くて。無理に前を向こうとするのではなく、悲しいときは思いっきり悲しんだ方がいいなって思うんです。そうやって落ち込んだりしたときに、誰かの声を代弁するような曲になったらいいなと思いながら作りました。歌詞はほぼ実体験で、去年リリースした「最後に見た君の表情は…」と同じ恋のことを歌った曲です。
この曲も河野さんのドラマチックなアレンジが素晴らしくて。特に2番の出だしが気に入っています。

―12月初旬にミニ・アルバムをリリース予定とのことですが、どのような作品になっているのでしょうか。

すでに音源自体はほぼ完成していて。音楽活動を続けていくなかで、やはりアルバムを作るというのはひとつの大きな目標だったので、とても思い入れの強い作品になっています。豪華なミュージシャンの方にも演奏して頂けましたし、1曲1曲すごく大切に思える作品ですね。僕が思ったこと、感じたことがたくさん詰まった、ドキュメンタリーのような内容に仕上がっていると思います。

―これまでの楽曲もそうですが、自身のパーソナルな感情や思い入れのある曲が、多くの人の元へと届き、共有されるとき、KEISUKEさんはどのような感覚になりますか?

自分と同じような気持ちの人がいるんだっていうことがわかるというか。例えそれが失恋したときなどの悲しい感情だったとしても、音楽を通して同じ思いを共有することって、とても温かい出来事だなと。

―今後の展望についても教えて下さい。ミニ・アルバムのリリースに加えて、12月にはワンマンが控えています。

ワンマンは広島CLUB QUATTROで開催するんですけど、以前から広島PARCOの前で路上ライブをやっていたのですが、そこからずっと眺めていたライブハウスなんです。「いつかそこでライブができたらな」とずっと目標にしてきたところでもあるので、とにかく後悔のないように臨みたいです。当日はピアノの方もお呼びして、2人編成で演奏する予定です。
あとは上野大樹くん、小林柊矢くんとのスリーマンも1月に控えていて。今すごく勢いのある2人とご一緒する機会なので、楽しみですね。僕も2人に負けないように……というのは変ですけど、自分らしく演奏できるように頑張りたいです。

―コロナ禍になって、改めてライブへ思いを馳せる方も多いと思います。KEISUKEさんにとってのライブとは、どのような行いだと感じますか?

お客さんの反応が直に感じられるし、自分を肯定してもらえるというか、自分の存在意義が感じられる場ですね。

―ご自身の音楽活動における大きな目標や夢はありますか?

広島に帰ってきて、音楽活動を始めたときから、武道館でライブをすることを大きな目標にしています。そのためには、もっと多くの人に自分の音楽を届けたいです。あと、バンド編成で全国各地をツアーで回るのも夢ですね。
音楽的な面で言えばもっと弾ける楽器を増やしたり、もっと勉強してアレンジなども自分で手掛けられるようになりたいです。より深い音楽の魅力に触れ、それを作品を通して発信することができればなと。


EVENT INFORMATION

<上野大樹/小林柊矢/KEISUKE 3マンライブ>
SNS やオンラインを駆使し勢いを止めることなく活動をしてきた注目 の新進気鋭の男性シンガー・ソングライター3 組が集結する必見の有観客ライブ

渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)
開場:16:00/開演:17:00
料金:3,500 円(税込、全自由、整理番号順)※別途要ドリンク代
出演:上野大樹、小林柊矢、KEISUKE

■オフィシャル HP 先行受付
2021年10月29日(金)21:00~11月3 日(水・祝)23:59
チケット購入はこちら

■チケット一般発売日
2021年11月27日(土)10:00~


Presented by.DIGLE MAGAZINE