届ける相手がいるバンドになりたい――Strip Jointが“過渡期の作品”を経て感じる変化と飛躍の予感

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第127回目はStrip Joint(ストリップ・ジョイント)が登場。

Strip Jointが魅惑的なアルバムを生み出した。結成は2017年、キーボードやトランペットを擁する男女3人ずつの6人組で、インディロックやポストパンクからの影響を文学的なリリックと共に小粋に鳴らしていた彼らは、2022年に〈KiliKiliVilla〉から1stアルバム『Give Me Liberty』を発表。都内を中心に活動を続けながら、この度2年ぶり2作目のアルバム『飛ぶという行為』をリリースした。

制作のためのクラウドファンディングを行った彼らは、リターンとしてCDやZINE、Tシャツを用意。作品は前作よりもしっとりとした趣で、インディフォークからの影響を含んだその音には、胸にすーっと染み込んでくるような確かなあたたかみがあるように思う。詞曲を手がけるDaiki Kishioka(Gt. / Vo.)いわく、本作は“過渡期の作品”である。Strip Jointの音楽は、これからスピードを上げて変化し、飛躍していくのだろう。

タイトルの“飛ぶという行為”は、夜明けの空を鳥が飛んでいるイメージでつけたという。きっとそこには何かが始まる予感、新しい場所へと進もうという意思が潜んでいるはずだ。では、この2年でどんな変化が起こったのだろうか? 取材に応じてくれたKishiokaは、当日喉をガラガラにして現れた。前日の夜からカラオケで歌っていたとのことである。

そのときにしか覚えてないことを形で残すのが好きなんだと思う

ー朝までカラオケにいたそうですね。

昨日はaikoとコブクロを歌ってました。

ーJ-POPも歌うんですね。

やっぱり盛り上がるほうがいいかなと思って(笑)。

ーなるほど(笑)。他に国内で好きな音楽があるとしたら?

くるりはずっと好きです。あまり邦楽は通ってこなかったんですけど、大学に入ってからはミツメとかシャムキャッツとかヨギー(Yogee New Waves)とか、ちょっと上の世代のバンドが東京でやっててカッコいいなって思いました。あとは踊ってばかりの国も聴きますね。

ー新作の『飛ぶという行為』では、クラウドファンディングを立ち上げてます。どういう理由から始めたんでしょうか。

10曲ぐらいでアルバムを作ろうと思っていたんですけど、メンバーが忙しくてなかなか活動が進まなくて。それで時間だけが過ぎちゃって、6曲ぐらいできたところで一旦区切ろうかっていうことになったんです。なので元々イメージしてた規模感じゃないというか、一応2ndアルバムではあるんですけど、ミニアルバムっぽいプロモーションになるのかなと思って。であればちょっと新しいやり方を取るのもいいのかなって、レーベルの与田(太郎)さんとも話してやってみることにしました。

ーCDに加えてZINEが付くそうですね。バンドとしても5冊目のZINEですが、どういう動機で始めて今も続けてるんですか?

身の回りの友だちが喋ってることとか、着てる服とか、行ってるお店を記録に残したいと思って、20歳ぐらいのときに作ったのがたぶん僕が最初に作ったZINEなんですけど。そのときは10人ぐらいの友だちにインタビューして、プリンターで印刷してパンチで穴を開けて作っていて――なんかそのときにしか覚えてないことを形で残す、みたいなのが好きなんだと思います。バンドになってからは歌詞の解説とか、作ってたときのメンバーのエピソードとか、バンドのこと知ってる人が面白いと思ってくれるものを作れたらいいなと思ってやっています。

ー『飛ぶという行為』はいつ頃から制作を始めたんですか。

たぶん2023年の頭とかだった気がします。『Give Me Liberty』を出したのが2022年の9月で、その後すぐに2ndを作ろうと言っていたんですけど――1年くらいで作るつもりが、結局1年半ちょっとかかりました。

ーそれこそ前作は5年の月日をかけて作ったわけですが、今回はスピーディに作りたいという気持ちがあったんですね。

それぞれ仕事があったり、学生のメンバーも研究を頑張ったりしていたので、そんなに“ザ・ミュージシャン”なメンバーが集まったバンドではないんですけど。その中でもちゃんと活動を止めずに2枚目をすぐに出そうというスピード感は意識してましたね。あとは1stが結構それまでやってきたことのまとめみたいな感じがあったので、早く次(にできること)を発見して進みたかったというのもありました。

ー『飛ぶという行為』で最初にできた曲はどれですか?

2曲目の「Golden Days」です。この曲は結構前からあって、たぶん1stを作ったすぐあとぐらいにできていました。ピアノで作った曲で、そのときは歌詞も英語だったんです。

ー「Golden Days」は良い曲ですよね。Coldplay(コールドプレイ)を思わせるようなダイナミックさを感じました。何かリファレンスにしたものがあったんですか?

どうだったかな。その当時に何を思っていたかはちょっと思い出せないですけど、Coldplayの『X&Y』とか、The National(ザ・ナショナル)の『First Two Pages of Frankenstein』とか、その辺の音像が好きなので近いかもしれないですね。

ーどうしてそういう音楽に惹かれると思いますか?

最近自分の音楽ってどういうベクトルを持ってるんだろうって考えるんですけど…自分と世界があったとして、あんまり世界に対して矢印が向いていなかったというか、自分の中で起きてることに注目してたなと思うんです。ColdplayとかThe Nationalの曲のように、内側のことに対する感受性がある音楽って、そういうことを考えて生きている人にとってはすごく落ち着くものだと思います。

ー「注目してた」ということは、今はちょっと変わってきているんですか?

そうなんですよ。今年からメンバーの半数が社会人になったんですけど、環境が変わったこともあって、人の背中を押すような音楽を作れたらいいなと思うようになりました。(曲を通じて)「自分はこうだ」というものを結局外に出して発表してるわけだから、「こうなんですよね。で?」って感じよりかは、誰かのことを思い浮かべて、その人に届けるみたいな気持ちを次の作品では持ちたいなと思っていて。だから今作はその過渡期みたいな感じがします。

ーそういう思いが全編日本語詞になったことにも関係してますか?

うーん、日本語詞になったのは、英語の歌詞に限界を感じたというか、飽きたからですね。先が見えない感じがしました。大学で英米文学をやってきて、自分の表現を第2言語でちゃんとやることに関心があったんですよ。それで作家を調べたり、いろいろ考えてたんですけど、結局英語で本を読んだり書いたりしていくことに自分は限界を感じました。

ーじゃあ日本語詞だけでアルバム作ろうとしたとき、どういうことを意識しましたか。

なんて言うのかな、本を読んでると、「この一文って本当にすごいな」って思うことがあるじゃないですか。英語で歌詞を書いているときは、そういうものをちゃんと書けるように何度も推敲して、人生の真理を書くような気持ちでやってたところがあるんですよね。全然できてたとは思わないですけど。でも、日本語で歌詞を書くにあたっては、そういうのは1回置いといて、普段思っていることを書こうと思いました。頭の中に出てきたワードとか、ふとした出来事を記録に残すぐらいの感じというか。(そこに書かれていることが)正しいとか正しくないとか、一生それを抱えるとかそういうのじゃなくて、そのときはそういうふうに思ってた、こういう気分だったんだ、みたいなことが曲でまとまってるといいかなって思います。

DIIV、Taylor Swift、Adrianne Lenkerなど。2ndアルバムのリファレンス

ー今振り返ると『Give Me Liberty』はどんなアルバムになっていたと思いますか?

『飛ぶという行為』は結構メンバーのアイデアが入ったアルバムになったので、2枚目を作ってから振り返ると、前作は自分のコントロール下に置いて作ったアルバムだったという印象があります。

ーなるほど。

たとえば今作の「武器なき世界」のアウトロは、歌が全部終わった後にすごく激しいギターが入るんですけど、そこは俺のデモには全くなくて。じゃあギタリスト(Rio Shimamoto)が作ったのかというとそうでもなく、ドラマー(Hiroyuki Nishida)が提案してやり始めて、ギターがそれにブチ上がって入れることになりました。あとは「フィヨルド」の2番のトランペットも、トランペットの人(Momoka Amemiya)が自由に作ったフレーズです。

ー何故1stと2ndで変わったんだと思いますか?

元々みんなの意見を取り入れるほうが好きなんですけど。前作は中々まとまらない中で、まとめないといけないという気持ちで1枚作りきったところがあって。だから本来の形に戻った感じがします。ただ、6人違う人が集まって、違う価値観でやってるからこそ面白いみたいな考えでずっとやってきたんですけど、最近思うのは、せっかく一緒にやってるなら何かひとつの価値観をちゃんと持ってやるべきかなって。結構好き放題みんなが各々の方向を向いてやっている部分があるバンドだけど、その辺はちょっと考えてます。

ー5曲目の収録曲でもあり、アルバム名にもなっている「飛ぶという行為」は、どこから浮かんできたタイトルなんですか?

夜明けのイメージがあったので、最初は『Dawn』というタイトルを仮でつけていたんです。でも、曲名を決めるときに『かもめのジョナサン』という小説を読み返して、タイトルはそこから持ってきました。独特でめっちゃ面白い小説だと思うんです。カモメが音速で飛んで次元を超えた存在になるみたいな、よくわかんないけど元気が出る作品ですし、そのイメージが好きですね。他の曲も割と映像的なものを思い浮かべて作っている部分があるんですけど、この曲で言えば夜明けの空を鳥が飛んでるみたいなイメージがありました。

ー情熱的なアンサンブルというか、「飛ぶという行為」ではメンバー同士のフレーズの応酬を感じます。

これを作るの、めっちゃ大変でした。キーになっているフレーズが何種類もあるんですけど、全部を詰め込むとごちゃごちゃしちゃうので。足し引きを繰り返しながら作っていって、全体のバランスがうるさくならないように引き算するのは大変でしたね。

ー作るにあたって、何かインスピレーションを受けた作品はありましたか?

これはリファレンスがあります。DIIV(ダイヴ)というバンドが好きで、彼らの1st アルバム『Oshin』はめちゃくちゃ聴いてましたし、うちのギターも相当好きで。僕らはそのぐらいの世代というか、〈Captured Tracks〉(※註:アメリカのインディペンデントレーベル)がすげえ良かった頃に一番新譜を追ってて、その中でもDIIVは相当特別なバンドだから。DIIVみたいなことをずっとやりたくて、それで作った曲でした。

ー世代の音ということは、青春のときに追いかけてた音楽がここに反映されてるということですよね。

そうですね。

ーじゃあ、逆にここ1、2年の自分の音楽的な気分が反映された曲はありますか。

「Soil」かな。インディーフォークっぽいものが好きになっているのと、あとはTaylor Swift(テイラー・スウィフト)が結構ずっと好きなんですけど。

ーそういうアルバム(『folklore』)を出しましたね。

そう、あれもThe Nationalが噛んでたりして、その辺の空気感は惹かれます。あとはAdrianne Lenker(エイドリアン・レンカー)という、Big Thief(ビッグ・シーフ)のボーカルの作品も最近好きです。

ーなんでそういう作品に惹かれるようになったんだと思いますか?

人間が穏やかになってきたからだと思います。

ールーツにArctic Monkeys(アークティック・モンキーズ)があると言われていて、実際前作はそうしたロックバンドからの影響やフィーリングのほうが強かったように思うんですけど、今作はちょっとそこが薄まったように感じます。

そうっすね…1stを作る過程の何年かであまりにいろいろなことがあったので、それを経て作る作品では穏やかなものを欲していたかもしれない。『Give Me Liberty』にはバンドを始めた頃からの曲が入っていて、若かったなと思うんですけど…それを経て2枚目を作ろうってなったとき、カッコいいバンドであることよりも、寄り添うような曲を作ることにフォーカスしたかもしれないです。

友だちがカラオケで歌ってくれるぐらい良いバンドになれるといい

ー最新アルバムのサウンドとしては前作よりもちょっと雄大な感覚というか、北欧音楽的な景色の広がりを感じました。

「フィヨルド」は北欧だし、「Soil」はベトナムの景色を思いながら書いてますね。「Soil」は向こうに行ってきて、帰ってきたときにその感覚を曲に残したいと思って作った曲です。

ーベトナムは旅行で行ったんですか?

そうです。白状すると、Vietjetというベトナムの格安航空があるんですけど、空港に着くと毎回流れる音楽があって。「Hello Vietnam」っていうんですけど、それが良すぎて頭から離れなくて、それにかなり影響されてる気がします(笑)。

ーなるほど(笑)。「フィヨルド」は北欧音楽的なイメージだったんですか?

いや、そういうことではなくてですね、「フィヨルド」ってめっちゃ遠いところにある神秘的な世界、みたいなイメージがあるじゃないですか…そういうことです(笑)。

ー穏やかなものを欲していたという話もありましたが、「武器なき世界」は特にそうした印象を持つ曲です。ノスタルジックで、しっとりと曲が体の中に入ってくるような歌ですね。

これは9.11のドキュメンタリーを観て書いた曲です。9.11ってすごく強い言葉が飛び交っていた出来事だと思うんですけど、そういうものに対してどう距離を取るかを考えていたというか、こういうふうに世界を見たいよね、みたいなことを思って書きました。

ーそして「スプリント」はパーカッションが印象的ですね。

ドラムのNishidaが入れようって言って入れました。The NationalとかColdplayの話があったように、俺は割と叙情的な音楽、ウェットな感じの音が好きなんですけど、Nishidaはカラッとした踊れる機能性とか、ブラックミュージックがしっかり好きな人で。この曲のリファレンスはTalking Heads(トーキング・ヘッズ)かな。ギターのワウのカッティングみたいな音も入っているんですけど、それとパーカッションは最後まで入れるかどうか迷ってて、まあいっかと思って入れたら良かったですね。

ー環境が変わったとも言われてましたが、これからバンドとしてどんな活動をしていきたいですか。

そうですね、コンスタントに活動を続けて、あんまり間を空けずに3枚目を出したいと思います。あと、友だちがカラオケで歌ってくれるぐらい良いバンドになれるといいですね。

ーそれはバンドとしてもっと大きな場所に行きたいという野心みたいなものですか?

デカいステージに立ちたいみたいな、そういう野望を持つのもバンドのいいところだと思います。自分ひとりで音楽をやっているんだったら、自分が納得のいくものを納得の行く形で出せばいいと思うんですけど。やっぱりバンドをやるからには、カッコいいライブをやってお客さんを増やして、次のライブにまた来てもらうみたいな、そういうところに憧れていたいですね。だから最近思うのは、バンドとして一気に大きくなるのは無理としても、ちゃんと届ける相手がいるバンドになりたいです。

Presented by.DIGLE MAGAZINE




【RELEASE INFORMATION】

Strip Joint 2ndアルバム『飛ぶという行為』
2024年6月12日リリース
Label:KiliKiliVilla

1. フィヨルド
2. Golden Days
3. スプリント
4. 武器なき世界
5. 飛ぶという行為
6. Soil
7. Golden Days (YODATARO Remix)

▼各種ストリーミングURL
big-up.style/oictRjSwWf

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【LIVE INFORMATION】

Strip Joint×KiliKiliVilla presents. 『飛ぶという行為』Release Party

2024年6月30日(日)at 東京・下北沢THREE
OPEN 18:30 / START 19:00
事前予約:¥2,500(+1D)
当日券:¥3,000(+1D)
高校生・海外出身:¥1000(+1D)

act:
Strip Joint
sugar plant
Jurassic Boys

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