IKEがrice water Grooveらと紡ぐ自由奔放な音。ヒップホップに魅せられたラッパーの原動力とシーンへの想い
インタビュー
『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第101回目はIKEが登場。
“Low Culture × Local Culture”をコンセプトとしたアート・コレクティブLowCulTokyoに籍を置きながら、3人組ヒップホップ・グループrice water Grooveと共にIKE & rice water Groove Productionとしても活動するラッパー/ビートメイカー・IKE(アイク)。
現在進行中のIKE & rice water Groove Production主宰レーベル〈Doggy G Central Records〉による連続リリース企画『Doggy’s Unity』の一環として、3月には2ndソロ・アルバム『Scene』を発表したほか、4月12日にはIKE & rice water Groove Productionと4MCからなるヒップホップ・クルーContrail Clubとのコラボ曲「ROYAL RUMBLE」をリリースした。
今回のインタビューでは幼き頃からヒップホップに魅せられた彼のこれまでの歩みに加え、ONENESSのMVTENやOSCA、テークエムといったラッパーが客演参加したアルバム『Scene』制作背景、そして今後の展望についてまで存分に語ってもらった。
KREVA、Tyler, The Creator…ヒップホップとの出会い〜2つのクルーとの合流
ーまずはIKEさんの音楽遍歴からお聞きしたいのですが、小さい頃から家でレゲエなどがかかっていたそうですね。
母が音楽好きで、家事をしながらよく音楽をかけていました。その中で特に多かったのがレゲエや90年代のダンスホール辺りですね。Bob Marley(ボブ・マーリー)やShabba Ranks(シャバ・ランクス)、Cocoa Tea(ココ・ティー)とか…あとは80年代から開催されていた<Reggae Sunsplash>というイベントのコンピレーションなどが特に記憶に残っていますね。
それと同時に、小学生の頃から当時のヒットチャートに入っていたRIP SLYMEの「楽園ベイベー」をはじめ、KICK THE CAN CREW、nobodyknows+、湘南乃風、m-floなども好きでしたね。特にラップやヒップホップということは意識せずに、自然と耳にしていました。
ーお母さんは音楽をやられていたんですか?
いえ、ただ聴くのが好きなだけで。レゲエ、ヒップホップから昭和歌謡まで、とにかく雑食で。色々な音楽をかけていましたね。自分でフックのメロディを作ったりするときは、小さい頃に聴いていた昭和歌謡の影響もあるのかなって思ったりもします。
ーでは、ご自身でヒップホップを意識し始めたのはいつ頃からですか?
中学1〜2年生の頃ですかね。当時、地元にWAVEっていうCDショップがあって、そこでたまたま手に取ったビギー(The Notorious B.I.G./ザ・ノトーリアス・B.I.G.)のトリビュート盤にBob Marleyの名前が載ってて。「家でよくかかってたBob Marleyが参加してるんだ」と思って、買ってみたんです。結局、それはサンプリングしてただけで、実際には参加してないんですけど。ただ、「これがヒップホップか」って意識して聴き始めたのはその辺りからですね。
ーなるほど。
あとは同時期に、母と一緒に観に行ったBlack Eyed Peas(ブラック・アイド・ピーズ)の来日公演の影響も大きいと思います。どちらかというと日本語ラップよりもUSのヒップホップから入ったっていう感じです。近くにTSUTAYAもあったので、気に入った作品を見つけたらそこから客演などで参加しているアーティストの作品を掘っていってというディグり方をしてましたね。
ー当時、周りにヒップホップを共有できる人もいましたか?
いましたね。地元の友人も同じくらいのタイミングでヒップホップに興味を持ち始めたので、みんなで情報交換したりしていました。
ーすごく自然な流れでヒップホップに魅せられていったんですね。では、ラッパーとして、もしくはビートメイカーとして、影響を受けたアーティストを挙げるとすると?
ラッパーとしてはKREVAさんがずっと好きですね。ビートでいうと国外が多いかもしれないです。Kanye West(カニエ・ウェスト)やJust Blaze(ジャスト・ブレイズ)、No I.D.(ノー・アイディー)…もちろんPete Rock(ピート・ロック)やDJ Premier(DJプレミア)からも影響を受けました。あとは2010年代中盤から出てきたオルタナティブな潮流――Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)やDenzel Curry(デンゼル・カリー)、J. Cole(J. コール)が主宰する〈Dreamville Records〉から出てきたJ.I.D(ジェイ・アイ・ディー)とかには喰らいましたね。
ーなるほど。IKEさんのプレイヤーとしてのキャリアはどのようにスタートしたのでしょうか。
高校に入ってからアルバイトを始めたんですけど、そこの社長がヒップホップ好きで。音楽の話で盛り上がって、家に遊びに行かせてもらったんですけど、AKAI MPC2500XLだったり宅録できる環境があって。それに影響されて、最初はターンテーブルを買ってDJを始めてみました。ただ、ラップをしたいことに気づいて、DJは1年くらいで飽きちゃったんです。それからMPC1000を買って、ビートメイクから始めました。
ーその頃はType Beatなんて便利なものもないし、ラップを始めるにはビートを作る必要があった。
そうですね。地元の友だちに音楽学校に通ってるやつもいて、そいつの家でレコーディングもできたので、クルーみたいな感じでやってこうぜっていう話にもなったんですけど、すぐに自然消滅しちゃって。
そこからしばらくはひとりでずっと作り続けていました。PCも買って、GarageBandで宅録も始めて。地元に服を作ってるやつがいたので、そいつのブランドの名前を冠した作品を作ったりもしました。
そうこうしているうちに、地元の後輩がSHIBUYA THE GAMEでイベントを始めたんですけど、そこでMVTENやSHABACOといった、後に自分の作品に参加してくれたような面々とも繋がることができました。それが2012年〜13年頃ですかね、ゲストにPUNPEEさんを呼んだり、結構豪華な内容だったんですよ。
ーそこでIKEさんもライブするようになったんですか?
いや、まだその当時は遊びに行ってただけで、そのイベント自体も3回くらいで終わっちゃったんです。自分がライブし始めたのは、今所属しているLowCulTokyoのやつらと遊ぶようになってからですね。今はなくなっちゃったんですけど、Daikanyama LODGEっていう小箱によく遊びに行くようになって、そこでたまにマイクを握るようになりました。ちょっとうろ覚えですけど、それを見たLowCulTokyoのKiyoくん(Kiyo a.k.a. Nakid)が声を掛けてくれて、LowCulTokyoに入ることになったんだと思います。
ーrice water Grooveとの出会いも同時期ですか?
そのちょっと後ですね。MONJU N CHIEとrice water Grooveが恵比寿BATICAでイベントを開催したんですけど、そこに呼ばれたKiyoくんが「IKEも一緒に行こうよ」って言ってくれて、一緒にライブしました。その日にrice water Grooveのメンバーとも話して意気投合して。その年の後半くらいからrice water Grooveと一緒に曲を作ったりするようになって、自然とライブの機会も増えていきましたね。
やっとシーンの一員になれた――2ndアルバムに込めた思い
ー先ほどもお話に上がりましたが、2ndアルバム『Scene』は〈Doggy G Central Records〉による連続リリース企画『Doggy’s Unity』の一環としてリリースされました。まずはこの企画がスタートした経緯から教えてもらえますか?
2021年に1stソロアルバム『FLIP』をリリースしたんですけど、そのときはコロナ禍の真っ只中だったので、リリース・パーティとかもできなかったんです。なので、次の作品をリリースするときは色々とやりたいなと思いつつ、ひとりで制作を続けていました。
ようやくある程度の目処が立った頃に、Doggy Gのメンバーに「そろそろ出そうと思うんだよね」って言ったら、メンバーそれぞれが別々に曲を作っていたり、リリースを考えていることがわかって。こんな偶然が重なることなんてめったにないから、ひとつのプロジェクトとして見せようということになって、『Doggy’s Unity』がスタートしました。だったらクルー名義の作品を作れよっていう話なんですけど(笑)。
ーアルバム『Scene』を作り始めた当初、どのような青写真を描いていましたか?
明確なテーマやコンセプトは特にないんですけど、今作の制作中には先ほど話したラッパーたち(Tyler, The Creator、J. Cole、J.I.D)に加え、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)やIDK(アイ・ディー・ケー)などの作品をよく聴いていて、彼らが纏っている独特の空気感や雰囲気みたいなものを出したいなと漠然と考えていました。今はヒップホップもどんどん細分化していって、色々なラッパーがいるじゃないですか。でも、自分が感じるその空気感を纏っているラッパーって、日本にはあまりいないような気がしていて。
ーオーセンティックなヒップホップとの地続き感をしっかりと感じさせながらも、ちょっと亜流というか、カッティングエッジというか。
そうですね。みんな大体僕と同じくらいの世代で、ここ数年でガラッと変わったヒップホップ・シーンも体感しつつも、オーセンティックな魅力を失ってないというか。それでいて現行の空気感もしっかりとある。あとはサンプリングを多用するのも好きですね。
ー今回のアルバムで言うと、特に終盤にオルタナティブな雰囲気を感じました。
勢いのある曲はアルバムの前半に持ってきて、後半はじっくりと聴いてほしい曲を並べました。最初に大きいインパクトを与えないと、最後まで聴いてもらえないかなと思って。あと、今回イントロ、インタールード、アウトロも作ったんですけど、普通のアルバムと違って全部めっちゃラップしてるんですよね。
ー普通は短めのインストだったりすることが多いですよね。
2そうそう。ただ、これには意図があって。「intro / Changers feat. BaramonK」は自分ではカッコいい作品を作ってるのに、思ったように評価されないフラストレーションを抱えたラッパーの姿を綴っているんですけど、これは自分がラップを続けていく上で、これから体験しそうだなということをイメージして書きました。
そこから「interlude / Better Tomorrow freestyle」を経て、「outro / I’m Ready」ではやる気溢れるラッパーになっている。鬱屈とした感情も吹き飛ばして、「準備OK!」っていう感じ。起承転結じゃないですけど、作品を通して感情の起伏みたいなものを描いてみたかったんです。
ー確かに演じているようでもありますが、同時にご自身の経験や感情も投影されているような気もしました。
そうですね。結構長く音楽活動してきて、周りにはやっぱりそういう妬みや嫉妬のような感情でダメになってしまう人もいて。気持ちがわかる部分もありつつ、自分には今のところそういった感情はないんです。ただ、今回アルバムに『Scene』と名付けたように、やっと国内のヒップホップ・シーンの一員になれたんじゃないかなって思うようになった。自信が持てるようになった反面、そういった問題も今後出てくるのかもしれないなって感じてますね。
もちろん、違う種類のフラストレーションを感じることはあります。仕事しながら音楽活動をしていて、何も考えずに作るとついついそういったトピックを使っちゃいがちなので、敢えて設定やストーリーを作って、その上でラップをすることが多いですね。
ー「tony tony tony」には《俺達の居る国はヒップホップのメッカ》というラインもありますが、IKEさんは今の国内のシーンをどう見ていますか?
自分が言うのもおこがましいですけど、今はめちゃくちゃいい感じの時期であり、大事なタイミングなんじゃないかなと思います。
ただ、自分はヒップホップであると同時に、“日本語ラップ”であることにこだわりがあって。何が日本語ラップで何が日本語ラップじゃないのかっていう論争をする気はないですけど、韻の踏み方や言葉の詰め方、フックの作り方などなど、細かい部分に自分が影響を受けてきた日本語ラップの要素を落とし込んできたつもりです。「tony tony tony」のリリックにはそういう気持ちも表れていると思います。
ーアルバムの客演陣はどのようにして決めましたか?
今回は「この人と一緒に曲を作りたい」って決めてから、そこに目がけてビートを作っていくことが多かったです。以前から仲良くしてるし、いちリスナーとしてもファンな人たちなので。
ー客演を迎える場合は、リリックの内容、テーマなどはどのようにして作るのでしょうか?
大体は自分が考えて、それを伝えて後は自由に乗せてもらうことが多いですね。架空のストーリーや設定を作って、その中に入りきってもらうこともあります。「Felony Dance feat. OSCA, テークエム」はダンスを禁じられた街があって、みんなそこの住人の体で書いてもらいました。これはNYにあった「ダンス禁止法(キャバレー法)」から着想を得ました。
他には……rice water Groove、BaramonKと一緒に作った「Play like a」はみんな大好きな映画『キル・ビル』の主題歌を勝手に作ろうっていうのがコンセプトでした(笑)。
あと昔ながらの友人であるMVTENをフィーチャーした「I Do not like it」は、自分たちの周りにいるやつら以外に与える愛はないぜっていう曲で。
ー逆説的に仲間を大事にしようというイメージも受けました。
そうですね。自分が何者でもなかった時期からつるんで、一緒に曲を作ってくれたり。そういうやつらのことは大事にしたいですよね。
ーJunior Hsusさんを迎えた「Kick Back」はリアルな感情が出ているような気もしました。
Hsusくんがそういったアプローチの曲をやることがあるので、彼のヴァイブスに引っ張られた部分もあるかもしれません。「ナメんじゃねえ」みたいな。
飽きるまで作り続ける、いつかは地元のホールで
ー4月12日には『Doggy’s Unity』の新作として、IKE & rice water Groove ProductionとContrail Clubとのコラボ曲「ROYAL RUMBLE」がリリースされます。彼らとのコラボの経緯というのは?
(東京都千代田区)末広町にあったSPELL’sっていうホットドッグ屋さんが1周年パーティにIKE & rice water Groove Productionを呼んでくれたんですけど、そこにContrail ClubのMC・大和が遊びに来ていて、話しかけてくれたのが初対面ですね。気づいたらrice water Groove ProductionのメンバーがContrail Clubと仲良くなってて、今回の曲は気づいたら一緒にやることになって、気づいたら完成していました(笑)。
ー制作のイニシアチブはどなたが取っていたのでしょうか?
ビートを作ったTBS’93(rice water Groove)ですね。後半に入っているスクラッチは自分が担当しています。Contrail ClubのみんなをTBS’93の家に呼んで、ディレクションしながらレコーディングもしたみたいで。自分のヴァースは自宅で録って送ったんですけど。確か“群雄割拠”みたいな感じのテーマだったと思います。
ーIKEさんのヴァースもそのテーマに相応しい勢いを感じさせますよね。
「ラップで全員喰ってやる」っていう勢いで書きましたね。「俺が一番だろ!」みたいなボースティングで。
ー今後もこの連続リリース企画は続くんですよね。
そうですね。すでに自分はあまり把握できてないくらいに、たくさんの作品が発表される予定で。MCとビートメイカーが入り乱れて曲を作っているので、今後も楽しみにしていてほしいです。
ーそして7月には『Doggy’s Unity』の合同リリース・パーティが開催されると。
自分たちで主催するイベントとしては過去最大なので、ひとつの節目になるのかなって思います。色々な人に来てもらいたいし、知ってもらいたい。めちゃくちゃ気合入ってますね。ここをひとつの節目として、その後に第2章がスタートする、みたいなイメージです。
この『Doggy’s Unity』とは別に、IKE & rice water Groove Productionとしてのまとまった作品も新しく作りたいですし、自分のソロ作も飽きるまでは作り続けたいですね。
ー仕事と両立しながら長いこと音楽活動を続けてきたIKEさんにとって、その制作の原動力はどこにあるのでしょうか?
やっぱり楽しいからの一言に尽きますよね。仕事終わって帰ってきて、一通り家事をこなしたら曲を作るっていうルーティーンが固まってきていて。体調不良とかで制作できずに1日が終わるとちょっとソワソワしてしまうんですよね(笑)。
辛い作業――特にミキシングが苦手で、苦しいなって思うこともあるんですけど、やっぱりカッコいい曲ができたときの嬉しさは何にも代えがたいものがあって。このワクワクが続く限りは、曲を作り続けると思います。
ー「outro / I’m Ready」で歌っている《仲間とラブこれが俺らが続けてる理由》というラインともリンクするようですね。
まさしく。あとはさっきも話したとおり、『Scene』のリリース・パーティもやりたいですね。
ーもっと先のヴィジョンも含めて、この先やってみたことはありますか?
いつかは自分のビートで他のラッパーをプロデュースするみたいなこともやってみたいし、逆に自分のソロ作品で他のビートメイカーを呼んだりもしたいですね。あと、もっと大きな夢を言ってもいいならば、いつかは地元・光が丘のIMAホールでライブをやれたら最高だなって思いますね。
Presented by.DIGLE MAGAZINE
【RELEASE INFORMATION】
IKE & rice water Groove Production New Digital Single
「ROYAL RUMBLE feat. Contrail Club 」
2023年4月12日リリース
▼各種ストリーミングURL
big-up.style/1GB9QRaXiP
外部リンク
> Twitter > Instagram > YouTube
【EVENT INFORMATION】
Doggy’s Unity Release Party
日程:2023年7月2日(日)
会場:代官山UNIT
開場:14:30
出演:Doggy G Central Records with Special exclusive friends
前売/当日:4,000円/4,500円(+ドリンク代)
前売:tiget、手売り
※当日の入場は先着順。記載の番号は管理番号であり整理番号ではございません。
※再入場可(再入場時別途1ドリンク代が必要)
▼チケット購入URL
https://tiget.net/events/237581