“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #2
コラム
作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。
前回から始まったこのコラム。
音楽を「色んな周波数が出っ張ったり引っ込んだりしている時間の流れ」と考えてみようという趣旨なんですが、どうでしょうか?みなさん、ちゃんとイメージできてますか?
例を挙げて説明してみましょう。
とある音楽が聴こえている時に「あ、4つ打ちのキックがドンッドンッドンッドンッって鳴っている」というのが、今までの音の捉え方だとしたら、「あ、周波数の低い音の塊が等間隔に耳に届いているな」というのが、今回推奨したい音楽の捉え方なのです。「しかもよく聴くと、うっすら高音域も含まれているし、中音域の300Hzあたりに少しピークがあるのがこの音の存在感になっているんだな」みたいに分析できればしめたものです。
というわけで、今回から3回に分けて低音域・中音域・高音域それぞれについて考えていきます。
まずは低音域から。どうぞよろしくお願いします。
Title List
01.キック
02.音を補強する(アタック、ローエンドとハイエンド、存在感)
03.まとめ
キック
今回は低音域ということで、皆さんお馴染みのマルチバンドEQ(イコライザー)で言うココ↓の話をします。
この部分を占める楽器の代表例は、キックとベースです。特にキックは、音程の動くベースとは違って、一定の周波数が繰り返し鳴り続けます。その分、曲のイメージを決定づける力が強いとも言えるでしょう。
前回は、ループ素材を並べてトラックを作ってみました。そのリズムだけを聴いてみましょう。低音は聴こえにくいので、モニタースピーカーやヘッドホンで聴くことをお勧めします。
このキックが鳴る瞬間をマルチバンドEQのアナライザーで視覚的に確認します。
まず気になるのは、30Hz以下の部分です。この部分は聴覚的な影響は少ないものの、音データの情報量としてはそれなりのウェイトを持ちます。つまり、ほとんど聴こえていないのに、他の音の入る隙間を奪ってしまうのです。よって、この部分をカットしたいと思います。
上部の左にあるハイパスフィルターで35Hz以下をカットしてみました。
(下の周波数を切って上の周波数だけ通す、つまりハイをパスするフィルター、という意味です。)
音はこうなります。
違いはあまり分からないかもしれません。ただ、下のほうのモヤっとした部分がスッキリしたと思いませんか?
さあ、下ごしらえは終わりました。これに味付けをほどこしてしていきたいと思います。
というと料理みたいな気分になります。鶏肉の下ごしらえで言えば、余分な油を削ぎ落として臭みを最小限にしたというイメージでしょうか。
音を補強する(アタック、ローエンドとハイエンド、存在感)
・アタックを強調する
このキックを、どんなスピーカー環境でも音楽的に機能させるには、どこを補強すればよいでしょう。前回、ノートパソコンで検証した際に、MacBook Proでは300Hzあたりから徐々に音量が下がり、100Hzより下はほぼ聴こえなったという話をしました。というわけで、今回は100-200Hzあたりを補強するつもりで、音を足してみましょう。
さあ、そんな周波数域を持つキックを探してみましょう。音色を選ぶ際にまず気をつけるのは、アタックが強いことです。音の立ち上がりが速いほど、リズムを強調することができます。
今回選んだ音色はこういう音です。100Hz以下は、ハイパスフィルターでカットしてみました。
これをマルチバンドEQで表示するとこうなります。
どうでしょう。100-200Hzが充実していますね。
最初のリズムと合わせて聴くとこうなります。
少し腰高な音色になりましたが、キックが安定して感じられるようになりました。
・「色気」を追加する
ここまでは機能を充実させることを意識しましたが、次は「色気」のようなものを足してみましょう。
選んだのはこういう音色です。キック全部ではなく、強調したいタイミングにだけ足してみました。
音の減衰していく部分を「リリース」と言いますが、今回選んだのはリリースの長い音色です。リリースが長いと、キックが鳴った瞬間よりも存在感があり、音色の印象を付け加えることができます。
また選んだ音は、跳ね返ってくる音である「リバーブ」も含んだ音色なので、広い空間を感じさせます。
周波数的にはこういう成分を持っています。
まず、ハイパスフィルターで40Hz以下をカットしていますが、その上の40-100Hzの部分が充実しています。これはノートパソコンでは再現しづらい部分ではありますが、色気に相当すると自分は思っています。色気って無駄な部分にあるんですよね。
また、音色の生っぽさやリバーブ成分が感じられる1-4kHz(=1000Hz-4000Hzですね)が長く伸びています。つまりキックらしからぬ音色ですね。キックなのにキックじゃない周波数だという無駄。これも色気なんだと思っています。
さあ、これらを足して聴いてみましょう。
いかがでしょうか。キックの機能を満たしつつ、奥行きや空気感も演出できたかと思います。
まとめ
今回行った作業、自分ではこういう図形イメージを持っています。
まず最初にあったキックは標準的なこういう音色。
そこに、アタックのしっかりした音を足します。
100-200Hzという「見えやすい」周波数なので、ビビッドになります。
さらに、奥行きがあって、リリースも長い音色を足しました。
周波数で言えば、低い40-100Hzの部分と高い1-4kHzの部分を含んでいます。
こうやって重ねることにより、元の音色を生かしつつ、悪いスピーカー環境でも機能し、良いスピーカー環境であれば豊かな音色を再現する、そんなキックを目指しました。
絵で言えば、小さくして遠くから見ても目立つ図形。それはつまり、小さい音にしても存在感がある音です。また近づいて見てみると立体感がある図形であり、大きい音で聴くと情報量が多い音楽的な音です。
ただ、今回は少し分かりやすいように極端な音色を選んでいることは確かです。実際の制作では、ここまで極端に違う音色ではなく、元の音色に近い音を重ねることもあります。
もちろん、目指す音楽の方向性によって正解は幾らでもあります。これが正解というわけではありません。こういう考え方を応用して、今後音楽を作る際の考え方の指標にしていただければ嬉しいなと思います。
次回は中音域について考えてみます。お楽しみに。
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<谷口尚久 プロフィール>
13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。
最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』。
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。
WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。
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