Czecho No Republic・武井優心/タカハシマイがLiving Ritaで追求する「妥協しない音楽」

インタビュー

『BIG UP!』を利用している注目アーティストをピックアップして紹介するインタビュー企画。第85回目はLiving Ritaが登場。

Czecho No Republic(以下、チェコ)の武井優心(Vo. / Ba.)、タカハシマイ(Vo. / Syn.)の夫婦によって結成されたユニット・Living Rita(以下、リタ)。昨年10月に発表された1st Album『Living Rita』に続き、ダブルシングル「Reality / UTOPIA」が2022年8月9日にリリースされた。美しいアレンジ、そしてメインボーカル・タカハシの透明感ある歌声。『Living Rita』で表現されたユニットのキャラクターは踏襲されつつも、より“Reality(現実)”と“UTOPIA(理想郷)”という二つの世界の合間を漂う幻想的な世界観が、一層拡張されたような仕上がりとなっている。

そもそも二人はなぜチェコでのアップチューンな楽曲とは一変し、サイケ、ドリームポップを基調とした楽曲への追求を始めたのだろうか。今回は彼らが新たなユニットをスタートした経緯と、リタの活動に取り組む現在、そして未来について話を伺った。

音楽に感情移入できなくなった中で唯一聴けたジャンル

2021年にリリースされたアルバム『Living Rita』を聴いた時、チェコの楽曲とはまた違うジャンルにトライされていたので驚きました。ドリームポップやシューゲイザーの影響を受けたのは、ここ最近なのでしょうか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

実はコロナ禍に入る前から「こういう音楽、機会があればやりたいな」とは思っていたんです。でも、しっかりと聴くようになったのはコロナ禍に入ってから。それまではずっとライブをやる日々だった分、緊急事態宣言によって何かが急にストンとこぼれ落ちた気持ちになっていて。
音楽に感情移入もできなくなっていた中で唯一聴けたのが、いわゆるサイケやドリームポップでした。シンプルに生きる勇気をもらっていたし、むしろ「こういう音楽しか作れない」という状況に陥っていて。自分がより健全に音楽と向き合う方法を考えた結果、リタの結成にたどり着きました。

当時聴いていたのはどういうアーティストが多かったんですか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

当初は「ドリームポップってこんな感じかな」という風に“なんとなくのイメージ”しか持っていなかったのですが、徐々にジャンルの歴史を紐解きながら聴くようになりました。Cocteau TwinsやMazzy Starのようなスタート地点となる音楽も聴いたし、関連する海外の記事も翻訳しながら目を通したし。当時聴いていた中では、Weyes Bloodが特に痺れましたね。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

コロナ禍で外からの情報が遮断され、人とも会えなくなりました。ライブやフェスの機会も失われたからこそ、武井さんと二人でいる時間も増えて、ずっと好きだったジャンルを聴き込む濃度が上がった感覚があったんです。自宅で一緒に“今聴きたい音楽”をずっと聴いていましたね。YouTubeなどで新しい楽曲を発掘して吸収するのも面白かったし、レコードで聴くことの良さにも気づきました。スマホとかでピッて聴くよりも心に残るというか。

お二人は昨年6月末に実施したクラウドファンディングで、集まった資金の一部を「12インチレコードでの音源リリース費」にも当てる、とプレゼンテーションされてましたよね。
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

もともと憧れではあったしチェコでは出せてないんですけど、リタはサウンド的にもどうしてもレコードで聴きたくなっちゃって。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

しかもモノとしてずっと残りますよね。CDも確かに残るけど、レコードの方がモノとしての強度があるからこそ、自分たちの手でちゃんとリリースしたいという想いはありましたね。

リタはストイックに刀を研ぎ続けることが求められる

リタではタカハシさんがメインボーカルを担当されていますが、曲調と声質がすごくマッチしているな、という印象を受けました。
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

チェコのレコーディング中も、多重録音でコーラスを録る時に「この(タカハシの)声だけ聴いてたいんだけど!」みたいになる時間があったので(笑)、もともとコーラスの一部という扱いにすることに対し“宝の持ち腐れ”のように感じることはあったんです。勿体ないというか。

タカハシさんはリタの曲を歌う時、意識することはありますか?
タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

リタでは自分の声を楽器のように捉えているんですよね。楽曲に溶け込むようなニュアンスを意識していることの方が多かった。個人的に女性ボーカルのバンドが結構好きなのもあって、リタを機に「自分の声で表現する」ことに挑戦したいと思いました。

チェコとリタで、音楽制作面において何か違いがあるのでしょうか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

どっちも「自分たちが満足するポイントまで精度を上げる」という点は一緒。そのうえで、チェコの場合は登場人物が多い分、僕の「こういうことやりたいんだけど!」という衝動的な提案に対し、冷静な意見が入ることもあります。
リタはメンバーが2人しかいないから、自分たちで一度アイディアを寝かせないと冷静な判断が下せないんですよね。何回も聴き返しながら曲を作るからこそ、時間がかかります。そして良くも悪くもテンションの共有が早いからこそ、なんというか……「イタい」んですよね。

(笑)。
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

言い方はおかしいですが(笑)、「勘違いをしすぎてて逆にかっこいい」みたいな勢いの面白さはあると思うんです。極論、リタは音楽シーンを意識せずに自分たちのやりたいことを正直にやらないと、音楽そのものの純度や魅力が低くなるリスクを抱えたユニット。ストイックに刀を研ぎ続けることが求められているというか。

実際に楽曲制作に挑んでみて気づいたことや、発見したことはありますか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

ゆったりとした音楽を作るの、当初は簡単だと思ってたんですよ。でも起承転結がしっかりあるわけでもないから、最後まで聴かせる曲に仕上げるのが超難しい。長く聴いてもらえる曲にするための場面の切り替えを意識し、仮に歌詞が聴き取れなくても情景やストーリーが浮かぶような表現を目指しました。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

ここまで雰囲気やテンポが違うと、チェコで同じことをするのは難しいかもね。チェコの楽曲はお客さんを楽しませるものが多いから。改めて、リタでは「今までチェコではやってこなかったこと」にチャレンジしているな、と感じます。

歌詞はお二人で書かれているんですか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

オケ(歌詞が乗っていない状態のデモ音源)をもとに、どういう世界観がハマりそうかを考えながら俺が大枠を作っています。でも最終的には言い回しなどの細かい調整を、タカハシさんがやってますね。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

「Reality」と「UTOPIA」は結構いじったかも。最終的に歌うのは私だからこそ、ちゃんと私の言葉になるような歌詞がいいなと思っているんです。「私ならこういう言い方はしないかな」とか。

武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

特に語尾は変えましたね。「UTOPIA」も最初の頃は「〜しましょう」が続いていたんです。実際にタカハシさんに歌ってもらったら、なんかめちゃくちゃ説教くさく聞こえたんですよね(笑)。俺が歌うと違和感なく聴けるのに、タカハシさんがしっとりと歌うと「うるさいなあ!」ってなる。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

私も実際に歌ってみた時に「そんな説教したくないんだけど!」みたいに思って(笑)。武井さんが歌うと違和感がないのに、私が歌うと全然ハマらない。そういうことは多かったです。

「Reality」と「UTOPIA」は、そもそもいつ頃から準備されていた楽曲なんですか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

「Reality」は昨年デモ制作を始めて、今年に入って出来上がった曲。逆に「UTOPIA」はちょうど1年前くらいには完成してて、ずっと温めていた曲です。リタのサポートメンバーも決まってライブも視野に入れだした頃に生まれたんですよね。だからこそ、自然と前作のアルバム『Living Rita』よりもパワフルになったというか。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

意図して「こういう感じにしよう!」っていう風に生まれた曲ではなくて、リタでのライブを経験して自然とエネルギッシュになった。私は「UTOPIA」が今までのリリース楽曲の中で一番好きかもしれないです。最初に聴いた時から「この曲は絶対強くなる。ライブで歌いたい」って感じました。でも武井さんは当初「う〜ん……」って反応だったよね。

武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

たしかに半分くらい作ったタイミングでタカハシさんに聴かせた時、自分としては「なんか変な曲できちゃったんだけど、これで良いの?」って半信半疑だった気もする(笑)。しばらく放置して忘れた頃に聴いたらやっと良さがわかったように思います。

タカハシさんは「UTOPIA」のどういったところに一番惹かれたのでしょうか?
タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

言葉にするのはすごく難しいのですが、おそらく当時抱えていた心の中の状態とリンクしていたんだと思います。いろんなことを考えながら生活していたので、楽曲に潜む気持ちの良さや奥深くにある強さ、ギターを掻き鳴らす轟音などが、その頃の心境にマッチしたんじゃないかな。

チェコとリタ、“陰陽”のようにバランスよく両立させたい

昨年2021年6月のYouTube配信ライブにはじまり、ライブ活動もすでに何回か実施されているなか、直近では8月11日にリリースパーティを控えていらっしゃいますよね。回数を重ねる中での変化はありますか?
武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

チェコとは曲調も違うぶん、昨年行なった2回のライブは「クールな方がいいのかな」みたいに考えてしまって、ステージ上での立ち振る舞いがわからなかったんです。「笑っちゃダメなのかも」とか(笑)。

タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

でも、曲の世界観を大事にしすぎてて、今までいろいろ考えすぎちゃってたところはあるかもしれないよね(笑)。まだまだ模索中だけど、私たちらしくいることが一番良いと思っています。お客さんにも楽しんでほしいし、心に残るような熱量のあるイベントを目指したい。

武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

せっかくお客さんに訪れてもらえるからこそ、ワクワクが途切れないような日にはしたいよね。8月11日は対バンする2バンドともコミュニケーションを取りつつ、お客さんにも関係性が自然と伝わるようなリリースパーティーになったら嬉しいです。

最後に、今後はリタとして活動をどのように展開していきたいですか?目標にしていることがあれば教えてください。
タカハシマイ

タカハシマイ(Vo. / Syn.):

野外フェスに出たいです!<FUJI ROCK FESTIVAL>を目指したい。

武井優心

武井優心(Vo. / Ba.):

同じような感じではあります。もっと自分たちの存在を世に放てるような曲を作ることはもちろん、ライブやフェスを通してより多くの人に触れる機会が設けられたらな、と思っています。
あとはチェコとリタのバランスですね。最初はどっちも同じパワーで並走できると考えていたんです。でも実際にはどちらかに力を割いていると、どちらかが手薄になってしまう。片方に重点を置きたくはないので、自分の気持ちと向き合いながら“陰”と“陽”のように均衡したバランスで両立したいと思います。

Presented by.DIGLE MAGAZINE





【EVENT INFORMATION】

Living Rita presents「Utopia vol.3」

日時: 8月11日(木・祝)
会場:shibuya eggman
時間:Open 18:15/ Start 18:45
チケット:3,800円+1D

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