“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #3

コラム

作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。

このコラムも今回が3回目です。周波数を意識することに慣れてきましたか?

前回の低音域に続き、今回は中音域です。低くもなく高くもない音、これが意外と難しいのです。
筆者にも経験があります。抜けの良さを求めているうちに、中音域がスカスカになってしまったり、高音や低音がちゃんとモニターできていないが故に、中音域にまとまりすぎた音像になったり。

そんな問題を、これまでGarageBandで作ってきた曲を使って、具体的に考えていきましょう。

中音域が足りない例:ピアノの左手に注目

まずは、この2つの音を聴き比べてみてください。

例1:

例2:

違いに気づきましたか?例1を聴いてから例2を聴くと、なんだか物足りなく感じませんか?
この違いは、ピアノの左手にあります。

ではピアノだけを聴いてみましょう。

ピアノ両手:

ピアノ右手:

ピアノ左手:

この左手は、周波数的にどういう効果があるのでしょうか。
いつものように、先ほどのピアノの左手の音をマルチバンドEQのアナライザーで見てみましょう。

ポイントは200から500Hzの中低域です。この部分をさりげなく支えているのがピアノの左手だったというわけです。ここの周波数が音像にふくよかさをもたらし、コード感を補強していたのです。

ピアノの演奏が苦手という方、ピアノは1音1音クリックして入力しているという方もいるでしょう。でもDTMの良さは、リアルタイムに弾けなくてもいいというところにあります。「両手だと、こういうふうに弾くかな」と想像して1音ずつ入力してもかまいません。また片手ずつ弾いて入力してもいいでしょう。なんなら、右手のトラックと左手のトラックを分けてもかまいません。左手を左に、右手を右に定位させる(=パンを変える)ことで、ステレオ感を強調するなんてこともできますね。

とにかく、この左手が重要だったというわけです。

カレーに例えれば、高音はスパイスです。鼻に抜ける華やかな香りが高音域の気持ちよさですね。低音は塩味。しっかりと舌に感じる、味が締まる要素です。
そして、中音域は油分です。口の中を満たして、食事全体の満足感をもたらします。ちゃんと油分が足りていないと、サラサラ過ぎて腹持ちが良くありません。サラサラで物足りないと、ついつい食べ過ぎてしまいますね。同じように、中音域が足りないと物足りない音像になり、ボリュームを上げて聴かないと満足できない原因となるのです。

中音域が多過ぎる例:ギターのEQに注目

次はこちらを聴き比べてみてください。

例3:

例4:

どうでしょうか?例4は、どことなくモッサリとした印象がありませんか?
この違いはギターのEQにあります。
ではギターだけを聴き比べてみてください。

適切にEQしたギター(例3):

適切にEQできていないギター(例4):

例3と例4には、このようなEQの違いがあったのです。例4のギターを混ぜると、脂っこいカレーになってしまうのです。

適切にEQしたギターをマルチバンドEQのアナライザーで見てみると、このようになります。

200から500Hzの中低域がちゃんと充実していますね。今回はここの部分を、ハイパスフィルターによりなだらかにカットしています。ここの部分が無さ過ぎても有り過ぎても、良い結果になりません。

まとめ:どうやって対処するか

では曲づくりの際に、どうやって適切な中音域を目指せばよいのでしょうか。

正直言うと、この問題に即効薬はありません。自分も、かなり悩んできました。
今思えば、1980年代は中音域の充実した音が好まれていたのに対し、2000年以降は中音域が比較的あっさりとした音が増えました。これは単に、音楽を聴く人の好みが変わった結果であるとも言えます。

しかし、筆者はリスニング環境の変化にも原因があるのではないかと考えています。
1980年代のラジカセ全盛期に比べ、2000年代には家庭で使うスピーカー自体が良くなりました。つまり、周波数をまんべんなく再現できる装置が増えたのです。よって、高音域と低音域を気持ちよく聴きたいという嗜好が芽生え、高音域と低音域を重視したドンシャリと言われる音像が好まれました。低音のキックがドンドンと鳴り、シャリシャリとした高音が華やかな音像です。

しかし、その音像にも飽きがきて「やっぱりちょうど良い音像がいいよね」という段階に至ったのが今ではないでしょうか。しかし、その「ちょうど良い」というのが難しいのです。

「ちょうど良い」の加減をどうやって見極めるか。特にヘッドホンのモニタリングは要注意です。
ヘッドホンでちょうど良いと感じたものを、後からちゃんとしたオーディオインターフェイスとモニタースピーカーで確認するとスカスカだった、というのはよくある例です。

現時点での筆者の解決策は、プラグインの解析ツールです。こちらをご覧ください。

これはiZotope社のTonal Balance Controlというプラグインの画面です。
下から、Low / Low-Mid / High-Mid / High という4つの周波数を分析してくれています。
例えば今回気にした部分はLow-Midに相当し、これが適正範囲に収まっていることが分かります。
ちなみに、このソフトは音楽のジャンルを選ぶことができます。今は「Bass Heavy」という設定になっています。これがiZotope社の設定した今っぽい音の基準になっています。他にも、ポップやオーケストラなどを選んで解析することができます。例えばオーケストラにすれば、中低域をもっと多くするのが適正だという解析をしてくれます。

さらに細かく見るには、Fineというモードを選びます。

こうすると、今までに見てきたマルチバンドEQのアナライザーに近い感覚で確認することができますね。

とはいえ、やはり視覚で確認するにも限度はあります。一番は自分の感覚を磨くこと。そのために、お手本になるような好きな音楽を聴きまくって、そのバランス感覚を真似することです。そして正解は無いのですから、最後は「これが自分のバランスだ」と開き直ることも重要ではないでしょうか。
そして、複数のモニター環境で確認し、自分の場合どの環境で聴いたものをレファレンスにするか決めると良いでしょう。「この環境で聴いてこんな感じになるということは、どの環境で聴いても大丈夫」と思えるところまでくれば、もうそれば職人仕事の領域です。

さあここまでは低音域と中音域について述べてきました。いよいよ次回は、高音域について一緒に考えてみましょう。

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<谷口尚久 プロフィール>

13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。

WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。

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