ファンベース構築のためのショート動画の使い方 -TikTok、ショート、リールを解説-
コラム
TikTokが2017年に日本に上陸して以降、SNSのトレンドは目まぐるしく変化しています。
それまで「動画プラットフォーム」というと主にYouTubeを連想する人が多く、数分に渡る長尺の動画が主流でしたが
TikTok上陸後はどんどんと「ショート動画」と呼ばれる短尺の動画のニーズが増え、特にZ世代と呼ばれる若い世代はその傾向が強いです。
彼/彼女らは「タイパ」(時間における費用対効果のこと。短い時間で多くの情報を得られるものをタイパが良いと表現する)という新しい言葉を使い、いかに短い時間で満足度を得られるかに焦点をおいています。
その流れに追随するように、Instagram、YouTubeも続々と短尺の動画フォーマットを公開。今やSNS上では多くの人がショート動画を活用するようになりました。
音楽業界においても、この流れに乗ってショート動画を上手に活用しているSNS発のアーティストなども増えてきています。
本記事では、アーティスト活動においてどのようにショート動画を活用していくべきなのか、実際にSNS発のアーティストの事例なども交えながら解説していきます。
Title List
なぜショート動画が重要なのか?
ショート動画が重要な理由、それは昨今のヒット曲の多くがUGCの拡散によって生まれている以上、ヒットを目指すアーティストはUGCのうち多くを占めるショート動画と向き合わざるをえなくなったためです。
UGC(User Generated Contents)とは一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツの総称であり、音楽業界においてはユーザーが楽曲を2次的に利用し創作されたコンテンツのことを指します。
日本に限った話で言えば、「WurtS」、「あたらよ」、「Awesome City Club」、「なとり」、「Tani Yuuki」、「imase」などが有名どころでしょうか。最近では「Conton Candy」や「チョーキューメイ」などもUGCの爆発によってヒット曲を産んでいます。
YouTubeのような長尺動画のプラットフォームでも「歌ってみた」どのUGCはTikTok上陸前にもありました。
しかし、TikTokの上陸以降、フォロワーの抱えていないユーザーが公開するUGCであってもバズが起こせる環境が生まれ、今までよりも容易にSNSから音楽を広めていくことができるようになったのです。
ビルボード 2023年上半期UGC Songsによりますと、2023年上半期にてUGCの総再生数が最も多かった(YouTubeの再生数から集計)のは
1位Kanaria「酔いどれ知らず」
2位なとり「Overdose」
3位HoneyWorks「可愛くてごめん feat. ちゅーたん(早見沙織)」
となっています。
この3曲のUGC、例えばTikTokでも見てみますと公式音源のUGCの総数(2023年6月29日(木)現在)は
Kanaria「酔いどれ知らず」→119.7K
なとり「Overdose」→82.0K
HoneyWorks「可愛くてごめん feat. ちゅーたん(早見沙織)」→4.0M
※いずれも公式の楽曲ライブラリのみ計上
となっており、公式の音源だけでかなり多くのUGCが生成されたことがわかります。例えば「酔いどれ知らず」は公式音源の他にもメガテラ・ゼロさんが歌唱したバージョンなど、公式から派生した音源もたくさん使用されており、実際のUGC数は相当に多いことが想定されます。
いずれも、若い世代ではかなり多くの方が耳にしたことがある楽曲かと思いますし、
Billboard JapanのHot 100チャートにも何週にも渡りランクインしていました。
このように、昨今の音楽チャート上位には多くの「ショート動画で有名になったアーティスト」が名を連ねていて、UGCの量=音楽的ヒットとも言える構図が形成されつつあると言っても過言ではないと思います。
自身の楽曲からUGCを生み出してヒットさせるにあたり、ショート動画に取り組まない手はないと言えます。
ショート動画で”バズった”アーティストを解説
先のBillboard Japanのランキングで名前が挙がりました、「なとり」を例に今の「ショート動画」でバズっているアーティストがどのようにヒット曲を生み出し、音楽チャートに名を連ねるようになったのか?
解説していきたいと思います。
プロフィール
なとりは主にTikTokで動画投稿をしているアーティストで、年齢は20歳。2022年にTikTok上で公開した「Overdose」でバズを起こし、同曲でデジタルリリースも果たしています。
なとりがバズを起こすまでの経緯
まず、なとりが楽曲制作1ヶ月目にしてTikTokに「ターミナル」という楽曲をアップしたのが2021年5月15日のことです。
そこからわずか1ヶ月後、2021年6月21日に「フライデー・ナイト」で最初のバズを起こします。(この時点では投稿のいいね数がかなりの数でしたが、あくまでも投稿単体が広まっただけであり、「フライデー・ナイト」のUGCはそこまで拡散したわけではありませんでした。
さらに4日後の2021年6月25日に「猿芝居」をアップ、こちらも多くのいいねを獲得。
このようにかなりハイペースで楽曲を制作〜アップまでこなしていたなとりですが、2022月5月14日にアップした「Overdose」で自身最大のバズが発生、いいねだけにとどまらず、多くのUGCが生成されました(2023年6月29日(木)現在は2500本以上)。
これを機になとりは同曲のフルバージョンを制作、デジタルリリースを果たしました。
同曲のMVは1億回以上再生され、Spotify Japanが発表している「RADAR:Early Noise 2023」にも選出されています。
なとりのスタイル
なとりの音楽制作スタイルは非常に合理的で、いわば”令和の楽曲制作”と言えます。
TikTokに主にデモ音源のサビをアップし、リスナーからの反応を見て反応が良い楽曲をさらにプロモーションしたり、完パケさせて配信リリースしたりするというスタイル。
今回のOverdoseも、自身最大のバズとなったためフルバージョンを制作〜リリースという流れを踏んでいるのではないかと推察します。
従来の「完パケ音源」が最終地点となるリリース方式からすれば非常に斬新なスタイルですが、ショート動画の活用方法としては非常に面白い取り組みと言えます。
このような構図でなとりがバズを起こしたのは、ショート動画という形態だから成し得た技(多くのサビのみ動画を連投し、リスナーの反応を分析しそこからスピード感を持って波及させていく)
とも言えますので、ショート動画が普及しつつある昨今、今後はこのような形のバズの起こり方が令和の制作・プロモーション方法の代表例となるかもしれません。
各プラットフォームのショート動画の特徴
①TikTokの特徴
ショート動画という潮流を生み出したとも言えるショート動画中心のプラットフォームです。
ユーザーの年齢層は若く、10〜20代の層が中心となっていますが、昨今では30〜40代の層でも利用者が増えてきました。
TikTokでPRを行う企業も爆発的に増えてきており、今後も幅広い世代への普及が予想されます。
TikTokで特徴的なのは基本的な仕様が「おすすめフィード中心」となっている点です。
TikTokは開いた瞬間にフィード画面が表示される仕様ですが、フォローしているアカウントではなく「おすすめ」=ユーザーが好きそうな投稿、を優先的に表示してくれます。(フォロー中、友達の投稿を見るタブも別途設けられています)
そのような仕様なので、投稿する側からすればフォロワーに限らず、「自分の投稿を好きになってくれそうな幅広い人たち」に投稿を見てもらえるチャンスがある、と言えるでしょう。
②YouTubeショート(Shorts)の特徴
YouTubeショートとは、YouTubeが新しく取り組んでいるショート動画フォーマットのことです。
基本的にはTikTokと同じ要領でショート動画を投稿することができます。
YouTube上では「ショート」というタブがあり、そこをタップするか、通常のフィードにもショートフィードが組み込まれる形で表示されているので表示面はその2つとなります。
ショートフィードでは他プラットフォームと同様、フィードを開いた瞬間に動画が再生されていきますが、通常のフィードの方ではサムネイル、タイトル、再生回数が表示されていて、先頭の動画は冒頭の数秒間はプレビュー再生もされます。
そのため、通常フィードからの動画視聴を促すために、サムネイル画像の選定とクリックしたくなるようなタイトル付けが重要となってきます。
Marketers Test YouTube Shorts, One More Rival to TikTokより引用し一部改変
また、YouTubeは他SNSと比較しても全年代において非常に利用率の高いプラットフォームですので、若年層以外にも広く訴求できるというメリットがあります。
ショート単体で見ましても、サービスローンチ後から右肩上がりで視聴回数が増えておりショートの利用者が増えていることが分かります。
ショートを見てもらうことで、視聴してくれたユーザーのオススメ欄に
MVなどの長尺の動画コンテンツが出てきやすいといったアルゴリズムになっておりますので、YouTube内でコンテンツを投稿するのなら長尺のMVだけではなくショートにも波及させた方が良いと言えます。
(参考:https://earthweb.com/youtube-shorts-statistics/)
③Instagram リール(Reel)の特徴
Instagramリールは、YouTube Shorts同様にInstagramが新しく取り組んでいるショート動画フォーマットです。
こちらも基本的にはTikTokやYouTube Shortsと同じ要領でショート動画を投稿することができます。
Instagramは基本的にフォローしている人の投稿が表示される仕様ですが、リールだけはその点で表示方法が異なり「リールタブ」以外にも「検索タブ」「発見タブ」などにもリールが表示されるため、フォロワー外の多くの人たちにリールを見てもらう機会があります。
また、リールは他プラットフォームよりもキャプションに記載できる文字数が非常に多いです。
そのため、リールを見てもらう→キャプションで興味を引くような文言を入れる→キャプションからアカウントページにきてもらい、フォローや他投稿を見てもらう
という流れも起こっているようですので、キャプションからの誘導も考え投稿していくと良いですね。
なお、リールについて以前のコラムで詳しく解説していますので、ご参考になさってください。
Instagramの効果的な活用方法 〜ショート動画を通じてファンベースを構築する〜
どのような形態のショート動画を投稿すればよいのか?
一口にショート動画と言っても、実に様々な形態のショート動画が日々アップされています。
アーティストとしてショート動画を活用していく中で、色々な切り口があるものの
・MVの切り出し
・ライブ映像の切り出し
・振り付け動画
・弾いてみた/叩いてみた動画(自身の楽曲含む)
・カラオケで歌ってみた動画(自身の楽曲含む)
・Vlog的な動画に自身の音源を添えたもの
・ハッシュタグチャレンジ
などの動画中心にアップしていくのが良いでしょう。
先ほどご紹介したなとりのような方式の場合は楽曲のデモ音源を投稿する形となりますが
完パケ音源/素材が既にある、という方はMVやライブ映像を切り取ってアップしていくのが一番難易度が低いかと思います。
なお、MVやライブ映像をアップする際はなるべく視認性の良い、また音楽コンテンツっぽさのあるものだと見てもらいやすいかと思います。
↓音楽コンテンツだと分かりやすい。
↓観客の盛り上がりなども写っていて楽しそうなライブの雰囲気が掴める
↓ファンと一緒に踊る、というテーマでアーティスト本人がダンスの振り付け解説をしている
↓マネしやすい振り付けでアーティスト本人が踊っている
動画に歌詞を入れよう
ショート動画でMVやライブ映像などをアップする際、できるだけ歌詞を動画内に入れておくと良いでしょう。
昨今バズっているショート動画は歌詞が重要なポイントになっているものが多く、ユーザー側も歌詞を視覚的に認知できるという点でエンゲージメントを高めるのにも役立ちます。
あくまでも傾向ですが、シンプル書体の文字(歌詞)を中央に縦型に配置している動画が多い印象ですので、クリエイティブ面で迷っている場合は参考にしていただければと思います。
ショート動画を投稿するときに気をつけたいこと
ショート動画を投稿する際、エンゲージメントを上げる&アルゴリズム上で優位になるために気をつけていただきたいことについて説明します。
①自身の楽曲を使用して投稿しよう
TikTok、ショート、リール全てに共通する機能として、楽曲ライブラリの使用機能があります(ただし、楽曲ライブラリを使用するためにはBIG UP!のようなディストリビューターを通じて対象楽曲をYouTube、Meta、TikTokにデリバリーする必要があります)。
投稿をする際に、例えばMVの切り出しであればMV素材をそのまま音付きで投稿するのではなく、プラットフォーム上で音源を追加してから投稿をするようにしましょう。
↓(参考:Shortsの投稿画面)「サウンドを追加」ボタンより音源を追加できる
自身の音源を追加しておくことで、その投稿を見たユーザーが同じ音源を使用してUGCを生成していくことが可能になります。
②ハッシュタグをつけよう
こちらもTikTok、ショート、リール共通ですが、ショート動画内のキャプションにおいてハッシュタグをつけることができますので、つけておいた方が良いでしょう。
内容は#アーティスト名 #曲名 は最低限つけつつ、すでにショート動画を通じてバズを起こした実績のあるアーティストの投稿を参考にしつつ、よく利用されているハッシュタグを吟味して付けましょう。例えば、#オリジナル曲、#作詞作曲 などがあります。他にもタイアップでしたら関連するアニメや映画のタイトルもつけておくと良いでしょう。
数としてはあまり多くない方が良く、2~5個程度ついていれば良いかと思います。
ハッシュタグについてはこちらのページも参考にしてみてください。
③他のプラットフォームのウォーターマークがついた動画は流用しない
ショート、リールには投稿にウォーターマークがつかないのでTikTokに限定された話になりますが、TikTokのウォーターマークがついた動画をショート、リールに流用して投稿するとアルゴリズム上で冷遇されてしまいおすすめに載らなくなるため避けた方が良いでしょう。
この件に関して、「リールのアルゴリズム上で冷遇される」とMetaから正式に発表がありましたし、
ショートに関しては正式に発表があったわけではないのですが、今後のトレンドとして懸念されますのであらかじめウォーターマーク入りの動画は流用しない方が安全といえます。
<太田受里プロフィール>
Gerbera Music Agency株式会社 音楽広告事業部所属。
18歳から音楽業界に従事し、コンサート業界の裏方から演者側など主に現場仕事を経験、2020年にGerbera Music Agencyに加わる。
2023年より音楽広告事業部マネージャーに就任。
音楽広告事業部にて様々な音楽広告を実施、日々音楽業界への貢献と広告の進化について考えています。
GMAが運用するSpotifyプレイリストメディア「
Pluto」にてプレイリストFeel the Japanese GROOVE」を更新中。