蟲の知らせが描く、喪失の物語

PICK UPアーティスト

BIG UP! ユーザーの中から、今聴きたいアーティストをピックアップ! 今回は蟲の知らせをご紹介します。

憂いに浸る時間を

2021年9月にボカロPとしてデビューしたアーティスト、蟲の知らせ。ボーカロイドを用いた制作はもちろん、自ら歌唱やジャケットデザインを手掛けるなど、多彩な才能を発揮している。

先日配信が開始された『喪失を巡る連作』は、生まれながらにして逃れられない“喪失”をテーマとしたアルバム。セルフカバーを交えて過去曲に新たな解釈を与えつつ、憂いや哀愁を放つ蟲の知らせの世界観を色濃く感じせる作品に仕上がった。

文学的な歌詞、ファンタジックなサウンド、“喪失”を軸に広がる物語は、まるで短編集を読んでいるかのよう。時代や国、人物像に縛られることなく、喪失と向き合う心情を余白たっぷりに描き出していく。時おり上ずったり、ぶら下がったりする歌声も、楽曲の持つナイーブで危ういムードを一段と強調しているといっていい。知らない誰かの物語でありながら、あなたの物語になりうる1枚だ。