『YouTubeで収益化!』の盲点ーフリー音源、ライブラリ音源、タイプビートの利用には注意!

コラム

皆さんこんにちは。弁護士をしている小林です。今回は、「サンプリングに気を付けろ!」をテーマとした前回コラムに続き、音源まわりの注意点第2弾として、フリー音源、ライブラリ音源やタイプビートに関して注意すべき点に触れたいと思います。特に、YouTubeでContent IDを登録して収益化を考えている方はぜひご一読ください。

Title List

音源まわりの注意点2:フリー音源/ライブラリ音源/Type BeatとYouTube

さて、BIG UP!zine読者の皆様の中には、フリー音源、ライブラリ音源やタイプビートを使用して楽曲制作をしている方も少なくないと思います。ビルボードの全米シングル・チャートで16週にわたり1位を獲得し大きな話題となったLil Nas Xの「Old Town Road」は、Lil Nas Xが音楽制作を始めて間もない頃にBeatStarsでわずか30ドルで購入したタイプビート音源を利用していたことでも話題となりました。

外部の音源を自分の作品に取り入れて楽曲制作を行うことも今や珍しいことではなくなってきていますが、それと同時に、タイプビートを含む他人の作成した音源を利用する際の権利上の危うさについても指摘がされるようになりました。

読者の皆さんは、自分が使用しているフリー音源、ライブラリ音源やタイプビートの使用条件はその都度理解したうえで使用しているでしょうか?BeatStarsやAirbitなど欧米の音源販売プラットフォームは、利用規約やライセンス条件が法律用語も混じった英文で書かれています。しかも、同じサイトから購入した音源でも、購入する音源ごとに使用条件が異なる場合があることもご存じでしょうか?正直、毎回それらを読んで正しく使うのはしんどいと思います。

しかしトラブルに巻き込まれないためにはルールを知る必要がありますし、共通する重要なポイントというものはあります。それを知っておくことは読者の皆さんにとっても役に立つはずです。
残念ながらすべてのルールを網羅的に解説することはできませんが、今回のコラムでは、有償無償を問わず、外部から調達した音源を利用して楽曲制作をするにあたり注意すべき「共通する落とし穴」をご説明したいと思います。簡易チェックリストのような形で皆さんに活用していただければと思います。

※以下では説明の便宜上、特に断りがない限り、音源使用許諾を与える際に楽曲の著作権についても許諾も与えていることを前提としています。音源の権利者と楽曲の権利者が異なるなど、楽曲の権利については別途処理することが求められている場合は、楽曲の著作権の観点からも検討が必要になる点はご注意ください。

1.外部フリー音源の利用

(1)何が「フリー」なのかに注意しよう。

フリー音源は、入手はフリー=無料です。しかし、どんな利用形態でも無料というわけではなく、また、著作権が放棄されているという意味でもありません。いわゆるフリーとは、「~という条件の範囲内での使用ならばタダで使っていいし権利侵害を主張しないよ」という意思表示だと捉えておくことが安心です。

どんな条件・制約がつけられているかは、フリー音源サイトの利用規約やFAQなどのページに通常記載されています。たとえば、商用利用禁止、改変禁止、権利者名のクレジット表示の要否など、様々なものがあります。なお、「クレジットさえすれば他人の楽曲を自由に無償で使えるようになる」とか、「権利が登録されていないものは権利が発生していないので自由に使える」といった誤解も一部にあるようですが、そんなことはありません。

(2)「実はフリーではなかった」リスクに注意しよう。

あなたがフリー素材だけを掲載しているというサイトから音源をダウンロードして自分の曲に使用したところ、第三者から「それは自分の作品で、フリー素材として提供したことは一度もない。どこから入手したか知らないが違法行為だ」と主張されたとしましょう。あなたがフリー素材だと信じていたならば、責任を問われずに済むでしょうか?

結論からいえば、そう甘くはありません。フリー素材写真が問題となった事例ではありますが、2015年に出されたある東京地裁判決は、「フリーサイトから入手したものだとしても、識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは、著作権等を侵害する可能性がある以上当然であるし、警告を受けて削除しただけで、直ちに責任を免れると解すべき理由もない」と断じています。これは音楽についても当てはまる説示といえるでしょう。

(3)正しく使っているのに権利侵害だと主張された場合の対応は知っておこう。

あなたがフリー音源を取り入れた楽曲をYouTubeで公開しているとしましょう。もしそのフリー音源がYouTubeの Content IDシステムに登録されていた場合、正しい使用方法を守って使っているとしても、あなたの曲がそのフリー音源の権利を侵害していると判断されるおそれもあります。その場合、ちょっと面倒ではありますが、著作権侵害の警告を解除する手立てはあります(この手立ては、以下で説明する有償音源を正しく使っている場合も使えます)。

外部のフリー音源を商用利用して収益化を狙うのならば、上記のようなリスクや対応は理解しておくことが望ましいでしょう。

2.有償ライブラリ音源やタイプビートの利用

お金を払って手に入れたものだとしても、無制限に自由に使えるわけではありません。それは、いくつかあるプランのうちで一番高いプランを買ったとしても同じです。以下、かなり大雑把ではありますが、特に注意すべきと思われる点を記載しました。

(1)音源を独占使用できるか確認しよう。

多くの場合、ライブラリ音源やタイプビートの利用においては、お金を出して音源の権利を「買った」つもりでいたとしても、実は、音源の利用許諾(ライセンス)を受けているだけで、引き続き他人が音源の権利を保持しています。(以下では、使用許諾を受けているにすぎない場合も含めて、説明の便宜上、「音源を購入した」と表現する場合があります。)

音源購入時の条件が「Exclusive」(独占)となっていれば、あなたにだけ使用を認めるという意味と通常は考えてよいでしょう。対して、音源購入時の条件が「Non-exclusive」(非独占)の場合、あなた以外の人も同じ音源を購入して自分の楽曲に利用することができることを意味します。

自分だけで独占的に使用したい場合は、過去に同じ音源が誰かにライセンスされたかどうかも含めて確認するのが安全です。

(2)Content ID登録ができない!YouTubeで権利侵害の警告を受けた!

Content ID登録は、YouTube上の侵害対策に留まらずYouTubeを使用した収益化にも必須です(※)。しかしここで問題が生じます。

Content ID登録は、自分が100%の権利を持っているものしか登録できないのです。ライブラリ音源やタイプビート音源については音源提供者が権利を維持し、音源を利用して制作された楽曲の著作権についても権利共有というライセンス条件がついていることもあるので、音源を購入して楽曲を制作した人であっても原盤権も著作権も単独ではContent ID登録ができず、他人が権利を有する部分を除外して登録を行い、あるいは他の権利者との共同申請が必要になる場合が生じたりします。

仮に登録されたとしても、第三者も正当な利用権限を有するものについて著作権侵害の申立てが濫発されると、YouTubeから登録者に対して、Content IDの無効化やYouTube とのパートナーシップの終了を含むペナルティを課せられる可能性もあります。

これは逆にいえば、誰かが同じ音源を使った曲をContent ID登録してしまっている場合、皆さんが制作した曲が権利侵害の申立ての対象になり得ることも意味しています。そのようなことを防ぐため、音源販売時の(特にNon-Exclusiveの)ライセンス条件には、音源とそれを使用した楽曲をコンテンツ識別システムに登録することを禁止する条項が定められている場合があります。

ライブラリ音源やタイプビートを使用した楽曲をYouTube上にアップできないというわけではありません。しかし、YouTube上でその曲での収益化を考えるのであれば、Content ID登録の可否は非常に大きなポイントといえるでしょう。

 

※Content IDとは、権利者がYouTubeのデータベースに音源または映像素材を登録することにより、YouTube上にユーザーがアップロードした動画(UGC)の音声または映像との一致を調べるためのツールです。一致したUGCに対しては、原盤権者等(※BIG UP! の場合は、BIG UP! ユーザーの代理でBIG UP! 運営者が申し立てを行います。)の意向(ポリシー)に応じた対処がされます。詳しくは下記の動画をご確認ください。
https://youtu.be/9g2U12SsRns

 

(3)使用目的・使用可能メディア・使用回数/期間に制限はないかを確認しよう。

BeatStarsやAirbitでは、音源購入条件として、営利目的の実演での使用の可否、放送・ラジオでの使用可否、ストリーミング/ダウンロードの可否、録音(固定)の可否、音源改変の可否などについて条件が決められているのが通常です。安いライセンスプランでは制限が多くなっています。一度YouTubeなどにアップした場合、ストリーミング数を自分でコントロールすることは通常困難だと思います。その場合、利用条件を超えた使用として、許諾を再取得する必要が生じたり一定の追加使用料が発生する可能性もあります。

音源使用可能期間について制限があり、制限期間を超える場合は追加ライセンス料の支払いが必要となる場合もあります。BeatStarsで販売されているある音源では、その非独占ライセンス条件として、使用許諾期間は原則10年としつつ、音源販売者は契約から3年以内に独断で契約を解消できる権利が認められているものもありました。

使用可能態様はライセンス条件ごとに異なります。自分が想定している利用方法にマッチしているプランかを事前に確認しておくことがよいでしょう。

(4)リリース時のクレジット表記をどうするかを確認しよう。

これも要注意事項の1つです。フリー音源利用時の注意点としても記載しましたが、制作楽曲をリリースする際に求められるクレジット表示義務・表示内容も要確認です。

(5)著作権管理団体への登録の問題

上記とも関連しますが、Content IDには登録しないとしても、音源を利用して制作した楽曲をJASRACやNextoneなどの著作権管理団体に登録することは可能です。しかし、上記で見たとおり、制作者が100%の権利を有するわけではありません。この点も理解しておくべきといえます。

3. さいごに

そもそも、BeatStarsなどのプラットフォームで販売されているビートは安全なのでしょうか?つまり、音源販売者が他人の権利を侵害する音源を販売している可能性はないのでしょうか?

実はその可能性はあります。だからこそBeatStarsも、自社ではそのリスクを負わないことを利用規約に記載しています。

ある記事によれば、冒頭のLil Nas Xが「Old Town Road」で使用するために購入したビートは、音源販売者が著名アーティストの既発表音源の一部を無許諾でサンプリングしてループさせたものだったそうです。記事によれば、事情通の話として、その後、Lil Nas Xまたは所属レーベルが、過去の使用料も含めかなりの額を払ったと思われるとのことです。

フリー音源、ライブラリ音源、タイプビートなどは便利で簡単に誰でも音楽制作をしやすくしてくれる特効薬のようなものともいえるかもしれません。これらを使うのはリスクがあるからすべきでない、ということは簡単ですが、それは時代に逆行しているかもしれません。使うことは大いに結構ですが、用法・用量を守って正しく使いましょう、ということだと思います。


<小林利明 プロフィール>

弁護士・ニューヨーク州弁護士。骨董通り法律事務所。
東京芸術大学音楽学部非常勤講師、中央大学国際情報学部兼任講師
日常的に、アーティスト、プロダクション、レコード会社の様々な立場の依頼者からのご依頼を受けています。音楽・映像・出版・広告を含むメディア・エンタテインメント業界やスポーツ業界のクライアントへの法務・労務サポートを中心に弁護士業務を行うかたわら、大学で著作権法の講義を担当したり、各種セミナーや企業研修の講師を行っています。著書に『エンタテインメント法実務』(弘文堂、2021〔編著〕)など。

骨董通り法律事務所