Misato Onoが語る音楽との向き合い方。誰かのためではなく、自分のために。

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第79回目はMisato Onoが登場。

新鋭SSW・Misato Onoが1st EP『something invisible』を5月11日にリリースした。

オーガニックなギターの響きと主張し過ぎないブラック・エッセンス、そしてオーセンティックな要素と今日的なサウンド・プロダクションが同居する様は、さながらTom Misch以降のSSW/マルチ・プレイヤー――Conor Albertやedbl、Maya Delilahなど――との共鳴も見い出せそうだ。

今回のインタビューではSIRUPや春野、Chocoholicなども所属する〈Suppage Records〉傘下の〈Suppage Distribution〉からのリリースとなったEPについてはもちろん、彼女の興味深い経歴やルーツ、そして音楽制作との向き合い方などについて語ってもらった。

異色のキャリアと「空白の期間」

―Misatoさんは全国規模のギター・コンテストで特別賞を受賞したり、メタル・バンドに在籍していたという経歴がありますが、そもそもギターに興味を持ったのはいつ頃なのでしょうか。

父親が家でギターを弾いていたので、その影響ですね。ただ、最初は父が弾くエレキ・ギターの音が怖くて泣いたのを覚えています。まさかその後、自分がそれ以上に激しいギターを弾くことになるとは思ってもいなかったです(笑)。

―お家ではどのような音楽がかかっていましたか?

Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)やTOTO(トト)、Eagles(イーグルス)といった昔のロックからボサノバ、フュージョンなどがよくかかっていましたね。母もピアノをやっていたりと音楽好きな家系で。そんな家で育ったのに、私と兄はメタルにハマってしまい(笑)。

―メタルにハマったきっかけというのは?

ギターを練習しているうちに、どんどんテクニックを追い求めるようになっていって、そのうち自然と……っていう感じですね。雑誌『YOUNG GUITAR』とか教則本シリーズの『地獄のメカニカル・トレーニング・フレーズ』などが流行っていて。自分もこれができるようになりたいって思って、中学生くらいからStone Sour(ストーン・サワー)やSlipknot(スリップノット)の曲を練習するようになりました。

―在籍していたバンドでは海外公演も行っていたようですね。特に記憶に残っている体験などはありますか?

そうですね……。ハイエースで女の子5人で日本全国を回ったりした経験は、すごく辛かったけど強く記憶に残っていますね。あとは初めて海外に行ったとき、大きなテロなどが起こったタイミングだったので、親からも心配されましたし、私たち自身もすごく不安だったんです。でも、現地に着いたら優しく迎えられて。実際に行ってみないとわからないもんだなって思いました。

―MisatoさんはSNSやYouTubeへの投稿でも流暢な英語を披露していますし、海外アーティストの国内盤に付属する、歌詞の翻訳なども行っていますよね。英語はバンド時代に勉強したのでしょうか?

実実は母が英語の先生なんです。もちろん母からも教えてもらっていたのですが、本格的に教えてもらっていたのは母の友人のイギリス人の方で。バンド時代はむしろ忙しさにかまけて全然できてなかったのですが、最近はしっかり週イチでオンライン授業を受けています。

――2017年にバンドを脱退し、初のソロ・シングル「sway」を2019年にリリースしました。この2年ほどの月日は、Misatoさんにとってはどのような期間だったのでしょうか。

バンドを辞めた後、福岡から上京しました。まずはこっちでの生活に慣れるのに時間がかかってしまったのと、これからどういう音楽を作っていこうか探っている時期でしたね。モラトリアムみたいな期間というか。
自分の好きなことをやるべきだと思いつつも、「バンド時代にやっていたようなジャンルが好きで、私の活動を追ってくれている方たちを無下にしてしまうんじゃないか」とも考えたり。「その中間を突くようなジャンルを目指すのはどうか?」 とか。色々と自分の中で暗中模索していました。

―その期間によく聴いていたアーティストや作品はありますか?

Moonchild(ムーン・チャイルド)やTom Misch(トム・ミッシュ)をよく聴いていました。あとは何かあったかな……。私にとっては結構「空白の期間」っていう感じなんですよね。

―そこから1stシングル「sway」が生まれたのは、何かきっかけなどがあったのでしょうか。

特にきっかけなどはないんですけど、「そろそろやらないとマズいだろう」と(笑)。あの曲は確かギターのコードからできた気がします。あの頃は新しい音楽に挑戦したくて、オーソドックスなコード進行じゃない曲を作りたかったんです。タイトル通り波に揺れるクラゲをイメージしていて。それこそ空白の期間の自分を重ねているんですけど、海中のひんやりした感覚だったりをサウンドで表現しようと試みた作品です。
当時いくつか作っていた中でもしっくりきたのがこの曲だったので、これで再出発をしようと決めました。

―実際に発表してみて、いかがでしたか?

恐る恐るリリースしてみたんですけど、意外と温かい反響をいただけて。それこそメタル好きな方たちからもポジティブなコメントをもらえて、次の一歩へと繋がりました。

「立ち位置を明確にした上で、メッセージを伝えたい」

―2ndシングルはブルージーかつメロウな「bluebird」。「sway」から3ヶ月ほどという短いスパンでのリリースになります。

「bluebird」は作ろうと思ってできた曲ではなくて、寝ようとしたときに浮かんできたものなんです。眠りたいのに、妙に頭が冴えてしまうことってあるじゃないですか。そういった状況で生まれた曲ですね。自分の大好きなBruno Major(ブルーノ・メジャー)やJohn Mayer(ジョン・メイヤー)を少し意識しつつ、8分の6拍子の重い感じを出してみたり。

―歌詞では過去のことを綴っていますよね。

寝る前とかに昔の記憶がグルグルと頭の中を回ることがあって。人生ってそういう消化しきれない思い出や記憶の積み重ねでできていくんだろうなって思っていて。そういう考えが童話『青い鳥』とリンクするなと思って書きました。解決できなかった昔の出来事などをウジウジ考えているけど、幸せへのヒントは意外と身近にあるんじゃないかなっていう。

―歌詞を書くときに意識していることはありますか?

作詞、苦手なんですよね(笑)。作詞って、音楽を作る工程とあまりにも使う頭が違う気がしていて。矛盾がないように書こうとして、いつも苦労するんですよね。本当は歌詞って矛盾していてもいいと思うんですけど。

―矛盾がないように書くというのは、やはり聴き手を意識してしまうから?

そうですね。立ち位置を明確にした上で、メッセージを伝えたいんです。

―これまでの作品の中で、作詞の面で一番手応えを感じている曲を挙げるとすると?

「small talk」ですね。何もしなくても誰もが愛される資格を持っているんだよっていう、全肯定の曲です。みなさんからの反応もよかったと思いますし、ご時世的にも落ち込んでしまう人が多い時期だと思うので、こういう曲を出せてよかったなと感じています。

―バンド時代はギタリストとして活動されていましたが、ボーカルへの興味や意識はいつ頃から芽生えたのでしょうか

それこそギターを始めたばかりの頃はAvril Lavigne(アヴリル・ラヴィーン)やMichelle Branch(ミシェル・ブランチ)といったギターを弾きながら歌う女性SSWに憧れていたので、自分も歌いたいって思っていたんですけど、いつの間にかギターへの興味が勝っていってしまって。しかも、歌うのってちょっと恥ずかしいじゃないですか。
ソロ・プロジェクトをスタートさせてからもあまり本格的に(歌を)学んだことはなくて。わりと独学でやっています。ただ、流石にそろそろちゃんとしたボーカル・トレーニングに行った方がいいかなとも思っているんですけど(笑)。

―制作環境は宅録がメインですか?

基本的には宅録ですね。EPに関しては歌とベース、ドラムはスタジオでレコーディングしています。

―EPでは既発シングルも「Album Version」としてアップデートされていますよね。

そうなんです。歌も全部録り直しているので、シングルとの違いを聴き比べてくれると嬉しいなって思いますね。

―「watercolor」は打ち込みのビートから生のドラムに変わっていますし、「bluebird」もオケがガラッと変わっていますよね。

「bluebird」は特に音質にもこだわっていて。ステレオがぶわぁっと広がっていくハイファイな感じではなく、どこか懐かしい、ハートウォーミングな感じにしてくださいってお伝えして。ギターやコーラスを足したし、シングルのときに表現できてなかった部分を改めて補完できたかなって思います。

「全ての物事は多面的に捉えられる」

―3rdシングル「watercolor」から​​「small talk」までは1年以上空きましたよね。

体調を崩していたということもあって、その時期はマイペースに活動していました。その中でも、お散歩してたらふとアイディアが湧いてきて、曲として膨らませたのが「watercolor」です。

―〈Suppage Distribution〉と繋がったのも、その時期なのでしょうか?

そうですね。〈Suppage〉(Suppage Records/Suppage Distribution)にはカッコいいアーティストさんがいっぱいいるので、何かご一緒できたらいいなと。あと、それまでは独学で宅録をやっていたので、同業者からの意見やアドバイスもほしいなと思って。

―それこそ今年3月にリリースされた先行シングル「sayonara」は〈Suppage〉所属のA.G.Oさんがプロデュースを手がけていますよね。

最初はネオソウルっぽいテイストで、生ドラムで後ろでノるような感じの曲だったんです。それはそれで気に入っていたんですけど、どこかしっくりこないというか、完成が見えない感じもあって。それを今回A.G.Oさんにお願いすることで、フレッシュな感じに仕上げていただきました。
元はメロウというか、ちょっと眠たい感じの曲だったんですけど、それがパキッと、シャキッとする感じに生まれ変わったというか(笑)。自分の曲をアレンジしてもらうこと自体が初めてだったので、最初は飲み込むのに時間がかかったんですけど、自分の新しい扉をA.G.Oさんが開いてくれたような感覚もありました。

―1stシングル「sway」とはまたガラッとイメージを刷新するような曲ですよね。

自分で制限をかけたりせずに、色々なことをやってみたいんですよね。それこそメタルってマナーや美学がキチッと決まっている文化じゃないですか。もちろんそれが魅力であり、おもしろいところだと思うんですけど。ただ、自分のソロ・プロジェクトとしてはジャンルなどは固定したくないなと。

―EPではもう1曲A.G.Oさんが手がけた作品「toi et moi」が収録されています。この楽曲はどのようにして生まれてきたのでしょうか。

この曲は実は「sway」よりも前に書いた曲で。フランスのハウスやディープ・ハウスにハマっていた時期に作ったので、デモの段階ではダウナーなテイストの4つ打ちナンバーといった感じでした。自分としても結構気に入っていたので、この機会に完成させようと。

―「sayonara」にも通ずるような、A.G.Oさん印のビート感の強調されたナンバーに仕上がっていますよね。歌詞はどのようなイメージで書かれたのでしょうか。

これは戦いの歌ですね。みんなそうだと思うんですけど、社会において女性だからこその生き辛さを感じる機会が本当に多くて。それをちゃんと発信していかなければいけないなと思っているんです。自分を偽って耐えるのではなく、みんなで手を繋いで、一緒に戦っていこう、社会を変えていこうよっていうメッセージを込めた曲です。

―何か特定のきっかけがあったというよりは、長年積み重ねてきた体験から生まれたというか。

そうですね。自分の体験であったり、伝え聞いたことであったり。あと、私は小さい頃から海外の音楽を多く聴いて育ったので、そういったポリティカルなこと、社会的なメッセージを発信するのってすごく自然なことだなという感覚があるんです。

―ただ、そういった強い思いが込められた曲でありながらも、刺々しい言葉遣いにならないのはMisatoさんの個性なのかなとも感じました。

世の中に絶対的に正しいことなんてないじゃないですか。全ての物事は多面的に捉えられるし、そうやって考えることが思いやりに繋がると思うので、一元的に「これはダメです!」って言ったりするのはやめようって心掛けています。それがアートや音楽の役割のひとつだなとも思うので。

―Misatoさんはそういった社会的なメッセージをどういったアーティストの作品から受け取ってきましたか?

たくさんいます。最近だったらRina Sawayamaの作品はすごく刺激的ですよね。もちろん私とは環境が大きく異なるけど、社会的なイシューを堂々と発信されているなと。あとはずっと大好きなAriana Grande(アリアナ・グランデ)やDua Lipa(デュア・リパ)もそういったメッセージを発信したりアクションを起こしていて、すごく影響は受けていると思います。

着実な課題解決と自己実現

―D.I.Yな精神でスタートさせたMisatoさんのソロ・プロジェクトですが、〈Suppage〉との出会いやA.G.Oさんとの協業も経て、待望の1st EPのリリースに至りました。今後の動きや活動についてはどのように考えていますか?

今回、A.G.Oさんと一緒に作ってみて、他のアーティストの方とコラボする楽しさを知ったので、それは今後も続けていきたいですね。あと、私は自分の中で一つひとつ課題を解決することが楽しくて音楽を続けているみたいな部分があって。1ステージずつゲームをクリアする子供心みたいな感じなんです。

―では、今でも課題はたくさん見えていると。

トラップっぽい曲であったり、もっと様々なジャンルに挑戦してみたいです。それもただモノマネするのではなく、あくまでも自分の表現として咀嚼した上で取り込みたい。そこが難しいことなんですけど、それをひとつずつ達成していきたいというか。

―なるほど。

「誰かのため」とかではなくて、自己実現という側面が大きいんですよね。

―これまでのお話も含め、Misatoさんはその作品にも表れている通り、とても真面目で誠実な方なんだなと感じました。

そうなんです。自分で言うのも何ですけど真面目なんです。邪な欲望などはあまりありません(笑)。

―ハハハ(笑)。では最後に、ライブなどのご予定はありますか?

曲数も少ないので、ライブはまだやったことがないんですけど、もちろんよきタイミングで披露できたらと考えてはいます。それこそフェスにも出てみたいですし、「sway」を海の前で演奏できたらなぁって妄想したりしています(笑)。

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