SKY-HIを支えるTHE SUPER FLYERS。コロナ禍での制作を経て、バンド内に起きた変化とは

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第54回目はTHE SUPER FLYERSのリーダーであるギタリスト、田中 “TAK” 拓也が登場。

古くはBob Dylan(ボブ・ディラン)を支えたThe Band、最近ではAnderson .Paak(アンダーソン・パーク)とThe Free Nationalsのような関係性。THE SUPER FLYERSを説明するなら、そう表現するのがわかりやすいかもしれない。ラッパー・SKY-HIにとってなくてはならない存在であり、多くのファン=FLYERSからも愛されているTHE SUPER FLYERS。彼らは今、大きな変化を迎えている。

2月にリリースされたSKY-HIとMichael Kaneko、Shingo Suzukiとのコラボ作「Tomorrow is another day」を皮切りに、3月、4月と連続リリースを発表。そして今後も〈origami PRODUCTIONS〉とタッグを組んだコラボ作のリリースを予定しているという。

果たして、SKY-HIのツアーのために集った彼らがどのようにしてオリジナル作品の発表に至ったのか。そしてコロナ禍で起こったバンド内の変化とは。今回はTHE SUPER FLYERSのリーダーであるギタリスト、田中 “TAK” 拓也に話を訊いた。

停滞した状況を打破したアイディア

―THE SUPER FLYERSについてお聞きする前に、TAKさんのルーツやこれまでのキャリアについて教えて下さい。そもそも、音楽を志したきっかけは?

音楽を好きになった原体験はテレビですね。昔の特撮やアニメの音楽って、オーケストラを使っていたり、今では考えられないほどに豪華な作りをしていて。まずはそういったところから興味を持ちました。その後、歳の離れた兄の影響でピアノに挑戦してみたのですが挫折しまして。(笑)でも今度は家にたまたまあったギターに触れてみたら意外にもハマったんですよ。その当時、90年代前半の日本はオリコンにもハードロック・バンドが入るような時期だったんです。なので、ハードロックを中心に聴いてギターの練習をしていました。

―音楽を生業とするようになったのは、どのような経緯で?

大学生になると今度はアシッドジャズなどが流行り始めて。それに感化されてジャズ・ギターなどを先生に教えてもらうようになりました。そのうちに、奨学金をもらえたのでバークリー音楽大学に留学させてもらって。向こうではバーやパブみたいなところでカバー・バンドが演奏することが多いのですが、そこでの演奏が最初に音楽でお金をもらった経験かもしれません。
卒業後はボストンからLAに引っ越し、徐々にアメリカのポップ・アーティストやヒップホップ・アーティストとも仕事をさせてもらえるようになって。単発ですけどStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)ともご一緒させてもらったり。本当、縁に恵まれたなと思っています。

―では、SKY-HIさんとの出会いは?

2009年頃より拠点を東京に移したのですが、当時日高くん(SKY-HI)が1stアルバム『TRICKSTER』(2014年頃)を出した頃、共通の友人であるDJ Hirokingを通じて知り合いました。日高くんが「バンドを入れてミュージック・ビデオを撮りたい」と言っていて、僕に声が掛かかったんですよ。ミュージック・ビデオの撮影は当て振りではなく実際に演奏する形で行われたので、その際に楽曲のアレンジなども手がけました。それから、当時ダンサーとDJだけでやっていた日高くんのツアーに、バンドも入れたいという話が出て。そこでライブ・アレンジを担当し、初めてお客さんの前でSKY-HIのライブ・バンドとして演奏させてもらいました。

―THE SUPER FLYERSは2015年頃よりメンバーが固まってきたそうですね。

僕も含め、メンバーはもちろん他の仕事もしていて。なかなかの大所帯ですし、普通だったら全員のスケジュールがハマることって珍しいと思うんです。その都度、スケジュール合わなかった人は他の方と交代したりするのが普通だと思うんですけど、THE SUPER FLYERSではなぜかみんなスケジュールが合う(笑)。それが何度も続いたので、メンバーが自然と固まってきた。今考えてみると、日高くんの引力の強さを感じますね。

―運命じみたものがありますね(笑)。

そうなんです。バンド名も日高くんが決めてくれて。「ファンがFLYERSだから、バンドはTHE SUPER FLYERSにしよう」って。

―なるほど。それからこの5〜6年の間で、THE SUPER FLYERSのメンバーとの関係性、付き合い方などは変化してきたと思いますか?

コーラスにKayoちゃんという女性メンバーがいるものの、基本的には男子校みたいなノリで。ツアーに行くと一緒に観光や食べ歩きをしたり、時にはお酒を酌み交わして仲が深まっていきました。そういった関係値はステージ上にも反映されていると思います。演奏中にアイコンタクトで取るコミュニケーションがより円滑になったり、リズム隊のグルーヴなどは特に回数を重ねる毎にレベルアップしていると思いますね。見えてないところではふざけ合ったりしつつ(笑)。

―SKY-HIさんのライブ・アレンジを手掛ける際、普段はどのようなプロセスを経ているのでしょうか。

日高くんのスタジオ音源は生楽器を使用していない楽曲も多いので、まずは僕がバンド・アレンジでの大枠を作ります。ときには音源にはないパートなども盛り込んで、「こんな感じでやってもいい?」って提案したり。そこで日高くんとある程度詰めたら、今度はツアーのセットリストも考慮した上で、再度アレンジを変えることも多いです。曲順の前後関係によって演奏を工夫したりしていますね。

―昨年から続くコロナ禍は、メンバーのみなさんの活動にも大きな影響を与えていると思います。THE SUPER FLYERSのみなさんは、こういった状況に対してどのように向き合っていますか?

THE SUPER FLYERSに限らず、去年は全員の音楽活動が停滞した状況になりました。ただ、日高くんはオンライン上でも事ある毎にTHE SUPER FLYERSの名前を出してくれるし、彼の発案で「#Homesession」という企画を行ったり。とにかく、この共同体で何かできることはないかっていうことをみんなで考えていました。

THE SUPER FLYERSのメンバーは僕が声を掛けたということもあって、もはや僕にとっては家族のような存在なんです。そんなTHE SUPER FLYERSの姿を、コロナ禍の中でもファンのみんなに見てもらえるように、去年の5月にYouTubeチャンネルを立ち上げました。2019年初旬に行った『JAPRISON』のツアー以降、THE SUPER FLYERSとしての稼働はなかったので、結果としてこのYouTubeチャンネルの立ち上げで久しぶりに顔を合わせることになった。そしてメンバーがリコネクトするきっかけにもなったのが嬉しかったです。

―実際にYouTubeチャンネルを運営してみて、感じることや新たな気付きはありましたか?

SKY-HIの楽曲をTHE SUPER FLYERSでカバーする動画などはやっぱり多くの方が観てくれて。ただ、少し意外だったのは、メンバーがZoom上で雑談するような動画も、結構再生数が伸びるんですよね。ツアーの思い出だったり、遠征の必需品とか、本当に他愛もないことを話しているだけなんですけど(笑)。
ボケ・ツッコミなど、普段見えてこなかったメンバー間の役割などが垣間見れるのがいいのかもしれないと思い、雑談企画でメンバーに声を掛ける時は、おもしろそうな組み合わせを意識しています。

架空のフェス・アルバム

―THE SUPER FLYERSは今年の2月よりSKY-HIさんと〈origami PRODUCTIONS〉とのコラボ作を皮切りに、オリジナル楽曲のリリースも行っています。作品をリリースしていこうというアイディアはどこから生まれたのでしょうか。

実はこれも日高くん発案なんです。去年、みんなとオンライン上でミーティングしている中で、ライブは難しいけど何かしらの形で音楽を続けたいねっていう話になって。そしたら日高くんが「架空のフェス・アルバムを作ってみるのはどうか」って言ってくれて。フェスに向かう朝のBGMから始まって、会場でライブを観て、お昼を食べたり休憩も挟んで、ヘッドライナーを観て、花火が打ち上がって家に帰る。そんな一日をコンセプトに、時系列に沿ってアルバムを作ったらおもしろそうだよねって。

―なるほど。

最初はもちろん日高くんがプロデュースしてくれるんだろうなって思ってたのですが、「外部のプロデューサーを入れた方がおもしろい」っていう話になり、〈origami PRODUCTIONS〉さんへのオファーに至りました。それも最初は何曲かでお願いするのかと思ったら、結局は全曲コラボレーションすることになって(笑)。

―2月にSKY-HIさんとの連名でリリースした、「Tomorrow is another day feat. Michael Kaneko (Prod. Shingo Suzuki)」は「C COFFEE」WEB CMソングにも起用されています。

これも「日高くん、持ってるな」と思った出来事なのですが、元々WEB CMソングとして書き下ろした作品というわけではないんですけど、歌詞に「コーヒー」という単語が入っていて(笑)。曲調も含め、これはバッチリだろうということで、「C COFFEE」さんとのコラボに至りました。さっきお話したアルバムの構想では、この曲が一日の始まりを告げる朝の曲。さらに、「ファンキーでチル」という言葉をテーマに制作していきました。

―〈origami PRODUCTIONS〉よりMichael KanekoさんとShingo Suzukiさんを迎えての制作はどのようにして進めていったのでしょうか。

最初にMichael Kankoさんのギターを録音して、それをShingo Suzukiさんがループさせたりしてトラックを組んでいきました。この曲に関しては、実はTHE SUPER FLYERSからは僕しか参加していなくて。Michaelさんのギターもあるので、必要最低限のギターだけ弾かせてもらいました。

―続いて3月にリリースされた「Stay In Love」は完全にTHE SUPER FLYERSのオリジナル楽曲ですよね。

はい。この曲は僕とメンバーのYuho Yoshiokaで作詞作曲を行いまして、プロデュースは〈origami PRODUCTIONS〉のKan Sanoさんにお願いしました。レコーディングには望月敬史(Dr.)、北川淳人(Ba.)、瀧田敏弘(kEY)が楽器陣として参加しています。

―制作はいかがでしたか?

いつも日高くんの作品のクオリティを身近で体感しているので、最初はものすごいプレッシャーを感じてしまって(笑)。少しでもあのクオリティに近づけなければと勝手に思い込んでいました。ただ、普段の仕事で僕がよく使う言葉なのですが、「とりあえずやってみて、ダメだったらやり直せばいいじゃん」っていう気持ちを思い返して。そこからはとにかく制作を止めないように、スピーディーに作業していきました。
特に苦戦したのは作詞。Yuhoも僕も、歌詞をゼロから書く機会なんてほとんどなかったので、オンライン上でのやり取りをメインに、結果として2ヶ月くらいかかりました。

―離れ離れになった大切な人、もしくは遠距離恋愛を想起させるような歌詞のテーマは、どのようにして生まれたのでしょうか。

お互い「書けた?」「いや、まだ書けてない」っていうやり取りを何度か繰り返していましたのですが、ある日いきなりほぼ完成型の歌詞が送られてきて。Yuhoによると、彼のパーソナルな実体験を元にして書いたんだそうです。
「離れ離れな2人」というのは恋人かもしれないし、家族や友人、もしくはペットかもしれない。リスナーそれぞれが自分のパーソナルな部分に当てはめて聴いてくれたら嬉しいなと思いますね。

―サウンド面ではシンセの音色が印象的です。とてもKan Sanoさんっぽさを感じるというか。

おっしゃるとおり、あのシンセはKan Sanoさんに入れてもらいました。印象的だけど派手過ぎない。耳障りがいい、スムースな感じがとても気に入っています。
実は彼もバークリー音楽大学の卒業生なんです。もちろん年齢は違うけど、ボストンにいた時期も被っていて。こういう形で再開できたことが嬉しいですね。

―4月7日には最新曲「SNFKN feat. Nenashi」がリリースされました。この楽曲はどのようにして生まれてきたのでしょう?

「Tomorrow is another day」が「ファンキーでチル」だったのに対し、この曲は「めっちゃチル」をお題目に、僕が土台を作っていきました。1曲くらいギターが中心の曲があってもいいだろうという気持ちや、ここ最近普通だったらピアノやアコギで弾くフレーズを、エレキで表現するアーティスト――例えばTom Misch(トム・ミッシュ)やAimerの「カタオモイ」などが気になっていて。そういった感覚を自分なりに落とし込んだ作品になります。
アルバム内では夕方頃の曲になると思います。昼にライブを観て、火照った体を少し癒やしているようなイメージですね。

―「自分の旅に出ることは大事だ」という歌詞のテーマはどこから?

これはボーカルとして参加してくれたNenashiさんから出てきたものですね。外的要因や環境に振り回されずに、自分で一歩踏み出すというか、自分の道を進む。そんなメッセージの曲になっています。

「本当の意味でバンドになれた」

―今後のお話についてもお聞かせください。アルバムの全貌などは見えてきていますか?

そうですね。今後も続々と新曲を発表できるんじゃないかなと思います。僕じゃないメンバーが作曲を手がけた曲や、Kayoちゃんがリード・ボーカルを歌う曲、あとは〈origami PRODUCTIONS〉主導で、僕らがバンドとして参加するような曲なんかも控えています。

―THE SUPER FLYERSのメンバーと、楽曲制作というこれまでとは異なる形で関わってみて感想を教えて下さい。

当たり前のことではあるのですが、それぞれ気にするポイントなどが違っていたり、制作のペースも異なっていて。メンバーの新たな一面が見えた気がします。あと、楽曲ができ上がったときの盛り上がり、達成感は筆舌し難いですね。慣れない作業も多いと思うんですけど、みんな挑戦してよかったなっていう感じの顔をしてくれて。
レコーディングで意見が食い違ったりもするんですけど、メンバーの言うことを信じて進めていったら素晴らしい曲ができた。クリエイティブな作業で、メンバーそれぞれの核心に触れたような気がして、嬉しかったですね。

―まさしく“バンドの醍醐味”ですね。

そう思います。本当の意味でバンドになれたんじゃないかなって。楽曲制作にしろYouTubeにしろ、みんな積極的に意見を言ってくれるし、手伝ってくれる。以前よりもメンバーと頻繁に連絡を取るようになりましたし、信頼感とリスペクトも増しました。自分にとっては仕事仲間やただの友達を超えた特別な存在になっていますね。

―アルバム制作以外での予定や展望はいかがでしょうか。

具体的に決まっていることは特にないのですが、とにかくライブがしたいですね。お客さんの前で演奏して初めて作品が完成する、そんな感覚があるんです。それこそ日高くんや〈origami PRODUCTIONS〉さんと一緒にできたら最高だなと夜な夜な妄想しています(笑)。
あと、個人的にはCD、レコード、もしくはデータを入れたUSBなど、フィジカルでのリリースもやってみたいです。やっぱり物として所持したい。近くに置いておきたいという方もいると思うので。

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